第百四十八話 セーブと出発で検証
ジェラード王国、商業都市アルダートン。
その北門、東門、南門、全ての門から伸びる太い道が交わる場所に、この街に住む色々な人の心の支えとなっている教会が建っている。
そして、教会を訪れればいつでもそこにいるという安心感からか、行事以外では滅多に姿を見せない司祭様よりも、ある意味、街の住人から人気の高いその人は、今日も変わらずそこにいるようで……。
少し木の軋む音を立てながら開いた扉の奥……窓から光が差し込む部屋の中央に、誰もいない講壇へ向かって熱心に祈りをささげる彼女の姿があった。
うむ、相変わらず、こうして静かに祈っている姿を見る限りは、聖女と言って差し支えない神秘的な女性であるな。
自分はその姿を視界の端に捉えながら、扉の脇に置かれた台の上にあるボウルから聖水を手に付け、流石にそろそろ慣れてきた動作で、いつものように軽いお祈りをささげると……振り返った先、自分の後ろに続いて教会入室後の慣習をこなそうと並んでいるグリィ殿たちの列から少し離れた場所で佇む、アクセル殿の姿が目に留まった。
彼は教会に入る時も、宗派が異なるということで、ついてくるかどうか迷いに迷って、最終的に、観光と敵情視察の中間のような意気込みで一緒に入ることを決めていた感じだったからな。
きっとこの慣習に沿うような意思はないのだろう……と、そう思って、この国の教会とソメール教国の教会の違いでも聞いてみようと、何やら一点をじっと見つめる彼に近づいてみたのだが……。
「美しい……」
アクセル殿がまるで視線を縛り付けられたように見つめていたその先には、差し込む光に照らされて神秘的な雰囲気を醸し出している彼女、アナスタシア殿だった。
「うむ、まぁ、こうして熱心にお祈りをしている間は、確かに思わず見惚れてしまうほど美しいな」
彼の視線を辿って、その自分に色々な勉強を教えてくれた先生でもある彼女を見て、そんな感想を言って見るが、アクセル殿はその声に応えない……。
思わず、フリーズしたか? と疑いたくなるほど、じっとアナスタシア殿を見つめたままでいるが、グリィ殿に続く他のジェラード王国住みの仲間は今も慣れた様子で順番に慣習をこなしているので、少なくともゲーム自体がフリーズしているわけではなさそうだ。
「あら?」
そんな彼の挙動に疑問を思っていると、お祈りがひと段落したのか、そこでやっと自分や仲間たちの動く気配を感じ取ったらしいアナスタシア殿が振り返る。
ゆっくりとした動作で、丈の長い修道服の裾をヒラリと躍らせながらこちらを振り向いた彼女は、自分と目が合うと、目尻にホクロのある瞼を薄く閉じて、全てを包み込むような微笑みを見せた。
「あらオーくん、いらっしゃい」
しかし、修道服のベールのように神秘さをその身に纏っていたのはそれまで……。
「ああ、久しぶりである、アナスタ……」
自分がそう挨拶を終えるよりも早くこちらへ駆け寄ってくると、見た目通りの包容力で物理的にその腕で抱き着いてきて、自分は瞬時にその腕の中に埋まってしまう。
「もう、せっかく王都まで行って勉強を教えてあげたのに、無事に受験で合格したのかどうかさえ連絡してくれないんですから、心配したんですよ」
「う、うむ、それはすまなかった……謝るのでとりあえず解放してもらえないだろうか」
「ダメです、一度でもこの街に住んでいた子はみんな私の子供みたいなものなんですから、心配させた分、元気なのを確かめさせてもらわないと」
「ははは、シスターさんは相変わらずっすねー、フランツさんも匙を投げるほど問題児なオースさんを可愛い子ども扱いしちゃうなんて流石っす」
「そんなこと言ってるけど、オーくんが終わったら次はグリィちゃんだからね? それからロシーちゃん、カイくんも、アーちゃんもね」
「ええっ? いや、私はいいっすよー! これでもオースさんやアーリーさんよりも年上だし、それに、ロシーっちやカイっちと違って、この街の生まれでもないっすから?」
「オレもいいよ! もう学校に入学できる年になったんだから!」
「アタシも、ただオースが教会でお祈りするって言うから付いてきただけだしっ」
「え? アーちゃんって、あたしのこと? 研究に没頭してお祈りサボりまくってたのに、よく覚えてたわね……っていうかあたしも流石に恥ずかしすぎるからパスさせて……」
「だーめっ、グリィちゃんも短い間でもこの街に住んでたんだから、私の子供なのっ、ロシーちゃんもカイちゃんもまだちっちゃいんだから子供でいいのっ、アーちゃんも教会に通ってなかった分まだ年を取ってないからいいのっ」
「えぇー……」
「ちっちゃいのは種族的にどうにもならないんだけど……」
「いや、あたしなんか謎理論で年を取ってないことにされたんだけど……」
うーむ、アナスタシア殿の家族構成や年齢基準は一体どうなっているのだと思えるようなとんでもない暴論を唱えているが、国法の一角を担う教会の人間がこういっているのだから、それがこの街の法律なのだろう。
そして、流石は物理的な意味でも精神的な意味でも街の中心となっている教会のシスターだけあって、アナスタシア殿はグリィ殿やロシー殿、カイ殿、アーリー殿たちとも面識があったのか……それにしても一人ひとり名前までしっかり憶えているのは、孤児院で勉強を教えているということもあってか、本当に学校の先生のような人物だな。
まぁ、自分も、そんなアナスタシア殿の子供ではないにしても、生徒であることには違いないから、どんな暴論を説かれようとも敬意をもって接しよう。
そうして、自分たちアルダートンに住んだことのある組は、逃げようとしてもレベルやスキルの差を越えてなぜか追いついてくるアナスタシア殿に順番に抱きしめられ、魔力ではない何らかのエネルギーを彼女の気の済むまで吸収されてから解放された。
彼女が教会のシスターという立場であることを考えると、おそらく聖属性かなにかの力で、闇属性かなにかの力を浄化しているに違いない……まぁ、このゲームには四属性しかないのだが。
ヴィーコ殿とカヤ殿は、神秘的な雰囲気から一変して急に暴走を始めたアナスタシア殿にどう反応を取っていいのか分からないというような表情で固まり、そんな彼女の犠牲者となった自分たちにとりあえず黙祷をささげることを選んだようだ。
そして、そんな本来は神聖な場所であるはずの教会内で、シスター自らが混沌とした空間が生み出している中、相変わらず口数も少なく、反応も薄い人物が一人……。
自分の仲間でなかったらこの教会に立ち寄ることも無かったであろう異国の王子は、一通り子供たちを愛でたアナスタシア殿に近づくと、彼女の前で、ゆっくりと片膝をつき……。
「貴女こそ、聖母という肩書きがふさわしい……まさに、全人類の創造の女神、リアティナ様の生まれ変わりだ……」
そういって、祈りをささげた……。
「あらあら」
これが旅立ちの前に、セーブをするために教会へ立ち寄った自分たちの周りで起こった一通りの出来事であった。
♢ ♢ ♢
「いやー、まさかアクセルさんがあんなことをするなんてビックリしたっすねー」
「……取り乱してしまって面目ない」
これで目的だったセーブが出来ているのかどうかはともかく、少なくとも無事にお祈りは終えて、教会を出た後、いつも通りの調子に戻ったアクセル殿を先頭に、馬車の乗合所へと向かう。
アクセル殿は教会で、アナスタシア殿を本物の女神のように崇め、果てには、自国に来て欲しい、一生側で仕えさせてほしいなど、求婚と捉えられてもおかしくない発言まで飛び出してきて、シスターは終始「あらあら」と困っていた。
結局、彼の言動から何かを察したシスターが、機転を利かせたのか、一枚上手だったのか「私はリアルス教のシスターです、リアティナ聖教の王子と共には歩めません……ソメール教国の国教が変わらない限り、私とあなたが道を等しくすることはないでしょう」と言ったことで、アクセル殿の暴走は幕を閉じることとなる。
その返答もまるでプロポーズを断ったような発言に聞こえなくもなく……実際、よほどショックだったのか、それから自分たちがお祈りを済ませるまでアクセル殿は固まって動かなかったが、女性陣曰く、自業自得らしいので、そういうものなのだろう。
「まぁ、シスターさんは美人だからねー、仕方ないんじゃない?」
「そうですね、なんというか、神秘的な雰囲気と、母性的な包容力も相まって、たしかに、アクセルさんのおっしゃってた聖母って言葉がしっくりきました」
アーリー殿からのアクセル殿に対する慰めの言葉に追従するように、カヤ殿がアナスタシア殿に初めて会った目線からの感想を話す。
確かに彼女には神秘的な面も母性的な面もあったとは思うが、いうほど聖母という雰囲気だっただろうか……。
「はんっ、だからと言って他宗派のシスターにつめよるなど、王子としてどうかと思うがな……それに……女性というのは、見た目だけではなく……中身も大事だろう」
「オレも同感だな、確かにシスターは綺麗な人だけど、あの人は将来のお嫁さんって言うよりも、近所に住んでる美人なお母さんって感じだろ……結婚するなら……もっと身近に感じれる……なんつうか、一緒にいて楽しいって思える人とかがいいんじゃねぇか?」
「へー、公爵さんもカイも意外ね、アタシは男って皆、ああいう人が好きなんだと思ってたわ」
対して、ヴィーコ殿とカイ殿は、アクセル殿に少々厳しめの反対意見を言っており、ロシー殿もそんな二人の発現を意外に感じたようだ。
アクセル殿がアナスタシア殿に対して明確に求婚を申し込んだわけではないのに、彼らの中ではそうなっているのが何ともいえないが、確かに自分もシスターに対する印象は、カイ殿の言う近所の美人なお母さんという言葉がしっくりくるな。
「くっ……」
まぁ、アクセル殿本人の心情はよく分からないが、とりあえず慰めの言葉にも叱咤の言葉にもダメージを受けているようなので、自分からは何も言わないでおこう。
と、そんなこんなで、何やら玉砕した雰囲気を引きずっているアクセル殿に周りの仲間が思い思いの言葉を投げかけながら、自分たちは馬車の乗合所へとたどり着いた……。
「ふむ、随分と買い込んだな」
馬車の乗合所について、まずアクセル殿に連れてこられたのが、先に買っておいてくれた食料や消耗品が預けられていた場所。
荷物の大部分が、パンに干し肉、ピクルスにワイン、塩や胡椒などの、それなりに保存が効く食料や香辛料などで、その他の消耗品としては薪や布、火口や松脂といった内容だった。
通常の冒険者であれば、食べ物や飲み物、薪や火口などに関しては現地調達できなくもないので、そのあたりを中心に多少荷物を減らすのだが、流石は王族の旅である……食料に関して栄養もきちんと考えて様々な野菜のピクルスやワインも用意するし、雨が降ったら入手が絶望的な薪や火口をしっかりと買い込んでおくようだ。
まぁ、この旅に関しては、自分が既に食料を結構な量持っているし、火を起こすのも魔法や魔法道具で簡単にできるので、それほど必要なかったのだが……せっかくの好意だからな、自分と離れて行動することになった時を考えて、皆の魔法鞄にでも分配して入れておいてもらおう。
「いいのか?」
「ああ、安全面を考えても、それがいいだろう」
「わかった、では、均等に分けて皆の魔法鞄に仕舞ってくれ……ワインは樽で買ってしまっているから、近くの店で瓶を追加購入だな」
「なあアクセルの兄ちゃん、分けてもらうのはいいけど、オレと姉ちゃんは火口と薪だけもらっても着火器具が無いぜ?」
「あぁ、そうか忘れていた、君たちは旅に出るのも初めてだったな……よし、それも追加で買ってこよう」
ふむ……全部自分が持っているからこのまま旅に出ても問題はないのだが、別行動をした時などの安全性を考え始めると、意外と足りないものが出てくるのだな。
と、そうして荷物の最終チェックをしながら他に不足している品はないかなどを確認していると、少し離れた場所に止められた馬車から、つい最近も会話をした、見知った顔が手を振りながら近づいてきた。
なんのイベントが発生したのか分からないが、アクセル殿たちはまだ荷物の点検や買い出しに行っているようだし、少し離れて、彼との会話イベントの方を検証しよう。
「あぁオースさん、よかった、まだ出発してなかったんですね」
少し息を切らしながらそう声をかけてきたのは、昨日も会って洗髪料の製造方法を買ってもらったファビオ殿……その後ろに、商人見習いのユーリ殿がまるで秘書や執事のように静かに追従している。
「ファビオ殿、こんなところまでどうしたのだ?」
「実は、昨日、聞こうと思っていて忘れていたのですが……」
ファビオ殿曰く、美容液を買ってくれている顧客から、人によって効き目の善し悪しが激しいと、苦情に近い意見が届いているらしく、それを自分に会った時に相談しようと思っていたらしい。
そんなことのためにわざわざ大手商会長が自ら自分を探したのかと疑問に思わなくもないが、確か美容液の主な購入者は貴族だと言っていたからな……商会長という立場だからこそ早めに対応しなければならなかったのだろう。
「ふむ……美容液が人によって効果が異なるのは当たり前だし、顧客の声だけ聞いてもその原因が何なのか確証は持てないのだが……」
「まぁ、そうですよね……」
「だが、そうだな……可能性として考えられるのは、クレンジングだろうか」
「クレンジング……ですか?」
「うむ」
自分もグラヴィーナ帝国で変装の検証をしていたときに思ったのだが、この世界にはクレンジング専用のクリームやオイルが商品として存在し無い。
なので、とりあえず化粧を無理やりにでも落としたいという人は石鹸でゴシゴシ顔を洗っているし、少し利口な人でも、植物油をそのまま使って、うまいこと自力で乳化させながら落としているのだと、その時検証に協力してくれていた従者のクラリッサ殿が言っていた。
そのクレームを言ってきている貴族も同じだとするならば、化粧を落とすたびに肌にダメージを与えていたり、そもそもきちんと化粧が落とせていなかったりして、美容液の効果が十分に出ていない可能性はあるだろう。
「なるほど、化粧を落とすという部分も、それほど大事なのですね……ですが……こんなことを聞くのはもしかしたら失礼かもしれませんが……オースさんは何故そんなことに詳しいのでしょうか……?」
まぁ、現実世界の現代でも、男性で化粧をする人は女性に比べて少ないからな……中世に近いこの世界ではなおさら男である自分がこういった知識に詳しいのはおかしいだろう。
だが、自分が一般的にはあまり手に入らない知識をたくさん持っているのは事実だし、そういった知識が豊富な理由など、たったひとつしかないだろう。
「それはもちろん、検証の成果だ」
「……」
自分はアニメや漫画などの原作があるゲームを検証するとき、必ずその原作を勉強してから検証に挑んだ。
料理や化粧、その他雑学に詳しいのも、それと同じ……そういったテーマのゲームを検証するときには必ず、きちんとその前提知識を身に着けてから検証に挑んだのである。
流石に専門家とまではいかず、中にはおそらく間違った知識もあるだろうし、開発現場の仲間には力を入れ過ぎだと呆れられたこともあるが、それでも、自分のその努力によってゲームのクオリティを少しでも上げられるなら、自分が努力を惜しむことはない。
「というわけで、その貴重なご意見をくださったお客様には、化粧をしっかり優しく落とすことも肌のためになると説明して、うーむ、そうだな……クレンジングクリームの試作品として、とりあえず美容液や洗髪料の製造で使うスライム加工液を渡すのがいいか……この旅の空き時間でちゃんとしたものを作るから、それまではそれで凌いでほしい」
「なるほど、かしこまりました……それでは、今回の相談のお礼も、そのクレンジングなんとかの製造方法を買い取る時にさせてください」
「うむ」
旅の間に作りたいものが増えてしまったが、まぁアーリー殿が忙しければ自分の方で研究すればいいだろう。
もっとも、彼女のことだから、長期的な美容のためならば、短期的な美容を犠牲にしてでも開発したがるだろうが……うーむ、それもそれで悪いので、やっぱり自分の方で開発するか、別途、美容ドリンクでも開発してプレゼントしてあげようか。
「と……そうだ、そういえば、自分もファビオ殿に相談、というか、少々尋ねたいことがあったのだ」
「わたくしに、ですか? なんでしょう」
「その、ファビオ殿は、錬金炉、という道具を取り扱っていたり、または取り扱っている知人がいたりしないだろうか」
「錬金炉?」
自分はファビオ殿と再会したついでに、錬金術の検証を進めている時に欲しかったが手に入らなかった、その錬金道具について尋ねてみた……。
「申し訳ないのですが、わたくしは取り扱っておりませんし、取り扱っている知人を紹介したとしても、おそらくオースさんが手に入れるのは難しいでしょう」
「うーむ……やはりそうか」
ファビオ殿は自分のその質問に対して、申し訳なさそうに謝っているが、実は、自分はそんな返答が来るのではないかと予想していた。
錬金炉とは、錬金術によって固形のアイテムを生み出す道具だ。
それは、今使っている、ポーションなどの液体しか生み出せない錬金器具とは異なり、鉱石や粉末状のアイテムを生み出せる道具なのだが……どういうわけか、その錬金炉を購入するためには、専門の資格が必要らしく、現在、錬金術の検証はポーションを始めとする液体の作成しかできない。
自分は王都でもアーリー殿と一緒にありとあらゆる店を巡ったのだが、どの店でも資格証を見せろの一点張りで、どんな大金を積んでも、隣国の王子であるという権利を振りかざしてみても、決して譲ってくれなかったのだ。
その錬金炉が生み出すアイテムに危険性があるのもそうだが、道具自体の取り扱いもかなり危険らしく、アーリー殿の両親はきちんと資格を取得して使っているらしいが、娘である彼女にも絶対に触らせてくれないとのこと。
正規の手順を踏まなければ、どんなに頑張っても手に入らない……そんなことを聞いてしまったら、よけいに正規の手段以外で手に入れたくなり、それでファビオ殿に聞いてみたのだが……ふむ……やはり仕様上不可能ということなのだろうか。
「ただ……」
「む?」
「ただ……これは、そう……その件とは何ら関係ない噂話なのですが……数か月前に、ソメール教国と隣接する領地を管理しているダルラン侯爵の屋敷へ、ある物を輸送していた馬車が、盗賊に襲われ、何か大事なものが盗まれたという噂を耳にしました」
「ダルラン侯爵領は、確かこれから向かう先だったな……まさかそこに……」
「いえいえ、それが何かまでは、流石にわたくしも存じ上げませんが……もし、そんな大事なものが盗まれてしまい、今もそれを盗賊どもが持っているとするのであれば、きっと侯爵様はそれを取り返して大切に運んでくれる人のことを、大層労うことでしょう……取り返してから彼の元へ届くまで多少の時間がかかったとしても……」
「……なるほど」
「さて、少々長話をしてしまいましたな……では、用件も済みましたので、わたくしはこれで失礼します」
「うむ、ありがとうファビオ殿、また会おう」
「はい」
そういって頭を深々と下げたファビオ殿は、ユーリ殿が扉を開けた馬車に乗り込み、窓からもう一度こちらに軽く会釈してから、去っていった。
ふむ……いつも思うが、ファビオ殿は今のところ冒険者としか自己紹介していないはずの自分に対して偉く腰が低いな。
まぁ、そのおかげか何なのか分からないが、突発イベントのような形で欲しかった情報も手に入ったことだし、あまり気にせずとりあえず喜んでおこう。
そうして自分がファビオ殿との話を切り上げて他の仲間の元へ戻ると、荷物の点検も終わり、馬車と御者のレンタル手続きも済ませてくれたようだ。
「さて、みんな、もう忘れ物はないか?」
「ああ、大丈夫である、全く問題ない」
「私も……たぶん大丈夫っす!」
「まぁちょっとくらい忘れても何とかなるっしょ」
「わ、わたしも大丈夫だと思います」
アクセル殿の投げかけに、自分たちは問題ない旨を伝える……セリフはまぁアレだが、実際、全身ミスリル合金の装備という、今用意できる一番いい装備を身に着けているし、本当に問題ないだろう。
アーリー殿が楽観的で、カヤ殿が少し不安げなのはいいとして、グリィ殿が答えようとしながらお腹をさすり、元気よく返事をするまえに自分の方をチラリと見たのはなんなのだろうか。
そして残るヴィーコ殿、ロシー殿、カイ殿は……。
「途中で何か必要な物が出れば、平民に走って買いに行かせればいい」
「はぁ? 何言ってんだ、オレは行かねぇぞ」
「そうよそうよ! むしろ一番弱いアンタが買いに行きなさいよ」
「なっ、何だと! おい混ざりもの、今言ったことを取り消せ! ボクは少なくとも貴様らよりは強い」
「あー! こいつ、また混ざりものって言ったぞ!」
「ほんとよ全く、アンタこそ、その言い方やめなさいよ!」
「はんっ、貴様らが、ボクの方が遥かに強いと認めたら、まぁ考えてやってもいいだろう」
「それを言うなら、そっちが先でしょ!」
「そうだそうだ、それに、絶対にオレたちの方が強いもんねー!」
「「「ぐぬぬぬぬ」」」
うむ、特に忘れ物も無く、新人三人も元気なようだな。
そうしてやっと旅の準備を終えた自分たちは、大きなワゴン型の馬車に乗り込み、南へ向かって出発した。
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる
【全強化】:あらゆる能力が上昇する
【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える
【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える
【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる
【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る
【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる
【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる
【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる
【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る
【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる
【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る
【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る
【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる
【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる
【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる
【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる
【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る
▼称号一覧
【連打を極めし者】
【全てを試みる者】
【世界の理を探究する者】
【動かざる者】
【躊躇いの無い者】
【非道なる者】
【常軌を逸した者】
【仲間を陥れる者】
【仲間を欺く者】
【森林を破壊する者】
【生物を恐怖させる者】
【種の根絶を目論む者】
【悪に味方する者】
【同族を変異させる者】
【覇者】
【権威を振りかざす者】
【禁断の領域に踏み入れし者】
▼アイテム一覧
〈水×50,000〉〈薪×83〉〈小石×1,040〉〈布×110〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1605日分〉〈保存食×96〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×619〉〈獣生肉(上)×600〉〈鶏生肉×41〉
〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉
〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×2〉
〈着替え×20〉〈宝飾品×90〉〈本×110〉〈遺物×10〉
〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉
〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉
〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉
〈音信のイヤリング×1〉
〈金貨×31〉〈大銀貨×11〉〈銀貨×22〉〈大銅貨×5〉〈銅貨×3〉