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第百四十一話 久しぶりのアルダートンで検証 その二

 

「んで? 戦争を止めるってのはどういうことだ?」


 ジェラード王国、商業都市アルダートン、冒険者ギルド。


 その入り口で、完璧な変装をしていたにも関わらず何故か一瞬でフランツ殿に正体がバレた自分は、授業をサボって何をやっているんだと聞かれたので、正直にアクセル殿と共に戦争を止めるために動いているのだと話すと、何かを思ったらしいフランツ殿が、受付をしていたミュリエル殿に声をかけて、ギルド長への面会を申し込んだ。


 すぐにギルド長の元へと向かったミュリエル殿の帰りを待っている間にフランツ殿へ聞いたところによると、どうやら彼はヴェルンヘル殿下にただ「授業を抜け出した生徒を連れ戻せ」とだけ依頼されたらしく、自分が何故抜け出したのかなどの詳しい事情は聞いていなかったらしい。


 そんな話をしていると、ギルド長の元から帰ってきたミュリエル殿に案内されて、冒険者ギルドの応接室へ通される。


 自分は促されるまま長めのテーブルを挟むように並んだ二つのソファーのうちの片方に座り、ミュリエル殿がそっと机においてくれた入れたての紅茶に口をつけると、自分が座っている向かいのソファーに、フランツ殿と、ここのギルド長であるラモン殿が座った。


「さて、とりあえず遺跡を抜け出して国から追われることになった経緯を話してもらおうか」


「うむ、承知した……実は、かくかくしかじかで……」


「いや、かくかくしかじかと直接口に出されても何も伝わらんが……時間がかかってもいいからちゃんと説明しろ」


「ふむ……」


 話が長くなると思ったのでスキップを試みたのだが、どうやらプレイヤーが自ら長い会話を省略するような行動を起こすことは出来ないという検証結果のようなので、諦めて一から説明する。


 自分はこちらを睨むような鋭い目をして腕を組んでいるギルド長に対して、途中フランツ殿に突っ込みや補足を挟まれながら、遺跡での授業後に宿舎を抜け出して検証をしているところを騎士に見つかって捕まったとことから話し始めた……。


 連行された先の応接室で待っていたのはヴェルンヘル殿下とアクセル殿下で、どうやらアクセル殿は、遺跡の調査が終わるまで遺跡から出ることが許されないという状況に対して、ヴェルンヘル殿に状況説明を求めに来たところだったこと。


 今、ジェラード王国やグラヴィーナ帝国が、何人もの国民をソメール教国に誘拐されている事件が起こっていて、ジェラード王国としては幾度もの抗議文の末に、最後通告まで出し、もはや世間は戦争一歩手前の状況で……。


 ジェラード王国は、戦争の被害からこの国の未来を担う王立学校の生徒を守るべく、頑丈で安全な遺跡に自分たちを隔離すると同時に、いざソメール教国と戦争状態になった時に取引の材料にもなるアクセル殿を安全に捕らえるために、その遺跡調査という学校の授業が決まったこと。


 誘拐事件の真相は、どうやらソメール教国が神からのお告げを聞いたことで勇者探しに躍起になっており、勇者らしき人物を片っ端から自国へと連れ去っているという理由らしいことや、どうやら自分がその伝承に出てくる輪廻の勇者らしいことが分かって、様々な理由から自分もアクセル殿と一緒に拘置所のような場所に捉えられたこと。


 そして、今誘拐されているのが全員本当に勇者だという可能性もあるが、そうでなかった場合、勇者鑑定の魔道具によれば自分が本物の勇者らしく、ソメール教国へ行って教皇を説得すればこの戦争が止まるかもしれないということで、アクセル殿と一緒に戦争を止めるためにソメール教国へ向かっていること。


 ……予想通りすべてを説明するのにそれなりの時間はかかったが、自分はなんとかこれまでの経緯をギルド長とフランツ殿に話し終わった。


 会話の内容的にアクセル殿にも同席してもらった方が良かったかもしれないが、彼には他のみんなと一緒に、ヴィーコ殿、ロシー殿、カイ殿の冒険者登録手続きをしに行ってもらっているのでこの場にはいない。


 とは言っても、そろそろ登録手続きも終わっているだろうから、自分が勇者であるという証明が必要そうなら、魔道具を借りるためにアクセル殿を呼び出そうとも思ったのだが……二人の表情を見る限り、どうやらその必要はないようだ。


「はぁ……王族から手紙を預かった時もそうだが、君は何かと大きな問題に関わりたがるな……」


「うーむ、いや、自分がそれを意図して関わっているわけではないのだが……」


 まぁ、ゲームの主人公であるプレイヤーなら、特に意識せずともこういった大きなイベントや人物には必ず遭遇するものなのだろうな。


「それで、君はこの後もその戦争を止める旅というやつを続けるつもりか?」


「うむ、こんな大きなイベント、検証しないわけにはいかないからな……止めようとしてもどうにか逃げるつもりである」


「はっはっは、やれるものならやってみろ……と、その言葉が多くの冒険者を束ねるギルド長への挑戦ということであれば、受けて立ちたいところだがな……そんな緊急依頼を発注しても、きっとここの冒険者は誰もがその依頼書を素通りするだろうさ」


「そうだな……一度手に取ったとしても、この事情を聞けばすぐに拒否するだろうし、それどころか、なんならギルド長室に抗議しに行くだろうな」


「ふむ……?」


 よく分からないが、自分を捕まえてヴェルンヘル殿下の元に連行するつもりはないということだろうか。


「ふむ? って……おいおい、お前、Eランク昇格試験も満点の成績で受かったんじゃなかったか? まさか、なにか卑怯な手を使って点数を改ざんしたんじゃ……」


「Eランク昇格試験?」


「ああ、それに受かったなら問題として出ていただろう? ……王族から他国を害するような依頼を発注された場合、それを冒険者として引き受けてもいいか? とな」


「あー、そういえば……冒険者ギルドは、国家間の争いには関与しない、という定めがあるんだったな」


「そうだ……そして、これは戦争に関わる問題だろう? だったら、俺がヴェルンヘル殿下から頼まれた依頼も無効だ……まぁ、殿下はそれを冒険者の俺じゃなく、冒険者学科の教師としての俺に頼んだんだとは思うが、そもそも学校の教師って仕事が冒険者ギルドへの依頼だからな」


「なるほど……」


 今は昇格試験の検証をする場面ではないのですっかり忘れていたが、冒険者ギルドには確かにそんな決まりがあった。


 それが、冒険者ギルドがジェラード王国内に設立された機関でありながらも、他国でその所属を身分証として国を跨いだ仕事を引き受けることが出来る理由のひとつでもある。


「つーわけで、俺は遺跡に戻るぜ? 学校の生徒はお前だけじゃないんだ、国がどうこうとかいう前に、元から問題児のお前にばっかり構っていられねぇよ」


「わざわざすまないな……自分と今回の旅の仲間は、しばらく休学ということにしておいてほしい」


「あいよ、んじゃ、休学届け出しといてやるから……絶対に帰って来いよ?」


「うむ」


 フランツ殿は自分の返事に目を見て頷き返すと、にかっと笑顔を作り、まるで子供の頭をなでるようにクシャクシャと乱暴にこちらの頭を撫でつけてから、背中を向けて片手をあげながら応接室を出て行った。


 ふむ……よく分からないが、とりあえず旅が終わっても真っすぐに帰らないという検証項目をメモしておいた方がよさそうだな。


「あー、コホン……まぁ、そういうわけでオース君……我々は君の行動に一切の関与をしない……いや、できない」


「ああ、わかった」


「うーん、本当に分かっているのかね……それは君の行動を阻害することはないだけでなく、協力することもできないということだ……そしてその定めは、冒険者である君自身にも当てはまるんだぞ?」


「む? それは、自分がアクセル殿を助けるのもダメだということか?」


「そうだ……冒険者としては、な」


「ふむ?」


「そうだな……彼を助けたいなら……いや、この国とソメール教国の戦争を止めたいなら、冒険者としてではなく、君自身としてやりなさい、ということだ」


 うーむ? それは、このゲームの冒険者としてではなく、自分の本来の役目……つまり、デバッガーとしてやれ、ということだろうか?


「ああ、もちろんだ……自分は最初からそのつもりである」


「うん、そうかそうか……最近の若い冒険者は昇格して金持ちになることばかり考えていて、冒険者という物が本来誰かを助けるためにあるのだということを忘れてしまっている者が多いと嘆いていたが、まだこんな若者が残っていたんだな……」


「うむ、自分にまかせてほしい……ジェラード王国やソメール教国の未来の(イベントの)ためにも、(デバッガーとして)完璧にこの使命を全うしてみせる」


「ああ、ああ……俺もギルド長としてではなく、個人として出来る範囲では協力するからな……何か困ったことがあったら言うんだぞ?」


 ギルド長はそういうと、目に涙を浮かべながら自分の手をがっしりと握った。


 ふむ……よく分からないが、ギルド長はデバッガーという職業にも理解のある方のようだな。


 何故かギルド長の後ろに控えているミュリエル殿も目にうっすらと涙を浮かべて指で拭っているし、どうやら自分はデバッガーとして今回のメインストーリーの検証にそれほど期待されているらしい。


 どうしてそうなったのかはよく分からないが、この戦争を止める検証する上で何か困ったことがあったらギルド長にも頼れるということを覚えておこう。


 自分はそうしてフランツ殿やギルド長との会話を終えると、期待してくれる人のためにも気合を入れて検証に取り掛からねばと決意を抱き、他の皆が待っているであろうギルドのエントランスへと戻っていった……。



▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる

【全強化】:あらゆる能力が上昇する

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる

【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる

【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる

【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】

【権威を振りかざす者】

【禁断の領域に踏み入れし者】


▼アイテム一覧

〈水×50,000〉〈薪×83〉〈小石×1,040〉〈布×110〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1605日分〉〈保存食×96〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×619〉〈獣生肉(上)×600〉〈鶏生肉×41〉

〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×64〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×2〉

〈木刀×1〉〈着替え×20〉〈宝飾品×90〉〈本×110〉〈遺物×10〉

〈体力回復ポーション×6〉〈魔力回復ポーション×5〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×7〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉

〈金貨×11〉〈大銀貨×6〉〈銀貨×7〉〈大銅貨×4〉〈銅貨×3〉

〈金属巨人の屍×1〉〈狼の屍×12〉〈猪の屍×4〉〈大蜥蜴の屍×1〉〈大猿の屍×3〉

〈大熊の屍×1〉〈大毒蛙の屍×4〉〈巨大毒花の屍×1〉〈スライムの粘液×100〉


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