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第百五十六話 雨と貴族の仕事で検証 その三

 

 荒れ狂う雨の中、自分、アクセル殿、グリィ殿の三人は、ダルラン侯爵領の騎士八名と共に、つい先ほど領都に到着するまでに通って来た道を引き返し、陽気な木こりの村、シンギングアックスへと向かっていた。


 どうやら大きな街に駐在している貴族の仕事として、こうした災害が発生した時に、その街の住人を守るだけでなく、きちんと税を納めている周辺の村に騎士を派遣し、その村人たちも守るという役目もあるらしい。


 自国民の危機ということでアクセル殿に掴みかかるほどのやる気を見せたヴィーコ殿に押され、国に追われる身でありながら民間人を助けることを選んだ自分たち……。


 位は高くなくとも貴族であるという誇りの大きさは変わらないらしいカヤ殿は、集められてくる怪我人の治療をするために、アーリー殿を連れて教会へ……事の発端であり、街に着くなり住民の救助に加わりたいと言い出していたヴィーコ殿は、ロシー殿とカイ殿を連れて防壁へ。


 そして、そんな貴族らしい二人の姿を目にして心を動かされたらしいアクセル殿に連れられ、自分とグリィ殿は近くにいたこの救援部隊に加わり、シンギングアックス村の救援に向かうことになったのだ。


「見えてきた! くそっ、お前ら、急ぐぞ!」


「「おう!」」


 横からの風が強く、地面がぬかるんでいるため、早く走ると横転する可能性の高い馬車は使わずに、自分たち三人が騎士たちの背に掴まる形で彼らの操る馬に乗せてもらっての移動。


 救援部隊の隊長の声で、横殴りの雨が目に入らないように防いでいる自身の腕の向こう側に見えてきた景色を確認していると、騎士団の所有する逞しい軍馬たちは、騎士の掛け声に応えるように鳴き声を上げると、ぬかるんで歩きにくくなっている地面を蹴る力を強める。


 昨日の夜、窓に木の板を打ち付けるなど対策を取っていたようだが……嵐などに負けないぞと歌を歌い、酒を飲み交わす人々の住むその村は、木こりの仕事として集めて乾燥させていた材木置き場が崩れたようで、吹き飛ばされきた材木に巻き込まれたらしい何件かの建物が倒壊していた。


 マップ画面で確認する限り、倒壊した建物の住人は既に別の家の住人によって救出されており、かなりの大怪我を負っているものの命に別条はない、というような状況のようだが、このまま嵐が続けばその家々もいつまで耐えられるか分からないだろう。


 自分たちは誰一人として外に出ていない夜の村に馬で駆けこむと、先に降りた騎士の手を借りながら馬から降り、隊長の号令で、住民の様子を確かめに駆け出していく……。


「む?」


 危機感知。


 自分が村の中で一番重症な村人がいる家に駆けだした瞬間、強敵の攻撃が死角から迫っている時などに感じる、漠然とした危機感が、胸のざわつきとなって訪れる。


 自分がその感覚の正体を探るため、【超観測】スキルを乗せた目でその危機感の示す方向へ視線を向けると、どうやら川の上流で鉄砲水が発生したらしく、一時的に川の水をせき止めていた岩や倒木と共に、それを打ち破って勢いよく流れだした水流が、この村の方へ迫ってきているようだ。


「グリィ殿! こっちに! アクセル殿はそこに立って盾を構えてくれ!」


「? なんすか?」


「オース君、何をしようとしているのか分からないが、早く村に……」


「説明は後だ!」


「警戒! 上流から山津波!!」


 どうやら騎士の中の索敵能力が高い一人も気づいたようで、伝達が雨にかき消されないよう短い言葉で周囲に声を張り上げる。


「くそっ、隊員番号、一番から四番、盾を構えて防御魔法展開! 五番から七番は間に合う保証はないが水魔法で川の流れを逸らして村への被害を出来るだけ抑えろ!」


「「了解!!」」


 そして、こういった突発的な指示出しはよくあることなのか、報告を聞いた隊長は瞬間的に状況を把握、判断して、隊員たちにそれぞれの番号で指示を出し、指示を出された騎士たちもテキパキと動く。


「アクセル殿、早くその場で盾を構えてくれ」


「? こんなところで盾を構えても……」


「残念ながら細かく説明している時間はないのだ、急いでくれ」


「わ、わかった」


 自分の指示に、アクセル殿はその場で盾を構える。


 救援部隊の隊長には、自分たちは冒険者ギルドからの助っ人としか伝えておらず、現地についてから村人の救助を手伝う人手としか認識されていないのか、すぐに連携が取れる内部の人間ではないからか、特に隊長から自分たちに指示が出される様子は無いが、そんな余裕もないのか、勝手な行動を咎めることもないようだ。


「グリィ殿は自分と一緒にアクセル殿の盾に飛び乗って、バッシュの反動に合わせて反対側にジャンプするぞ」


「了解っす!」


 グリィ殿は、長い付き合いだから信頼してくれているのか、何も考えていないのかは分からないが、この行動の目的を把握しようとするアクセル殿とは違い、何の疑問も持たずに自分の指示に従ってくれる。


 様々な検証をする上でそんな素直な性格に助けられることが多いが、素直過ぎる彼女のことを時々心配に思わないこともない。


 自分は頭の隅でそんなことを考えながらも、グリィ殿と一緒に軽く助走をつけ、同タイミングでアクセル殿の盾にドロップキックするような形で飛び乗った。


「アクセル殿、バッシュだ!」


「任せろ、うおぉぉおおおお!!」


 本来は敵の攻撃に合わせて自身に攻撃が当たる前に武器を横に弾くか、攻撃が来る前にそのまま相手の顔面などに盾を叩きつける技だが、やって欲しい動きとしては同じなので、説明を省くためにそう指示を出す。


 アクセル殿も自分の意図を汲み取ってくれたようで、盾に飛び乗った自分たちを弾き飛ばすように、身体強化スキルで筋力を上げながら思い切り盾を振るった。


 そして、その動きに合わせて足に力を込めてジャンプした自分とグリィ殿は、ぬかるんだ地面では決して届かなかったであろう高さまで飛び上がることに成功する。


「グリィ殿、自分を川のできるだけ上流へ向かって思い切り投げてくれ!」


「了解っす! 怪我しても知らないっすよー?」


 急な指示に素直に従ってくれるのは嬉しいが、明るい口調で心配する様子があまりなさそうなのも信頼の証という受け取り方でいいのだろうか……自分やグリィ殿くらいのステータスが無かったら、怪我では済まないと思うのだが……。


 自分は空中でグリィ殿に全く遠慮のないジャイアントスイングをされながらそんなことを考えつつも、まぁいいかとその思考を切り上げながら思い切り投げ飛ばされる。


「なんだ! こんな時に仲間割れか!? くそっ、勝手にくたばるのはいいが邪魔だけはするんじゃねぇぞ! これだから冒険者の助っ人は……」


 宙を舞う自分を見上げて、救援部隊の隊長がそんなことを呟く。


 投げ飛ばしたグリィ殿は「おー、飛んだ飛んだ」とその結果に満足しながら自由落下しているが、グリィ殿の反応と隊長の反応、どちらが一般的かと言われれば、おそらく後者だろう。


 だが、自分は別に命を投げ出すつもりで川に投げ込まれているわけではない。


 まだグリィ殿ほど信頼? が築けていないらしいアクセル殿から、期待と不安が入り混じったような視線を向けられながら、自分はついに森を抜けて現れた山津波と呼ばれるに相応しい濁流の前に踊りだした……そして……。


「収納」


 その濁流が、自分より下流に進むことはなかった……。


 それどころか自分を起点に、そこより下流へと続く川の流れがぱたりと途切れ、一緒に流れてくる土や石、倒木も自分に当たる寸前にその場から消えていく。


「なっ……!」


 救援部隊の隊長も流石にその光景を予想していなかったのか、口をパクパクさせながらこちらを指さし、川の流れを変える魔法を使おうとしていた騎士たちも、詠唱を中断して口をポカンと開けている。


「ふむ……いつも川の水から飲料水を確保しているので出来るとは思っていたが、やはり亜空間倉庫に収納できる対象として、時間あたりの質量や移動速度は関係ないようだな」


 自分はとてつもない勢いで目の前に来ては消え続ける濁流を眺めながら、思考操作でメモ画面を表示させ、その検証項目の結果を書き記した。


 アクセル殿とグリィ殿の活躍で、本来は戦闘中に使用する技能が戦闘外でも使用できることも、それを味方に対して使用できることも検証できたし、なかなかの成果ではないだろうか。


「隊長殿! ここは自分にまかせて、村人の救援を進めてくれ!」


「え? あ……ああ! 分かった! 助かる!」


 降り続く雨の中、強風に負けないように隊長へ向けて声を張り上げると、あちらも負けじと声を張って了承してくれた。


 アクセル殿とグリィ殿にもジェスチャーで騎士を手伝うように伝えると、頷いて手を振ってくれたので、村の方は彼らが何とかしてくれるだろう。


「よし……自分は他にここで出来る検証がないか考えよう」


 そう呟いきながら複数のメモ画面を開いた自分は、他にこの場で出来る検証項目がないか考え始めた……。


 視界の隅では家を倒壊させた倒木をグリィ殿が軽々と持ち上げて片付け始めて騎士を驚かせたり、そんな大きさのものを担いだまま背後に意識を向けずに歩いたり振り向いたりするものだから、遠心力の乗ったそれが騎士の鼻先を掠めて腰を抜かさせたりと、自主的に色々な検証を進めてくれているし。


 アクセル殿は魔法鞄に大量に詰め込んできたアーリー殿特製のポーションを配って怪我人を手当てして回り、実直にこのクエストのクリアを目指してくれているようだ。


「うむ、クエストも検証も問題なさそうだな」


 自分は仲間と騎士が力を合わせて村の救援活動をする様子を見ながら頷くと、ピックアップした検証項目を書き出したメモ画面を携え、次の検証に取り掛かり始めた……。



▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる

【全強化】:あらゆる能力が上昇する

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる

【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる

【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる

【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】

【権威を振りかざす者】

【禁断の領域に踏み入れし者】


▼アイテム一覧

〈水×999,999+〉〈土×999,999+〉〈石×200,000〉〈木×20〉〈薪×1,000〉〈布×104〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1679日分〉〈保存食×96〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×614〉〈獣生肉(上)×570〉〈鶏生肉×36〉

〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×2〉

〈着替え×20〉〈本×100〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×170〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉

〈金貨×0〉〈大銀貨×0〉〈銀貨×2〉〈大銅貨×4〉〈銅貨×3〉


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