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第百三十一話 仲間集めで検証 その五

 

 ジェラード地下遺跡の、王立学校、職人学科の男子生徒、女子生徒に割り当てられたそれぞれの建物が見える場所。


 周辺にある中では一番高い建物の屋上で、ここにいる他の誰よりも背の低い二人と会話していた。


「戦争を止めるための旅ねぇー」


「いきなりそんなこと言われても、行くかどうかの前にその話が信じられないわよねー」


 まるでもう片方が鏡に映し出されているのではないかと思うほど、そっくりな渋い顔で全く同じ動きでお互いを見合わせているのは、ハーフドワーフのロシー殿とカイ殿だ。


 彼らは王立学校の職人学科に通う生徒であり、小さいころからアルダートンで一緒に遊んでいたらしいアーリー殿の幼馴染で、その伝手で今回の他学科混合のグループで活動する遺跡調査という授業で同じチームになってもらった、出会ったばかりの知り合いである。


「まぁ、あたしも実際に遺跡の外の状況を見てないから実感はわいてないんだけど、オース君もアクセル君も嘘をつくような人じゃないから、そこは信じていいと思うわ」


「ふーん、まぁ、オレは嘘だろうと本当だろうと、そこはどっちでもいいけど」


「それが本当だとしても、アタシたちが善意であなたに協力する必要はないわよね!」


「そうそう、王子だか何だか知らないけど、これはアクセルの兄ちゃんの問題なんだろ?」


「そうよそうよ、アタシたちは別にソメール教国がどうなろうと知ったこっちゃないわ」


「あ、ああ……その通りだ……もし手伝ってくれるのであれば嬉しいが、無理にとは言わない」


 うーむ……仲間になってくれたら心強いと思って二人を誘ってみないか提案したのだが、やはり出会ったばかりで好感度が不足しているのか、出だしから雲行きが怪しいな……。


 そして、この後に声をかける予定のヴィーコ殿に対してもそうだったが、王族を相手にしてもこの強気な態度を貫き通すとは……その姿は物怖じせず逞しいと思うが、自分が彼らを誘った手前、その矛先を向けられてしまっているアクセル殿には少々申し訳ない。


「ロシー殿とカイ殿を誘ってみようと言い出したのは自分なのだ、急に無茶な話を聞かされて突っかかりたくなる気持ちも分からなくもないが、あまりアクセル殿を責めないでやってほしい」


「フンッ、アンタの言うことなんて聞いてやらないわよ、昨日のこと、まだ忘れてないんだから」


「む? 昨日のこと……?」


「あー……姉ちゃんは昨日オースの兄ちゃんに勝負で負けたことをずっと悔やんでるんだ」


「勝負? 負けた?」


「キィーッ! アンタにとっては覚えている価値もない、全く取るに足らない勝負だったんでしょうね! アタシに一点も取らせないで勝ったんだから!」


「あぁ、遺跡調査のミニゲームイベントか」


「ミニってなによ、ミニって! 一人で遊んでて寂しそうだなと思ったから一緒に遊ぶのを許してあげたのに、その恩も忘れてアタシが先に見つけた調査品も全部横から持っていっちゃうんだから! 年上なら手加減をしてあげようとか思わなかったの!?」


「うーむ、それはすまない……検証のために必要なことだったのだ」


「検証って何よ! 大人はみんなそうやって難しい言葉で子供を煙に巻こうとするんだから!」


「まぁまぁ、姉ちゃん、落ち着いて……」


 昨日初めて出会った一日だけの関係だから、好感度が上昇しているかは怪しいとは思っていたが……まさか、あれがここに繋がるイベントだったとは……。


 深く考えずにパーフェクトクリア可能かどうかの検証だけして終わらせてしまったが、そうと知っていればもう少し色々なパターンの検証をやっておくべきだったな……。


「あー、オース君……ちょっといいか?」


「ふむ? どうしたのだアクセル殿?」


 自分が昨日の検証結果に対して脳内で一人反省会をしていると、その横からアクセル殿が小声で話しかけてきた。


「オース君はこの子たちを心強い仲間になりえると評価していたが、今のところ僕から見る限り、あまり、その……あー、共に行動する仲間として、なんというか……適切ではない、ように感じる」


「なるほど……」


 アクセル殿はなるべく優しく、遠回しな表現を使っているが……要するに、彼らを仲間にするべきではない、ということを言いたいのだろう。


 まぁ、その気持ちは分かるし、今の状態を客観的に見て、彼らを仲間にするのは危険だということは理解できる。


 幼馴染のアーリー殿も、言葉には出さないが、怒る姉と、それをなだめる弟という構図の二人を見て、色々と諦めているような表情をしていることから、おそらくこの光景はこれまでもこれからも続いていくものなのだろう。


 冒険者に関わらず、パーティーや仲間として大切なのは、力や技能だけではない。


 仲間を思いやる心とまではいかなくても、大人であれば、最低でもチームの和を乱さないくらいの対応力が求められるものだ。


 それが社内で同じデスクワークをする同僚なら、周りに迷惑をかけても仕事が失敗して会社がそれに見合った損害を出してしまうだけかもしれないが……それが冒険者のような旅をして危険な生き物と戦ったりする仕事であれば、文字通り仲間の行動がそのまま命に関わることもあるからな……。


 自身の命を預けられるくらい信用できる人物とは言えなくても、大人な対応が出来る人物でないと仲間に加えたくないだろう。


「本人もああいっていることだし、ここは素直に帰ってもらった方が、お互いのためになるのではないだろうか」


「うーむ……」


「ちょっと、何アタシたち抜きで勝手に話を進めてるのよ!」


 と、ハーフドワーフ二人には背を向けて、アクセル殿と小声で話していたのだが、双子同士での会話が終わったようで、その背中に姉のロシー殿が声をかけてきた。


「いや、気が進まないようであれば、無理に来てもらわなくてもいいのではないかと話していたんだ……旅は危険なものになるだろうし、特に冒険者などではないロシー君とカイ君はこの遺跡にいたほうが安全だ」


「フンッ、そんなこと分かってるわよ! でも、誰も行かないなんて言ってないじゃない、人の意見を最後まで聞かないで勝手に話を勧めないでくれる?」


「何? ということは、一緒に来てくれるのか?」


 確かに、二人はアクセル殿に協力するのを嫌がっていた様子だったが、行かないとは言っていなかった……だが、それはもう行かないと言っているようなものではないだろうか。


「最初に言った通り、別にソメール教国がどうなろうとオレたちに関係ないけどな」


「戦争が始まっちゃったら、この国だってどうなるか分からないんでしょ?」


「まぁ、そうなったらそうなったで、今度はグラヴィーナ帝国に行くだけだけど」


「あの国は頭の固い純潔ドワーフ連中が多いから、ハーフのアタシたちは何だかんだ煙たがれるし……それに何より……」


「「ずっと遺跡に閉じ込もってるのはつまらねぇ(ないわ)!」」


「……」


「……」


 双子だからなのか何なのか、よく言い争っている割にはお互いの意見が一致しているようで、同じ思考を二つの口から捲し立てるように交互に発する二人に圧倒されていたが……まぁ、最終的な彼らの意見は単純な物だった。


 アーリー殿もそんな理由でついてくると言っていたし、やはり類は友を呼ぶというか、幼馴染というのは似る者なのだろうか。


「うーん……だがしかし……」


 結果として、一緒に来るという意見を出してくれた二人だったが、その意見を聞いたアクセル殿は難しい顔をして、こちらを見やる。


 先ほど自分と二人で話していた内容的に、彼らが来るつもりになったとしても、アクセル殿が手を広げて迎え入れる気持ちになれないのだろう。


「ふむ……とりあえず二人に訊ねたいのだが、二人とも戦闘の経験はあるだろうか?」


「戦闘の経験? 獣とか魔物とか盗賊と戦ったことがあるかってこと?」


「うーん、毛皮が欲しくて獣を狩ったりすることがあるくらいかー?」


「そうねぇー、アタシたちは細工師見習いと鍛冶師見習いだし、そもそも街の外にあんまり出ないからね」


「まぁでも、力はあるから、そんなに強い相手じゃなきゃ自分の身は自分で守れるし、何よりオレたちはかなり足が速いぜ?」


「そうそう、逃げるが勝ちって言うでしょ? 戦わなくったって、勝てばいいのよ!」


「二人とも戦闘経験はほぼ無し、と……うむ、事前にアーリー殿から聞いていた情報通りのようであるな」


「……」


「だが、問題ないだろう……アクセル殿、二人も連れて行こう」


 長年様々なゲームをプレイしてきた自分には分かる……ことゲームにおいては、使えないキャラクターなど一人も存在しない。


 あくまで縛りプレイなども考慮した、一般的には使えないとされるキャラクターを無理に使うことも含めた考え方だが、本当に全く使い物にならないキャラクターなど、この世には存在しないのだ。


 むしろ、多くのユーザーから低い評価を下されるキャラクターで、強者に勝ってこそ、真のゲーマーと言えるだろうし、それ以前に、きちんとしたデバッガーがバランス検証を行ったゲームで、そんな不具合が入ったまま製品版としてリリースされるなどありえないだろう。


 ……まぁ、なるべく短い期間でリリースして、後からアップデートや修正パッチを当てるという開発方針も無くはないが。


 このゲームがそういう開発方針だったとしたら、なおさらここで自分が彼らの強さを検証しておく必要がある。


 よって、ここで彼らを仲間に加えないという選択など……。


「いや……悪いが、やっぱり僕は反対だ」


 ……うむ、アクセル殿はするようだ。


「えっ、なんで? 冒険で手を貸してほしいんじゃないのかよ」


「そうよ! 言ってることが無茶苦茶じゃない!」


「うーん、そうだな……確かに、なるべく早くソメール教国まで向かうために、心強い仲間が多くいるに越したことはない……だが、キミたちはその……」


「なんだよ、オレがチビで使えないやつだって言いたいのか?」


「なによ! 戦ってるところを見てないくせに、アタシたちのことを見た目だけで判断する気?」


「いや、そういうわけではないんだが……君たちも言っていた通り、これは僕の個人的な理由が大きい旅だ……もし君たちに何かあったら、親御さんにも申し訳ない」


「ふんっ、だったら何も問題ないわね……アタシたちに両親はいないわ」


「そうそう、まぁ、何もないに越したことはないから、何かありそうだったら、その時は全力で逃げるけどな」


「う、うーん……しかし……」


 仲間に誘った時は、ロシー殿とカイ殿が否定的な態度を示していたのに、いざ承諾されてみたら、今度はアクセル殿が頷かないか……。


 アーリー殿の方を見てみれば、「あたしはどっちでもいいわ」とでも言うように両手を肩のあたりで広げて首を横に振り、喧嘩のようになってしまっている状況を見てオロオロとしているカヤ殿を落ち着かせているし……。


 グリィ殿に至っては、話が長くて退屈だったのか、朝早く起こされたことと色々と食べてお腹が膨れたことが重なった影響で睡魔に襲われたようで、いつの間にか自身の寝袋を出してスヤスヤと眠っている。


 コミュニケーションスキルを習得していないのが心もとないが、ここは自分がアクセル殿を説得するしかなさそうだな……。


「アクセル殿、ちょっといいか?」


「ああ、オース君も彼らに何か言ってあげて欲しい」


「うーむ、そうだな……だがその前に、アクセル殿のメイスを貸してもらってもいいだろうか?」


「何? いや……オース君、出来れば暴力以外の解決方法を探してほしいのだが……」


「あー、違うぞアクセル殿、そうではない……彼らに実力をみせてもらおうと思ったのだ」


「実力を……? あぁ、なるほど……はっはっは、オース君は賢いな! そうか、確かにそういった方法で断れば丸く収まりそうだ……そういうことであれば、僕の武器くらい喜んで貸そう」


「? うむ、よく分からないが、とりあえずありがとう」


 アクセル殿は勘違いに勘違いを重ねていて、結局どんな考えに至って喜んだのか分からないが、自分は彼からメイスを借りた。


 もしかすると、自分が、彼らの冒険を断るために、実力不足だと彼らへ突きつけるための行動を起こそうと思っているのだろうか……。


 だとしたら、申し訳ないが、やることは同じだとしても、願っている結果は逆である。


 そして、その結果が訪れると信じてもいる……。


「では、アクセル殿、兜を被って、身に着けている鎧に問題はないか確認し、盾を構えてくれ」


「なに? 僕が戦うのか? まぁ、別に構わないが……」


 自分がそうアクセル殿に声をかけると、アクセル殿は身に着けている鎧を軽く点検した後、眼鏡を外す代わりにヘルムを被り、他の荷物と一緒に置いてあった盾を拾って装備する。


 彼らの実力を確かめ、それを認めるのは、アクセル殿本人の仕事だからな。


 【鑑定】で確認できるロシー殿とカイ殿のステータスを見る限り、ドワーフの血が作用しているのか、レベルが低いのに筋力の数値が、スキルを使っていない状態のグリィ殿より高いし、本人が足の速さに自信があると言っていたように、グラヴィーナ帝国で見た多くの純潔ドワーフと違って、敏捷の数値もスキルを使っていないグリィ殿くらいある。


 そうなのだ、彼らは決して弱くはない……戦闘経験が少ないというだけで、基本ステータス的には、もはや同ランクの冒険者に敵はいないと言っていいほどの実力を持っているグリィ殿と同じレベルなのだ。


 もちろん、だからと言って彼女とまともに戦えるかと言えば、経験も習得スキル数も魔力量もグリィ殿の方が遥かに多いので、実際に戦ったら二人同時にかかっても一瞬でグリィ殿が勝利を収めるだろうが……。


 それでも、低レベルの基礎ステータスでこれだけ素質があるのであれば、鍛えたら、もしかするとグリィ殿以上の戦闘能力を得るかもしれないし、仮にスキル無しというPvPルールが存在するのであれば、今のままでも十分にやりようはある。


「装備は問題ないようだな」


「ああ、こちらはいつでも問題ない」


「そうか……では……最後にこの首飾りをプレゼントしよう……」


「首飾り……? うん? これは、どこかで見たことがあるような……」


 自分はそう言って戸惑うアクセル殿に、首飾りというよりも首輪やチョーカーと言った方が表現として正しそうなその魔法道具を彼の首にかけてやり、専用のカギはないのでピッキングツールを使ってしっかりと施錠した。


 そう……スキル無しであれば、彼らのステータス的な強さはなかなかのものなのだ……。


「ふむ……なるほど……よし」


 つまり……。


「まずは、ロシー殿……このメイスを使って、〈抑制の首輪〉を付けたアクセル殿を倒すのだ」


 アクセル殿がスキルを使えない状態であれば、彼らもそれなりに戦えるということだ。



▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる

【全強化】:あらゆる能力が上昇する

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる

【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる

【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる

【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】

【権威を振りかざす者】

【禁断の領域に踏み入れし者】


▼アイテム一覧

〈水×26,000〉〈薪×110〉〈小石×1,070〉〈布×116〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1626日分〉〈保存食×110〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×640〉〈獣生肉(上)×614〉〈鶏生肉×48〉

〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×64〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×1〉

〈木刀×1〉〈着替え×20〉〈宝飾品×90〉〈本×110〉〈遺物×10〉

〈体力回復ポーション×9〉〈魔力回復ポーション×5〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×10〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉

〈金貨×11〉〈大銀貨×6〉〈銀貨×7〉〈大銅貨×4〉〈銅貨×3〉


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