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第百五十二話 フォークピックの街で検証 その一

 

 ノーアイアン砦の南にある街、フォークピック。


 周囲に住む人たちからは海陸産物の合流地点と言われており、国の定める役割としては王直轄領側の関所であるノーアイアン砦と対になる、ダルラン侯爵領側の関所ということになっているが、この国の住人の多くはそういったイメージよりも、物流の交差点としてのイメージの方が強いだろう。


 東からはソメール教国から輸入された香辛料が届き、西からは海に面した別の領地から海産物が届き、南からはこの領地の鉱山から鉱石や宝石が届き、それらを北にある王都へと流すのがこの街の主な物流の流れである。


 もちろん、自分がグラヴィーナ帝国で苦労したように、この街でも生の魚介類を手に入れるのは難しく、王都へと運んでいるのは乾燥させた海藻や魚介類だが、それらが出汁として非常に優秀なのは日本人であればよく知るところだろう。


「へー、結構活気がある街ね」


「そうですね、どことなくアルダートンにも似ている気がします」


「あっちにも、こっちにも! 美味しそうなお店がいっぱいあるっすよ! どこから行くっすか!」


「はいはい、今日泊まる宿屋を決めてからね」


 アーリー殿に続いてカヤ殿、グリィ殿が言うように、街の大きさとしてはアルダートンより少し小さいが、食べ物屋に限らず色々な種類の店が立ち並ぶ光景は商業都市と呼んでも差し支えなさそうな雰囲気だ。


 看板が掲げられた建物が建ち並んでいるだけでなく、広場に目をやれば簡易的な屋台で商売している露天商も多くいるようで、観光を目的にしたウィンドウショッピングをするにしても回るお店に困ることは無いだろう。


 デバッガーとしては、これだけお店が多いと検証にも時間がかかりそうだなという印象も受けたりするが、料理を提供する店の検証はおそらく今日中にグリィ殿が全て終わらせてくれるだろうからあまり心配はしていない。


「おい、あの店とか、あっちの店とか、なんか他と雰囲気が違くねぇか?」


「え? んー、言われてみればそうね……品物も少ないみたいだし、でも立ち寄る人がちょっと見てすぐに帰るところを見ると、すごく売れてる人気店ってわけでもなさそう……変な感じね」


 広場を通り過ぎる際、カイ殿が指さす露店へ視線を向けると、どうやら他と少し漂っている雰囲気が違うその店は香辛料を取り扱う店らしい。


 スキルで視力を強化してよく見てみると、ロシー殿が言うように品物があまり並んでおらず、聴力強化で客との会話に耳を澄ませてみたところ、客に聞かれて店主が提示した商品の値段は、アルダートンで売られている同じ品の十倍はする価格設定だった。


 周囲を見渡してみると似たような店はいくつかあり、そのどれもが同じように香辛料を扱う露店のようだった。


「ほう……予想はしていたが、やはりもうこの辺りまで影響が届き始めていたか」


「む? ヴィーコ殿、何か知っているのか?」


「いや、直接何かを聞いたわけではないが、ソメール教国との関係が悪いということは、そこから仕入れている香辛料や芸術品に影響があるのは予想できるだろう」


「なるほど、そうか……ソメール教国からの輸入が止まって品薄になり、その影響で取引価格が上がっているのだな」


「そうだ……はんっ、全く……それくらい地政を学んでいれば分かることだろう、王子を自称するなら相応の知識くらい持っておくべきだ」


「うむ、敵の情報もそうだったが、やはりヴィーコ殿は素晴らしい解説キャラクターであるな」


「……それは、褒めているのか? 貶しているのか?」


 ヴィーコ殿の言う通り、確かに言われてみれば、最後通告を叩きつけた国とそれまで通り輸出入を続けたりはしないだろう……だからその影響で流通や経済に影響が出るのは自然の流れのように思える。


 今までも時期や店によって商品の価格が違ったり、並んでいる商品自体が変わったりしていたが……他国との関係によってもそのあたりに影響が出るとは……このゲームはとことんリアルを追及しているな。


 まだ今の状況しか判断材料がないので、もしかするとプログラム的な設定としては、情勢ではなく、ストーリーの進行度に紐づけられているのかもしれないが、そうだとしてもプレイヤーにリアルな世界観を演出できていることには違いない。


 よく見てみると、おそらくその価格が上がっている香辛料を使用しているのであろう料理を振舞っている店でも、十倍とはいかないものの注文を一瞬躊躇ってしまうくらいには価格が上がっているようだし、近いうちに香辛料と同じ値段倍率になるか、商品自体が変わったり無くなったりするかもしれないな。


 現実の中世などでは輸入ルートなどの関係で香辛料の価格がかなり高くなっていることを知っている自分としては、それとは少々状況は異なれど今の状態の方がリアルな気もするが、元々それほど高くないのが日常だったこの世界の住人としてはかなり痛手だろう。


「うーん、よし、ここがよさそうだな」


 そんなことを考えているうちに、どうやらアクセル殿が今日宿泊する宿を決めたようだ。


 門からここに来るまでにもいくつか宿屋を通り過ぎているが、ここフォークピックはアルダートンと同じように商人や冒険者が立ち止まる大きな街ということで、宿屋の数も種類もそれなりにある。


 その中からアクセル殿は、宿屋での宿泊や食事に関するお金は彼が出してくれることで自身の財布事情から……ではなく、今の自分たちの状況を踏まえて、出来るだけ信用度が高く、しかし吟遊詩人という身分で宿泊してもおかしくない水準の宿を選んでいたのだ。


 受付をしたところ、どうやら部屋も空いているようなので、宿屋はここで決まりのようだし、荷物を置いたらさっそくこの街の検証に出かけよう。



 ♢ ♢ ♢



「いらっしゃい、見ない顔だね、旅人さんかい?」


「うむ、そんなところだ」


 フォークピックの街中へ出掛けて、さっそく買い物の検証を始めた自分は、街にきちんとした建物として店を構えている場所を巡り終え、露店がたくさん建ち並ぶ広場へとやってきた。


 とはいっても、店売りの商品に関する検証は既に他国や他領から様々な物資が集まってくる王都やアルダートンでもしているので、特にこれといって初めて見るような商品もなく、いくらか乾燥させた海藻や干し魚を補充したあとは、例のソメール教国から輸入が止まったことによる値段の推移をメモするくらいで検証を終えている。


 それは露店の方も同じで、広場の端からここまで特に目新しい商品も無かったのだが……。


「お、そいつはちょうどよかったな、どうだい? この街の名物、鉱石チャレンジ、やっていくかい?」


「鉱石チャレンジ?」


 広場の中央……人が集まりやすく、目にも止まりやすい、確かに立地的には有名店や人気店が収まりそうなその場所に、それがこの街の名物だと言い張る、どうやら鉱石売りらしい店主が気になる単語を出した。


 店主曰く、彼は南にある鉱山の街に鉱夫の親戚がいるらしく、その親戚から未加工、未鑑定の岩石を安く大量に仕入れ、その未加工、未鑑定のままここで売っているとのこと。


 ここで買った後、別の場所で鑑定するまでは、その買った岩石に、どんな鉱物が含まれているのか、どの程度含有しているかが全く分からないという、そんなドキドキ感を味わえる岩石を売って商売をしているようだ。


「行商人でも冒険者でも吟遊詩人でも、旅人なら運試しにひとつは買っていくもんだ……鉱物が何も入ってないただの石って場合もあるが、それでも話のネタが買えたって考えれば悪くないだろ? はっはっは」


 拳サイズの岩石、ひとつあたりの値段は、宿や酒場でちょっと贅沢な料理とお酒を頼む程度……。


 ただの話のネタとしてはなかなか高価だし、安い調理器具や食器の材料となる銅や、火打石として用いられる石英が入っていたとしても、拳サイズの岩石に含まれているであろう程度の量では明らかに割に合わないが、まぁ、現代のおみくじだって原材料費だけで考えれば暴利な価格設定である……運試しなんてそんなものだろう。


 それに、この世には、そんなものよりも遥かに高価な、似た仕組みを持つ商品が存在する……そして、自分はその商品と、かなり根深く、長く付き合ってきた人物のひとりだ。


 買った岩石から、ランダムに鉱物が出てくる可能性がある商品……つまり、これは、鉱石ガチャと呼べる代物だろう。


 これがガチャということであれば、自分たちデバッガーはプロ中のプロである。


 スマホゲームの検証で、いったいどれだけのガチャを回してきたことか……検証なのでもちろん実際に課金しているわけではないが、ガチャを回している回数だけで考えればおそらく世界で一番の廃プレイヤーは、ランカーでも石油王でもなく、デバッガーだろう。


 もちろん、その中の大部分は実際にスマホで動かしているのではなく、パソコンで専用ツールを使ったりコマンドを実行したりして結果を出すシミュレータだったりはするが、一人で実行するガチャの試行回数でおそらくデバッガーを越えられる者はいない。


 そして、じぶんこそが、その世界一ガチャを回す職種であるデバッガーだ……これがそれに該当するものであるならば、自分が検証しないという選択をするはずがないのだ。


「ふむ……なるほど……よし」


 では、いったいこの店でどの程度買うのか……そんなのわざわざ問うまでもないだろう。


「とりあえず今この店にある岩石を全て買おう」


 一度に購入できる量が決まっているガチャであれば、とりあえずその購入限界、天井まで買い……念のためにもう一回天井まで買う……そんなことはデバッガーにとって一般常識以外の何ものでもない。


 そうして自分は、王城などで拾ったり街で買ったりして持っていた宝飾品を近くの質屋で全て売り払い、ほぼ全財産をつぎ込んで店の商品を二回ほど空にして、いつの間にか周りに集まってきた住人に勇者だとか愚者だとか囁かれながら、宿へと帰っていった。



▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる

【全強化】:あらゆる能力が上昇する

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる

【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる

【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる

【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】

【権威を振りかざす者】

【禁断の領域に踏み入れし者】


▼アイテム一覧

〈水×46,000〉〈薪×83〉〈小石×1,040〉〈布×106〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1699日分〉〈保存食×96〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×619〉〈獣生肉(上)×580〉〈鶏生肉×41〉

〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×2〉

〈着替え×20〉〈本×100〉〈遺物×10〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉

〈金貨×0〉〈大銀貨×0〉〈銀貨×2〉〈大銅貨×4〉〈銅貨×3〉


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