第百五十一話 収穫情報の共有で検証
ノーアイアン砦の宿屋。
朝食を食べ終わった自分たちは、前日それぞれの担当ごとに得た情報を共有して今後の方針をすり合わせるため、馬車の手配を済ませてから、宿泊した部屋の片方に集まっていた。
とは言っても、夜遅くまで駐在所に潜入していた自分とグリィ殿以外は昨日のうちに情報共有していたようなので、ここで話したのは主に自分とアクセル殿だけだ。
「そうか、となると、ここから先の街は既に僕たちの似顔絵付きの手配書が出回っていると思ってよさそうだな」
「うむ」
自分がアクセル殿に共有したのは、駐在所で発見した手配書の情報量やその内容と、配布状況……それと、戦争に関する情報は殆どなかったという報告だ。
昨日の夕方ごろに自分はグリィ殿と一緒に駐在所の周囲を探索し、マップ画面で分かる情報と共に目測で読み取れる建物の構造を一通り共有したのちに、夜になって周囲が暗くなってから実際に中へ潜入して手配書を含めた様々な資料が置かれている部屋を探し出した。
本当はその場所も【超観測】によってアイテムの位置も反映されたマップ画面によって最初から把握していたのだが、せっかく普段なら入ることが許されないであろう駐在所に潜入する機会が与えられたのだから、デバッガーとしては外れ部屋も全て探索しないとだろうと思い、あえて遠回りになるルートを選んで全ての部屋を回った。
某スニーキングアクションゲームにならって、ダンボール……ではなく、それっぽい木箱を活用したスニーキングもグリィ殿に伝授できたことだし、他にもCQCもどきの近接格闘術で騎士を背後から気絶させて、身分証を奪ったのちに近くの木箱に隠してみるなどの検証が出来たので、自分としては結構満足のいく収穫だったように思う。
そして肝心の手配書に関してだが、こちらはそれなりに細かい情報が載った、なかなか出来の良いものが見つかった。
自分たちそれぞれの家柄と身体的特徴が記載されているだけでなく、簡単な似顔絵までついていたので、変装しないでこの砦へ入っていたらおそらく捕まっていただろう。
手配内容としては、アクセル殿がヴィーコ殿を人質にして、自分やグリィ殿など何人かの生徒を無理やり同行させているという、事実とは異なる内容が書かれていたが、アクセル殿はそれに対して、そういうものだろうと納得しているようだ。
遺跡を脱出してから、二日ほどかけて森や草原を抜け、ウェッバー村でも一日休んでからアルダートンで一泊し、砦への道中にある村でも一日休憩して、おそらくその時にすれ違った騎士が手配書をこの砦に届けたと思われるので、自分たちを追い始めてからこの砦へ手配書が届くまで五日ほどかかっていることになる。
距離的には、遺跡から王都までで一日、馬で駆けて途中の村を飛ばして、アルダートンで一日、砦で一日となるので、最短三日だとすると、王都で二日使って自分たちの詳細情報と似顔絵を揃え、そこから各地に配り始めたのだろう。
資料保管庫には複写しかけの手配書もあったので、おそらく王都で各街に配る手配書を必要な分だけ全て用意するのではなく、隣の街へ配り、その街で複写したものをまた隣の街へと渡していく方式で配っているのだと思われる。
国のお触れもそうやって各地へ配っているのだろうか、なかなかに効率が考えられた良い配布方法が導入されているのだな。
一応、検証として保管してあった手配書に対して、絶妙に顔の特徴が崩れるような落書きを施してみたが、不具合が無ければ、既にきちんとしたものが配られた後であろうこの先の街には全く影響がないだろう。
「それで、アーリー君、ロシー君、カイ君たち街の住人への聞き込み組が得た情報だが、駐在所でもそうだったように、やはり戦争に関する情報はお触れ以上のことは出回っていないらしい」
「ふむ、まぁまだ戦争開始までしばらく日数はあるし、ここはまだ国境から離れているからな」
自分とグリィ殿が資料保管庫で発見した国から砦に対して送られたのであろう手紙にも、ただ防衛戦力を整えておくようにと書かれているだけだったので、おそらくこの砦が戦争に直接関わることは無いのだろう。
この世界での戦争がどういった形になるのかまだ分からないが、きちんと最後通告を出していることを考えると、元の国と同じような、きちんと国同士で決めたルールに基づいた戦いが行われることが予想される。
国境の平野など指定の場所に互いの兵を集めてぶつけ合うような戦いになるのか、最後通告を出したジェラード王国側がソメール教国の首都を目指して進軍していくのかが気になるところだが、どちらにせよ始まってしまったら両国共に経済的にも戦力的にもそれなりの被害をうけるのは間違いない。
そして、自分としてはこれまで一切情報が出ていない、母国であるグラヴィーナ帝国の動向がかなり気になっているのだが、帝国はこの戦争に参加しないのだろうか。
たしか、ヴェルンヘル殿によれば、ソメール教国はグラヴィーナ帝国からも勇者探しと称して人攫いをしていたはずだし、あの国は住民も含めて戦闘狂ばかりだから、やられたらやり返せと言い出しそうなものなのだが、果たしてどうなっているのやら。
「それで最後に、僕たち吟遊詩人なりきり組の報告だが……申し訳ない……当初の作戦としては収穫ゼロで失敗し、途中から聞き込み組に合流することになった」
「む?」
頭を下げて謝るアクセル殿曰く、どうやら彼らの演奏はあまり評価が良くなかったらしい。
聞くに堪えない酷い出来だったというわけではなく、むしろ他の吟遊詩人では到達できないだろう最高の出来で、聞いた住民からは拍手ももらえたそうだが……なんというか、選曲が街に合っていなかったのと、出来が良すぎたことが逆に悪かった。
拍手をしていた住民からの評価は総じて『まるで貴族様の演奏会のよう』……。
実際にその通りなのだから、そんな感想を抱かれるのは当然と言えば当然なのだが、流れの吟遊詩人として街に潜入するという目的からすると、この評価はよろしくない。
アクセル殿は住人たちからのそんな感想を聞くと、この曲ばかり練習していたので他の曲はまだ下手なんだと、うまく理由をつけてその一曲だけで演奏は止め、すぐに聞き込み組に合流したらしい。
吟遊詩人の変装を取り繕うための行動で、その変装を怪しませることになってしまうのは本末転倒だ……久しぶりに貴族らしいことをして達成感に満ち溢れていたヴィーコ殿が少々不満を漏らしていたようだが、アクセル殿の判断は正しかっただろう。
「以上が今回の収穫だ、有用な情報としてはオース君たちが手に入れてくれた、この先の街には似顔絵付きの手配書が配られているという情報で、今後の方針的には、街の中では変装は必須にしなければならなそうだということくらいか」
「そうであるな、あとは、吟遊詩人という変装を続けるのであれば、それらしい曲を演奏できるようにならなければならないということだろう」
「うーん、まぁ、変装の方針を変えてもいいんだけどね……でも、やっぱり身分証を提示しない口実としては吟遊詩人っていうのが適しているから、どうにかしたいな」
「そうか……うむ、それなら、自分に任せて欲しい」
「……オース君に?」
「ああ、楽器は少々慣れていなかったが、曲の知識量で言えばアクセル殿たちよりも多い自信がある」
「そうなのか? うーん……それなら、次の街までの馬車では、僕たちがオース君に演奏を教わることにしようか」
「うむ、任せてほしい」
自分たちはそうしてお互いの情報を交換して、今後の予定を軽く確認してから、ここからさらに南へと向かう馬車へと乗り込み、次の街へと出発した。
次の街からは領地が変わり、ソメール教国と隣接するダルラン侯爵領となる……。
国境まではまだ少し距離があり、ダルラン侯爵領の街をいくつか渡ることになるが、目的地へと近づいているのは間違いない……このまま一歩ずつソメール教国の首都を目指して、戦争を止めるメインイベントを乗り越えよう。
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる
【全強化】:あらゆる能力が上昇する
【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える
【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える
【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる
【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る
【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる
【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる
【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる
【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る
【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる
【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る
【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る
【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる
【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる
【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる
【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる
【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る
▼称号一覧
【連打を極めし者】
【全てを試みる者】
【世界の理を探究する者】
【動かざる者】
【躊躇いの無い者】
【非道なる者】
【常軌を逸した者】
【仲間を陥れる者】
【仲間を欺く者】
【森林を破壊する者】
【生物を恐怖させる者】
【種の根絶を目論む者】
【悪に味方する者】
【同族を変異させる者】
【覇者】
【権威を振りかざす者】
【禁断の領域に踏み入れし者】
▼アイテム一覧
〈水×48,000〉〈薪×83〉〈小石×1,040〉〈布×108〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1602日分〉〈保存食×96〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×619〉〈獣生肉(上)×590〉〈鶏生肉×41〉
〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉
〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×2〉
〈着替え×20〉〈宝飾品×90〉〈本×100〉〈遺物×10〉
〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉
〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉
〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉
〈音信のイヤリング×1〉
〈金貨×21〉〈大銀貨×21〉〈銀貨×22〉〈大銅貨×4〉〈銅貨×3〉