第百七十一話 教国軍との接触で検証 その三
「ふむ、無事に戦争が止められて良かったな」
「何も良くないわよ! あたしたち、本当に三か国から追われる身になっちゃったわよ!?」
現在、ソメール教国の軍からいただいた馬車に乗って、砦から南へと進んでいる道中。
自分は御者台で馬を操りながら、後ろの荷台から身を乗り出して、こちらの首を絞めてくるアーリー殿の攻撃に耐えていた。
「そうだぞオース君、結果的にもしかすると一番被害が少なく収まったかもしれないが、そういう作戦があるなら先にそう言って欲しい……あの時は一瞬、本当に裏切られたと思ってショックだったのだからな」
「うむ、それは申し訳ないことをした……だが、その迫真の表情のおかげで信憑性が増して、アクセル殿が悪い奴に騙された人質というポジションを獲得できたのだろう」
「あはははは、確かに、あの時のアクセル兄ちゃんの顔、この世の全てに絶望したような表情で可笑しかったなー」
「あはは、そうね! でも、ナイフを突きつけられてたアクセルだけじゃなくて、ヴィーコまでなんかメチャクチャげんなりした顔をしてたのはどうしてなの?」
「……放っておけ、少し昔のことを思い出しただけだ」
ケラケラと笑われているアクセル殿やヴィーコ殿には申し訳ないが、カイ殿やロシー殿の言う通り、確かにあの時のアクセル殿の表情は、天から地に落とされたような急激な変化があり、大変迫力があった。
まぁ、どうやら顔見知りらしい侯爵と、いつも通りに笑顔で会話を交わし、このまま平和的に解決できるだろうと思っていたところを、いきなり首元にナイフを突きつけられて人質に取られたのだから、それも仕方がないのかもしれないな。
だが、グラヴィーナ帝国側の砦でのヴォル兄の反応を見る限り、おそらくソメール教国側の侯爵にあのまま交渉しても、同じ結果になっていた可能性が高いだろうし……なにより、せっかく検証するなら別の内容を検証した方がいいだろう。
正直に話して、平和的な解決を試みる、という検証を、すでにグラヴィーナ帝国側の砦で行ったのであれば、いきなり重要人物を人質に取って交渉を始める、という検証をソメール教国側の砦で行うのは、デバッガーとして当然の流れだ。
そういうわけで、自分は、さながら漫画やアニメでよく見かける銀行強盗のように、要求を伝え、逃げるための足も用意させ、こうして無事に走り去ったのだ。
もちろん、ただ口頭で戦争を止めるという口約束を交わしただけではなく、グラヴィーナ帝国への攻撃を止める代わりにアクセル殿に危害を加えないという書類を二枚書かせて、両方に自分と侯爵がサインすることで正式な書面として残してある。
サインをする際に、もちろん自分がアクセル殿をしばらく放すことになるが、そこまで会話が進むと、どうやら仲間もこれが演技だと気づいたようで、グリィ殿がアクセル殿を人質に取る役を代わってくれたり、アクセル殿自身も抵抗せずに受け渡されてくれて、他の仲間も部屋にいた聖職者や騎士たちを縛り上げたりしてくれた。
「でも、本当に大丈夫なんすか? すぐに追手が来たり、約束が破られたりするんじゃ?」
「ふむ、大丈夫だとは思うが、そうだな……」
グリィ殿が心配そうにそう聞いてくるが、一応、用意してくれた馬車に乗る際に「アクセル殿は次の街で安全が確認出来たら解放する」と言っているので、距離を置いてついてくることはあっても、途中で襲撃してくるようなことにはならないはずだ。
だが、まぁ、確かに、戦争を止める口実としてはもう一つ何か欲しいところではあるし、念には念を入れて、ひとつダメ押しをしてみようか……。
♢ ♢ ♢
その日の夜。
砦から次の街へ向かう途中、仲間たちが、街道から少し外れた森の近くで、キャンプを設営して休んでいる中……自分は一人でこっそり砦へと戻ってきていた。
斥候的な任務なのでグリィ殿も連れてきても良かったが、いつの間にかパワーもスピードも相当なステータスに成長していた彼女でも、ほとんど毎日ランニングをして【身体能力上昇】系のスキルの経験値を稼ぎ続けている自分の全力の走りにはついてこれないので、今回は自分だけだ。
道中、予想通り、距離を開けて追いかけていたらしい数名の騎士を発見したので、アーリー殿に頼んで貰ってきた睡眠薬ポーションを投げつけて全員まとめて眠らせて、身に着けている装備も持っていた荷物も全てはぎ取って、乗っていた馬ごと砦まで引き連れてきたので、心配していた追手に関しても、これで解決しただろう。
「ふむ、思ったよりも騒ぎにはなっていないようだな」
砦の入り口に立っていた門番も、同じように睡眠薬ポーションを投げつけて眠らせて、視界の良い外壁の上から砦の中を見下ろすと、特に誰かが騒ぎ立てているような様子も無く、時間帯のせいもあるだろうが、日中に訪れた時よりも静かな雰囲気だった。
おそらく交代で見張りをしているのだろう兵士が何人か、ここからは離れた場所の外壁や、砦の中を巡回しているが、外に出ている人影はそれくらいだ。
「なるほど、上層部は会議室に集まって会議中……戦場に出ている軍隊は前線から引き返している最中か……」
マップ画面を確認してみると、どうやら昼間に見たこの軍の司令塔であるデリベス侯爵やその周りにいた役人たちは、まだ起きて会議室に集まって何か話し合っているらしい。
そして、マップ画面をスワイプして表示領域を北へと移すと、所属が〈教国軍〉となっている大勢の人々が、今もなお、休まずにこちらへと向かってきているようだ。
どうやら約束通り撤退はしてくれていて、単純にまだ砦までたどり着いていないということなのだろう。
自分たちのように少人数で全員が馬車に乗って移動できる状態であれば半日もかからない距離でも、流石に数千人、数万人規模となると、その足並みは遅くなるのだろうな。
「ふむ、しかし、この状況は都合がいいな……」
自分はマップ画面で各敵キャラクターの配置や、地形情報などを把握すると、【知力強化】系のスキルを全力で行使して、最大効率の攻略ルートを割り出す。
「ふむ……なるほど……よし」
「今日中に、この砦の検証を全て終わらせよう」
自分はそう意気込むと、魔法や睡眠ポーションで敵を無力化しつつ、壁という壁の当たり判定を検証しながら、目についたアイテムを全て亜空間倉庫に回収し始めた……。
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる
【全強化】:あらゆる能力が上昇する
【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える
【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える
【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる
【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る
【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる
【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる
【冒険術】:冒険に必要な行動を高い水準で実行することができる
【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る
【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る
【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る
【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる
【舞踊】:あらゆる条件で思い通りに踊ることができる
【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる
【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる
【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる
【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る
▼称号一覧
【連打を極めし者】
【全てを試みる者】
【世界の理を探究する者】
【動かざる者】
【躊躇いの無い者】
【非道なる者】
【常軌を逸した者】
【仲間を陥れる者】
【仲間を欺く者】
【森林を破壊する者】
【生物を恐怖させる者】
【種の根絶を目論む者】
【悪に味方する者】
【同族を変異させる者】
【覇者】
【権威を振りかざす者】
【禁断の領域に踏み入れし者】
【自然に逆らいし者】
【奪いし者】
【獣を操る者】
▼アイテム一覧
〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,770〉〈木×20〉〈薪×880〉〈布×95〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×2,000日分〉〈保存食×20,000〉〈飼料×5,000〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×530〉〈獣生肉(上)×490〉〈茶蕎麦×500〉
〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉
〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×2〉
〈着替え×20〉〈本×100〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×170〉
〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉
〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉
〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉
〈音信のイヤリング×1〉〈睡眠ポーション×11〉
〈教国軍の消耗品×200,000〉〈教国軍の装備品×20,000〉〈教国軍の雑貨×100,000〉
〈金貨×55〉〈大銀貨×149〉〈銀貨×523〉〈大銅貨×826〉〈銅貨×154〉
▼ 商業ギルドからの借金
オース名義:金貨2枚
グリィ名義:金貨2枚
▼ アクセルからの借金
金貨5枚




