第百三十三話 遺跡からの脱出で検証 その一
王都やアルダートンの西側にそびえ立つ、グレートウォール山脈の麓にある洞窟を最奥まで進むと、周囲の風景など無視するかのようにいきなり現れる人工的な建造物……ジェラード地下遺跡。
長い階段を降りた地下には王都が二つ入ってしまうほどの空間があり、そこには今は滅びた古代の文明や技術で作られた古代都市が広がっている。
そんな地下遺跡で、王立学校主導の遺跡調査を開始した翌日。
自分の調査班にアクセル殿を加えた八人は、王族・貴族学科の生徒に割り当てられた宿舎近くの建物で、旅立ちの準備を整えていた……。
「おまたせっすー」
「うむ、ちゃんと渡せたか?」
「あー、なんかちょくせつ渡すと面倒なことになりそうだったんで、入り口の騎士に届けてもらえるように頼んできたっす」
「そうか、まぁグリィ殿がそれでいいなら構わないが」
グリィ殿は、自分が旅に出ることを、今お世話になっているランプ家の人たちへ伝えるため、その家の娘さんに手紙を渡すことにしたらしい。
手紙を出すくらいなら、地上に出てからでも冒険者ギルドなどで依頼すれば配達してもらえるが、グリィ殿曰くランプ家の娘さんが学校の王族・貴族学科に通っているらしく、宿舎にいるようなので、「知り合いに頼めばタダで済むことがあるなら、それは知り合いに頼んで、浮いたお金で美味しいものを食べるっすよ」とのこと。
アルダートンの宿に泊まりながら冒険者をやっていた頃ならともかく、王都に来てからはそのランプ家の人に衣食住を提供してもらっているらしいので、それほどお金や食べる場所には困っていないとも聞いているのだが、無印冒険者でその日食べるものすら確保できるか分からなかった記憶がまだ残っているのか、彼女は今でも基本的に節約家である。
「他の人は誰かに手紙を渡して置かなくていいっすか?」
「カヤちゃんが残るらしいから、あたしはカヤちゃんに頼んでおいたよ」
「はい、アーリーさんのお店にはわたしの家族も行ったことはあるので、後でわたしが家に手紙を出すときに一緒に送って、両親に届けてもらおうと思います」
「オレたちは別に知らせる相手もいないしなー、姉ちゃん」
「そうね、そういう仲の人をあげるならアーリーか師匠くらいだけど、師匠は手紙が来ても読まなそうだし、アーリーは本人が一緒に来るなら知らせるも何もないしね」
グリィ殿が一緒に旅に出る仲間を見回してそんなことを訪ねるが、アーリー殿はカヤ殿に頼んでいて、カイ殿もロシー殿も特に手紙を出す相手はいないようだ。
アクセル殿に関しては、一応この国にも王都の迎賓館へ残してきた従者たちがいるらしいのだが、その人たちはアクセル殿が遺跡からいなくなったと分かれば、勇者を見つけて国に帰ったのだと察するから特に連絡は必要ないとのこと。
「ふむ……ヴィーコ殿はどうなのだ?」
他の面々はそういった理由で必要ないとしても、彼はこの国の公爵家長男だ。
ヴィーコ殿の父上であり、カルボーニ家の長であるルキーノ・カルボーニ公爵は現国王の弟ということなので、たとえ彼がどんな性格だったとしても、ゲームの設定的にはそれなりに重要な人物だろう……連絡なしで突然いなくなってしまっては、それなりに面倒事が起きる気がする。
「貴様はバカか、少し考えればボクが今手紙を出せないことは分かるだろう?」
「今手紙を出せない? それは……あー、うむ、なるほど……学校に手紙を渡せるような友人がいないのか?」
「違う!! ……いや、文面的に間違ってはいないが、貴様のその言い方はなんか違うだろう! 聞く者が勘違いするような言動は慎みたまえ!」
「……?」
「ふんっ、貴様はボクに人望が無くて友人がいないとか、友達ができないとか、そういうことを言いたいのこかもしれないが、決してそんなことはない……むしろ、人望がありすぎるせいで、対等な関係を持つそういった存在を築けないのだ」
「ふむ? よくわからないが、友人がいないことはあっているのだな」
「くっ……だが、全くいないわけではない! この遺跡内にいる中で今思いつく友人は、ヴェルンヘルだ……大きな力を持つものは、同じく大きな力を持つものとしか友人になれない……今ボクが手紙を出せないのはそれが理由だ……察しの悪い貴様でもここまでいえば分かるだろう?」
「なるほど……」
友人がいない理由に関しては、自分も現実世界でその理由を研究した結果、ついに判明することは無かったので、彼が何を言っているのか理解できないが……。
要するに、今、遺跡を脱出する前に、ヴェルンヘル殿下のような権力を持つ者に、今から遺跡を脱出してソメール教国へ旅立ちます、というような手紙を出すわけにはいかないということか……言われてみれば、それはその通りである。
まぁ、大勢の騎士に追われる中での大脱出劇というのも検証したくはあるが、一週目の検証ではなるべくゲームオーバーにならないようにして、二周目以降の検証のために、出来ればストーリーの最後までに起こるイベントや、獲得できるアイテム、スキルの種類などを情報として取得しておきたいからな。
このメインストーリーらしきイベントを検証している間は、検証のためでも危ない橋は渡らないようにしておくのが吉だろう。
「よし、では皆、そろそろ準備はいいか?」
そんな風に話にひと段落がついたのを見て、アクセル殿が、旅立ちの準備が出来ているかをパーティー全員に確認する。
アクセル殿本人はもちろん、一緒に旅に付いてきてくれる仲間たちは、自身の荷物は既に宿舎へ取りに行っており、見送りのカヤ殿も、防犯のために自分の荷物は魔法鞄につめて持っている。
グリィ殿とアーリー殿はいつも一緒に冒険へ出かけるときの革鎧を身にまとっており、ロシー殿とカイ殿は職人着、ヴィーコ殿は普段の貴族服と同じくらい目立つ騎士の鎧を着こんでいる。
ちなみに、ヴィーコ殿は、公爵家の長男らしい振る舞いとして鎧を着るのを誰かに手伝わせようとして、頼みやすそうな格下の貴族ということでカヤ殿に目が留まったようなのだが……そういえば自分はまだ人に鎧を着せる検証をしたことが無かったなと思い、彼女が歩み出るのを止めて、自分が代わりに手伝った。
もちろん、自分は自身で一通りの防具を身に着ける検証は済んでいたので、装飾は派手とはいえ騎士の鎧に変わりない彼の鎧をどうやって着るかは完全に把握しており、最終的には一寸の隙も無い完璧な着こなしを実現させたが……まぁ、その過程で散々ヴィーコ殿に怒鳴られるような手違いも検証したのは言うまでもないだろう。
そんな彼も含めて、パーティーの仲間はそれぞれ今一度自身の装備や荷物を確認し、問題ないことが分かるとアクセル殿に頷く。
「うん、問題ないようだね、じゃあ遺跡の出口に向かって、出発しよう!」
「「おー!(っす!)」」
アクセル殿の掛け声で、グリィ殿とハーフドワーフの双子が拳を天に突き上げる。
ここにいる半数が所属している冒険者パーティー〈世界の探究者〉のリーダーも、マップ情報を頼りに遺跡の出口へと道案内するのも自分なのだが、今回の戦争を止める旅の中心人物はアクセル殿だ。
だから、みんなが装備や荷物の準備をしている間に、この旅が終わるまでの間、リーダーはアクセル殿で、自分はサブリーダーとなることを話し合いで決めている。
自分が本当にRPGでよくある勇者という存在なのであれば、自分が旅のリーダーとなるのが定石かもしれないが……パーティーのリーダーというポジションの検証は、既に冒険者として数々の依頼をこなす過程で済ませているし、ここでサブリーダーポジションの検証をするのも悪くないだろう。
ソメール教国への旅、この戦争を止めるイベントが終わるまでの間、このパーティーのサブリーダーとして、誠心誠意、隙のない検証を心がけることをここに誓おう。
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる
【全強化】:あらゆる能力が上昇する
【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える
【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える
【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる
【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る
【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる
【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる
【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる
【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る
【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる
【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る
【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る
【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる
【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる
【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる
【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる
【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る
▼称号一覧
【連打を極めし者】
【全てを試みる者】
【世界の理を探究する者】
【動かざる者】
【躊躇いの無い者】
【非道なる者】
【常軌を逸した者】
【仲間を陥れる者】
【仲間を欺く者】
【森林を破壊する者】
【生物を恐怖させる者】
【種の根絶を目論む者】
【悪に味方する者】
【同族を変異させる者】
【覇者】
【権威を振りかざす者】
【禁断の領域に踏み入れし者】
▼アイテム一覧
〈水×26,000〉〈薪×110〉〈小石×1,070〉〈布×116〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1626日分〉〈保存食×110〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×640〉〈獣生肉(上)×614〉〈鶏生肉×48〉
〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×64〉
〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×2〉
〈木刀×1〉〈着替え×20〉〈宝飾品×90〉〈本×110〉〈遺物×10〉
〈体力回復ポーション×8〉〈魔力回復ポーション×5〉
〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×10〉
〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉
〈金貨×11〉〈大銀貨×6〉〈銀貨×7〉〈大銅貨×4〉〈銅貨×3〉