第百五十五話 雨と貴族の仕事で検証 その二
いつも『派遣デバッガーの異世界検証譚』を読んでいただきありがとうございます。
コミカライズ決定という名誉なイベントに引き続き、総合評価2,000pt達成という、また一つの目標を乗り越えさせていただきました!
それもこれも、ブックマーク登録や、評価の星で応援してくださっている皆様のおかげです。
これからも完結までゆるくのんびり書き進めてまいりますので、書き始めた当時から応援してくださっている方も、最近ここに辿り着いてくださった方も、他の方が書いているたくさんの面白い作品を楽しみながら、箸休め程度に、この作品も楽しんでいただければなと思います。
「おーい! また冒険者が帰ってきたぞ! 怪我人もいるらしい! 誰か手を貸してくれー!」
「もっと救援部隊に人手を回してくれ! この人数じゃ救援に向かっても救援される側になるのがおちだ!」
「無理言うな! 砦の防衛強化・治安維持のために領都の騎士団が半分出払っているんだ……これ以上人手を割いたら領都の防衛が間に合わん!」
「ああ、騎士様! うちの子が! うちの子が山菜を取りに行ってまだ帰ってきてないんです! どうか探しに行ってもらえませんか」
「ちょっと奥さん! すぐに誰か人をやりますから! 危ないので家の中で待っていてください! あー人手が! おい、冒険者ギルドへの救援要請はどうなってる!」
「もうすでに要請は出していますが、タイミングの悪いことに災害時の救援要請を正式に受注できるDランク以上の冒険者が今はあまりこの街にいないようで……」
「くそっ……Eランク以下の冒険者じゃ外に救援に行っても二次災害を引き起こすだけだしな……どうにか街の中だけで出来る作業を手伝うだけでも要請できないかギルド長にかけあってくれ!」
「はっ!」
……混沌。
アクセル殿と救援の方針を相談しているうちにさらに激しさを増した横殴りの雨は、暴風と共に周囲の音をかき消し、街の中を縦横無尽に駆け巡っている。
会議の結果、自分たちは、ヴィーコ殿だけ変装を解いて、他のメンバーはあくまでもヴィーコ殿が雇ったただの冒険者として、この街の騎士を手伝うということになった。
現在、自分たちがいる場所は、この嵐の災害対策本部として使われている、この街の騎士訓練場……。
自分たちはそこで災害の対応を手伝うと進言したわけだが、おそらく、目の前の男、ダルラン領騎士団の団長は、たとえ他のメンバーが変装していようと、ヴィーコ殿がいる時点で自分たちの正体に気づいたのだろう……。
ヴィーコ殿が正体を明かした際、驚愕に目を見開き、瞬時に変装した自分たちを見回した後、座っていた椅子から勢いよく立ち上がると、剣の柄に手をかけたが……。
「……」
「……」
「……わかった、手を貸してくれ」
その状態でお互いに目を合わせ、騎士団長がしばらく何かと葛藤するように苦々しい表情を浮かべた後、その剣は引き抜かれないまま柄から手が離され、様々な感情を呑み込んだような表情で、最後にはそういってくれた。
きっと、ヴィーコ殿の後ろに控える自分たちの人数から正体を察して、少なくとも一瞬くらいは今すぐに捕えなければという考えが浮かんだのだろう……だが結局、自分たちの正体を言及することはなかった。
今は逃亡者の捕縛よりも、領民の安全確保が優先……そしてそのためには猫の手も借りたい状況だ……だが、表立って逃亡者に手を借りるようなことは出来ない。
だから、この騎士団長はあくまでも“この国の公爵家長男が雇った冒険者”に手を借りることにした……そういうことだろう。
「では、わたしは教会に行ってきます……! アーリーさんも一緒に来てくれますか?」
「おっけー、研究で作りすぎた治癒薬の在庫大放出セールね」
ダルラン領の騎士団長から渡された、それを持っていれば国から依頼を受けて救援活動を行っていることを証明できるらしいメダルを受け取ったあと、騎士訓練場から出てすぐに、カヤ殿がアーリー殿を引っ張ってこの街の教会へと向かっていった。
学校で共に勉強していた時も、冒険者になって一緒に依頼をこなしていたときも、引っ込み思案で自らの意思で行動するということが少なかった彼女だが、この旅についてくることを決めたあたりから、少し前向きになったような気がする。
誰かに何かを言われる前に、自ら友人を連れて行動を起こすなど、学校でどのグループにも属さず一人で黙々と勉強をしていた頃の彼女からは想像もつかないだろう。
「ボクは外壁で領都の防衛をしている騎士たちを手伝ってくる……そこの混ざり……いや、ロシー、カイ、お前たちも一緒に来い、防壁の外からくる怪我人を運ぶためにお前たちの怪力が必要だ」
「ちょっと、それが人にものを頼む……」
「頼む! この通りだ……!」
「っ……」
そして、今度はヴィーコ殿が意外な一面を見せる。
ロシー殿がすぐに突っかかったように、一言目は二人の呼び方こそ変えたものの、言葉としてはいつもの偉そうな命令口調だったが、彼はその立場的には実際に偉いので別に間違ってはいないだろう。
それどころか、ロシー殿がすぐに着いてきてくれないと分かると、言い争っている時間が惜しいというような様子で、その反論を遮るように、頭を下げた。
何が彼をそうさせているのかは分からないが、彼の中には自身の行動に対して明確な優先順位があり、今回の行動は公爵家の長男が平民に頭を下げるという彼のプライドに引っかかりそうな事象よりも優先順位が高かったのだろう。
「姉ちゃん、ここは……」
「ふんっ、分かってるわよ、ちょっとからかっただけじゃない……ほら、いつまでも頭を下げてないで、早くどこへ行けばいいか案内してもらえるかしら?」
「ああ、助かる……こっちだ」
ロシー殿にも彼の本気の意思が伝わったのだろう……カイ殿が彼女を宥める言葉を最後までいう前に、口調はそのままだが、素直にヴィーコ殿に従うことにしたようだ。
その返答を聞いたヴィーコ殿は、チラリと一度アクセル殿の方を見てから、ロシー殿とカイ殿の二人を連れて、街の騎士が集まっている門の方へと向かっていった。
「この国の貴族は優秀だな……」
アクセル殿が、誰に言うでもなく、そんなことを呟く。
確かにその通りだ……今まで騎士や貴族がどんな仕事をしているのかいまいち分かっていなかったが、こうして実際に仕事をしているところを見ると、ただ権力を振りかざして偉そうなことを言っているだけではないようだ。
このゲームオリジナルの貴族の仕事や在り方なのかもしれないが、少なくともこの世界の貴族たちは、自身は椅子にふんぞり返ったまま、人を顎で使うような人物ばかりではないらしい。
「では、僕たちも仕事をもらいに行くとしよう」
「うむ」
「はいっす!」
ここにも周りの騎士たちとは別の意味で貴族らしくない人物が一人いるが、彼女もカヤ殿やヴィーコ殿の積極的な行動を見て何か思っていたことがあったのか、口には出さないものの、アクセル殿に声を掛けられるまで、手持ち無沙汰のような、少しソワソワとした様子だった。
騎士や貴族が普段行っている仕事の一部に触れられるいい機会でもあるのだろうこのイベント、自分も本腰を入れて取り組もう。
「ふむ……なるほど……よし」
「目標は、救助イベント突破後の、全NPC生還イベントの検証だな」
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる
【全強化】:あらゆる能力が上昇する
【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える
【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える
【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる
【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る
【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる
【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる
【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる
【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る
【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる
【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る
【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る
【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる
【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる
【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる
【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる
【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る
▼称号一覧
【連打を極めし者】
【全てを試みる者】
【世界の理を探究する者】
【動かざる者】
【躊躇いの無い者】
【非道なる者】
【常軌を逸した者】
【仲間を陥れる者】
【仲間を欺く者】
【森林を破壊する者】
【生物を恐怖させる者】
【種の根絶を目論む者】
【悪に味方する者】
【同族を変異させる者】
【覇者】
【権威を振りかざす者】
【禁断の領域に踏み入れし者】
▼アイテム一覧
〈水×30,000〉〈薪×73〉〈小石×1,020〉〈布×104〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1679日分〉〈保存食×96〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×614〉〈獣生肉(上)×570〉〈鶏生肉×36〉
〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉
〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×2〉
〈着替え×20〉〈本×100〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×170〉
〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉
〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉
〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉
〈音信のイヤリング×1〉
〈金貨×0〉〈大銀貨×0〉〈銀貨×2〉〈大銅貨×4〉〈銅貨×3〉