表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
217/310

第百八十六話 箱舟からの脱出で検証

 

 箱舟の長い廊下。


 自分は現在、アクセル殿と一緒に、一度仲間と合流しようと、その白くて明るい廊下をひたすら走っている。


 先ほどまで自分たちが閉じ込められていた牢獄の檻も含めて、この箱舟を構成する物質の殆どが、ジェラード地下遺跡と同じく、〈再生物質〉という金属か非金属かすら分からない謎物質で構成されているらしい。


 間接照明を採用しているのか、遺跡のようにその天井自体が光を発しているのか分からないが、照明器具らしきものが見当たらないのに、ずいぶんと明るいことだ。


 箱舟が小国をまるごと運べるほど大きく広いせいか、よほど牢獄のセキュリティを信じているのか、部屋を出たところに立っていた騎士を眠らせて以降、船内を巡回する衛兵などにエンカウントしてはいないというのも少々気になる。


 明るく障害物の無い、少し長いだけの道のりを走らせるというのは、ボスのいる本拠地からの脱出クエストとしてはどうなのだろう……。


 このゲーム全体の仕様のようなので仕方がないかもしれないが、特に緊迫したBGMが流れているわけでも無いし、このまま何事もなくすんなりと脱出できてしまいそうで、本当にこのルートが正しいのか逆に不安に感じてしまう。


「……だが、まさか脱獄不可能と言われた箱舟の牢獄を、普通に鍵を開けて脱出してしまうとはな」


「む? ああ……既にマギがピッキングでの脱出にすら反応しないということは検証済みだったからな……おそらく、普通に衛兵の懐から拝借した鍵を使って牢を開けても同じだろうと思ったのだ」


 本来であれば道具を持ち込むこともできないという前提条件が存在するのであれば、あの部屋には使えそうなものは置いていなかったので、ピッキングを実行することすら不可能だっただろう。


 〈抑制の首輪〉を用いて拘束された時もそうだったが、どうやら収納魔法としても判定されないらしい、プレイヤー固有の能力のひとつである亜空間倉庫は、様々な場所でイレギュラーを引き起こすようだ。


 そして、牢屋のピッキングが止められないということは、犯罪の全てがマギに止められるわけでは無いということ……さらに、その他の検証結果と合わせて考えれば、おそらく、マギがその力を持って止めるのは、魔法と、人に直接危害を及ぼす行為だけだ。


 だから、衛兵から暴力によって鍵を無理やり奪い取るならともかく、相手に怪我させることなく、その懐から少しの間だけお借りするのであればセーフなのだろう。


「検証済み……? ということは、その時に牢の扉を解錠しているのに、脱獄せずにまた施錠して捕まっていたということか?」


「うむ、まだ他にも検証したい項目が残っていたからな」


 それに、今はメインストーリーの検証を優先したかったから、アクセル殿が来てストーリーが進行するのを大人しく?待っていたのだ。

 もちろん、そのまま脱獄してみるルートも検証しなければだが、それは二周目以降のお楽しみということにしておこう。


「相変わらず君の行動はよく分からないな」


「デバッガーとしては別におかしくはない行動だと思うのだが」


「はっはっは、まぁ、それがオース君のらしさなのだろう」


 ふむ、アクセル殿もその検証チームの一員なのだが……まぁ、いいか。


 言われてみれば、自分は今まで加入する仲間に対して、デバッガーという仕事についてあまり話さないまま迎え入れていたからな。


 いつか検証業務の基礎を教え込んでみてもいいかもしれないが、それよりも今は少しでも早く教皇の元へたどり着かなければならないのと、一刻も早く他の仲間と合流したい。


 そう思って、先ほどから〈音信のイヤリング〉を通して、自分の持っているそれと対になった音信のイヤリングを持っているグリィ殿に呼びかけているのだが……。


『……やっぱり、音信のイヤリングからだったのね……オースくん、こっちの声は聞こえてるかしら?』


 ふむ……その呼びかけに出たのは何故かグリィ殿ではなくアーリー殿だったが、とりあえず仲間が呼びかけに応じないという問題は解消したようだ。


「聞こえている……だが、その声はアーリー殿だな? 自分の持っている音信のイヤリングはグリィ殿の持っているものとペアになる設定をしていたはずだが……」


『グリィちゃんなら、まだ目の前でヨダレを垂らして寝てるわよ……あたしはヴィーコのやつに扉をドンドン叩かれて起こされたの……グリィ嬢の部屋から男の声がするからすぐに確認しに行け! ってね……そのまま放置していたら、無理やり扉を開けて入ってきそうな勢いだったわ』


 そういえば自分は馬車を飛び移って真っすぐ箱舟へ侵入していたので、あちらのチームが宿泊した宿屋を見ていなかったが、グリィ殿とヴィーコ殿が別の部屋なのはともかく、アーリー殿も別の部屋だったのか……国が手配した宿屋ということであるし、高級ホテルのような場所で、それぞれ別の部屋が割り当てられたのかもしれないな。


「……そんな部屋なら、ベッドの寝心地もさぞ良かったのであろう……叩き起こすようなことをして、悪いことをしたな」


『ホントよ……ヴィーコのやつに、気になるならアンタがグリィちゃんの部屋に入って確かめればいいじゃないって言ったら、紳士が淑女の部屋に入るなど出来るわけがないだろう! って逆切れされるし……あたしも淑女のつもりなんだけどねぇ』


「うーむ……なんというか、自分は悪くないが、申し訳ない……だが、こちらも困っていたので助かった……グリィ殿にいくら大声で呼びかけても、ハンバーグが食べたい、オムライスが食べたい、と、料理の要求しか返ってこなくてな」


『あはは、昨日の夕食に出された料理も美味しかったから、食べ物の夢でも見ているのかしらね……枕がヨダレでベトベトだし……まぁ、そっちもお疲れ様……で、何かこっちに用があったんでしょ? そっちで何かあったの?』


「そうであった……実は……」


 自分は、グリィ殿の代わりに〈音信のイヤリング〉の通信に応答してくれたアーリー殿に、簡単な事情を話し、グリィ殿を含め仲間を全員起こして集めるようにお願いした。


 そして全員が集まったところで、もう一度、今の状況を説明し、可能であれば別の場所に避難し、そこで合流しようと話す。


『……そんな悠長なことはしていられないぞ』


『んー……たしかに、そうみたいね』


「む? どういうことだ?」


 自分の説明に対して、いつの間にか、近づいていたらしいヴィーコ殿がそんな返答をしてきて、その答えにアーリー殿も同意した。


 紳士は淑女の部屋には入らない仕様ということだったので、アーリー殿がヴィーコ殿のいる廊下の方まで歩いて行ったか、ヴィーコ殿も一緒に聞いておいた方がいい大事な話だと察して、手招きして無理やり呼んだりしたのだろう。


『そっちには聞こえてないかもしれないが、今ここには、外から騎士の声が聞こえている』


『なんか、大人しく投降すれば全員怪我もさせないって言ってるけど、話を聞く限り本当かどうか怪しいわね……』


「……」


 どうやら教国側は既に動き始めていたようで、彼らが用意したので当たり前だが、まっすぐ仲間たちが泊まっている宿屋に騎士を差し向けてきたようだ。


 箱舟にいるこちら側で騎士や衛兵にエンカウントしないことを考えると、こちら側にいた戦力の相当数が、あちら側に行っている可能性もあるな……。


『おい、オース……貴様、箱舟の中で魔法は使えたか?』


 と、自分が状況を分析し、攻略の道筋を考えていると、ヴィーコ殿がそんな風に尋ねてきた。


「伝承通り、全く使えなかった……ついでに、打撃による攻撃も自動で発生する魔法障壁に防がれることも、おそらく相手も同じ条件であるだろうことも検証済みだ」


『そうか……では、合流場所は、箱舟だ』


『ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 箱舟は敵の本拠地でしょ!? そりゃあ、中に入れれば怪我をしないって言う意味ではもしかしたら安全かもしれないけど、ここからオースくんもアクセルくんも居ない状態で敵陣の中に突っ込むなんて自殺行為よ!!』


『いや、違うな……むしろ、街の中に潜んだり、街の外に出ようとしたりする方が危険だ』


『え?』


『いくら箱舟が安全だとは言っても、入ってしまえば袋の鼠だ……僕なら箱舟の警備をする衛兵や騎士まで総動員して、むしろ街から逃がさない方に力を入れる……今、そちらからこうして悠長に通信が出来ているのも、そちら側には追手が無いからだろう?』


「うむ、その通りだ」


 流石は、魔物との領域争いの最前線である、開拓事業を取り仕切る公爵家の長男といったところか……。


 ヴィーコ殿は、こちら側に騎士や衛兵が見当たらないという情報を伝えていないのにもかかわらず、自身でその状況を導き出し、相手の動きを読んだ。


 自分もデバッガーとして、ゲームプレイヤーとして、攻略に最適なルートを構築するのは得意な方だが、やはり、それを専門として学んでいる本職には敵わないのかもしれないな。


 自分の認識として、ヴィーコ殿は、彼自身がバグだらけな、歩くモンスター図鑑程度に思っていたが、どうやら、デバッガーとしてもきちんと戦力になりそうだ。


『時間がない、オース、貴様とアクセル殿下は、僕たちが突入しやすいように、箱舟の出入り口を抑えておけ……こちらは何とか敵の包囲網を突破して、そこへ合流する』


「了解した。だが、自分は制圧が終わったらそちらの救助に向かう」


『そうか、まぁ、鉄壁の王子が抑えるなら、貴様一人離れたところで問題ないだろう』


「アクセル殿もそれで問題ないだろうか?」


「ああ、僕もその案に賛成だ。任せてくれヴィーコ君……そしてありがとう」


『ふんっ、礼を言うのはまだ早い。それに、頼りない貴様らに指揮をされるより、自分で指揮をした方が僕にとっても都合がいいだけだ、さっさと仕事にかかれ』


 ヴィーコ殿は、アクセル殿のお礼の言葉に対して、最後にそう一方的に告げると、無理やり通信を終了させた。


 懸念点があるとすれば、最後に会った時の、雰囲気があまり良くなかった、あちら側の仲間たちが、指揮官としては優秀だったらしい彼の指示を、ちゃんと聞いてくれるかどうかだが……そこは仲間たちを信じるしかないだろう。


 自分は、アクセル殿と頷き合い、ヴィーコ殿の言う通り、箱舟の出入り口を制圧しに向かった……。



▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる

【全強化】:あらゆる能力が上昇する

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる

【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【冒険術】:冒険に必要な行動を高い水準で実行することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【舞踊】:あらゆる条件で思い通りに踊ることができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる

【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】

【権威を振りかざす者】

【禁断の領域に踏み入れし者】

【自然に逆らいし者】

【奪いし者】

【獣を操る者】


▼アイテム一覧

〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,680〉〈木×20〉〈薪×815〉〈布×89〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,960日分〉〈保存食×20,000〉〈飼料×4,340〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×500〉〈獣生肉(上)×480〉〈茶蕎麦×500〉

〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×5〉

〈着替え×1,000〉〈本×100〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×170〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉〈睡眠ポーション×10〉

〈教国軍の消耗品×200,000〉〈教国軍の装備品×20,000〉〈教国軍の雑貨×100,000〉

〈金貨×0〉〈大銀貨×1〉〈銀貨×11〉〈大銅貨×135〉〈銅貨×84〉


▼ 商業ギルドからの借金

オース名義:金貨2枚

グリィ名義:金貨2枚


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ