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第百四十九話 ノーアイアン砦で検証 その一

 

 アルダートンを出発し、南へと向かう自分たち勇者一行。


 とはいっても、このゲームは日本でよくあるRPGのように冒頭から勇者であると周囲から認知されているストーリーではないので、確かに最初からスキル欄にそれらしい匂わせはあったものの、未だに自分が勇者であるという実感があまり持てていないのだが……。


 まぁ、その世界観のおかげで、今まで特に勇者の仲間として出会ったわけではない冒険仲間と気兼ねなく旅が出来ているし……こうして馬車を操縦している御者にも気軽に話しかけることが出来ているので、自分としては過ごしやすい環境だと思っている。


「ふむ、隣町へ移動するだけでも飼料や水がそれほどの量が必要になってくるのか……人が乗り切れるサイズ以上の馬車が必要なわけだ」


「いやいや、これでもコンパクトにまとまっている方ですよ、冒険者の方ではなく貴族の方を乗せるとなったら、別で護衛ができる冒険者の方を乗せた馬車もひつようになってきますからさらに大所帯になります」


「なるほど」


 そう言って振り返った先にあるのは、自分が御者台に乗っている馬車の他に、その後ろをついてきているもう一台の馬車。


 プレイリースクーナーというのが正式名称だったか、カバードワゴンや単にワゴンとも呼ばれる、日本人が中世の物語や西部劇などで出てくる荷馬車や幌馬車と聞いて真っ先に思い浮かべるであろう、木製の荷台にかまぼこ型の白い布が張られた馬車二台が、今の自分たちの足である。


 一応、乗り心地を考えなければ最大八人まで乗ることが出来る、二頭引きで大き目の馬車なので、パーティー人数的には一台でも何とか乗り切れるくらいの大きさではあるのだが、御者さん自身の荷物もあり、馬に与える飼料などもそれなりの量が積んであるので、二台に分かれて乗ることになったのだ。


「いやー冒険者さんの旅は身軽でいいですなー、現地調達主義というんですか? 着の身着のまま、立ち寄った街で仕事をして、その街のものを食べる……私も騎士様方や職人さんたちよりは自由に過ごさせてもらっている方だと思いますが、こうして私たちよりも身軽にあちこちを行き来している冒険者さんを乗せると、たまにうらやましくなります」


「ふむ、そういうものか」


 そう言って気さくに話してくれている御者のおじさんには申し訳ないが、身軽なのは自分が亜空間倉庫で大量のものを格納できて、仲間も全員魔法の鞄を持っているからであって、現地調達で全てを賄っているわけではないのだが……。


 それに、今運んでいるこの冒険者パーティーは、八人いるうち五人が本職は貴族で残り三人は職人……というか、自分とアクセル殿の二人に至っては貴族どころか王族というパーティーである。


 新人のヴィーコ殿やロシー殿、カイ殿も含めて、何かあった時のためにとアルダートンできちんと冒険者ギルドに登録しているので、駅馬車の事務所で御者と馬車を手配する時に言った『冒険者パーティーの移動手段として』という話は嘘ではないが、果たしてこのおじさんが真実を知ったらどんな顔をするのだろうか。


 まぁ、真実を打ち明けるにしてもしないにしても、とりあえず今は馬車の運用方法に関して余すことなく説明してもらうことの方が大事だな。


「それで、馬の飼育に関してだが……」


「ああ、そうでしたね……馬をきちんと健康に保ってあげるためには、塩も与えてあげた方がいいと言います」


「うむ、聞いたことがあるな、確か、栄養豊富な岩塩や、人口的に栄養素や糖蜜を加えて固めた鉱塩などを与えると……それはどの程度必要なのだ?」


「一般的な成馬であれば、一日あたり三十から五十グラム、発汗量の多い夏季ならその倍は与えてあげた方がいいと、先輩方から教わりましたね」


「そうか……それはまた、飼育代が嵩みそうであるな」


「はっはっは、そうですね、まぁ、多少安上がりな家族が二人ばかり増えたような感覚でしょうか」


 ふむ、背中に人を乗せない馬車を引く馬で、一頭あたり、飼料が一日に十キロ、水が二十五リットルに、塩が五十グラム、人を背に乗せて全力疾走させる馬ならさらに増え、夏場ならまたさらに増えると……。


 ジェラード王国の開拓済みの土地は、一日馬車を走らせるとだいたい隣の村や街につくような間隔で人の住んでいる場所が点在しているので、そこで補給できることを考えるとその数値分の餌をまるまる持ち運ぶ必要もなく、街を移動する間に水分やミネラルを含む道草を食わせることを考えるとさらに減るらしいが、それでもとんでもない量である。


 積載する量がいくらか減ったとしても、村や街で買って与える量は変わらないだろうから、いくら干し草が安いとは言っても合計の金額的には馬一頭につき毎日エール二杯、この馬車は二頭引きなので、毎日エールを追加で四杯くらい飲むという計算になるな……そう考えると農民よりはなかなか贅沢な生活に思えてくる。


 だが、馬に良いエサを食べさせる分、御者さん自身がなるべく贅沢をしないようにしていると言っていたし、実際には子供を持って節約生活をしている親のような感覚なのだろうな……うむ、別れるときは心ばかりのチップを贈ってあげよう。


 自分はそれからも御者さんに馬車の操縦方法や、馬に与えてはいけない食べ物などを聞きながら、途中、アルダートンから南へ進んで最初の村で一泊して……。


 ちょっとした検証と後々の準備のために、村の宿屋や後半の馬車で、いつか王都かアルダートンで買ったこの世界の楽器を奏でながら、王直轄領の南の端に位置する街……ノーアイアン砦まで、のんびりと馬車の旅を過ごした。



 ♢ ♢ ♢



「……本当にここでよろしいんですか?」


「ああ、少々事情があるんだ」


「まぁ、代金は払っていただいてますし、冒険者さんの事情には口を挟まないのが馬車組合のルールですので、私はそれもいいですが……ここでもう私はアルダートンへ戻ってしまいますが、本当にいいんですね?」


「うむ、大丈夫である、道中色々とありがとう」


「いえいえ、こちらこそ雑談に付き合っていただいた上にチップまでいただいてしまって……では、これで失礼します、皆様お元気で」


 そう言って軽く会釈をして去っていく御者さんをアクセル殿と自分は見送る。


 ここは、アルダートンの南にある小さな村を過ぎ、その南にあるノーアイアン砦という場所がやっと見えてきた道中。


 まだその砦まではいくらか距離があるので、徒歩だとそれなりに体力を消耗するが、前日の夜、村の宿屋に泊まった際にアクセル殿から皆に話があり、ここからは歩いて進むことになった。


「本当にここからは歩くっすかー?」


「ああ、昨日の夜も言ったが、アルダートンから馬車で隣村へ移動していた時に、軍馬に乗って通り過ぎて行った騎士が、あのままノーアイアン砦へ向かったことを村人から聞いたんだ……馬車を呼び止めたり荷台を検めたりしなかったので確証はないが、あれが王都からの追手で、砦で僕たちを待ち受けている可能性は捨てきれないからね」


 グリィ殿の愚痴に、アクセル殿が昨日話した内容を改めて説明する。


 まぁ彼が言った通り、駅馬車を抜かして軍馬で砦へと駆けて行った騎士は、自分が特に変装もせずに御者台で御者さんと話していたにも関わらず、それを素通りして行ったので、彼が自分たちの行方を追う騎士であった可能性は低いのだが……。


 通り過ぎて行った騎士は、ぱっと見、お使いに出された若い騎士という印象を受けたからな……砦に手配書を届けるとか何とかの役割ばかりに気を取られ、道中でその手配人を探すところまで気が回っていなかっただけということも大いにあり得る。


 ゲーム的に考えても、自由に動き回れるプレイヤーが素直に通る確証がない街道にイベントを用意するよりも、街に入った時などに発生するイベントとして各街に用意した方が効率的だからな。


「なるほどねー、それで、あたしは行ったことないから知らないんだけど、ノーアイアン砦っていうのはやっぱり名前に砦って付くくらいだから、騎士がいっぱいいるわけ?」


「うーん……まぁ少なくとも、僕が王都へ向かう途中でその砦の城塞に一泊させてもらった時は、場所が場所だけに騎士だらけだった印象は受けたよ」


「当り前だろう、開拓時代には最前線の要塞としても使われていて、国が三つに分かれた、まだ今のアルダートンが王都だった時代に、王都を守る最後の砦とされていたんだからな……平和が続いて書類上はその役目から解放されている今でも、ノーアイアン砦の騎士たちは自分たちのことを『王都を守る最後の盾』だと思って仕事をしている」


「へー、流石公爵様、やっぱりそういうのには詳しいのね」


 アーリー殿の質問に、アクセル殿が応え、それを拾うようにヴィーコ殿が補足説明してくれたが、どうやらこれから向かうノーアイアン砦という場所には騎士がたくさんいるらしい。


 歴史的な話は確かに自分も彼が言った通りの内容をアナスタシア殿から教わり、しかし、今は普通に城塞都市としてアルダートンと同じような街として機能していると聞いていたのだが……そうか、そこで仕事をしている騎士としては、ノーアイアン砦は今も変わらず王都を守る砦なのだな。


 一方、アルダートンの方は、王都という役割を終えた時に、新しい王都と同じくらい立派な城を残すのは、権威的に問題があるということになり、それまで使われていた城塞は取り壊されたらしいので、今あの街には王都っぽい建物は無い。


 そういう意味でも、ノーアイアン砦の方には、当時の城塞がそのまま残っているので、街や住民、騎士たちの意識はあまり変わっていないのだろう。


「騎士がいてもいなくても、結局そこを通らないとなんだろ? だったらさっさと行こうぜー、日差しが暑くてたまらねーよー」


「そうですね、夏ですし、このままだと、熱中症もですが、日焼けが少し心配です……」


「あー、まだ試作品だけど、あたしの作った日焼け止めポーション使う?」


「えっ、そんなものがあるんですか? ぜひ使いたいですっ」


「何それ! アタシにも使わせて!」


 カイ殿が夏の照り付ける太陽を見上げながら愚痴をこぼし、それに続いたカヤ殿の言葉に対してアーリー殿が最近作り始めたポーションを取り出すと、カヤ殿とロシー殿が食い気味で反応を示す。


 馬車での移動中、同じ馬車で暇そうにしていたアーリー殿にファンデーション開発の話をした時、そういえば彼女は一つの商品に複数の効果をつけるのが好きだったなと、ものによっては化粧下地やコントロールカラー、日焼け止めの効果まで付いたものもあると話したのだが、アーリー殿はその中の日焼け止めの部分に特に興味を持ったらしい……。


 自分が、日焼けというのは太陽光の中の紫外線が影響していて、それを抑えればメラニンの増加などが防げるなど、知っている現代知識を簡単に説明すると、すぐに魔法鞄から大量の紙束を取り出し、彼女が持っている素材の中にそういった効果を持つものが無いか確かめ始めた。


 同じ馬車に乗っていた他の二人のうち、アーリー殿の隣でイビキをかいていたグリィ殿はともかく、静かに今後の行動を考えていたアクセル殿は何事かと驚いていたが、研究欲に火がついたアーリー殿は誰も止められない……彼女はそこから村に着くまでずっと紙束と睨めっこをして、村に着いたとたんに研究のために宿の部屋に籠ってしまったのだ。


 その甲斐あって、と言っていいのか分からないが、どうやらもう一つ目の試作品が出来て、そこまで興味はなさそうなグリィ殿を除いて、パーティーの女性メンバーに喜ばれているようだが、自分としては日焼よりもアーリー殿の目の下に出来ている隈の方が心配である。


「女っていうのはどうしてこうもやかましいかねー」


「はんっ、子供のお前には分からないだろうが、女性というのは大概そういうものなのだ……将来パーティーで妻を連れて挨拶する男としても、女性は美しい方がいいだろう?」


「知らねぇよ、オレはパーティーとか行かねぇし……それにほら、パーティーとかに行くらしいグリィ姉ちゃんだって、周りの女子に揉みくちゃにされてるだけで、本人は興味なさそうじゃんか」


「いや、グラツィエ……グリィ嬢は別にそのままでも美しいからいいんだ」


「ふーん、だったらアーリーだってそのままで可愛いけどなー」


 カイ殿がワイワイと日焼け止めをつけ合うアーリー殿たちを見ながら愚痴をこぼし、それに対してヴィーコ殿が突っかかる。


 気が合うのか合わないのか分からないが、ヴィーコ殿は何だかんだロシー殿やカイ殿のハーフドワーフ姉弟とよく話している印象を受けるな、意見はいつも食い違っているようだが、それが逆に話しやすいのかもしれない。


「さて、僕はその日焼け止めや化粧というものにあまり造詣が深いわけではないのだが、これからノーアイアン砦へ入るにあたって、変装をするのに支障はないか?」


「うむ、アーリー殿が作ったものを見る限り、問題ないだろう」


「そうか、では、出来る者から始めてくれ……そして、全員の変装が終わったら砦へ向かうことにしよう」


「了解した」


 そうして自分は、おそらく手配書が届いているであろうノーアイアン砦に入るため、仲間の顔に化粧を施して、元の顔から印象が変わるようにしたり、ウィッグなどを使って髪の色を変化させたりしていった。


 アルダートンでは特に何事もなかったが、果たして今回の街ではどうなるか……何かが起きるにせよ何も起きないにせよ、とにかく新しいエリアは楽しみである。



▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる

【全強化】:あらゆる能力が上昇する

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる

【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる

【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる

【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】

【権威を振りかざす者】

【禁断の領域に踏み入れし者】


▼アイテム一覧

〈水×48,000〉〈薪×83〉〈小石×1,040〉〈布×108〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1602日分〉〈保存食×96〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×619〉〈獣生肉(上)×590〉〈鶏生肉×41〉

〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×2〉

〈着替え×20〉〈宝飾品×90〉〈本×110〉〈遺物×10〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈音信のイヤリング×1〉

〈金貨×21〉〈大銀貨×21〉〈銀貨×22〉〈大銅貨×4〉〈銅貨×3〉


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