第百六十四話 リズムゲームで検証 その一
茶屋〈百年桜〉。
ここ、グラヴィーナ帝国、レンシル領、グリーンティスの街に存在し、マップ情報によると、この街を管理する子爵が屋敷の大半を開放して運営しているらしい、おそらくこの世界で一番大きな茶屋だ。
「携帯している武器をお預かりいたします」
「ふむ……木刀しか持っていないが、これを預ければいいのか?」
「木刀、ですか……失礼します……【金属鑑定】……なるほど、仕込み武器でもないようですね……では、そのままお持ちいただいて大丈夫です」
「うむ」
そんな場所ということもあってか、どうやらこのフィールドに金属製の武器は持ち込めないらしく、自分は入り口で使用人らしき人物に武器の鑑定をされた後、茶屋に入ることが出来た。
収納魔法とやらを使っていれば携帯していなくても武器を持ち込めると思うのだが、そこはある程度性善説を信じているのか、スルーしているらしい……ふむ、今は亜空間倉庫に金属武器が入っていないが、今度来たときは大量の金属武器を持ち込んで屋敷内でバラまいたらどうなるか検証してみよう。
「うがぁー、もう無理だぁー、降参する……」
「ちょっとカイ、何もう諦めてるのよ! アクセルとアタシの仇を取ってくれるんじゃなかったの?」
「いや、そんな約束してねぇし」
「はっはっは、まぁいいじゃないか、カイ君は頑張ったし、僕も楽しかったからね」
茶屋に入り、席に案内しようとしてくれた給仕に知り合いがいると断わって中庭へ進んでいくと、そこには少し疲れの見えるアクセル殿とロシー殿、地面に倒れ込んで汗を流しているカイ殿の姿があった。
【超観測】スキルを連動させたマップ画面から三人のステータスの変化は観察していたが、どうやらアクセル殿とロシー殿に続いて、カイ殿もやられてしまったようだ。
……まぁ、やられたといっても、体力と魔力がそれなりに減っているだけで、別に怪我などはしていないようだが。
「あ、オースの兄ちゃん!」
「え? オース?」
三人の中で中庭に入ってきた自分の姿に最初に気づいたのは、倒れていて視線が低かったせいでフードの中が見えたらしいカイ殿で、続いて他の二人がこちらに振り返った。
「やあ、オース君も噂を聞きつけて来たのかい?」
「噂?」
「そうよ! ちょっとアンタ、アタシのお金を取り返してきなさい!」
「お金?」
「いや、確かに参加料を取られただけで賞金に届かなかったけど、その参加料を払ったのはアクセルの兄ちゃんだからな」
「参加料? 賞金?」
ふむ……何となく、ここで大会か何かが開かれていて、彼ら三人がそれに参加して負けたということは分かったが、どうも情報が少なすぎるな。
対戦相手と戦闘をするような武闘大会であれば、まだ貴族や王族が相手だと厳しいかもしれないロシー殿とカイ殿はともかく、アクセルであれば祖父上のような相手が出てこない限りはそれなりに戦えると思うのだが、マップで確認した限り最初に負けていた。
というか、この三人がここまで疲れを見せるほど戦闘をしたのであれば、庭がめちゃくちゃになってもおかしくはない気がするが、周りを見渡す限り壊れている構造物などが見当たらないどころか、地面にもそれなりに激しい動きをしたであろう足跡はあるものの、戦闘の跡と呼べるほど荒れてはいない。
加えて、正面、この庭の中央には、どう見ても武闘大会に出場する選手たちには見えない、どちらかというと大会を盛り上げる楽団というような格好をしたグループがいるだけだ。
「ふむ、一体これは何のイベントなのだ? アクセル殿、詳しい説明を頼む」
「? そうか、噂を聞いてきたわけじゃなかったんだね、わかった……実はね……」
こういう時に現状を正確に教えてくれるパーティーメンバーは、だいたい、アクセル殿か、カヤ殿か、ヴィーコ殿である。
「私もよく分からないっす!」と元気な返事をくれるだけのグリィ殿はまぁ置いておくとしても、アーリー殿は興味があることに関しては説明が長すぎて、逆に興味がないことは説明がテキトーすぎる……ロシー殿やカイ殿は、主観が入りすぎるので、状況を正確に把握するには向かないのだ。
まぁ、イベント中の会話イベントも余すことなく回収していきたいので、一応、全員に声を掛けはするのだが、状況をいち早く確認したいときは、今のように、まずはアクセル殿などの説明がうまいメンバーに声をかけることにしている。
「なるほど……武闘大会ではなく、舞踏大会だったか……」
そんな説明役の中でも、音量バランスが安定していないことが多いカヤ殿や、なんだかんだ丁寧に説明してくれるものの、ところどころに余計な煽り文句が加わってくるヴィーコ殿と随分差をつけて、一番丁寧で分かりやすい説明をしてくれるアクセル殿によると……。
どうやら今、この茶屋〈百年桜〉に、というか、子爵の屋敷に、有名な楽団が来ていて、彼らの曲に合わせて舞踏対決をするという催し物を開いているらしい。
で、その有名な楽団……〈三重二重奏〉という名の集団が、庭の中央で楽器を並べている人たちで、どうやらアクセル殿たちは、参加料と賞金のある、その舞踏対決で負けたようだ。
「まぁ、負けちゃったけど、あの〈三重二重奏〉の演奏でロジーナさんと一緒に踊れたなんて、それだけで金貨一枚の価値はあったわね」
「ふむ、そのトリプルなんとかという楽団はそれほど有名なのか?」
「え? 兄ちゃん吟遊詩人の真似をしようとしたのに知らねぇのかよ、音楽とか物語とか別にあんまり興味ないオレでも知ってる有名なグループだぜ?」
「そうだね、人間の兄妹、エルフの姉妹、ドワーフの兄弟っていう三組の異なる種族の兄弟が組んでいるっていうところでも珍しくて有名だけど、その人間の兄の方は僕の国の吟遊詩人学校を首席で卒業しているというのも、その知名度に大きく貢献しているね……その後に種族混合グループを作って、卒業者リストから除名されたことも含めて……」
「ほう」
自分の耳には特にそういった楽団の情報は届いていなかったが、聞けば聞くほど、重要キャラクター感が満載の設定だな。
この街の固定イベントなのか、たまたま遭遇したランダムイベントなのか分からないが、そんな二度と巡り合えるか分からないような貴重なイベントなのであれば、この機会を逃すわけにはいかない……。
自分は三人にこのイベントの仕様を詳しく確認してから、このイベントの主催者であり、有名楽団〈三重二重奏〉のシンガー兼ダンサーというポジションらしい、人間の少女へ歩み寄った。
「ん? なに? その三人のお仲間さん? 一回金貨一枚だけど、挑戦するの?」
「ああ、もちろん挑戦するさ……」
三人に詳しい話しを聞いて、イベントのルールは大体わかった。
どうやら、何小節かごとに交互にダンスを踊っていく形式らしく、最初にダンサーの彼女がお手本を踊って、次の小節でそれ真似する、という工程を繰り返していけばいいらしい。
システムとしては、どちらかというとコンシューマゲームとして出されることが多く、家族や友達と一緒に遊ぶような、パーティー系のリズムゲームにあるようなものだろう。
アーケード機器などによくある、流れてくる譜面に合わせてボタンを押したり身体を動かしたりして、高難易度がクリアできる人がプロと呼ばれたりするような激しいものではないが、だからと言って油断はできない。
バカゲーと呼ばれたりすることもある、パーティーゲーム系のリズムゲーム方が、判定がシビアな割に分かりにくいこともあるので、高難易度挑戦者からは、意外と、鬼畜ゲーと呼ばれたりすることもあるのだ。
だが、それはあくまでも、ゲームを友達と一緒に遊ぶ、あるいは、配信サイトなどで配信しながらプレイするユーザーの場合である。
「ふむ……なるほど……よし」
そんな鬼畜な音ゲーを、一般人が何とかクリアできるレベルまで調整される、その前からプレイしているデバッガーが、クリアできないわけがないだろう……。
だから……。
「とりあえずアクセル殿、金貨を十枚ほど貸してくれ」
だからこそ、全ての難易度で、失敗パターンも含めて、完璧に完全に検証して見せようではないか……。
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる
【全強化】:あらゆる能力が上昇する
【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える
【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える
【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる
【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る
【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる
【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる
【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる
【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る
【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる
【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る
【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る
【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる
【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる
【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる
【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる
【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る
▼称号一覧
【連打を極めし者】
【全てを試みる者】
【世界の理を探究する者】
【動かざる者】
【躊躇いの無い者】
【非道なる者】
【常軌を逸した者】
【仲間を陥れる者】
【仲間を欺く者】
【森林を破壊する者】
【生物を恐怖させる者】
【種の根絶を目論む者】
【悪に味方する者】
【同族を変異させる者】
【覇者】
【権威を振りかざす者】
【禁断の領域に踏み入れし者】
【自然に逆らいし者】
【奪いし者】
▼アイテム一覧
〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,800〉〈木×20〉〈薪×900〉〈布×104〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1590日分〉〈保存食×96〉〈飼料×198〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×540〉〈獣生肉(上)×490〉
〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉
〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×2〉
〈着替え×20〉〈本×100〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×170〉
〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉
〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉
〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉
〈音信のイヤリング×1〉
〈金貨×1〉〈大銀貨×2〉〈銀貨×4〉〈大銅貨×1〉〈銅貨×2〉
▼ 商業ギルドからの借金
オース名義:金貨2枚
グリィ名義:金貨2枚
▼ アクセルからの借金
金貨10枚