第百四十三話 錬金術談義で検証
「ふむ、四属性の区分も全く意味がないわけではないのか」
「そうさね、長くその考え方が続いてきたのにも理由があるんだよ」
アルダートンの西側、一般区の入り組んだ迷路のような路地を進んだ先にある薬屋〈魔女の釜〉で、自分はその店の店主でありアーリー殿の祖母でもあるアドーレ殿と、錬金術の真理について議論を交わしていた。
軽く挨拶をしたらアーリー殿を連れてファビオ殿のところへ向かう予定ではあったのだが、先にアーリー殿とアドーレ殿がそんな会話をしており、デバッガーとしても大変興味深かったので、ついつい話し込んでしまっているのは仕方ないだろう。
「とすると、アーリー殿が新しく開発した粘着ポーションは、停滞の属性である水属性に分類されるのか」
「あー、言われてみれば確かに、メインの材料であるスライムの粘液も水属性だし、それ以外に使った植物とか油とか木の樹液も殆ど水属性のやつを使ったわね」
「ほっほっほ、そういうことじゃ……お主らが言っておるその発現させたい効果を見極めて錬金する手法なら、確かに狙った効果を持つポーションを的確に作り出すことが出来るかもしれんが、その知識だけではその狙った効果を持つ素材を探すのは大変じゃろうて」
「そうね、今この世に本とかで出回ってる素材の分類知識は全部属性分類だもの、欲しい素材がどこにあるか調べるならその先人が残してくれた知識を借りた方が早いわ……あたしたちが分類した効果ごとの細かい区分に、大きな区分として属性分類も取り入れられるなら、本に属性しか書いてない素材から実際の効果が予想できるかもしれないし」
「過去の知識や技術を古い考え方だと言って切り捨てるのではなく、その中から今の技術にも生かせそうな要素を取り出して融合するか……うむ、勉強になるな」
アドーレ殿は錬金術師ではなく薬師で、薬を作る方法も魔力を使うことを前提とした錬金術ではなく、昔から伝わる素材同士の組み合わせだけに頼った調合ということだが、その知識は幅広かった。
聞くところによると、素材との対話が好きだという趣味趣向としての理由もあるが、錬金術師としてやっていけるほど魔力量が多くないという物理的な理由もあって、錬金術の知識は豊富に持っているが薬師として活躍している、ということらしい。
だからこそ、錬金術をする上で必要となる基礎知識が詰まった薬の調合を誰よりも極めており、即効性のあるポーションが主流の世の中で、店の場所こそ奥まった路地の先にあれど、アーリー殿と自身の二人分の生活費を稼げるほどには地元で親しまれているのだ。
魔力が加わり魔法と似た効果を発揮するポーションは、傷を癒す体力回復ポーションを始め、確かに強敵と戦う冒険者や騎士の生命線として非常に活躍しているが、農地や工房で働いている人口的にも大多数を占める一般の人にとっては、安静にしていられる時間が取れる分、そこまでの即効性が必要ない場面も多いし、薬の方が安く済む。
それに、世に出回っているポーションは製造方法的に、傷の直りを早くする効果だったり、軽い毒を治療する効果だったりと、その効果はざっくりとした説明しかできない大雑把なものになっており、切り傷に効くのか、打撲に効くのか、炎症に効くのか、刺激性毒に効くのか、免疫毒に効くのか、遺伝毒に効くのか、といった細かい説明はされない。
というよりも、そんなピンポイントな効果を持つポーションを作れないのだ。
この世界でのポーション製造方法は、ざっくり説明すると、素材からその素材が持つ効果を全て魔力液に移した後、複数の魔力液を特殊な器具を通すことによって、属性の反発作用や結合作用を利用して特定の効果を狙って液体を分離させてから、必要があればあらためて複数の効果を合成するというもの。
属性の作用を利用するので、火属性や土属性であることが多い毒の効果と、風属性や水属性であることが多い治療の効果を分けるのは簡単でも、もっと細かい作用で分けるのは難しい。
自分やアーリー殿は検証の末にそのあたりをかなり熟知したので、どうすればピンポイントの効果を持つポーションが作れるかは何となく想像できるが、それをやるとしたら多くの素材と手間と時間がかかるので、コストもそれだけ上がってしまうということも分かる。
ポーションは魔法の薬とは言っても消費期限が存在しないわけではないということもあり、それを販売することで生計を立てている錬金術師の多くは、主に、出来るだけコストが低く、なおかつ需要があるようなポーションを作ることを仕事にしており、特定の効果に的を絞ったポーションは受注生産の特別価格で販売するのだ。
そんな事情もあって、アドーレ殿のように魔力が少なくて錬金術師としては活躍できない薬師も、即効性はないが怪我の治りを良くするものや、広い症状には効かないが特定の症状やマイナーな症状に効くような薬を販売し、今もこうして生計を立てられている、ということらしい。
「それで、オース君は結局なんでうちに来たんだっけ? このまま行くとあたしは飽きるほど聞かされているおばあちゃんの昔話を聞くターンに突入しそうだけど」
「む? なんだそれは……人物背景も隅まで検証したい自分にとってはとても興味が引かれる内容だな」
「ほっほっほ、やっぱりあんたは変わってるねぇ、そんなに聞きたきゃ家に泊まっていけばいいさ……寝室は一つでベッドも二つしかないが、おぬしはアーリーと一緒に寝ればええじゃろう」
「えっ、ちょっとおばあちゃん! いくら何でもそれはちょっと……」
「うーむ、まぁ確かにお泊りイベントというのも興味は尽きないのだが……すまないアドーレ殿、何分、先を急ぐ旅の途中で今はこの街に長く留まっていられないからな……旅支度を済ませるために今日はこの後も色々とやっておかなければならないのだ」
最初からそのためにここに来たのだしな、パーティーの旅装備を一式揃えるためにも、なるべく早くアーリー殿と共同開発したシャンプーの製造法をファビオ殿に買い取ってもらわなければ。
「そうかい、そいつは残念だねぇ」
「ほっ……」
「なので、今の用事が終わったらまた誘ってほしい、その時は泊めてもらうお礼に手料理でもご馳走しよう」
「え?」
「ほっほっほ、じゃあ薬の材料と一緒に精のつく食材でも仕入れて待っておこうかねぇ」
「うーん……旅の間に痴漢撃退用ポーションでも作っておいた方がいいかしら」
「ふむ? 何か言ったかアーリー殿」
「いや、別に? それより、旅の準備に行かなくていいの?」
「ああ、そうだった……自分はファビオ殿にシャンプーの製造法を買ってもらおうと、アーリー殿を呼びに来たのだ」
「あー、そういえばそんな用事もあったわね、んじゃ、さっさと行っちゃいましょうか」
「うむ」
そういって自分はアドーレ殿の店を出る。
「じゃあ、おばあちゃん、行ってきまーす」
「はいよ、ああ、今日外で泊まるなら、この薬を持っていくかい?」
そしてアーリー殿も自分に続いて店を出ようとしたが、アドーレ殿がそれを呼び止め、近くの棚から何かの薬を取って彼女に差し出したようだ。
「なにこれ……【マテリアル・アナライズ】……なになに、使われている素材は、〈鹿角〉に〈鹿鞭〉に〈強壮根〉……って! いやいや、そんな薬いらないし、夕方までに帰ってくるわよ!」
「ほっほっほ、そうかい」
「む? なんだその薬は、珍しいものならぜひ……」
「いいからいいから! 別に珍しくもなんともない薬だから! さっさと行くわよ!」
自分はその薬が気になったので店の中に戻ろうとしたのだが、アーリー殿がそれを視界に入れることすらも防ぐように立ちふさがり、何だか顔を若干赤らめながら、自分の背中を押すようにして街の中央へと歩き始めてしまった。
あれが何だったのか気になるところではあるが、今は旅の支度が最優先であるし、また今度来た時に聞けばいいだろう。
アーリー殿に背中を押されつつ、そんなことを考えながら、自分はファビオ殿の店へと向かっていった。
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる
【全強化】:あらゆる能力が上昇する
【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える
【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える
【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる
【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る
【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる
【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる
【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる
【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る
【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる
【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る
【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る
【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる
【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる
【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる
【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる
【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る
▼称号一覧
【連打を極めし者】
【全てを試みる者】
【世界の理を探究する者】
【動かざる者】
【躊躇いの無い者】
【非道なる者】
【常軌を逸した者】
【仲間を陥れる者】
【仲間を欺く者】
【森林を破壊する者】
【生物を恐怖させる者】
【種の根絶を目論む者】
【悪に味方する者】
【同族を変異させる者】
【覇者】
【権威を振りかざす者】
【禁断の領域に踏み入れし者】
▼アイテム一覧
〈水×50,000〉〈薪×83〉〈小石×1,040〉〈布×110〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1605日分〉〈保存食×96〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×619〉〈獣生肉(上)×600〉〈鶏生肉×41〉
〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×69〉
〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×2〉
〈木刀×1〉〈着替え×20〉〈宝飾品×90〉〈本×110〉〈遺物×10〉
〈体力回復ポーション×6〉〈魔力回復ポーション×5〉
〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉
〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉
〈金貨×12〉〈大銀貨×11〉〈銀貨×12〉〈大銅貨×5〉〈銅貨×3〉
〈金属巨人の屍×1〉〈スライムの粘液×100〉




