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第百五十七話 嵐の去った村と街で検証

 

 フィドルの織り成す、美しくもどこか気分を高揚させるようなメロディー。


 それを補助するように和音を奏でるリュートは、陰ながら曲の基盤を支えており、全体のテンポをまとめるバウロンの音に合わせて、人々は自然と身体を動かしてしまう。


 ここは、前日の夕方から今日の朝まで続いた嵐がようやく過ぎ去り、雲の隙間から朝日差し込むシンギングアックス村。


 グリィ殿やダルラン領の騎士団の活躍で大きな瓦礫などは片付けられているものの、家は何件か倒壊しており、まだ街中に小さな瓦礫や木片が散らばっている。


 アクセル殿を中心に、村人たちは強風で倒れ飛ばされてくる材木やその他の瓦礫から守られ、家の倒壊などで負った怪我も、ポーションや治癒魔法であらかた応急処置はされてはいるものの、骨折などのすぐには治らない怪我で、添え木をした手を包帯で吊り下げていたり、杖をついて歩いていたりする人もいる。


 ……だが、全員、生きている。


「「俺たちゃ陽気な木こり~♪ 今日も斧を手に歌うのさ~♪」」


 瓦礫や木片が散らかり、水浸しになっている村の中……包帯を巻いた村人たちが互いに肩を組んで即興の歌を大声で歌い、それを眺める泥まみれの騎士たちが手拍子を刻む。


 家を構成していた木材で作られた大きな焚火を囲む彼らの手には、自分が提供したエールやワインなどが入った木のジョッキが握られ、傍らには自分と村の女性たちで協力して作った様々な料理が並んでいる。


 嵐が過ぎ去った後、修理や補強のために、いたるところに木の板が打ち付けられてボロボロになった家から出てきた村人たちは、倒壊を免れていたその場所とは違い完全に原形をとどめていない家々や、もう商品としての役割を果たさないであろう材木を目にして、驚いた顔をしていた。


 それでも、住んでいた家が倒壊してしまい、まだ無事だった別々の家に匿われていた家族が再開し、村人全員が無事なことを確認した人々は、笑顔で抱き合い、喜んでいた。


 そして、村人の男の一人が「宴だ!」と叫ぶと、周りの男たちも「おう!」と乗っかって、村の掃除などそっちのけで、ただでさえ少なくなってしまったであろう食料などを持ち寄り、宴の準備を始めてしまったのだ。


 そんな、傍から見たら空元気な行動を始めたように思われる村人たちの行動に、どんな反応を示したらいいのか分からず、ただただ佇んでいた自分たちや騎士の元に村長がやってきて、村人たちを守ってくれたお礼も兼ねて、自分たちにも宴に参加して欲しいと頼んできた。


 けれど、そんな提案に、冷静で真面目な救援部隊の隊長は、少ない食料を自分たちが消費してしまうのは悪いと言って、断ろうとする。だが……。


 村人の誰かが言った……「食料なんてまた集めればいいさ」と。


 村人の誰かが言った……「家が壊れたって、また建て直せばいいのさ」と。


 村人の誰かが言った……「生きているからこそ、苦労もできるのだから」と。


 そして、村人全員が言った……「ここは、陽気な木こりの村だ」と。


 そんなことを言いながらも、実際には、最初のうちは村人たちも空元気で、無理して笑っていたのかもしれない。


 でも、宴が始まってみた今はどうだろう……つらい気持ちが完全になくなったわけではないだろうが、少なくともこの場に、無理して笑っている人はいないように見える。


 お腹いっぱい食べて、お酒を飲んで、曲に合わせて歌って踊る……。


 そんな宴のひと時だけ、後のことを考えるのは止めて、楽しむこと以外を忘れているだけなのかもしれない。


 だけど、少し慣れてきたリュートを弾きながら、そんな光景が視界に写り込んでいる自分は、それも強さなのだろうと、そんな風に感じていた。


 ここの村人たちは、全員合わせても、レベルもスキルも、自分やグリィ殿に届かない。


 それでも、レベルやスキルに現れない、可視化されない部分に、自分やグリィ殿にも負けないような強さがあるように感じる。


 おそらく隠しパラメータの類だろうが、今はその検証は置いておく。


 せっかく目標通り、全NPC生還イベントを見ることに成功したのだから、今はこのイベントを満喫するべきだ。


 ちなみに、グリィ殿は吟遊詩人の一員という体で持たせていたバウロンを早々にその辺の村人に渡して、彼女自身は宴の料理攻略にとりかかっているのだが、渡された村人もノリノリで叩いているし、美味しい食事を裏表なく全力で楽しんでいるグリィ殿を見て周りの村人たちも笑っているので、まぁいいだろう。


 自分は、そんな嵐に負けず陽気に笑っている村人たちを見回しながら、アクセル殿と目を合わせて頷き、曲をさらに明るく賑やかなものへと変えていった……。



 《称号【自然に逆らいし者】を獲得しました》



 ♢ ♢ ♢



「あ! 姉ちゃん、ヴィーコ兄ちゃん、アクセル兄ちゃんたちが帰ってきたぞ!」


「ああ、カイ君、ただいま戻った……こっちの様子はどうだい?」


「へっへーん、そんなの……」


「そんなの、誰も死なせて無いに決まってるでしょ?」


「ちょっと姉ちゃん、オレのセリフ取るなよ!」


「はっはっは、街の人も、君たちも、無事なようで良かった」


 シンギングアックス村での救援活動を終え、突然始まった宴イベントに参加した自分たちは、昼近くに解散し、村人に手を振り別れて……昼過ぎになった現在、来たときと同じように一緒に馬の背に乗せてくれた騎士団の人たちとダルラン領都へと帰ってきた。


 ……いや、一人、眠い目を擦る体力も残っておらず、宴の途中で寝てしまい、騎士の背にロープで括られて運ばれ、今も自分の背中でいびきを立てている仲間もいるが。


「ふんっ、やっと帰ってきたか……こっちは全員無事だが、そっちは……なっ! グリィ! おい貴様! グリィはどうした! どこか怪我でも……」


「ふむ、ちょうどよかった……ヴィーコ殿、交代だ」


 自分は背中でぐったりと、いや、ぐっすりと寝ているグリィ殿を見るなり、慌てた様子で近づいてきたヴィーコ殿に、グリィ殿を預ける。


「交代って、ちょっ、おっとっと……ん? 寝てるだけ? か……って、おい! これは、いや、なんだ? グリィを荷物のようにいきなり預けられても困る! ボクにどうしろというんだ!」


「いや、ただ宿まで運んでくれればいいのだが、任せる」


 そう言って自分は、肩をほぐしつつ、ヴィーコ殿に正面から受け取られてお姫様抱っこされるような形になったグリィ殿をチラリと確認する。


 当の本人は、荷物のように渡されたところで目を覚ますような様子もなく、相変わらずヨダレを垂らして寝ているようだ……む? 自分の背中にヨダレがついていたりしないだろうな……。


「そうだ、村の方はどうなんだ! 村人は無事なのか?」


「ああ、こっちも全員無事だよ……まぁ、無傷ではないし、家も何件か倒壊してしまっているけど、少なくとも村人は全員生きているし、何より、心は壊れていない」


「そうか……よかった……」


 うむ、やはりヴィーコ殿はこの救援イベントの発端だけあって、誰よりも自国の民のことを心配していたようだな。


 仲間への口調も態度も相変わらず厳しいが、悪人キャラというわけではないらしい。


「お、いたいた、オース君たちも帰ってきたんだね、あっちで炊き出しやってるけど、みんな一緒に行く?」


「む、アーリー殿か、いや、自分たちは村でかなり多めに食べたから……」


「スンスン……ご飯っすか!」


「うおっ! ちょっ、グリィ嬢、いきなり暴れるな」


「ふぇ? あれ? なんで私、ヴィーコに抱っこされてるっすか?」


「え? あ、いや……それはそこの自称勇者が勝手に……」


「まぁ、そんなことはどうでもいいっす! ご飯の匂いっすよ! 行ってくるっすー!」


「おー! オレも行くぜグリィ姉ちゃん!」


「ちょっとカイ! アタシを置いていくんじゃないわよー!」


「……」


「……」


「ふむ、グリィ殿以外は多分、それほどお腹は空いていないだろう」


「あはは、本当にあの子は食いしん坊ね」


 うむ、本当にグリィ殿の胃袋は一体どうなっているのだろうか……今一度、バグが潜んでいないか検証してみた方がいいかもしれない。


 先ほどまでグリィ殿を抱えていた姿勢のまま彼女の後姿を眺めるヴィーコ殿を視界の隅に捉えながら、彼女の無限の食欲と胃袋に対して、思わずそんなことを考えてしまう。


「そういえば、カヤ殿はどうしたのだ? もう炊き出しに参加しているのか?」


「あー、カヤちゃんはもう先に宿で休んでるの……あの子、魔力欠乏でフラフラになりながら、最後まで魔力ポーションをがぶ飲みして、無理して怪我人の治療をしてたから」


「なに? それは大丈夫なのか?」


「ええ、久しぶりに体に負担のかかるポーションじゃなくって、普通に調合したおばあちゃん直伝の疲労回復薬を飲ませてから寝かせたから、起きる頃には回復してるはずよ」


「うむ、アドーレ殿の秘薬なら間違いなさそうであるな」


 アーリー殿からカヤ殿の様態を聞いて、不安な顔をしたアクセル殿と一緒に、カヤ殿のことが少々心配になるが、アーリー殿の師匠であるアドーレ殿が考案した薬を飲ませてあるということなら大丈夫そうだな。


 しかし、錬金術で作られたポーションだと使用者の身体に負担がかかり、調合で作られた薬だと負担にならないというのは初めて聞いた……。


 確かに、比較的効果が高いポーションのデメリットが、材料調達の難しさや必要な技術の高さだけだと、レベルが上がったゲーム終盤になったら薬の方はお払い箱になりそうだからな……なかなか考えられた仕様である。


「さて、それじゃあ僕たちも、宿に帰って休もうか……この街の騎士団長に僕たちの正体がバレてしまったこともあるから、これからの行動を考えなきゃならないけど……頭と身体を休ませないと、良い案も出ないだろうしね、はっはっは」


「うむ、そうであるな」


「おっけー、じゃあ、あたしも軽くご飯食べたら宿に帰るよ……ヴィーコ君も炊き出し行くでしょ?」


「……はっ! ああ、もちろん行くが……おいハーフエルフ! 平民ならボクのことはヴィーコ様と呼んだ方がいいとは思わないのか?」


「えぇー、別にいいじゃない……っていうか、そっちこそ、あたしにはアーリーって言う名前があるんだから、種族名で呼ばないでくれる? ロシーちゃんとカイ君は名前で呼んでたじゃない」


「それは……ふんっ、お前の名前を忘れていただけだ……いいから行くぞ、アーリー」


「ふふふ、まぁ、とりあえずそれでいっか」


 グリィ殿とは違い炊き出しには行かず、先に宿へ戻って休むというアクセル殿の案に賛成すると、軽く食べてくるというアーリー殿とヴィーコ殿を見送る。


 ふむ……ロシー殿とカイ殿もそうだが、街に残った組は、何やらお互いの張っていた壁が少し剥がれたような雰囲気があるな。


 このゲームには第三者視点のムービーが挿入されるようなこともないので、こちら側で何があったのかは分からないが、まぁプレイヤーのいないところでプレイヤーにとってマイナスなことが起こったとかいうわけでも無さそうなので、とりあえずは深く気にしなくてもいいだろう。


 アクセル殿の言う通り、今はとにかく休んで、何かを考えるのは本調子になってからだ。



▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる

【全強化】:あらゆる能力が上昇する

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる

【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる

【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる

【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】

【権威を振りかざす者】

【禁断の領域に踏み入れし者】

【自然に逆らいし者】 <NEW>


▼アイテム一覧

〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×200,000〉〈木×20〉〈薪×950〉〈布×104〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1619日分〉〈保存食×96〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×554〉〈獣生肉(上)×510〉

〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×2〉

〈着替え×20〉〈本×100〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×170〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉

〈金貨×0〉〈大銀貨×0〉〈銀貨×2〉〈大銅貨×4〉〈銅貨×3〉


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