第百六十一話 仲間とグラヴィーナ帝国で検証 その一
「……!! オルスヴィーン殿下!? なっ、なぜそのような……」
「ここを通してもらおう」
「え、あ……はいっ! どうぞお通りください!!」
「うむ」
グラヴィーナ帝国側の関所でフードを外した自分は、どうやら顔を見ただけで自分がこの国の第三王子だと気づいてくれたらしい門番の横を通り過ぎ、そのまま関所の役割を兼ねた砦の中へと入っていく……。
……御者台で馬車を操縦しながら。
ここは、ジェラード王国側の関所を抜けた先、グラヴィーナ帝国側の関所であり砦。
ジェラード王国のダルラン領からソメール教国へと通じる関所で止められた自分たちは、グラヴィーナ帝国を通って目的地を目指そうということになり、東へと進んだ。
ダルラン領の関所であるスルーバレー砦からここまで、村ひとつ、街をひとつ、それから、グラヴィーナ帝国へ向かう際のジェラード王国側の関所である砦をひとつ、それぞれ一泊ずつしながら通過してきたわけだが……自分たちはその中間の街で、馬車と御者をレンタルするのではなく、自分たち専用の馬車を購入することにしたのだ。
……というよりも、馬車の運用を検証するために、自分が勝手に購入した。
フォークピックの街でガチャに有り金を全て使ってしまったので、当然、馬車を買うお金なんて残っていなかったわけだが、Eランク冒険者の身分証を提示して連帯保証人を指定すれば商業ギルドからお金を借りることが出来たので、ついでに借金の検証もすることも出来たので一石二鳥だろう。
検証内容としては、冒険者登録と同じように、借金していない状態でお金を返すことは出来ないことの確認から始まり、同じ冒険者は連帯保証人になれないことや、連帯保証人の条件に合っていても本人が同行してサインするか、サインが書かれ封蝋で留められた手紙を預かっていないと取引できないことなど、NGとなる検証は一通り試してある。
最終的には、無事に馬車と馬を買うだけのお金が手に入り、こうして今もその買った馬車を操縦しているわけだが……ふむ、この商業ギルドの借入システムの作りは少々あまいかもしれないな。
自分が、冒険者のオースとして訪れ、グラヴィーナ帝国の第三王子として自分で書いた手紙を提示することで借入できてしまったのもまずいと思うが……。
グリィ殿から冒険者ギルドカードを借りて、変装して彼女に成りすまし、ファビオ殿の筆跡を真似て書いた手紙に、アーリー殿が投資の契約をするときに目にした彼のサインを書き、垂らした蝋に対して程よく熱した金属棒を使うことで無理やりファビオ商会の封蝋を再現して提示することでも、すんなりと借入が通ってしまったのが、何よりもまずい。
本当は他人のギルドカードを身分証として使おうとしても、ギルドカードの隅に掘られた魔法陣が指紋認証のような機能を持っていて、登録時と同じ指紋で触れないとカードが発光しないというギミックがあるのだが、魔法陣に触れたふりをした上で、自分のギルドカードが発する光を真似て魔法で光らせたら、その認証もごまかせてしまったのだ。
変装や加工、魔法などのスキル経験値が高かった上に、自由度が高いゲームだからだと言われれば、まぁそうなのかもしれないが、これが、プレイヤー同士でやりとりのあるオンラインゲームだったなら、きっと問い合わせやクレームが殺到し、不具合として、もしくはシステムの改善として修正されること間違いなしの仕様である。
デバッガーとして、これを見過ごすわけにはいかない……。
……きちんと、自分とグリィ殿、両方の借金で、返済期限を過ぎる検証まで完璧にこなさなければ。
ちなみに、認証が通ってしまったその検証を済ませた後に、その街の冒険者ギルドでたまたま目についたガラの悪い冒険者二人組からギルドカードを掏り取り、カードの認証は通すが保証人の手紙の方は手を抜いて一目で偽物とわかるダルラン領長からの手紙を持っていったり、認証自体を通さなかったりするパターンも検証済みだ。
どちらも検証結果としては、衛兵を呼ばれて逃げることになる、というものだったのだが、ギルドカードの認証エラーで青く光るはずが赤く光り、受付をしたのが偽者だとバレた方はともかく、認証を通した上で手紙の方が偽物だとバレた方は、自分は逃げられたものの、カードの持ち主である知らない冒険者が連行されてて可哀そうだったな……。
うーむ、変装スキルが高いというのも考え物である。
マップ画面を確認したところ、街を出発するときもまだ地下牢に入れられていたようなので、名前をメモして置いて、今度会った時にでも何かお詫びの品を渡してあげよう。
とまぁ、そんなわけで……。
自分がそんな風に色々と検証しながら借金をして、最終的に手に入れたのは、ワゴンタイプの馬車を一台、馬を二頭、それからエサの干し草や岩塩を百日分である。
荷物や馬のエサを荷台に乗せるなら、いつもレンタルしていたようにワゴン馬車二台で分かれて乗っていたが、自分たちの場合は荷物が全て魔法鞄か自分の亜空間倉庫に入ってしまうからな……少々手狭だが、一台の馬車でも乗れないことはない。
「はへ? オースさんって、本当に王子様だったんすか?」
そうして自分が馬車購入の検証結果と、これからの検証スケジュールについて思いを巡らせていると、幌の中からグリィ殿が顔をのぞかせ、そんなことを言ってきた。
遺跡でこの旅の目的を話した時も、今向かっている先でジェラード王国とグラヴィーナ帝国の争いを止めるという作戦を話す時も、自分がグラヴィーナ帝国の第三王子であるということも明かしていたと思ったが、グリィ殿は聞いていなかったのだろうか?
「ふむ?」
「いや、聞いていたことには聞いていたっすけど、オースさんは真面目な顔をしている時ほど嘘をつくっすからね……アーリーさんも冗談だと思ってるんじゃないっすか?」
グリィ殿のその発言に、彼女と一緒にチラリと幌の隙間から見えるアーリー殿に視線を送ると、グリィ殿の発現を肯定するようにうんうんと首を縦に振っていた。
うーむ、自分は確かに、検証の過程で真面目に偽の情報を渡す時もあるが、ヴィーコ殿からも旅の間ずっと偽王子だなんだと呼ばれていたのに信じられていなかったとは……む? いや、偽王子と呼ばれていたから余計に信じられていなかったのか……?
「まぁ、王子とは言っても、ヴェル殿やアクセル殿のように王子らしい仕事をしているわけではないからな、現時点で本職と呼べるのはどちらかと言えば冒険者の方であるし、今まで通りに接して欲しい」
「了解っす! というか、ずっと冒険者のオースさんとして接していたせいか、まだオースさんが王子様だって信じられていないって言うか、心のどこかで疑っているっていうか……まぁ、すぐに王子として扱えって言われても、そっちの方が難しいっすね」
「うむ、それでいい」
なんせ、自分自身も自分が王子であるという自覚が薄いからな、冒険者パーティーの仲間という印象が強いキャラクターたちに急に王子として扱われても頭がついていかないだろう。
RPGでもただの村人だった主人公が、実は王子だったとか、勇者の子孫だったとか、そんな展開が良くあるが、仲間からの扱いが急に変わるようなゲームは少なかった気がするしな。
まぁ、だからこそ、王子らしく扱われてみるという検証もするべきだとは思うが、それはまた今度、自分が王子らしく振舞うという検証をする時に、一緒にすればいいだろう。
アーリー殿やロシー殿、カイ殿は、相手が誰だろうとフランクに接するし、逆にカヤ殿は相手が平民だろうと丁寧な口調だからな、グリィ殿が無理して敬語を喋ろうとしてカタコトになる心配が無くなれば、とりあえずしばらくは今まで通りの会話ができると思う。
まだ冒険者の検証もEランクまでしか終わっていないのだ、ここで王子ルートに引っ張られるわけにはいかない。
「あ、街が見えてきたっすよ!」
「ふむ、オーレンドルフ領都についたか」
グリィ殿の声に視線を前方へと向けると、そこには、アルダートンやフォークピック、ダルラン領都のような、防壁のある都市があった。
【特産品が集まる街】オーレンドルフ……ダーフィン殿に連れられてグラヴィーナ帝国に王子として迎えられた時も訪れた、ジェラード王国からグラヴィーナ帝国に入った時に最初に通る街であり、このあたり一帯の土地を管理するオーレンドルフ侯爵の屋敷がある領都だ。
グラヴィーナ帝国でこの国に関して勉強したところ、正確には、この国としては侯爵や伯爵などといった爵位があるわけではなかったり、自分も王子ではなく皇太子だったりするらしいのだが、まぁ、他国と交流する上ではそちらに合わせた表現を使用しているようなので、自分の認識もそのグローバルな方の表現でいいだろう。
オーレンドルフの街の大きさとしても、役割としてもジェラード王国のダルラン領都に近く、ただ、グラヴィーナ帝国は国全体として、芸術品や工芸品の類は、輸出はするものの、輸入の方にはあまり力を入れていないようなので、何となく雰囲気としてグラヴィーナ帝国の色が強くなっているような気がする。
帝国を初めて訪れた時も思ったが、やはりグラヴィーナ帝国の色を濃くしている一番の要因は、街の人たちの服装だろう。
ジェラード王国の騎士たちもソメール教国のアクセル殿も、防具は金属のプレートアーマーを着こんでいるのに対して、グラヴィーナ帝国の騎士や兵士は日本の甲冑のような鎧を着ているからな……。
味噌や醤油、陶磁器など、この国の特産品を売っている店主も、和服のような格好をしているし、やはりこの国に来ると、実際には現代日本でも見られない光景であるというのに、なぜか少し懐かしい気持ちになってしまう。
これで家屋も木造、合掌造り、茅葺き屋根などの日本家屋だったら、さらにセンチメンタリズムが刺激されるのだろうが……このゲームの制作者は、何故この国の街並みを他の国と変わらない石造りにしてしまったのだろうか、謎である。
「ほへー、これがグラヴィーナ帝国の街なんすねー」
「なんか変わった格好をしている人が多いわねー、いかにも外国って感じがするわ」
「そうですね、知らない世界に来たみたいでちょっと緊張しちゃいます」
「うわー! すげー! 見たことないものがたくさんあるぜ!」
「ちょっとカイ、どきなさいよ! アタシが見えないじゃない!」
この街の門でも、自分がフードを少し外すだけで、驚いたような様子を見せつつも通してくれたので、自分たちは問題なく街に入ることが出来た。
これが顔パスというものなのだろう……自分は門番と会った記憶など一切ないが、相手はこちらを知っているようで、顔を見ただけで自分が王子であると見抜き、すんなりと通してくれる。
それがゲームの仕様だからだと言われればそうなのかと納得するしかないが、王子という立場であろうともテレビもない時代に自分の顔がここまで知られているというのは、一体どういう仕組みで広まっているのか、裏の設定が気になるところだ。
自分は幌の前から後ろから顔を出してテンションを上げる仲間たちの声をBGMに、そんなことを思いながら、前に来たときにも泊まった宿屋を目指して馬車を進める。
グラヴィーナ帝国に入ってしまえばジェラード王国の追手はないので、自分がフードを深くかぶっている以外は、仲間も含めて特に変装もしていないし、宿屋選びに気を使う必要もない。
今日からしばらくは少し羽を伸ばして、初めてこの国を訪れる仲間たちと観光を楽しみつつ、のんびりと検証を進めていこう。
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる
【全強化】:あらゆる能力が上昇する
【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える
【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える
【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる
【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る
【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる
【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる
【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる
【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る
【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる
【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る
【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る
【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる
【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる
【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる
【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる
【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る
▼称号一覧
【連打を極めし者】
【全てを試みる者】
【世界の理を探究する者】
【動かざる者】
【躊躇いの無い者】
【非道なる者】
【常軌を逸した者】
【仲間を陥れる者】
【仲間を欺く者】
【森林を破壊する者】
【生物を恐怖させる者】
【種の根絶を目論む者】
【悪に味方する者】
【同族を変異させる者】
【覇者】
【権威を振りかざす者】
【禁断の領域に踏み入れし者】
【自然に逆らいし者】
▼アイテム一覧
〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×199,800〉〈木×20〉〈薪×900〉〈布×104〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1590日分〉〈保存食×96〉〈飼料×198〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×540〉〈獣生肉(上)×490〉
〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉
〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×2〉
〈着替え×20〉〈本×100〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×170〉
〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉
〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉
〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉
〈音信のイヤリング×1〉
〈金貨×1〉〈大銀貨×5〉〈銀貨×0〉〈大銅貨×4〉〈銅貨×3〉
▼借金
オース名義:金貨2枚
グリィ名義:金貨2枚