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第百五十四話 雨と貴族の仕事で検証 その一

いつも『派遣デバッガーの異世界検証譚』を読んでいただきありがとうございます!


活動報告の方にも書かせていただきましたが、

なんと、この度、『派遣デバッガーの異世界検証譚』が、『第3回 一二三書房WEB小説大賞』の「コミカライズ賞 (コミックノヴァ)」に選ばれました!


それもこれも、ブックマーク登録して追いかけてくださっている方や、評価の星をつけて応援してくれる方々のおかげです! いつも本当にありがとうございます!


これからも皆様の期待に応えられるように、マイペースに投稿を続けていきますので、どうぞよろしくお願いします。

 

「これは……次の街まではギリギリ間に合うか……?」


 それは、フォークピックから次の街へ出発する際の、アクセル殿のそんな呟きから始まった。


「む? どうしたのだ?」


 アクセル殿は天を仰ぎ、何やら空に向かって掲げた小さな魔法道具を、真剣な表情でのぞき込んでいる。


 彼は毎朝、馬車で街を出発する際にいつもこの儀式めいたことをしており、前に何をやっているのか聞いてみたところ、どうやらその魔法道具で数日以内の天気の移り変わりを確認しているとのこと。


 それを聞いた自分は『なるほど、ここにきて天気予報を教えてくれるシステムの登場か』と思い、そのシステムが正常に機能しているのか、アクセル殿の天気予報と実際の天気を比較してみたのだが、このシステムが導入されてから天気は晴れが続いた。


 要するに、新しいシステムが導入されたものの、検証が進まなかったのだ。


 だが、彼の反応を見る限り、とうとう晴れ以外の天気が訪れるのだろう……これはやっとその予想が本当に当たっているのか検証できるということだな。


 と、思っていたのだが……。


「……嵐が、来る」


 どうやらただの雨でなく、いきなり嵐の予報を検証するようだ。



 ♢ ♢ ♢



「くっ、強降りになってきたな……もう少しだ! 急いでくれ!」


「わかってます! エリザベス、チェルシー、頑張ってくれ」


 —— ブルヒヒーン ——


 フォークピックの街を出て、次の街までの中間にある村、シンギングアックスで一泊した朝から、村の宿の外には小雨が降っていた……。


 その村は【陽気な木こりの村】とも言われており、宿泊した宿屋では吟遊詩人としてまだ練習中の身である自分の演奏でも、ノリノリでその場限りのアドリブな歌を歌ってくれる楽し気な村だったので、この旅が終わったらまた来たいところだな。


 だが、今はメインストーリーの検証優先……バタバタしていてゆっくりできないのも仕方がないことだし、雨で立ち往生となる前に次の街まで進むべきだろう。


 そう思っていたのはアクセル殿も同じようで、彼にいつもよりずいぶん早い時間に起こされ、いそいで支度をすると、ビンタをしてもまだグーグーといびきをかいているグリィ殿を馬車に積み込み、朝ご飯も食べることなく出発したのだが、そこから雨は強まるばかり……。


 シンギングアックス村と次の街までの中間からは、小雨が普通の雨となって……。


 道がぬかるんでいるせいで馬車の車輪が滑ったり、土の下に敷かれた石にハマりかけてガタンと大きく車体を揺らしたりしながら、何とか街が見えるところまで来たが、ここにきて、さらに強くなってきたようだ。


 焦るアクセル殿が御者に声をかけ、馬車を引いている馬たちも御者の声に応え、馬車はさらにスピードを上げるが、それに比例して車体の揺れも大きくなり、そこに乗っている自分たちは普通に座っていることは不可能になる。


「ちょっ、痛っ、痛っ……なんすか! 敵襲っすか!」


 その段階になって、今まで寝ていたグリィ殿もやっと、流石に馬車が揺れるたびに頭を床にぶつけていたせいで起きたらしいが、普通はもっと前の段階で起きるものではないだろうか……。


 確かに今のグリィ殿のステータスではビンタや多少の揺れ程度ではダメージは入らないが……うーむ、防御力が増して鈍感になるというのも困りものかもしれないな。


 自分たちは寝ぼけ眼で混乱しているグリィ殿にため息をつきながら今の状況を端的に説明しつつ、次の街……【歴史の都】ダルラン領、領都……その門へとたどり着いた。


 —— ガラガラガラ ——


「おーい! 待ってくれー!」


「! あれはフォークピックからの駅馬車か! おーい! いったん門を下ろせー!」


 馬車が門に辿り着いた時、今まさに門の鎖が巻き取られて閉じられようとしているところだったが、どうやらまだ融通が利く段階だったのか、そのまま無慈悲に閉められてしまうということは無かった。


「すぐに閉めるから、早く入れ!」


「すまない!」


 横殴りの強い雨が降る中、かなり早い時間帯に門の戸締りをしている騎士に声を掛けられ、御者は礼を言って門の中に馬車を進める。


 自分たちはアクセル殿に急がされていたことでいつもの変装が出来ておらず、フードのついた外套で顔を見づらくしているだけの状態だったのだが、門を閉める騎士もかなり急いでいるようで、馬車に乗っている人物どころか荷物さえチェックせずに通した。


 一体アクセル殿も御者も騎士たちも何をそんなに急いでいるのだろうと少々不思議に思ったが、馬車の幌からチラリと外の景色を見たことで、その疑問は解消されることとなる……。


「なるほど……洪水か……」


 街へと入っていく馬車の中から、再び鎖を巻き上げる音を響かせ始めた門の向こう側に見えた景色は、黒く分厚い雲の下で荒れ狂う川……。


 この街は外壁の外側をぐるりと囲む堀や、その堀から、外壁の下部に備え付けられた鉄格子を通り抜けて街の中へと水を引き込んでいる用水路など、生活用水などに川の水を利用している作りのようで、引き込み口近くの、川に隣接する部分では、壁に大量の水が叩きつけられて、大きな水しぶきをあげていた。


 現代でも川の氾濫というのは都市の機能を一時的に停止させてしまう程の自然災害として認知されているが、昔は今以上に酷い災害を引き起こしていたという……。


 この世界にきてから天気が雨の日もあったが、ここまでの大雨になったことは無かったので認識の外にあったが、城壁に囲まれている大きな街の中はともかく、小さな町や村では石レンガで作られた用水路ではなく自然に流れている川をそのまま利用していたので、決壊したらその被害は想像を超えるものになりそうだ……。


「よし、門は閉められたな! A班は非常用出入り口で避難民の受け入れ待機! B班は外壁の上から交代で防護壁の展開と外壁の破損個所を修復!」


「「了解!!!」」


 無事に街へ入れた自分たちが門の近くにある乗合所で馬車から降りていると、門の方から騎士たちが上官の指示に従ってバタバタと動いている音が聞こえてくる……どうやら今後も自分たちのように雨の中この街へ駆け込んでくる人々の受け入れや、今もなお外壁に叩きつけられている川から壁を守る作業にあたるようだ。


「あなたにも馬にも少し無理をさせてしまったな、これで疲労を癒してくれ」


「はい、ありがとうございます」


 馬車の方を見ると、全員が馬車から降りて、忘れ物がないかチェックをした後、アクセル殿がここまで運んでくれた御者に出発の際に前払いしている利用料とは別に手間賃を払っているのを見かけた。


 フォークピックの街を出発する際、駅馬車の組合で馬車のレンタルするときに、管理職らしき人物が馬車を出すのを渋っていたところ、この御者さんが自ら進んで手を挙げてくれなかったら、徒歩で出発して洪水に巻き込まれていたか、今もあの街から出られないでいただろうからな……そのお礼を兼ねた追加報酬だろう。


 しかし、大雨による川の氾濫か……現代に伝わる歴史としての知識はあるが、時代設定的にこの世界でも相当な被害がでそうである……自分たちが昨日泊まらせてもらった村や今までお世話になった村々は果たして無事だろうか。


「おい王子! ボクはこの街の騎士に手を貸しに行くが、構わないよな?」


「いや……気持ちは分かるが……だが……」


 と、そんな風に、馬車の乗合所で過去に通ってきた村を思い出しながらそんなことを考えながら乗合所を出ると、何やら外では先に出ていたヴィーコ殿とアクセル殿が言い争っていた。


「ボクはこれでもこの国の貴族だ、グリィ嬢と、ついでに他のやつらを守るために旅の同行は認めたが、ソメールの王子についたつもりはない! 民が危険な時に、旅の続行を懸念して身分を隠すなど出来るものか!」


「くっ……それは……だがしかし……」


「あの……っ! すみません……わたしも教会に行って、怪我人が運ばれてきたときのお手伝いに行けたらと……」


「カヤ君もか……」


 一体何のイベントが始まったのだろうか……急すぎて状況がよく掴めないが、会話や人物像から流れを把握するに、ヴィーコ殿やカヤ殿が、この街の手助けをしたいと申し出ているようだ。


 その後も続く彼らの討論に耳を傾けながら、一体どんなイベントが発生したのかと、近くにいたアーリー殿に聞いてみたところ、どうやらこの世界では、大雨が降ったら、というか、なにか災害が起こった時は、貴族が何かしら対応しなければならない、ということらしい。


 確かに、現実世界でも災害時にはレスキュー隊や自衛隊が対応に乗り出してくれるからな……この世界的でそれが貴族の役割になっていたとしても不思議ではない。


 だが、自分たちは騎士から逃走中の身で、おそらくこの街には既に手配書が届いているはずだ……ここでその騎士たちに手を貸すということは、少なくとも手を貸すメンバーは身分がバレる可能性があがり、それはこのパーティーからの離脱にもつながってくる……。


 アクセル殿にとって第一の目的は、戦争を止めること……。


 その目的達成のためのメインの行動は、ソメール教国が手段を問わずに探しているという勇者……つまりこの自分、オースを連れていくことで目的を達成させることだが……。


 勇者探しを止めさせた後、ソメール教国から正式にジェラード王国へ謝罪をする、戦争を止めるという目的を達成する上で真に大切な場面で、ジェラード王国側へ話を通す繋ぎ役として、ヴィーコ殿の存在は重要になってくるだろう。


 だから、ここで彼に離脱されるという、スムーズにいち早く戦争を止めることが厳しくなる状況を……きっとアクセル殿は快くは思わないはずだ。


 しかし、ソメール教国も災害に対して同じように貴族や王族が対応しているとしたら、ヴィーコ殿やカヤ殿の言い分も分かるのだろう……アクセル殿は天秤になど掛けられない大事な選択を迫られているような苦々しい表情を浮かべている。


 選択を決めかねているアクセル殿……彼の決断を待たずに今にでも駆け出しそうな様子のヴィーコ殿とカヤ殿……同じ貴族のはずなのに状況についていけていないようで頭にハテナを浮かべているグリィ殿……。


 そうか……これは……この緊迫した沈黙の長さはきっと……。


 この場面……おそらくプレイヤーの意見の介入が迫られている、ということだな。


 視界には特に選択肢などが表示されているわけではないが、ゲームによってはきっと今頃いくつかの選択肢が表示されていて、プレイヤーはゲームコントローラーのボタン操作やパソコンのキーボード、マウス操作で、その選択肢の中から好きなものを選べるターンだろう。


 おそらくリアル志向のバーチャルゲームということで、そういった世界への没入感を妨げるUIなどを表示せず、プレイヤー自らの行動によって選択する設計になっているのだろうが、やることとしてはアドベンチャーゲームの選択肢と変わらない。


 とりあえず、今選択を迫られている内容としては……ここで捕らえられる危険を被ってでも、騎士を手伝って街の人々の安全を守るか……今まで通り大人しく隠れて、嵐が去ると同時に旅が再開できるよう備えるかの二択だろう。


 ゲームによってはこの選択で今後の各キャラクターの好感度だけでなく、生存まで左右するようなメインストーリー中の重要な選択肢となり、その結果が予想と外れたプレイヤーがセーブ地点からやり直すような場面だろうが……。


 超一流のデバッガーである自分は、既にどちらの選択を選ぶかなど決まっている。


「ふむ……なるほど……よし」


「ここは全員で騎士の手伝いをしよう!」


 ストーリーの進行が最優先? 災害の対応を検証するなら後でもできる?


 その通りだ。


 だが……。


 ……ストーリーイベント進行中に災害の対応をする検証は、今しかできないだろう?


 そうして自分は、一度しかないこの検証のチャンスを逃さないため、アクセル殿を説得して騎士の手伝いをする方の道を選択した。



▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる

【全強化】:あらゆる能力が上昇する

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる

【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる

【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる

【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】

【権威を振りかざす者】

【禁断の領域に踏み入れし者】


▼アイテム一覧

〈水×30,000〉〈薪×73〉〈小石×1,020〉〈布×104〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1679日分〉〈保存食×96〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×614〉〈獣生肉(上)×570〉〈鶏生肉×36〉

〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×2〉

〈着替え×20〉〈本×100〉〈遺物×10〉〈宝石・鉱石×170〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉

〈金貨×0〉〈大銀貨×0〉〈銀貨×2〉〈大銅貨×4〉〈銅貨×3〉


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