第百八十二話 箱舟の仕様で検証 その一
ソメール教国、教都、箱舟、船内。
歴史的には、全ての大地を飲み込むほどの大洪水から人類を救い、長い時を経てこの大陸へと運んできた船であり、現在は、航海機能を失い、ソメール教国の王族が居住地として利用している、大きさ的には人工島と言っても遜色ない巨大な居住施設。
ただ、現人類が利用している施設の中で最も古いものでありながら、これを製造した古代人の技術は素晴らしく、作られてから何百、もしくは何千年と経っているはずの現在でも、他のどの建物よりも綺麗で、近未来的な見た目をしており、航海機能以外の様々な機能はまだ生きているようだ。
そして、現在稼働している機能の中で、現代の文明から見て、特に異彩を放っているもの……絶対平和監視システム【マギ】。
各所に設置された監視カメラのような魔道具、通称【マギの目】でこの箱舟全体を監視して、盗みを働く者がいればすぐに通報して絶対的な証拠として魔法映像を提出し、暴力を振るおうとする者がいれば魔法障壁を張ってそれを強制的に止める、人工AI。
Fランク昇格試験などのために、アナスタシア殿からこの世界の歴史について教わっていた時に伝えられたその存在を、自分はすっかり忘れており……。
「ふむ……」
自分は現在、箱舟内の牢獄に囚われていた……。
「このゲームは本当に気軽にプレイヤーを投獄するのだな」
まぁ、どうせいつかは検証のために全世界の全ての牢獄に入るので、その機会がいつ訪れてもいいと言えばいいのだが、それにしても普通にプレイしているだけで捕まり過ぎではないだろうか。
今回も、マップ内で拾ったアイテムだけを使ってこの施設を攻略する制限プレイを止め、持ってきていた睡眠ポーションを風魔法で巡回中の衛兵にぶつけようとしただけだというのに、突然警報が鳴り響くと、目の前に魔法障壁が展開された上で、発動を試みた魔法は何故か発動せず、睡眠ポーションがその場に落ちてしまった。
そして、いつもであれば、たとえアーリー殿に作ってもらった強力な睡眠ポーションであろうとも自分には効果が無いのだが、その直前で、船内の食べ物に毒が入っていたりしないかの検証をするために【状態異常耐性】系のスキルを外していたこともあって……。
……次に目を覚ました時には、ここに投獄されていた、というわけだ。
「まだマップ探索の途中だったのだがな……」
ゲームの進行をリアル志向にするのはいいが、魔法が禁止されるなどといった今までのマップに無い機能が備わっているのなら、そのマップに突入する直前にでも改めて、それとなく情報を伝えて欲しいものである。
まぁ、この施設に潜入する行為自体、正規の攻略ルートから外れているだろうから、もしかしたら正規ルートで進んでいたら事前にそういった説明があったのかもしれないが。
「とにかく、しばらく待っても誰も来ないようだし、さっさとこの牢獄マップの検証を終わらせて、いつも通り脱獄してしまおう」
自分はそう意気込むと、もう慣れた手順として、まず首に手を当てて、いつもならそこにある〈抑制の首輪〉を外そうと試みるのだが……。
「首輪が、無い?」
確かに魔法やスキルの行使を阻害する首輪がついていたところで、一定範囲内のものを何でもしまえる【亜空間倉庫】が使える自分には、自身の装備品を格納するかのように首輪を外すことが出来るが……だからと言って最初から付けないとは、不用心なことだ。
これでは自分以外であったとしても、普通に魔法やスキルを使って脱獄でき……。
「いや……まさか……できない……?」
自分は試しに、拳に魔力を集め、練り上げて、純粋な破壊力を持って牢獄の扉を壊そうとしてみる……すると……。
《警告、警告……牢獄内で異常な魔力反応を検知……直ちに防衛行動を開始します》
天井に設置された監視カメラのような魔道具からそのような音声が響き渡ると、そのメッセージを最後まで再生し終わるのを待たずして、牢獄の扉に魔法障壁が張られた。
その音声が、今までも度々聞いていた、スキル獲得などの際に脳内に響く音声と同じだということも気になるが、見たところ自分でも少し破壊するのに手間取りそうな魔法障壁が一瞬で張られた上に……。
—— バンッ ——
「何をしている!」
牢獄のある部屋の扉が勢いよく開かれ、こうして、すぐに衛兵がやってくるとなっては、今までのように簡単には脱獄でき無さそうだな。
まぁ、物は試しということで……。
—— ガスンッ ——
「お、おい! 何をしているのだと聞いている!」
「ふむ? 見ての通り、魔法障壁を壊そうと試みたのだが? どうやら軽く叩いただけでは壊れないようだな」
「いやいや、試みたのだが? じゃないが? 目の前に衛兵がいるのだが?」
「うむ、目の前で脱獄しようとしたらどうなるのかも検証できて、一石二鳥だな」
「……」
「……」
「えー、こちら牢獄区画……大至急応援を求む……こいつは一人では手に負えそうにない」
なるほど、どうやらこのマップでは、目の前で脱獄しようとすると、無線のような魔道具で応援を呼ばれるらしい。
ふむ……まぁ、特におかしなところはないな。
こうして自分は、すぐに脱獄することはいったん諦めて、応援に駆け付けたらしい衛兵の足音を聞きながら、牢獄に囚われたままできそうな検証を開始することにした……。
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる
【全強化】:あらゆる能力が上昇する
【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える
【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える
【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる
【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る
【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる
【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる
【冒険術】:冒険に必要な行動を高い水準で実行することができる
【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る
【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る
【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る
【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる
【舞踊】:あらゆる条件で思い通りに踊ることができる
【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる
【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる
【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる
【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る
▼称号一覧
【連打を極めし者】
【全てを試みる者】
【世界の理を探究する者】
【動かざる者】
【躊躇いの無い者】
【非道なる者】
【常軌を逸した者】
【仲間を陥れる者】
【仲間を欺く者】
【森林を破壊する者】
【生物を恐怖させる者】
【種の根絶を目論む者】
【悪に味方する者】
【同族を変異させる者】
【覇者】
【権威を振りかざす者】
【禁断の領域に踏み入れし者】
【自然に逆らいし者】
【奪いし者】
【獣を操る者】
▼アイテム一覧
〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,710〉〈木×20〉〈薪×820〉〈布×89〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,910日分〉〈保存食×20,000〉〈飼料×4,290〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×470〉〈獣生肉(上)×420〉〈茶蕎麦×500〉
〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉
〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×5〉
〈着替え×1,000〉〈本×100〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×170〉
〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉
〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉
〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉
〈音信のイヤリング×1〉〈睡眠ポーション×10〉
〈教国軍の消耗品×200,000〉〈教国軍の装備品×20,000〉〈教国軍の雑貨×100,000〉
〈金貨×0〉〈大銀貨×1〉〈銀貨×11〉〈大銅貨×135〉〈銅貨×84〉
▼ 商業ギルドからの借金
オース名義:金貨2枚
グリィ名義:金貨2枚