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第百四十六話 オートミールと旅立ちの準備で検証

 

「む……知らない天井……ではないな」


 自分は朝日……にしては、もうそれなりに高い位置から差し込む日の光に、せかされるようにして目を覚ます。


 目覚めたのは、去年はよく利用していたベッドの上。


 まだ少し重い瞼を擦りながら眩しい太陽に標準を合わせて【観測】画面を表示させたところ、どうやらもう昼過ぎのようだ。


 —— コンコン ——


「む? 誰であるか?」


「あ、起きてましたか……従業員のソニアです」


「ああ、ソニア殿か、とりあえず入ってきても大丈夫である」


「失礼します」


 そういって静かに部屋に入ってきたのは、この宿屋〈旅鳥の止まり木〉で店主をしているカロリーナ殿の一人娘、ソニア殿。


 確か自分よりも二つほど年が下だったはずだが、現実世界で考えると中学生くらいのその年齢にしては、しっかり接客の仕事が出来ている真面目な娘さんである。


「それで……自分はここに来たあたりの記憶が曖昧なのだが……ソニア殿は事情を把握しているか?」


「はい、といっても、私が朝の水汲みをしに店を出たら、オースさんを担いだ小さな双子の子供と鉢合わせて、部屋はグリィさんがあらかじめ取っていたので、そこに運んでもらった、というくらいですが」


「ふむ……」


 小さな双子というのは、おそらくロシー殿とカイ殿のことだろう。


 確か、自分は昨日、二人の師匠であり鍛冶屋〈輝白の鎚〉の頭であるトルド殿に武器や防具の鍛え方を教えてもらうことになり、回復ポーションでドーピングしながら、日が昇るまで鍛冶の検証をすることになったんだったな。


 それで、いつも通り教えを守ったり守らなかったりして、時に貴重な素材を無駄にしてゲンコツを貰いながらも、一通りの検証を終え、元々上位の統合スキルらしい【工作】スキルを持っていたからか【鍛冶】や【鍛造】スキルは獲得できなかったものの、【鑑定】画面で合金の金属比率が分かるようになり……。


 まぶしい朝日を背に、トルド殿に三人目の弟子にしてやると言われながら握手をして……。


 そこからの記憶がないので、きっとそこで魔力が限界を迎えて気を失ってしまい、ロシー殿やカイ殿にここまで運ばれてきた、ということだろう。


 いつかのサバイバル検証で、採掘をして、簡単な炉を作るところから、青銅のナイフを作ったことがあったが、ミスリル合金の加工はファンタジー素材だけあってかなり特殊だったからな……何せ、魔力を通せば通すほど物理耐久も魔法耐性も上がるという特徴が、素材の段階から猛威を振るっているのだ。


 この世界のドワーフ流の鍛冶では、火属性の魔法で火力を高めた火炉で金属を熱し、土属性の整形魔法を使いながら槌を振るうようなのだが、そのどちらの魔法も、魔力を込めれば込めるほど効果があるのに、込めるごとにミスリル合金の抵抗力も増していく……鋼鉄などの一般的な金属以上に、魔力も筋力も忍耐力も必要なのは当然の流れだろう。


 なので、貴族や王族向きのミスリルの純度が高い武器や防具を作る場合、交代制で、何人もの鍛冶師がバトンタッチしながら、やっとひとつ完成させるということもあるらしい。


 だが、今回加工したメタルウォーリアの素材は、火属性と土属性に適性のあるドワーフであれば一人でも剣を打ち切れるくらいの程よいミスリル含有量で、自分も種族適正こそないものの王族の中でもかなり魔力量が多い方だから、ポーションを飲んだり休憩したりしつつ、朝まで槌を振るい続けることが出来たということだ。


「それで、朝ご飯……というか、もうお昼ご飯の時間ですが、お食事をご用意するか聞きに来たんですけど」


「ああ、うーむ、そうだな……では、いつものオートミールを頼む」


「かしこまりました」


「あと、身体を拭くお湯も持ってきてほしい」


「はい、では、そっちはすぐに持ってきますね……失礼します」


 ところどころ敬語がまだぎこちないソニア殿に遅めの朝食とお湯を頼み、自分はベッドから降りる。


 ……予想通り身体のあちらこちらが筋肉痛になっているな。


 メタルウォーリア……倒すときにも苦労をさせられたが、まさか武器や防具に加工するときにもこれほど苦労させられるとは……流石はAランクの敵である。


 と……ふむ? そういえば、自分は変装していたはずだが、ソニア殿はよく運ばれてきたのが自分だと分かったな……。


 そう思い、【超観測】で自分の姿を第三者視点で眺めてみると、服装は変装した時の格好ではあるものの、どこかで落としたのか長髪のウィッグもつけていないし、顔の雰囲気を変えていた化粧も夜通しの鍛錬で汗をかいて落ちてしまっていたようだ。


 まぁ、昨日あちらこちらを歩いても王都からの追手らしき騎士も見当たらなかったし、冒険者ギルドが非介入を通してくれるということなので、警戒の幅も狭まっただろう。


 自分はそんなことを思いながら、体をほぐすためにストレッチをして、ソニア殿が持ってきてくれたお湯で身体を拭いてから、一階の食堂に降りて行った。


「んむ、オースさん、起きたんすね、おはよーっす!」


 食堂に降りると、既にグリィ殿がテーブル席で昼食を食べ始めていた。


 彼女も変装を解いているようで、いつも通りのラフな冒険者の格好をしている。


「うむ、おはようグリィ殿……他のみんなはどうしているか知っているか?」


「さっきまでアクセルさんの指示でみんな一緒に食料とか消耗品とか、旅に必要なものを色々と買い揃えて居たっすけど、お昼になったんで皆バラバラに昼食タイムっすね」


「なるほど、それでグリィ殿はここでいつも通りオートミールか……確か食事代も含めて旅の資金はアクセル殿が援助するという話だっただろう? もっと豪華なものを食べに行かなくてよかったのか?」


「うーん、それも考えて、しかも朝もオートミールにしたんすけどねぇ……なんか、またしばらく食べられないって思ったら、今のうちに食べておかなきゃって思って」


「ふむ、グリィ殿は変わり者だな……」


「はいよ、豪華な食事じゃなくて悪かったね」


 と、そんなことを言っていたら、女店主のカロリーナ殿がオートミールを自分の席に持ってきてくれたようだ。


「……って、オースさんも頼んでるじゃないっすか」


「まぁ、自分もグリィ殿と同じということだな」


 そうして自分は、呆れたような、でもどこか優しい表情で微笑むカロリーナ殿に感謝を込めて「いただきます」と言ってから、グリィ殿と一緒にその使っている材料も少なく、一般的には美味しくないと言われるであろうオートミールを食べる。


 味だけで言えば自分で作った方が絶対に美味しい自信があるのだが、なぜかわざわざこの宿のオートミールが食べたくなる……そんな思考になってしまうのが不思議で【鑑定】してみるが、特に特殊効果などは書かれておらず。


 しかし、それを食べるグリィ殿は、焼き肉パーティーをしている時と同じくらい幸せな表情を浮かべており、周りを見てみると、似たような表情を浮かべてオートミールを食べている冒険者がちらほらと見受けられる。


 一流のデバッガーでありながら、そのオートミールが発揮するゲーム上の効果は全く分からないが……ひとつ確かに言えるのは、きっと今これを食べている自分も、彼女たちと同じような満足げな表情を浮かべているということだろう。



 ♢ ♢ ♢



 しばらくして、遅めの朝食を食べ終えた自分が宿を出ると、ちょうどアクセル殿たちが自分たちを迎えに来たところだった。


 どうやらトルド殿と徹夜で作った武器や防具は、ロシー殿やカイ殿が届けてくれたのか、既に受け取ってもらえているようで、今回の旅の面々はそれぞれ新しい装備を身に着けている。


 アクセル殿に関しては、初期装備の鎧が、付与されている魔法効果も含めると高性能すぎて、どうしても総合的な性能で上回るものを作れなかったということで、鎧に関してはそのまま前と同じものを使い続けてもらっているが、メイスと盾は、特殊効果こそないものの、丈夫で扱いやすいものが作れたので、それを装備してくれている。


 【鑑定】画面で合金の詳細が見れるようになった今、やっとわかったのだが、どうやらアクセル殿の初期装備は一応ミスリル合金で、しかしメタルウォーリアの素材よりもミスリル含有率が低く、魔力が尽きても防御性能がそこまで落ちない、緊急時の安全性重視な装備になっているらしい。


 そして、宿屋の扉が開いた音がした後ろを振り返ると、グリィ殿も既に装備を受け取って自分の借りている部屋に置いていたようで、宿から出てきた彼女はミスリル合金の短剣を二本、腰の鞘に納め、革の面積が広く胸部や小手など部分部分にミスリル合金のプレートをつけた、動きやすさ重視の軽鎧を身に着けている。


 ヴィーコ殿はアクセル殿に近い全身鎧に細剣という装備で、ロシー殿とカイ殿はグリィ殿と同じ軽鎧に、トルド殿が使っていたものを真似た戦鎚……そして後方支援のアーリー殿とカヤ殿は、特徴としてはグリィ殿と同じく部分部分が金属で補強された装備だが、もっと軽量化して一般的な服の上から身に着けられる追加装備のようなタイプにした。


 後方支援二人組は魔力量も多いので、合金を分離して取り出した純ミスリルなどでチェーンメイルなどを作れば軽くて丈夫だったのだろうが、流石にチェーンメイルを作るには時間がかかりすぎるので、肩当や胸当て、小手など接近戦になった際に最低限の防御行動が行える程度の装備にとどめることになったのだ。


 まぁ、一応、同じく接近戦になった際に身を守るためということでグリィ殿と同じ短剣を作ってあるが、それは本当にいざとなった時のサブ武器で、メインは魔法や錬金道具などの遠距離武器なので、接近戦に耐えられる防御力よりも、早くその場から逃げられる軽さ重視の装備でいいだろう。


 ちなみに、自分の分としては、グリィ殿の装備に近い軽鎧だけで、武器は特に作っていない……それを昨日のうちに亜空間倉庫に入れていたので、今はその新しい防具だけ身に着けている状態だ。


 というのも、グラヴィーナ帝国で自分に戦闘術を指南してくれた祖父上から、魔力操作を鍛えるためには木刀が一番だと言われており、木刀に流した魔力の刃で、耐久力を極限まで高めたミスリルを両断できるくらいに鍛えられるまで、他の武器を使うのは控えるように言われているのである。


「おはようオース君、ロシー君とカイ君に聞いたが、今日の朝まで僕たちのためにこの装備を作ってくれていたそうじゃないか……まずはありがとう、そして、疲れは残っていないかい?」


「うむ、おはようアクセル殿……少し筋肉痛ではあるが、まぁAランク級の魔物と戦うことになったりしない限りは問題ないだろう」


「はっはっは、それは良かった、街道を進む旅でAランク級の相手と戦うことなど滅多にないので安心してくれ……それで、今の状況を共有すると、もう旅をする上で必要になるであろう保存食や消耗品などは買って、馬車の乗合所に預けてある……荷物はあとで君の収納魔法でしまってもいいが、どちらにせよ次の街までは馬車で移動するからな」


 そう今の準備状況を説明してくれるアクセル殿は、いつもキラキラしているその笑顔のキラキラ度がいつもよりも増していて、その表情から、どうやら自分とトルド殿が作った新しい装備をなかなか喜んでくれているらしいことが分かる。


 しかしそうか、馬車で冒険、か……。


 ジェラード王国とグラヴィーナ帝国を移動するときにも馬車を使っていたが、あの時は従者のダーフィン殿やコンラート殿が行き先の指示や隊列の管理をして、馬車の操作や馬の世話も専属の御者や使用人が行っていたので、それほど深く関わらなかった。


 アクセル殿はおそらく馬車と御者をレンタルしようと考えているのだろうが、長旅になるなら、いっそのこと馬も荷車も買ってしまって、自分で馬車を運用する検証をしてみてもいいかもしれないな。


「ちょっとアンタ」


 ……と、自分がアクセル殿の発現から、そんな風にこの旅で出来そうな新しい検証に思いを馳せていると、いつの間にか側に寄ってきていたロシー殿がちょいちょいと袖を引いてきたので、自分は片膝をついて彼女の目線に合わせる。


「どうしたロシー殿」


「あの……その……とりあえず……ありがと」


「ああ、作った装備か、着心地や握り心地は問題ないか?」


「まぁね、初心者にしてはなかなかってところかしら……でも、勘違いしないでよね! いくら師匠に認められて……アタシがまだ出来ないミスリルの加工ができたとしても……アンタの方が弟弟子なんだから! 調子に乗るんじゃないわよ!」


「うむ、そうだな、これからも精進するのでよろしく頼む、姉弟子のロシー殿」


「ふんっ、分かればいいのよ……あと、これ、師匠から」


「ふむ?」


 自分はとりあえず作った装備に及第点は出してくれたらしいロシー殿から、少し乱暴に渡された小さな硬貨袋を受け取ると、中には金貨が十枚ほど入っていた。


「まだあのデカブツの素材がたくさんあったでしょ? 授業料を引いたから購入費全額じゃないないけど、新しい弟子への選別も込めて、旅の資金にでもしてくれってさ」


「なるほど、これはまた後でお礼を言わなきゃだな」


 そういって自分がまた追加で手に入ったその軍資金を亜空間倉庫にしまうと、ロシー殿はこれで用件は済んだとでもいうように、ぷいと踵を返して皆のところへと戻っていく。


 これで所持金は金貨三十枚と少しか……これだけあれば、魔法効果の付与された装飾品も一通り買い揃えられそうだな。


「それでオース君、一応、旅の準備は最低限整っていると思うが、もう出発するか?」


「いや、少しでも旅が楽になるように、念には念を入れて準備しよう……質のいい魔法道具や装飾品を扱っている店を知っているから、そこで最後の買い物をする」


「うん、そうだな、場合によってはそれなりの覚悟が必要な旅になるだろうし、慎重になりすぎて悪いということはないだろう……それで、その店とは?」


「それは……服飾雑貨店〈鋼の乙女心〉だ」


 こうして他の仲間と合流した自分たちは、最後の買い物をするために、ボリー殿が経営する服飾雑貨店へと向かった。



▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる

【全強化】:あらゆる能力が上昇する

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる

【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる

【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる

【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】

【権威を振りかざす者】

【禁断の領域に踏み入れし者】


▼アイテム一覧

〈水×50,000〉〈薪×83〉〈小石×1,040〉〈布×110〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1605日分〉〈保存食×96〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×619〉〈獣生肉(上)×600〉〈鶏生肉×41〉

〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×2〉

〈着替え×20〉〈宝飾品×90〉〈本×110〉〈遺物×10〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉

〈木刀×1〉〈ミスリル合金の軽鎧×1〉〈ミスリル合金の短剣×1〉

〈金貨×32〉〈大銀貨×11〉〈銀貨×22〉〈大銅貨×5〉〈銅貨×3〉


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