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挿話 ノーアイアン砦でのお話

本編と関係なくはないですが、主人公ではない人から見たお話です。


 王直轄領の南端にある街、ノーアイアン砦。


 その昔、人類が三か国に分裂したばかりで、政情が乱れており、まだここまで開拓が進んでいなかった頃……盗賊や魔物の被害が今よりもずっと深刻だった時代に、今のアルダートンの場所にあった王都を守るために大いに活躍していた砦だ。


 今は王都に次ぐ安全な城塞都市として、城壁の中には、製作よりも修繕を得意とする服屋や鍛冶屋、ここを通る冒険者に向けた宿屋や酒場、駅馬車乗り場などがあり、城壁の外側にはそんな城塞都市で商売をする住人の胃袋を支える耕地が広がっている。


 そんな歴史ある砦の中心に建つ、今も王都を守るという昔の心を失っていない騎士たちが過ごしている駐在所……。


いつもは異様なほど静まり返っているその場所が、今日はやたらと騎士たちが走り回っており、何やら騒がしいようで……。


「おい! そっちにはいたか!」


「ダメです! 見つかりません!」


「くそっ、不審者め……いったいどこに行きやがった」


 その騎士も、これで何度目になるか、不審者を見つけて追いかけては逃げられるということを繰り返して、また持ち場へと戻っていった。


「行ったみたいっすね」


「ふむ、そうだな」


 しかし、騎士たちにもそう見えただろう、一見誰もいないその場所で、どこからか二人分の声が聞こえてくる。


 そして、ふいに木箱がひとりでに持ち上がったかと思うと、その中から地味で動きやすそうな服を着た、オースとグリィが現れた。


「ふぅー……何度かこれでやり過ごせてるっすけど、よく木箱を被っただけで見逃してくれるっすねー」


「うむ、ゲームのお約束なのかもしれないが、王都の城にこれで忍び込んだ時は普通にバレたこともあったので、きっと変装スキルが手に入って木箱を目立たない見た目に加工することを覚えたからだろう」


 オースの言う通り、その木箱は微妙な傷の具合や砂埃の付き方のせいか、なんとなくそこにあっても違和感がないような見た目をしており、何か別のものを必死に探しているなど、集中力を欠いた人物が視界の端にそれを捉えても、あまり意識の中に入ってこないような雰囲気を放っている。


 冷静に考えれば、邪魔にならない通路の端とはいっても、こんな場所に意味もなく大きな木箱があるのはおかしいのだろうが、この駐在所内には割といたるところに似たような樽や木箱、麻袋などの荷物が置かれているため、気づかれにくいのだろう。


 そして、もし怪しまれ、木箱の蓋を開けられたとしても、この加工木箱は二層になっており、ただ上の蓋を開けただけでは一層目に入っているカモフラージュ用の保存食が見えるだけで、層を隔てる底も、二層目に隠れている人物も見えないという、【変装】スキルだけでなく【工作】スキルも活かした、本当に凝った作りとなっている。


「まぁ、これは、お腹がすいたらつまみ食い出来る部分も確かに便利だし、騎士に見つかっちゃってるのは私なんで文句を言うのは間違ってるかもしれないっすけど……二人で同じ木箱に入るのは隠れるときに少しもたつくし、不便じゃないっすかね?」


「信頼できる仲間と木箱を被れる……いい時代になったものだ。なあ、グリィ殿」


「いや、私は前の時代の木箱がどうだったかなんて知らないっすけど」


「うーむ、そうであるな、二人でダンボ……木箱を使えるかの検証をしたかっただけだから、これはこんなところでいいだろう……もう一つ一人用のサイズの木箱を加工するので、ついでにこれからは別行動の検証もしよう」


「それがいいっすよ、部屋もそれなりにいっぱいあるみたいっすから、私たちの手配書を探すのも手分けをした方が早そうっす」


 誰も二人の会話に突っ込みを入れる者がいないので、どちらもボケっぱなしの会話になっているところが気になるが、こうして、オースはもう一つカモフラージュ加工を施した木箱を作成すると、それを受け取ったグリィは分かれ道の片方へと進んでいく。


「ふむ……確か亜空間倉庫の中に、どこかで買ったか盗んできた、挿絵入りの官能小説が入っていたな……今度はこのアイテムで敵の気を引けるか検証してみよう」


 そしてオースも、そんなつぶやきを残しながら別の道へと進んでいった……。


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