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第百二十六話 拘置所で検証

 

 ジェラード地下遺跡。


 地上で今にも戦争が起ころうとしているという話を聞かされた後、大勢の騎士たちに拘束され連れてこられたのは、騎士の駐在所と同じ区域にある一軒の建物……。


 自分とアクセル殿は、その入り口で見覚えのある金属製のチョーカーのような魔道具を無理やり首に取り付けられると、そのまま家の中へと押し入れられた。


「【施錠ロック】」


 —— ガチャリ ——


 そして、自分たちをここへ連れてきたヴェルンヘル殿はお付きの騎士に指示して、家の扉に対して施錠の魔法をかけさせると、扉が開かなくなったことだけを確認してそのままこの場から立ち去ろうとする。


「おい、待ってくれ! あんなことを聞いた後に大人しく捕まっていられるわけがないだろう! 父上には僕からジェラード王国の民を解放するように説得する! だから……」


「だからオースを渡して解放しろって? そんなことをすれば今度はグラヴィーナ帝国と戦争をすることになるだろう? それに、お前がソメールの王を説得できる保証もない……交渉はこっちでするから、お前たちは大人しくそこで待ってろ」


 そしてアクセル殿に声をかけられたヴェルンヘル殿は、彼にそれだけ答えると、遠くなっていく足音を残しながら本当に立ち去ってしまったようだ。


「ま、待て! まだ話は……くそっ……」


 閉められた扉を叩きながらいくら叫んでも彼の声に反応する者は誰もいないようで、ヴェルンヘル殿が戻ってくる様子も、おそらく外で見張りのために残っているだろう何人かの騎士が応対する様子もなかった。


 せっかくストーリーが大きく進展したというのに、どうやら新たな物語の出だしは拘置所のような場所から始まるようだな。


 まぁ、どんな場所で始まろうと、自分がやることは変わらないが……。


「はぁ……すまないなオース君……僕のせいで君まで捕まってしまっ……て……」


 —— ガチャガチャ ——


「そうだな……まぁ、アクセル殿が解放されて自分が連れ去られると、仮に今回の戦争が止まったとしても、その後のソメール教国には勇者の存在を盾に大きな顔をされそうだから、ストーリーの流れ的にアクセル殿が拘束されるのは何となくわかるが……自分まで捕まったのはよく分からないな……」


「あ、ああ……まぁ、冒険者としてパーティーを組んでることもあって、外から救出されると面倒だと思ったのだろう……って、いや……そんなことよりも……オース君、キミは何をやっているんだ?」


「何って、出入り口の確認だが? ……ふむ、どうやら施錠の魔法で閉じられた扉は物理的に鍵を開けようとしても開かなくなるようだな」


 自分は先ほど騎士が施錠の魔法で鍵をかけた扉が、内側から鍵を開けようと思っても固くて開かなくなっていることを確認しながら、アクセル殿にその状況を伝える。


「いや、出入り口の確認だが? ではなくてだな……」


 —— ガチャガチャ ——


「うーむ、窓にもあらかじめ施錠の魔法がかけられているようだ……スムーズに案内されてきただけあって、ここはきちんと拘置所として使用する建物として準備されていたようだ……国の研究者と学生しか来ないはずの遺跡で、一体誰を捕らえるために用意していたのだろうな……」


 そして、窓も同じように確認して、やはり既に施錠の魔法がかけられていることを確かめた。


 そのことからも、どうやらこの建物は元から拘置所のような場所として使われる予定があったということになるな……学者や学生しかこないはずのこの場所で……。


「……まさか、ジェラード王国は最初から僕をここに閉じ込めるつもりだったのか?」


「まぁ、状況からしてそうであろうな……【開錠アンロック】……おそらく学校の授業として遺跡調査を命じた時から計画は始まっていたのだろう……ふむ、開錠の魔法は問題なく効くようだな……【施錠ロック】……そしてもう一度施錠もできると……」


「くっ……僕はその時からずっとこの国の王に目の敵にされていたのか……ジェラード王国も含め、世界中の人々を救うための任務を遂行していたというのに……」


 アクセル殿には悪いが、まぁどう考えても最初から彼を捕らえるつもりで遺跡調査が始まったのだろう。


 今の状況的に、彼を捕らえておけば戦争が始まったとしてもジェラード王国が有利に働く交渉材料にもなるかもしれないし、そうでなくともアクセル殿は自らこの国の民を自国に誘拐する任務を負っていますという意味の内容を王に直接宣言していたらしいからな……。


 今まで捕まらなかったのは、ただ泳がせて、もっと色々な情報を引き出そうとしていただけに違いない。


 —— ゴソゴソ ——


「王様的には自国の民を優先しなければならないから、仕方ないのだろうな……ふむ、家具などの内装は他の建物と変わらず、古代文明のアーティファクトなどは無しか……」


「国を代表する者の一人として、その気持ちもわからなくもないが……というか……そんなことよりもオース君?」


「うむ? どうしたアクセル殿」


 自分は開けていた棚の扉や引き出しなどを戻しながら、アクセル殿を振り返る。


「いや、どうしたもなにも……さっきから何をやっているんだ」


「何って、家探しだな……新しい部屋に入ったら隅から隅まで『調べる』ボタンを連打しながら歩くのはデバッグの基本だろう」


 デバッガーでなくとも、RPGプレイヤーならば殆どの人間がやっていることだ、それを自分がやらない理由はないだろう。


「いやいや、基本と言われてもそもそもデバッグというのが何なのか僕は未だに分かっていないのだが……そうではなくて! さっきさりげなく施錠されていた窓を開錠していなかったか?」


「ふむ? 施錠の魔法で閉められた窓が、開錠の魔法で開けられるのは仕様だろう? どこにも不具合などないと思うが」


「いやいやいや、魔法の作用として施錠と開錠がそういった関係なのは確かだが、問題はそこではない! どうして君が魔法を使えるのだ!」


「うーむ? 本を読んで習得したからか? あー、能力解析器の結果に魔法系のスキルが出なかったから疑問に思っているのか……それはすまない、出来そうだったので隠してみただけで、実は習得しているのだ」


 そういえば直前に能力解析器を使われた時は、プロフィール画面の検証をするために、【身体強化】【剣術】【サバイバル】【料理】くらいしか表示させていなかったからな……。


 冒険者として活動している時もアクセル殿の前では魔法を使っていなかったし、確かに、彼が自分を魔法がつかえない人物だと思い込むのも無理はない。


「何!? 能力解析器の結果は偽造できるのか!? って、いやそうではない! いや、それも気になるところだが……僕が言いたいのはそこではなくてだな……」


「ふむ……違ったか」


 アクセル殿が何を言いたいのか全く汲み取れないな……。


 これもやはり自分にコミュニケーションスキルが不足しているからか……うむ、これは今後のためにも、グリィ殿やアクセル殿が持っている【社交術】スキルなるものを早急に獲得した方がいいかもしれない。


「君も先ほど僕と一緒に建物の入り口で〈抑制の首輪〉をつけられていただろう! あれはどうした!」


「ああ、なんだそのことか……それならもう亜空間倉庫で格納できることは検証済みだからな、他の検証の邪魔になると思って騎士が出て行ってすぐに外してしまった」


「いや、外してしまったって……これは一度つけられたら魔法も含めて自身の持てる力を殆ど発揮できなくなる魔道具だから、理論上、外すことはできないのだが……一体どうやって……」


「うーむ、そうだな……それこそ、勇者の力……だろうな」


 ……まぁ、それを使ってこうして行っている内容は、勇者の仕事ではなく、デバッガーの仕事……もしくは、盗賊の仕事だが。


 自分はそんなことを考えながら、アクセル殿の〈抑制の首輪〉も【諜報術】スキルに統合された【解錠】スキルを使って外すと、自分のものと一緒に亜空間倉庫へ格納した。


 直接手で触れて亜空間倉庫へ格納しないのは……実はそれが出来ないからである。


 亜空間倉庫はある程度距離が離れた場所にあるものも念じるだけで格納できる便利なゲームシステムだが、あれから検証を重ねた結果、生き物以外にも、人が所持しているものや装備しているものはいくら距離が近くても格納できないことが分かった。


 だから、そういったものは、一度その人物から受け取ったり奪ったりしてから、改めて亜空間倉庫へ格納すると念じなければいけないのだ。


「勇者の力……?」


「まぁ、そんなことは後でいいではないか……アクセル殿、貴殿はそちら側から部屋の探索をしてくれ……要領は今回の遺跡探索の授業でやっていたことと同じだが、学者目線ではなく、冒険者目線で少しでも使えそうなものがないかを探すのだ」


「あ、あぁ、了解した……って、え? いやいや、つい冒険者として一緒に活動していた時の癖で指示を聞いてしまったが、いったい何のために……」


「それは決まっているだろう……もちろん、検証のためだ」


 新しい部屋に入ったら、隅々まで探索する……それはデバッガーとしても、RPGプレイヤーとしても、当然のこと……。


「……」


「そして、この部屋の探索が終わったら、次の検証に移ろう」


「……何一つ理解できないだろうが、一応聞いておこう……次の検証とは?」


 そう……それが。


「それはもちろん……遺跡からの脱出だ」


 もう戻ってこないであろう場所であれば、なおさらだ。


「……」


「ソメール教国に行くのであろう? 自分もメインストーリーを進めるなら早くそちらの検証をしたい……だから手早くこの部屋の探索を済ませてしまおう」


「……ふっ」


「……?」


「ふっ……ははは、はっはっは! オース君、君が本当に伝承の勇者なのかは正直のところ僕にも分からないが、そんな僕にでも一つだけわかる……君はいい友人だ」


「ふむ? そうか」


「ああ、そうとも……検証やデバッグというのもよくは理解していないが、君がそれを必要としていて、その結果僕が僕の目的を達成できそうならば、喜んで力を貸そう」


「うむ、よく分からないが、手伝ってくれるようで良かった……では、素早くこの部屋の探索を済ませてしまおう」


「ああ!」


 そうして自分とアクセル殿は、この拘置所という建物の検証を開始した……。


 このリアル志向のゲームであるかは分からないが、たとえ探索して発見できるのが薬草や毒消し草、銅貨一枚だって、見つければそれはアイテム配置の検証なのだ。


 ここが牢屋のような場所だとしたら、亜空間倉庫などを使わずともどこかに扉を開けるギミックがあるかもしれないし、実はダクトなどから脱出できるかもしれない。


 それが終わったら遺跡からの脱出だ……イベントで連れてこられるこの部屋に二度と入れない可能性も考えて、出来る検証はすべてやっておかなければ……。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる

【全強化】:あらゆる能力が上昇する

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる

【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる

【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる

【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】

【権威を振りかざす者】

【禁断の領域に踏み入れし者】


▼アイテム一覧

〈水×26,000〉〈薪×110〉〈小石×1,070〉〈布×116〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1627日分〉〈保存食×90〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×640〉〈獣生肉(上)×615〉〈鶏生肉×50〉

〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×64〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈抑制の首輪×2〉

〈木刀×1〉〈着替え×20〉〈宝飾品×90〉〈本×110〉〈遺物×10〉

〈体力回復ポーション×9〉〈魔力回復ポーション×5〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×10〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉

〈金貨×11〉〈大銀貨×6〉〈銀貨×7〉〈大銅貨×4〉〈銅貨×3〉


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