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第百七十五話 ガラスの街で検証 その一

 

 【工芸の都】パルム。


 グラヴィーナ帝国と隣接するデリベス領から、南に進んだところにあるパルム領は、ソメール教国の中央に位置する領として張り合っている三つの領のうちのひとつだそうだ。


 領地面積や緯度経度などが正確に測られた地図が存在しないので、実際のところはどうなのかはこの国の教皇でも分からないが、確かにその領地は国の中心に近い地域まで広がっており、言い争っている三つの領地の中では一番面積が広いと主張されているらしい。


 西には主に珪砂が採掘される山があり、それを使って作られるガラス製品が、この領地の特産品となっている……ちなみに、珪砂以外にも染料や顔料として使われる鉱物も採掘されるが、それらの何割かはデリベス領と取引されている。


 そしてガラス製品は割れやすい品ということで、通常の安価な輸送法では遠くまで運ぶことは出来ないため、ジェラード王国やグラヴィーナ帝国では、それなりの輸送費が加算された、高価な工芸品として扱われているようだ。


 自分たちは、デリベス領都を出てからいくつかの村や街を経由して、そんなガラス工芸を生業としている領地の領都を訪れると、いつものように街の入り口付近の宿屋に馬車を止め、皆でぞろぞろと、プチ観光に繰り出していた。



「ここがガラスの街パルム……何だか町中がキラキラしていて綺麗ですね」


「そうね、デリベスもカラフルな布がはためいてて綺麗だったけど、こっちもまた違った良さがあるわね」


「はっはっは、そうだろうそうだろう、この街も我が国の顔のひとつを担ってくれている自慢の街だからな、はっはっは」


「いや、あんたの国はいくつ顔があるのよ……まぁ、こんな綺麗な街並なら自慢してくなるのも分かるけどね」


 カヤ殿とアーリー殿がその光景に心揺さぶられているように、この街もデリベスの領都と負けず劣らず、かなり景色の良い街並みとなっている。


 通りの地面をカラフルなレンガで彩り、家の壁にまでカラフルなタイルで色を付けていたデリベスと違い、この街に入ってまず目に飛び込んでくるのは、圧倒的な白い街並みだった。


 街中の道には白い石が敷き詰められており、家々の壁も屋根も漆喰のようなものが塗られ、街中に統一感のある純白の家が立ち並んでいる。


 そしてその上で、どの家も、窓には様々なデザインのステンドグラスが嵌められ、入り口付近には綺麗な風鈴が飾られており、それらが陽の光を反射して煌めいている。


 街全体を通しての色合いは圧倒的に白が勝っているが、だからこそ、ところどころに見受けられる色とりどりのガラス製品は強調され、自分たちの視界に強い印象で飛び込んでくるという作りになっているようだ。


 ソメール教国は全体的に乾燥地帯のようで、水蒸気をあまり含まないその澄んだ空気は、それらのガラスに日の光を真っすぐ届け、そこから乱反射する色とりどりの光が、白い街並みを鮮やかに彩る……なんとも幻想的な風景を作り出していた。



「本当……綺麗な街並みね」


「ほう? まぁ、お子様にでも感動できる分かりやすい芸術というのも、たまには悪くないかもな」


「ちょっと、それアタシに向かって言ってる? アタシ、アンタと二つしか年が違わないんだけど?」



「ほへー、確かにこれは……美味しそ……綺麗っすねぇ……」


「グリィの姉ちゃん、それ、飴じゃないからな?」


 まぁ、中には、きっと博物館や美術館に行っても大人しく見学できないのであろうと思われる反応をする者たちもいるが、子供から大人まで楽しめる、いい街並ということだろう。



「おい、あんちゃんたち、もしかして別の国の人か?」


 そうしてガラスで光が反射する街の中を賑やかに散策していると、流石に旅行者色が強い集団であることはすぐに分かってしまったのだろう、そんな風に声をかけてくる人物に遭遇した。


 どうやらここもガラス工房の一つらしい、看板のかかった白い建物の店先で声をかけてきたのは、街を行き交う多くの人が着ているような薄手の白いローブ姿でもなく、その次に多い、自分たちも今着ているようなデリベス領の洋服でもなく、ジェラード王国でよく見かけていた、きっちりとした商人服を着た恰幅の良い中年男性だ。


「ふむ、そういう貴殿も、服装からするとジェラード王国の商人のようだが?」


「ああ、そうだ……貴殿なんて呼ばれるほど大した商人じゃないが、貴殿も、ってことは、やっぱりあんちゃんも外から来たんだな」


「うむ、その通りだ」


 自分たちの境遇を考えると、別に否定しても良かったのだが、追手に追いつかれない限りは特に邪魔も入らないだろうから、急ぎつつも、観光して、心のゆとりを持ちながら進もうと、アクセル殿とも事前に話していたし、既に、誰がどう見ても観光客だと分かる振る舞いをしてしまっている以上、今更だろう。


「はは、そうか、で、まだ観光気分が抜けてないってことは、最近連れてこられたばっかりだな?」


「うーむ、連れてこられたというか、自主的に来たというか……」


「ん? あんちゃん、勇者だか何だかで連れてこられたんじゃないのか?」


「いや、勇者ではあるな」


「だよな、ははは、まぁ、そういう俺も勇者だけどな」


「なに? そうなのか?」


 自分はそう聞いてすぐにその商人に【鑑定】スキルを発動させてみるが、確かに称号の欄に【勇敢なる者】という称号はあるものの、自分のようにスキル欄にあるわけでもなく、称号もそのまま勇者というわけでは無いようだ。


 それに、随分前のことで明確には覚えていないが、アクセル殿が自分に使っていた〈能力解析器〉で、ステータスの数値や所持スキルは表示されても、称号は表示されなかったと記憶している。


 そうなると、ステータス内に勇者だと断定する材料は特に無いわけなのだが……果たしてこの商人は何故この国に勇者として連れてこられたのだろうか。


「おいおい、なんだよその疑いの眼差しは」


「いや、勇者には見えないなと思ってな」


「くっ……ハッキリ言ってくれるじゃねぇか……ってか、それを言うならあんちゃんも勇者って感じには見えねぇだろ」


「ふむ、それもそうか」


 所持スキルはともかく、見た目は少年と呼ばれるのを卒業するかしないかくらいの青年だからな、着ている服も今は王族衣装でもなければ冒険者の服装でもなく、デリベス領都で買った一般的な服だし、これで勇者に見えると言われたらそれこそ不具合だろう。


「まぁ、だけど、俺が自分で言うのもなんだが、一応、勇者っぽいことはしていてな……」


「ほう」


 そこから少し自慢げに話してくれた出来事をまとめると、利益のために住民から過剰に金をむしり取っていた大商会に対抗して、彼は同じ商品を安く売り、住民を守ったとのこと。


 どうやら、彼のいた街で、別にそれ自体は大したことがない、それほど苦労せず採取できる薬草を使うだけで乗り越えられる程度の流行り病が蔓延したのだが、同時に、その薬草が取れる森に強い魔物が出たらしく、いつもなら簡単に手に入る薬草が容易には採りに行けなくなったのだ。


 さらに不運が重なり、その魔物を倒せるであろう、その街にいた唯一の高ランク冒険者が流行り病に侵されてしまい、すぐに在庫のあった薬草を使ったが、しばらくは安静にしている必要があった。


 そんな状況を、街にいた悪徳商会はチャンスだと捉えたらしく、配下の商店からその薬草を通常より高い値段で買い占めた上で、それ以上の値段で売り始める。


 普段なら別に大した値段でもない、誰でも気軽に買えるような薬草が、高級ポーションを作成する材料にも匹敵する価格で売られ始めたのだ。


 それほど重い病ではないとはいっても、対処が遅れれば遅れるほど動けない日が長引き、家族全員がその病にかかってしまえば、仕事もできず、食事も用意できず、それこそ命に関わるという厄介な状況。


 流石はここまでのし上がってきた、計算高い大商会というべきか、低所得者でも無理をすれば買えなくはないギリギリの価格設定をしていたのも効いたのだろう……背に腹は代えられぬという思いで、泣く泣くその値段で買おうとしていた……。


 ……そんなところで。


 この目の前の商人は、店にあったその薬草の在庫を元の価格で提供するだけでなく、予定していた他の全ての商品の仕入れをキャンセルして、街の外からもその薬草を大量に仕入れて、適正価格で売り始めた。


 当然、街の住人は、安い価格で売っているならと、感謝しながらそちらで買うので、彼の方で仕入れた薬草は、余ることなく全てきちんと売れたようだ。


 利益率としては、本来仕入れる予定だった他の商品の方が圧倒的に高かったので、赤字にならなかっただけましか程度の儲けで終わってしまったらしいが、その代わりに、住人からの信頼を買うことが出来たということで、この商人は後悔していないらしい。


 ただ、当然、そんなことをすれば、せっかく配下の商店から通常より高い値段で買い占めた薬草を、全て在庫として抱えることとなった大商会は黙っておらず、陰湿な嫌がらせが行われる日々が始まったとのこと。


 そして、そんな時に、この勇敢な商人の元を訪れたのが、この事件の噂を聞いてきたらしい、ソメール教国からの使者。


 神官と思われる格好をしたその使者は、「あなたの勇気を称えて、勇者としてソメール教国へ招待したい」と告げたそうだ。


 商人も、陰湿な嫌がらせに耐えかねていたこともあり、しばらく店を開けて、ほとぼりが冷めるのを待つのも悪くないかなと、その招待を受けることにして、数か月ほど前に、この国にやってきた……ということらしい。


「最初は、ソメール教国って言やぁ、変な宗教を勝手に作りやがった頭のおかしい連中が住んでる国って思ってたから不安だったんだが、なんか、国から最低限生活できる程度の滞在費が支給されるし、この国のやつらも思ったより普通だし、はは、あの時の俺の行動が報われてるみたいで、ちょっと居心地がよくなってんだよなぁ……」


「ふむ……」


「まぁ、許可が出るまで国から出られないのと、知り合いに手紙を送っても返事は返ってこないってのが不満だが、何もしないでも生きていけるし、暇を持て余して俺がここで働かせてもらってるみたいに、職場の斡旋なんかもしてくれるし、許可が下りるまでここで過ごすのも悪くないかって思ってるやつがほどんどだと思うぜ」


「なるほど……」


 ソメール教国は、勇者として招待した人物に対して、滞在費として生活の援助金を支給している……? 滞在している人物は、別に拘束などはされておらず、自由な生活が送れている……?


 ジェラード王国やグラヴィーナ帝国で聞いた印象と随分と異なるようだが、これはどういうことだろうか……。


 手当たり次第、本人の許可も無く、勇者と思わしき人物を誘拐しては、国内に拘束し、外部との連絡を完全に断たせている……それどころか、しまいには、誘拐された人物で勇者ではないと判断された人物はその場で処刑されているなどという噂まで流れ始めていたが……話の大半が尾ひれだったということか?


 まだこのメインストーリーイベントの全容が見えないな……だがまぁ、RPGのストーリーというのは、得てして後半になってから分かるようになっているもの。


 まぁ、ソメール教国が悪者だったとしても、他の二国が勘違いしているだけだったとしても、この戦争を止めた方がいいという事実は今のところ変わらないだろう。


 真相が気になるところではあるが、そのうち分かると信じて、とりあえずストーリーイベントを進めてみるしかないな……。


「そうだ、せっかくだし、まだやってないんなら、吹きガラス体験、やってくかい?」


「吹きガラス体験……?」


 自分が彼の話を聞いて、メインストーリーについて思案していると、商人は話を切り替えるように、そんな提案を投げかけてきた。


「ああ、あんちゃんたち、この街は初めてなんだろ? どうせしばらく帰れないんだ、観光がてら、この店でちょっとした思い出でも作っていきなよ」


「ふむ」


 先ほどの勇者云々の話も、ここに持ってくるための布石だったとしたら、この商人は優しく勇敢なだけでなく、なかなか強かに商売上手だともおもうが、まぁ、どうせ今日はこの街に泊まるから、何をやるにしても寝る時間までは観光になる。


 それが同郷相手の客引きをする常套手段だったとしても、個人的にはなかなか有意義な情報だったことだし、その情報量としてこの商人の話に乗るのも悪くないだろう……それに……。


「それがまだ検証したことのないイベントなら、検証しない選択はありえないだろう」


 こうして自分は、近くの店ではしゃいでいる仲間に声をかけて、吹きガラス体験の検証をすることとなった。



▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる

【全強化】:あらゆる能力が上昇する

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる

【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【冒険術】:冒険に必要な行動を高い水準で実行することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【舞踊】:あらゆる条件で思い通りに踊ることができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる

【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】

【権威を振りかざす者】

【禁断の領域に踏み入れし者】

【自然に逆らいし者】

【奪いし者】

【獣を操る者】


▼アイテム一覧

〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,710〉〈木×20〉〈薪×820〉〈布×89〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1,960日分〉〈保存食×20,000〉〈飼料×4,640〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×500〉〈獣生肉(上)×480〉〈茶蕎麦×500〉

〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×5〉

〈着替え×1,000〉〈本×100〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×170〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉〈睡眠ポーション×11〉

〈教国軍の消耗品×200,000〉〈教国軍の装備品×20,000〉〈教国軍の雑貨×100,000〉

〈金貨×0〉〈大銀貨×1〉〈銀貨×11〉〈大銅貨×135〉〈銅貨×84〉


▼ 商業ギルドからの借金

オース名義:金貨2枚

グリィ名義:金貨2枚


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