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第百五十話 ノーアイアン砦で検証 その二

 

「止まれ!」


 ノーアイアン砦の北門で、自分たちは門の両脇に立っていた騎士に大声で呼び止められる。


 話を聞く限り、この砦は歴史ある建造物らしいが、破損や劣化は定期的に修復されているのだろうか、門も外壁も目立った外傷はなく、流石に新品というほどではないものの、思っていたよりもかなり綺麗な状態だった。


「うむ? 一体なんだ」


 身長よりも高い槍を持ったまま金属鎧の関節部をカチャカチャと鳴らしながら威嚇するように近づいてきた騎士に対して、先頭に立っていた自分がそう訊ねると、彼は事情も話さずに身分証の提示を要求してきた。


「お前たち何者だ? 身分証を提示しろ」


 大きな街や城塞都市に入る時に身分証の提示を求められるのはアルダートンなどでも同じ対応をされる普通のことだが、それを簡単にでも説明せずに、これほど高圧的な態度で要求してくるのは珍しい。


 やはりアクセル殿の予想通り、この前見かけた騎士がここへ手配書を届け、自分たちがソメール教国へたどり着く前に捕えようと検問を強化しているのだろう。


 ……だが、何も問題ない。


 今の自分たちは、どこからどう見ても……。


「自分たちは見ての通り『旅の吟遊詩人』だ、身分証など持ち合わせていない」


 先頭に立つ自分は、放浪者風のボロボロの服を着こんで、長髪のウィッグを靡かせ、革ひものベルトでリュートを首から下げ……そのすぐ横、一歩引いた位置に、似たような格好の男装をしたグリィ殿が肩に斜め掛けした革ベルトでバウロンという太鼓を下げている。


 グリィ殿の右側では、アーリー殿とカヤ殿が、革製のソフトケースから取り出した木製フルートを騎士の方へ見せており……左側ではアクセル殿とヴィーコ殿が同じく革製のソフトケースからフィドルというヴァイオリンのような楽器を取り出して騎士へ向けた。


 そして最後尾には、そんな音楽隊のしんがりを務めるように、細身で高身長な男が、夏だというのに全身を包むような丈の長いマントを羽織り、革と木で出来たハードケースに入れられたハープを担いで立っている……。


 言うまでもなく、この高身長の男は、ロシー殿がカイ殿を肩車して、それを隠すように丈長のマントを羽織った姿だが、これで特徴的な低身長の双子という見た目がガラリと変わるだけでなく、全体を見ても手配されている本来の自分たちと人数が一致しないことになるので、変装としてはかなり高得点だろう。


 そして、自分が色々なアイテムを買い入れる検証をした時に仕入れた楽器は、リュートにバウロン、木製フルートとハープがひとつずつだけだったのだが、王族・貴族組のアクセル殿、ヴィーコ殿、カヤ殿がそれぞれ自分の楽器を持っていたのも良かった。


 貴族や王族はどうやら趣味として楽器を一つくらい嗜んでいるというのがこの世界の常識なようで、いざとなったら自分と王族・貴族組が軽く楽器を鳴らして見せられるし、これならばどこからどう見ても吟遊詩人御一行である。


「……」


「……」


 自分に声をかけてきた騎士はこちらの瞳を探るようにのぞき込んで、その後に後ろに並ぶグリィ殿たちを見渡すと、もう一人の騎士と何やら手配書と思われる紙を見ながらしばらくコソコソと話し合っていたが、どうやら楽器をケースから出して見せていた仲間がそれをしまっている間にその決着がついたらしく、再びこちらに歩み寄ってきた。


「今は街へ入ることを許すが、街に入るための税金は身分証を持たない者の額で払ってもらうし、宿屋まで見張りをつけさせてもらうぞ……知っているかもしれないが、今はどの街も隣国との戦争が近いということで警戒しているんだ」


「ああ、問題ない」


 どうやら変装はうまくいったようだな……。


 自分は懐からあらかじめアクセル殿から渡されていた小銭袋から騎士に提示された税金を払うと、その後に差し出された、木の板に釘で止められた紙にこの音楽隊の団体名である〈幻想の音楽隊ファンタジーオーケストラ〉のサインをする。


 実際は吟遊詩人でもなんでもなく、これが変装をした仮の姿ということで、自分としてはもっと分かりやすく〈偽の音楽隊〉とかの方が良かったのだが、アクセル殿から流石に直球すぎて怪しまれるだろうと指摘され、少し外した今の名前に決まったのだ。


 何だか大それた団体名になってしまった気がするが、冒険者としてのパーティー名も〈世界の探究者ワールドデバッガー〉だし、あまり変わらないだろう。


「〈幻想の音楽隊ファンタジーオーケストラ〉……? 聞いたことないわりに、これはまた随分大きく出た名前だな……」


「今は名が知られていなくとも、近い将来、誰もがその名を呼ぶことになる……覚えておくといい」


「お、おう……だがまぁ、時期が時期だ……お前たちも今は旅など止めて、一つの街で大人しくしておいた方がいいんじゃないか?」


「馬鹿を言うな、こんな時期だからこそ、吟遊詩人は物語を求めて旅をするんだろう?」


「それは……その通りなんだろうが……まぁいい、問題だけは起こすなよ……おいケビン、こいつらを宿屋に案内してやれ」


「うっす」


 そうして、入り口での検問を無事に突破した自分たちは、どうやらこの街にはひとつしかないらしい宿屋に案内され、男女で分かれられるように四人部屋を二つ取った。


「はぁー、疲れたー……ちょっとカイ、人の上でフラフラするのは止めてよね」


「仕方ねぇじゃんか、ハープ背負ってたから前後のバランスが悪かったんだよ、姉ちゃんこそ、ちっとはオレに気を使ってもう少し静かに歩いてくれよ」


「「ぐぬぬぬぬ」」


 まだ夕飯の時間までには少し時間があった自分たちは、片方の部屋に集まってこの街での行動方針や、次の街へ出発する時間などの打ち合わせをすることになったのだが、変装方法としては一番労力を使うことになったロシー殿とカイ殿が、部屋に着くなり互いに言い合いを始めてしまう。


「まぁまぁ二人とも、気持ちは分かるがこれも王国の追手に捕まらないためだ、大変な役を押し付けてしまって申し訳ないが、門を突破出来てしまえば街の中では普通の変装に戻してもらって大丈夫だから、出入りの時だけは少し我慢してくれ」


 だが、流石はこの旅のリーダーであり、国の重役を務める王子である……アクセル殿はロシー殿とカイ殿の仲裁をして、話を脱線させないように誘導する。


 自分も冒険者パーティーのリーダーで、一応、このゲームの設定的には王子ということらしいが、圧倒的にコミュニケーション能力が不足していて、仕事を割り振ったり方針を決めたりするくらいは出来ても、細かい人間関係の調整や会話の流れの誘導などは難しいのだ。


「それで、この街では変装していれば自由行動でいいの? まぁ、あたしは何もなければ部屋に籠って日焼け止めとか基礎化粧品の研究をするから外に出る予定は無いけど」


「それについてなんだが、門番の雰囲気からして、やはり追手は手配書をここまで届けているように見えたし、戦争の状況も小さな村よりは伝わっていそうだからね……目的達成のためにも、少し手分けをしてそれらの情報を調査しようじゃないか」


「皆で街に散らばって聞き込みとかするんでしょうか……? わたしは社交界に参加しても聞き役に徹するばかりで、自分から話題を振ったりするのはあまり得意ではなくて……生活感も違う街の人たちに自分から話しかけるなんてとても……」


「うん、カヤ君の言う通り、人には向き不向きがあるからね……僕の方で少し役割分担を考えてみたんだ」


 それから、アクセル殿を中心に、この街で各自どのような分担で情報収集するかを話し合った。


 最終的に決まった内容としては、アーリー殿、ロシー殿、カイ殿の三人が街を巡って住人に足で聞き込み……。

 アクセル殿、カヤ殿、ヴィーコ殿の三人が変装のカモフラージュも兼ねて、広場や酒場で吟遊詩人らしく演奏しつつ客から情報を入手……。


 そして、自分とグリィ殿が、砦の要である騎士の駐在所に潜入することになった。


「うーむ……馬車の中では、自分も吟遊詩人役をやると申し出たはずだが……」


「いや、あの時は確かにオース君も楽器の心得があるって言っていたからそう返したけど……その後の音合わせを兼ねた軽いセッションで、キミはその……少し、独特というか……」


「正直に言ってやれ、聞くに堪えない酷いありさまだったとな……あれでよく経験者だと名乗り出れたものだ」


「あの、その……でも、最後の方はちゃんと弾けてたと思いますよ?」


「はんっ、ようやく一曲だけ弾け始めたやつに吟遊詩人の真似など出来るものか、こいつはソメール教国のやつだって知ってる一般的な曲を何一つ知らないんだぞ?」


「まぁまぁ、グラヴィーナ帝国の出身らしいから……ほら、あの国は武器や鎧も独特だろう? きっと楽器や曲も他の国と違うんだよ」


 ふむ、カヤ殿とアクセル殿が精いっぱいフォローしてくれているが、馬車の中で少々検証に力を入れ過ぎたのだろう……どうやらヴィーコ殿の自分に対する演奏の評価はかなり低いようだ。


 まぁ、アクセル殿の言う通り、自分が楽器に触れていたのは彼らとは違う国……それもグラヴィーナ帝国どころか日本という、この世界からしたら完全に異国、というよりも異世界だからな……。


 リュートもハープも、聞いたことはあっても触ったことはないし、バウロンという太鼓も木製フルートも、自分が触ったことのある種類の和太鼓やリコーダーとは持ち方も音の鳴らし方も異なる。


 自分が楽器を演奏できると言ったのは事実ではあるのだが、得意な楽器はギターにドラム、ピアノに太鼓……それも主に、ゲームセンターなどでよく見かけるタイプのものだ。


 もちろん、各ゲーム機器それぞれ、完璧な検証をするために実際の楽器にも触れているし、ギターゲームに関しては実際のエレキギターを繋げてプレイできるものもあるからな……そのゲームで高得点を出すためにそれなりに練習したので自信はある。


 だが、リュートとギターは似た弦楽器であるものの、一般的なギターの弦が六本なのに対してこの世界でメジャーなリュートに張られた弦の本数はなんと十一本……弾き方もピックを使わない指弾きで、ストロークもしないようだから、指弾きアコースティックギター奏者ならば慣れるのは早いかもしれないが、自分には少々難しかった。


 身体強化系スキルによる手先の器用さと、心のうちに宿った検証魂を全力で発揮して、なんとか一日でアクセル殿たちの演奏に食らいついていけるようになったものの、まだ演奏系のスキルも獲得していないことを考えると、そのレベルはお粗末な物なのだろう。


 ……まぁ、彼らの自分に対する評価が低いのは、その楽器練習チュートリアルにて、彼らの教えに背いていく検証の方に全力を出してしまっていたのもあるだろうが。


 そして何より、自分は、ヴィーコ殿の言う通り、この世界で演奏されている曲を何一つ知らない。


 一応、それっぽい曲調の似たようなジャンルで言えば、貴族などが演奏する公式の音楽はクラシック音楽に近く……吟遊詩人が演奏する曲であればケルトなどの民族音楽が近いのかもしれないが、アーケード、コンシューマ、スマホアプリなど問わず、日本の音楽ゲームにそういったジャンルの楽曲は、全体数で言えば少ない比率となっている。


 ピアノ型のゲームだと逆にクラシック系の曲が多かったりはするが、自分がそういった楽曲ですぐに演奏できる自信があるものと言えば、王都の教会にあったパイプオルガンで奏でたように、趣味で弾けるようになった、ファンタジー系ゲームの主題歌やBGM、SEくらいだろうか。


 まぁ仮にゲームの主題歌やBGMなどがこの世界の住人に受け入れられるものだとしても、逆にアクセル殿たちはその曲を知らないわけだし、どちらにせよ覚える手間が発生するだろう。


 アクセル殿、カヤ殿、ヴィーコ殿の三人が自分の知っている新しい曲を覚えるくらいだったら、自分一人がこの世界の曲を覚えた方がコストは低いし、今はカモフラージュの吟遊詩人活動は三人に任せて、自分はグリィ殿の潜入活動を応援するとしよう。


「よし、ではまた数時間後に宿屋で落ち合おう」


 話し合いが終わった自分たちは、アクセル殿の号令で、夕日が沈み始めた街の中へと散らばっていった。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる

【全強化】:あらゆる能力が上昇する

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる

【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる

【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる

【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】

【権威を振りかざす者】

【禁断の領域に踏み入れし者】


▼アイテム一覧

〈水×48,000〉〈薪×83〉〈小石×1,040〉〈布×108〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1602日分〉〈保存食×96〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×619〉〈獣生肉(上)×590〉〈鶏生肉×41〉

〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×2〉

〈着替え×20〉〈宝飾品×90〉〈本×110〉〈遺物×10〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉

〈金貨×21〉〈大銀貨×21〉〈銀貨×22〉〈大銅貨×4〉〈銅貨×3〉


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