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第百九十話 教皇との謁見で検証 その一


 ソメール教国、箱舟、船内。


 小国がひとつ収まるほど大きく、人工島とも呼べそうなその船の中で、進行を阻む騎士や兵士たちを突破しながら、入り組んだ道をひたすら走ってきた自分たちは、最後の大きな扉の前を守っていた複数の騎士を眠らせると、ついにその部屋に侵入する……。


 数百年以上前に船としての役割を終えて、既に船本来の使われ方はしていない、この箱舟のメインブリッジ。


 航海中でさえAIによる自動操縦だったとのことなので、果たしてこの箱舟が製造されてからこの場所が本来の役割を担ったことがあるのかどうかは不明だが、現在、そこから教都の綺麗な街並みが一望できるところを見ると、決して無駄な場所にはなっていないと感じられる。


 そして、そんな、この街で最も景色の良い場所であろうこの場所に、その人物はいた。


「父上!」


 アクセル殿がその背中に声をかけた人物は、自分たちがバタバタと慌ただしく入ってきたのにも関わらず、窓の側で、こちらを一切気にかけていない様子で佇み、そのまま外の景色を眺めている。


 白を基調とした荘厳な祭服に身を包み、ダークブロンドの長い髪と髭を蓄えた、今まで出会った国のトップの中では、少しやせているように思える老人……。


「来たか……」


 静かに……まるで最初から自分たちがここに訪れることが分かっていたかのようにそう呟いた彼は、落ち着いた様子で、ゆっくりとこちらを振り返ると、窓の外から入ってくる光を背にして、まっすぐ自分たちの方を……いや、その目は……自分個人を見つめているようにも思えた。


 実際の年齢としては、他の王たちとそれほど変わらないどころか、むしろ一番若いらしいが、だとすれば一体これまでにどんな経験を積めば、そのシワの数や深さがそのまま知識や経験の豊富さとして表れているような、聡慧さの溢れる人物になるのだろうか。


 戦争を望んでいると聞いていたので、もっと横暴で野心的な人物を想像していたのだが、自分の方へ鋭いまなざしを向けてくるその目は、確かにそれだけの力強さを持っているようにも感じたが、それと同時に、とても理性的で、知性的で、まるでこちらの目を通して、遥か先の未来までを見通しているかのような雰囲気を感じた。


 なんというか、例えていうならば……。


ゲーム開始時から主人公に対して勇者の使命として指示を出してきたサポートキャラかと思いきや、それは勇者の行動を操作することで己の目標の手助けをさせていた行動だったと後から分かる、聡明なラスボス、という感じだろうか。


 ふむ……ラスボスが出てくるのは、もう少し先だと思っていたのだが……。


「父上! すぐにこの国に捉えている他国の民を解放して、戦場に出ている騎士たちを退かせてくれ! この場で簡易的な停戦協定が結べるよう、各国からの使者も連れてきている!」


 アクセル殿は、そんなラスボス……もとい、彼の父であり、この国のトップである、マルカント・ソメールに向かって、後ろに控える自分やヴィーコ殿を紹介しながらそう言い放つ。


 自分もヴィーコ殿も、ここまで強行突破してきてはいるものの、最初は穏便に話し合いで解決しようということになっているので、礼儀として、片膝をついて頭を下げている。


 本当は、アクセル殿も先頭には出るものの、立ったまま怒鳴り散らしたりせず、一緒に片膝をついて頭を下げるよう決めていたと思うのだが、まぁ、様々な感情が抑えきれなかったのだろう、入ってきたままの勢いで喋り始めてしまったようだ。


 そして、ここまで一緒に道を切り開いてくれたロシー殿とカイ殿だが、扉の外で追手が入ってこないか見張りをしてくれているので、メインブリッジの中には入ってきていない。


見張りを二人だけに任せるのは少々心配だったが、ヴィーコ殿が、二人なら任せられると言っていたので、きっと大丈夫なのだろう。


自分がいないところでいったい何があったのか、ヴィーコ殿、ロシー殿、カイ殿の三人が、すっかり仲直りしていたどころか、いつの間にそこまでの信頼関係を築いていたのだと驚きはしたが、まぁ、仲が悪いよりはこの方がいいな。


「ジェラード王国、カルボーニ公爵家、ヴィーコ・カルボーニです」


「グラヴィーナ帝国、第三王子、オルスヴィーン・ゲーバーである」


 ふむ、この世界での本名をフルネームで言ったのは久しぶりだな。


 だが、自分たち二人が、自らが各国の使者であるとは名乗ってはいないように、ジェラード王国の公爵家であるヴィーコ殿も、グラヴィーナ帝国の第三王子という肩書きを持っている自分も、そういった手続きを任せられるのに十分な役職についてはいるが、別に各国の王からそんな役目を仰せつかっていないので、実際には使者でもなんでもない。


 それでも、相手がそれを知らなければ、無理やり書類を作成することができるし、各国の王に事後承諾で、その時から使者だったと後付けの設定を足すこともできる。


 だから、ここではアクセル殿だけが二人を使者だと紹介して、自分たち二人までは発言の責任を負わず、後で何かあっても、ソメール教国側の身内であるアクセル殿が早とちりをしていただけだと言いわけ出来るようにしているのだ。


 これが、自分とアクセル殿が、この旅に出るときから考えていた、戦争停止RTAのチャートだった。


 途中、何度か予想外のイベントが発生して、寄り道したり迂回したりすることもあったが、ここでやることは変わらない……さっさと目の前の老人に戦争を止めさせ、停戦協定の書類へサインを書かせて、それをジェラード王国やグラヴィーナ帝国へ持ち帰るのだ。


 だが……。


「ほう……では、二人が各国の王から使者として預かっている書状を見せてもらおうかの……」


 この作戦は、相手がゴリ押しできるタイプの人間でなければ通じない……彼のように頭の切れる人間だった場合は通じない作戦だった……。


「それは、ここまでくる旅の途中で、戦場の火に飲まれてしまい……」


「……では、もう一度取ってくるといい」


 その老人は、アクセル殿がそう言い訳をすることも分かっていたかのように、話を途中で遮るようにそう言うと、またこちらに背を向けて、窓の外へと視線を向けてしまった。


 ……手強い。


 交渉という意味でもそうだが、この老人、こちらへ背を向けて、武器なども持たずに、窓の外をのんびり眺めているだけだというのに、全くスキが無い。


 それどころか、先ほどから自分の【危機感知】スキルが、緊急性や脅威レベルは高くないものの、ずっと微量な警告を発し続けている……。


 聞くところによると、彼は魔法大国であるソメール教国の中でも、現役の魔法研究者を越える魔法技術を持っており、その魔力量さえも全人類でトップクラスの魔力を持つ初代ソメール教皇にも並ぶと言われているらしいが……この船内では、魔法は一切使えないはず。


 確かに、攻撃手段としてはそれでも抜け道があり、自分たちはその抜け道、直接的な殺傷能力のないポーションの中身だけであれば、敵に振りかけてその効果を与えることはできる、という裏技を使ってここまでやってきたわけだが……彼もそういった手段を何か用意しているのだろうか……。


 ……なんにせよ、目の前の老人が油断ならない相手だということだけは確かだろう。


 うむ……さすが、ラスボスだ。


 きっと、ここで倒しても、後で形態を変えて復活するタイプの老人に違いない。


「くっ……何か……何か戦争を止めてはくれるための交換条件はないのか……? 戦争を止める代わりに何か使命を課すというなら、僕はそれを甘んじて受け入れる!」


「……いや、そんなものはない。これは、決められたこと。必要なことなのだ」


 アクセル殿は、なおも食い下がろうと、彼自身の身を捧げて解決しようと提案するが、教皇はその言葉を相手にせず、この戦争が決定事項であるということを覆さない。


 そもそも交渉としては、相手に無条件の意見を求めてしまっている時点で、アクセル殿に勝機は存在しないのかもしれないが、それでも、教皇の否定は、たとえどんな交渉を持ち掛けられようとも受け付けないというような、ハッキリとした拒絶の意思が窺えた。


「教皇陛下……」


 そんなアクセル殿の献身を見てか、ヴィーコ殿が、発言する。


 礼を重んじるのであれば、まずは発言の許可を求めるところから始めないとならないのだろうが、それを求めてしまえば、きっと教皇は発言を許可しないという選択肢を取り、その選択を取られてしまえば、ヴィーコ殿は発言できない……だから、あえて少しの無礼に目を瞑り、許可を貰わずに発言したのだろう。


「お察しの通り、確かに、ボクはジェラード王国の使者としてやってきてはいない……だが、既に国王から教皇陛下へ書状が届いている通り、王国は戦争を望んでいないことは、陛下もご存じのはず……」


「ジェラード王国から書状? はて、そんなものは知らないな……きっと道中で魔物に燃やされてしまったのだろう」


「……なっ、そんなはずはっ! くっ……」


 きっと、ジェラード王国からの書状は届いている……だが、彼は、先ほどアクセル殿が言いかけた言い訳を真似ることで、意趣返しをしてきた。


 ヴィーコ殿も途中でそれに気づいて、否定の発言を止めたのだろう……。


 なるほど……面白い……流石はラスボスだ。


「……了解した」


「え……? お、おい……」


 自分が突然、一言呟いて、立ち上がったことに、ヴィーコ殿は驚き、疑問と焦りの顔を向ける。


 だが、手を伸ばして自分の裾を掴もうとする彼をスルーして、自分は前に向かって歩き始めた……。


「オース君……?」


 その動きを察したアクセル殿が振り返り、同じく疑問の顔を向けるが、彼は自分の歩みを止めようとすることはなく、そのまま自分がアクセル殿の横を通り過ぎるのを目で追っていた……。


 二人には申し訳ないが、相手がラスボスであるならば、これ以上、二人が話しても無駄だろう。


 ラスボスとの会話を進展させられるのは、プレイヤーであり、主人公であり、勇者である、自分だけだ……。


「……?」


 ほら、その証拠に、今まで何があってもこちらへ背を向けていた老人が、自分の選択を聞くために、振り返ったではないか。


「ふむ……なるほど……よし」


 自分は振り返った彼の目を真っすぐ見つめながら、手が届くまであと数歩のところまで歩みを進めると、停止して、また膝をつく……。


「……」


「……」


 彼は静かにこちらを見下ろし、待っている……。


 勇者である自分が、何を選択して、どんな発言をするかを……。


 だから、自分は答えよう……。


 プレイヤーであり、主人公であり、勇者であり……。


 そして……。


「とりあえず、世界の半分を貰おう」


 デバッガーである自分としての回答を……。



▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる

【全強化】:あらゆる能力が上昇する

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる

【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【冒険術】:冒険に必要な行動を高い水準で実行することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【舞踊】:あらゆる条件で思い通りに踊ることができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる

【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】

【権威を振りかざす者】

【禁断の領域に踏み入れし者】

【自然に逆らいし者】

【奪いし者】

【獣を操る者】


▼アイテム一覧

〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,680〉〈木×20〉〈薪×815〉〈布×89〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,960日分〉〈保存食×20,000〉〈飼料×4,340〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×500〉〈獣生肉(上)×480〉〈茶蕎麦×500〉

〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×5〉

〈着替え×1,000〉〈本×100〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×170〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉

〈教国軍の消耗品×200,000〉〈教国軍の装備品×20,000〉〈教国軍の雑貨×100,000〉

〈金貨×0〉〈大銀貨×1〉〈銀貨×11〉〈大銅貨×135〉〈銅貨×84〉


▼ 商業ギルドからの借金

オース名義:金貨2枚

グリィ名義:金貨2枚


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