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第百六十八話 帝国軍との接触で検証

 

 グラヴィーナ帝国、グリーンティスの街から南東に進んだ場所にある、ソメール教国へ渡る際の関所の役割も兼ねた砦……ランダバウト砦。


 ヴィーコ殿の体調を気にしながら途中休憩を多めに取りながら進んでいたこともあって、早朝から馬車で移動し始めたものの、たどり着いたのは徒歩で移動したとしても変わらなかったであろう黄昏時……そろそろ陽が赤くなり、反対側から月が見え始めるだろうという時間帯だった。


「止まれ!」


 砦の門に近づくと、他の街でも同じ反応だったように、門番が自分たちの馬車に武器を構えて近づいてくる。


 おそらくプレイヤーが門に一定距離近づいた際にそういった行動を取るようにプログラミングされているのだろうが、そのモーションは構えている武器によって違うのはもちろん、同じ武器でも複数のモーションが用意されてランダムで再生されているのか、人によっても微妙に異なるから、似たようなシチュエーションでも視覚的に退屈しないな。


「現在、ランダバウト砦は戦争のため一般人は立ち入り禁止だ……旅人だか商人だか分からないが、悪いがここは引き返し……」


 そんな風に思っていたが、門に近づいた時の反応は同じプログラムの使いまわしでも、流石にセリフに関しては他の街と同じではなく、おそらく戦争イベント中にこの砦へ訪れた時のためだけに用意されたものであろう、専用のセリフを言ってくるようだ。


 だが、自分がやることは、他の街に近づいた時と変わらない。


 相手の話の途中で深めに被っていたフードを取る……。


 この国に入ってから、たったこれだけで街に入るための税金すら払うことなく門を通過できたので、イベントに関わる門でも同じ対応になるのか確かめたのだ。


「……し、失礼しました! まさかオルスヴィーン殿下がそのような安……一般的な馬車で自ら御者をしているとは……! どのようなご要件かは分かりませんが、どうぞお通りください!」


「うむ」


 結果は、イベント中だろうと何だろうと、同じ反応……。


 その時に発していたセリフが中断され、おそらく王子ルートのイベントを一定以上進めていた際の対応をされるというものだ。


 村や街に住む一般住人に対して素顔を見せても全員が自分のことを王子だと気づくわけではないようだったが、兵士や騎士などの職に就くものは、どうやら会話をしたことのない者でも自分のことを王子だと認識しているらしい。


 この知名度パラメータが一体どんな条件で上がっているのかは分からないが、おそらく武闘大会で優勝したことは影響しているだろう。


 あのイベントでいい結果を出さなかった場合、兵士や騎士も自分の顔を見て王子だと認識しないのか、また、王子ルートのストーリー進行度は関わっているのか、国で開催しているイベント以外に知名度を上昇させるイベントはあるのかなど、検証したい項目は山ほどあるが、今は戦争を止めること優先……メモだけ残して、先に進むとしよう。


 自分は門番に先導されるままに馬車を走らせると、すれ違う兵士や騎士の驚いたような視線に晒されながら砦の中を進み、大きな建物の前で止まる。


「こちらにヴォルフ殿下がおられます、馬車は私どもの方で所定の位置に移動させておきますので、どうぞ中へお入りください」


「うむ」


 どうやら今のここの責任者はヴォル兄になっているらしい。


 戦争で頭を張るのが貴族ではなく王子というのが一般的なのかどうかは分からないが、こちらも今から話そうとしている要件的に、全く知らない人物と話すことになったり、中途半端な権力しか持っていないような人物と話すことになったりするよりは、自分と同等以上の立場のよく知る人間と話せた方が都合はいいだろう。


 ストーリー上のご都合主義なのか何なのか知らないが、ここは製作者の手心に素直に甘えておくとしよう。



 ♢ ♢ ♢



 —— コンコン ——


「ヴォルフ殿下! オルスヴィーン殿下とそのご友人の方々がお見えになりました!」


「はぁ!? オース? とその友人? ここに……? なんだそりゃ……よく分からんが通せ!」


「はっ!」


 —— ガチャ ——


 門番に砦の拠点となる大きな建物に案内されると、そこからは見たことがあるような気がする騎士に連れられ、ヴォル兄がいるらしい一番奥にある部屋でドア越しに紹介され、入室許可が出されてから扉が開けられる。


 建物の入り口からここまでの間も、すれ違う人々は自分の姿を視界に収めるなり、驚いたようなリアクションと共に奇怪なものを見るような視線を向けてきた。


 そのままの表情で固まるようなことがあれば、ここでも華麗にバク転を披露することになっていただろうが、彼らは一様に状況をよく呑み込めないというような表情を残しながらも、すぐに廊下の端に寄って敬礼のポーズを取るようなアクションを取ったので、その一連の行動がプログラム的に組み込まれたリアクションなのだろう。


 そんな砦での自分に対するリアクションを見て、グリィ殿やアーリー殿、ロシー殿やカイ殿は「なんだかこっちまで偉い人になった気分だ」とはしゃぎ、カヤ殿やヴィーコ殿は周りの空気に当てられたのか、少し緊張した表情で外向きの貴族らしい歩き方になっていた。


 唯一、アクセル殿は歩き方からしたらいつも通りに見えたが、その表情はフルフェイスヘルムに隠されていて全く見えない。


 入り口で案内の騎士に遠回しに外すように促されたが、まだここで彼の正体を明かして騒ぎにするわけにはいかないからな……自分がそれを制して、そのまま通させてもらっている。


「オース! 本当にオースじゃん!」


「うむ、久しぶりであるな、ヴォル兄」


 案内された奥の部屋へ入ると、部屋の中央にある背の高い机に地図が広げられており、部屋の周囲に本棚や木箱などが置かれている以外は椅子が一つあるだけという、かなり殺風景な部屋だった。


 ヴォル兄はそんな簡素な部屋に入ってきた自分を確認すると、一つだけ置かれている椅子から立ち上がり、挨拶しながら自分に握手をしてくる。


 彼自身は戦場には出ていないのか、それとも最近服の趣味が変わったのだろうか、その格好は武闘大会で戦うときも着ていたような動きやすい革鎧ではなく、見た目は派手だが動きにくそうな金属鎧だ。


「ん? ああ、この格好? いやー、僕もこんな暑苦しくて動きにくいのを着るのは嫌だったんだけどね……むしろ司令塔としての役割があるのに勝手に戦場に駆け出さないようにってことで、拘束具代わりに無理やり着させられてんの」


「なるほど……となると、本当にヴォル兄がこの戦場の司令官なのだな」


「そゆこと、まぁ、たまには部下たちも活躍させてあげないとねー」


 そう言ってヴォル兄はケラケラと笑う。


 案内してくれた門番や騎士から事情は聞いていたが、どうやら本当にここで行われている戦争の司令官は上級貴族などではなくヴォル兄らしい……早く事情を話して戦いを休止して欲しかったので自分としては嬉しい誤算だったが、国境沿いの最初の戦いから王族を戦場に送り出すなんて、この国はよっぽど人材不足なのだろうか。


「んで、後ろの子たちは学校の友達だっけ? ってか、何でここにいんの? 学校はどうしたんだ?」


「うむ……それが……話せば長くなるのだが……」


 そこから自分は、戦争の危機が近づいてきてから今までのあらすじをヴォル兄に説明した……。


 戦争が避けられないものだと察した父上がダーフィン殿に命じて、安全のために自分をグラヴィーナ帝国に連れ戻しに来たが、自分はそのダーフィン殿と戦って、とても完全勝利したとは言えない戦いだったものの、学生生活を続ける権利を手に入れたこと。


 ジェラード王国の作戦で、未来ある生徒が、郊外授業という名目で安全な地下遺跡に避難させられることになり、そこで王国も戦争の準備を始めていることや、ソメール教国がどうして二つの国から戦争を仕掛けられようとしているのかの詳細……そして、自分がその火種である勇者らしいと知ったこと。


 だったら自分がソメール教国の教皇と話せば戦争は止められるのではないかと思い、事情を話してくれた教国の王子を含め、一緒に学校に通っていた仲間と共に、戦争を止める旅に出たこと。


 ジェラード王国から真っすぐソメール教国へと向かうルートを辿っていたが、国境で止められ、そこでグラヴィーナ帝国が戦争を開始したと知ったこと。


 そして、自分たちはグラヴィーナ帝国を通ってソメール教国へと向かう方にルートを変更し、ついでにここで起きている戦争も止めようと思っていること……。


「はぁ……知らないところでそんな旅をしていたってことも驚いたけど……まさか教国の探している伝承の勇者ってのもオースだったなんてね……」


 ヴォル兄は、この部屋に一つだけある椅子に座り、腕を組みながら、こちらの話を一通り聞き終わると、両手のひらを顔の横で上に広げてヤレヤレと肩をすくめるような反応を見せた。


「それで、後ろにいるのが自分の頼れる検証チーム、もとい、仲間たちで……右から……」


 そして自分は横へ移動しながらヴォル兄にひとりずつ仲間を紹介していく……。


 グリィ殿、ヴィーコ殿、アーリー殿、カヤ殿、ロシー殿、カイ殿……そして……。


「こちらがこの戦争を止める旅で最も重要な人物、ソメール教国の第三王子、アクセル・ソメール殿下だ……」


 紹介されたアクセル殿が、ここでようやく、被っていたフルフェイスヘルムを取り、ヴォル兄に向かって軽く頭を下げる。


「お久しぶりです、ヴォルフ殿下……成人した時の顔合わせパーティー以来でしょうか」


「ああ、そうだね、久しぶり」


「ん? なんだ、二人とも顔見知りであったのか」


「まぁね」


「ああ、王族同士だから交流があったというのもそうだが、ヴォルフ殿下とは歳が同じだったから同じ年にお互いがお互いをパーティーに誘いあって、特に印象に残る出会いだったんだ」


「なるほど……」


 どうやら王族というのは各国で家族ぐるみとなってある程度の交流があるらしく、互いに来訪した時にパーティーを開いたりして、参加した貴族を含め紹介し合ったり、近況報告をし合ったりするらしい。


 自分は王族であるにも関わらずそういった記憶が一切ないが、おそらく自分の意識がこの世界に降り立つ前は、同じようにそれなりの交流はあったという設定なのだろう。


 後で聞いたところ、自分も学校に行くという選択肢を選ばなければ、その年のうちに各国の王に手紙を出してパーティーを開く予定だったそうだ。


 ……まぁ、だとしても状況が状況なだけに、ソメール教国に手紙が出されたかは分からないし、そもそも本当にそのパーティーを開くかどうかも決めかねていたらしいが。


「それで、そのアクセル君と一緒にここに来た目的ってのが、今すぐ近くで行われている戦いを止めるためってわけだ」


「その通りである」


「ああ、どうか、ここは手を引いてほしい……もちろん、僕がこれからあちらの軍にも掛け合って、向こうにも手を引かせるつもりだ」


 アクセル殿が、ヴォル兄に頭を下げる……。


 地位的な立場としては同じはずだが、先ほども頭を下げて挨拶をしていたように、お願いをしに来ているこの場ではアクセル殿の方が弱い状況に置かれているようだ。


 そんな彼と対象に、椅子に座ったまま頭を下げられているヴォル兄は、父親譲りの偉そうな態度で腕を組みながらそんな光景をしばらく見ていた……そして……。


「いいよ」


「ほ、本当か?」


「もちろん」


 デザートを一口分けて欲しいとでもお願いされたのかと思えるほど簡単に承諾すると、この世界の自分よりも三つほど年上の人物には感じられないような、無邪気な笑顔を見せた。


 デバッガーらしく、ここから分岐するであろう様々なパターンを考え、もちろん、交渉が決裂した時のことも想定して、いざとなれば力づくて自分がこの軍の指揮権を奪うことも視野に入れていたのだが、どうやらその必要はなかったらしい。


「ヴォル兄、こちらから頼んでおいてなんなのだが、そんなに簡単に決めてしまってよかったのであるか……? もうすでに始まってしまっている以上、それなりの経費がかかり、犠牲も出ているのであろう?」


「あっはっはっは、心配しなくてもいいよ弟君……確かにもう色々と支払っちゃってるものも多いけど、これ以上支払い続けなくてよくなるならそれ以上いいことはないし……」


 兄上が優しく思慮深いキャラクター設定でよかった……。


 自分はそう考えながら、今回の検証を終わらせようとした。


「それに……」


 だが……。


「アクセル君の首を持って勝利宣言すれば、戦争も終わるし、民も納得するだろうし、何も問題ないじゃん?」


 ……どうやら、検証完了を告げるにはまだ早かったようだ


「……捕えろ」


 ヴォル兄がその屈託のない笑みを、一気に、黒く暗い表情へと落としながら、いつの間にか部屋に何人も増えていた騎士たちにそう指示を出すと同時に、自分たちも一斉に武器を構える。


 ふむ……この会合の検証結果は、パターンCだったようだな。


 イベントの難易度がそれなりに高いものだということになるが、まぁ、だとしても何も問題ない。


 ヴォル兄のこの選択は当然だろうと、落ち着いて次の検証に取り掛かろうとしている自分とは対照的に、アクセル殿は悔しそうな顔を見せているが、馬車の中で行っていた作戦会議で、この可能性がもっとも高いと言っていたのは彼自身だ。


 もちろん、その時の対応方針も決めてあり、それはここにいる仲間全員にも共有されている……。


「ふむ……なるほど……よし」


「……全力で逃げよう」


 ヴォル兄を抑え込んで指揮権を奪ってみる検証もしてみたいが、自分たちがここで暴れてしまったら戦争を止めるというメインルートが途絶える可能性が高い。


 それになにより、ここで本気で戦闘を開始してしまったら、敵側にも味方側にも、重要キャラクターにそれなりの被害が出て、今後検証できるイベントが減ってしまう可能性があるからな……出来るだけ一週目で全てのイベントを検証したい自分としては、イベント発生に関わるであろうキャラクターが減ってしまう状況は何としても避けたい。


 よって、ここで自分たちがデバッガーとして取るべき最善の行動は、ここで起きている争いを止めることは諦め、さっさと本命であるソメール教国の教皇の元へ赴き、この戦争を根本から止めることだ。


 自分はそう、今後の検証のことを思いながら、亜空間倉庫から祖父上ゆずりの木刀を取り出した。



▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる

【全強化】:あらゆる能力が上昇する

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる

【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【冒険術】:冒険に必要な行動を高い水準で実行することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【舞踊】:あらゆる条件で思い通りに踊ることができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる

【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】

【権威を振りかざす者】

【禁断の領域に踏み入れし者】

【自然に逆らいし者】

【奪いし者】

【獣を操る者】


▼アイテム一覧

〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,780〉〈木×20〉〈薪×890〉〈布×101〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1580日分〉〈保存食×96〉〈飼料×190〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×540〉〈獣生肉(上)×490〉〈茶蕎麦×500〉

〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×2〉

〈着替え×20〉〈本×100〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×170〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉

〈金貨×1〉〈大銀貨×1〉〈銀貨×9〉〈大銅貨×1〉〈銅貨×2〉


▼ 商業ギルドからの借金

オース名義:金貨2枚

グリィ名義:金貨2枚


▼ アクセルからの借金

金貨5枚


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