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第百二十三話 能力解析で検証 その二

 

「!? 本当に……本当に現れた……【輪廻の勇者】……これが勇者の証か……」


「なんだなんだ? 板に何か文字が浮かんできやがった……が、全く読めねぇ!」


 ジェラード地下遺跡で騎士の駐在所として使われている建物の、応接室。


 そこで待っていたヴェルンヘル殿とアクセル殿の前で、ソメール教国の勇者を探す魔道具を使わせてもらい、解析結果が現れるミスリル板の部分に浮かんだ文字は……今自分が思考操作で視界の隅に開いている画面に書かれている情報と一致する、自分のステータス内容……。


 古代語で書かれているので、スキル名などは翻訳する者によって若干の齟齬が生じるかもしれないが、体力や魔力の最大値と言った数値部分に関してはズレもなく完璧に今の画面と一致している。


「ふむ、ヴェル殿は古代語が苦手なのか?」


「ああ、そうだな……古代語だってのは何となく分かるが、意味は全く分かんねぇし、覚える気もねぇな」


「うーん……まぁ、ジェラード王国の教育方針に口を出す気はないが……それでは魔法を学ぶときに困らないか?」


「魔法? そんなの魔力操作の延長だろう……? 詠唱とか魔法陣とか小難しいこと考えなくたって、身体能力を強化したり槍に炎を纏わせたりするくらいだったら、魔力と一緒に気合を入れりゃあ何とかなるぜ」


「なに? ヴェル殿は魔法陣なしで魔法が発動させられるのか?」


「ああ、ってか、むしろ魔法陣なんか勉強してたらいつまで経っても魔法なんか使えるようにならねぇだろ……まぁ、流石に複雑なのは気合じゃどうにもならねぇけどな」


「そ、そうか……まぁ、確かに僕の国にも、上級魔術師の中には魔法陣も詠唱も省略して念じただけで魔法を発動させる者もいるが……気合とは……」


 ヴェル殿だけが特別というわけではなく、数は限られるらしいが、それでもこの世界には魔法陣や詠唱なしで魔法を発動させられる人物が普通に存在するのか……というより、この世界の魔法にそんな仕様があったのか……。


 教科書には魔法陣を描いて魔力を流し込むか、魔術語で放った言葉に魔力を乗せて、神様とやらに自分の意思を伝えることで、特定の現象を発生させることができるとしか書かれていなかった。


 確かに、魔力操作なら魔法陣も詠唱もいらずに、身体機能をある程度強化したり、木刀に魔力の刃を付与したり、物理的な影響を与える魔力の塊を放ったりすることはできるが……魔力操作と魔法は完全に別のものではないのか?


 うーむ……これはまた後でさらなる検証が必要そうだな……。


「ほら、そんなのはいいから、早く書いてあることを教えてくれ」


「あ、ああ、そうだな……コホン……ソメール教国の学者たちによると、魔道具に古代語で表示されている様々な文字は、それぞれが対象者の特定の能力を表すものになっていて……」


「ほう」


 魔法陣や詠唱なしで魔法が使えるという情報も気になったが、今は魔道具に表示された自分のステータスだ。


 それは今自分が表示している画面と比べるとやはりいくつかの情報が欠けているが、それでも内容的には書かれている数値やスキル名とどれも一致しているように見える。


「例えば、この部分は体力、この部分が魔力を表す数値で、オース君のそれぞれの数値は……ん?」


 自分やアクセル殿は古代語を問題なく読めるが、ヴェルンヘル殿が読めないということなので、そんな彼にも書かれている内容が分かるように、アクセル殿が一つ一つ指さしながら、その文字の意味を口に出していこうとしたようだ……。


 しかし、その手はすぐに止まってしまい、それを聞くことでしか内容を知る術がなく大人しく聞いていたヴェルンヘル殿は、急に手を止めたアクセル殿の顔を見やった。


「……どうした?」


「オース君……君は……」


「うむ」


 さて、ここでアクセル殿はどんな反応をするのだろうか……。


 ここに表示されている情報は、今開いている画面と同じもの……しかし、今開いている画面は、自分が魔物を倒した後などによく確認しているステータス画面ではない。


 ステータス画面とよく似ているが、おそらく使用用途が全く異なるであろう画面だ。


 これは、【鑑定】に近い効果を発揮する魔道具を使用した際、そのどちらの画面の情報が表示されるのかを確認する検証……そして……。


「君は……ものすごく弱いな……」


 偽りの情報を目にしたこの世界のキャラクターは、それが偽りであると見破れるのかの検証である。


「ふむ……そうか?」


 自分が今視界の隅で表示させているのは、プロフィール画面。


 流石に所持していないスキルを一覧に含めることはできないようだが、所持している、あるいは過去に所持していたスキルを任意で設定することが出来て、その延長なのか、体力や魔力の最大値も今より低い値を好きに設定することが出来るようになっている。


 まぁ正確には、それらを直接設定するわけではなく、逆に表示させたくないスキルや数値にマスク処理をかけるような感じで、そういった効果が得られるという仕組みだ。


 体力や魔力など、数値に関する項目は、本当の数値がゲージとして表示されたUIがスライダーとなっており、つまみの部分より右側がグレーアウトし、本当の数値よりも低い値が表示できる仕組みで……スキル一覧や称号一覧の横には表示のON・OFFを切り替えるトグルスイッチがついている。


 だから今その魔道具に表示されているステータスは、魔力も体力もグリィ殿の半分ほどしかなく、スキルも【輪廻の勇者】【身体強化】【剣術】【サバイバル】【料理】くらいしかない、王族というよりも中堅冒険者といった具合の内容になっているのだ。


「ああ、まぁ、一般人よりは間違いなく強いし、魔力量に関しては平民の家系ではありえない数値ではあるが……スキルの少なさも加味して、伯爵位の騎士団長と互角に渡り合えたらいい方だろう」


「なるほど……」


 うむ、本当にこのステータスだった時の強さに関しても、アクセル殿と認識の差は無いようだな……。


 ソメール教国で魔道具の開発が進められていた間に様々な人物のステータスを見てきたのか、こちらに来てからそれなりの人数の生徒に魔道具を使えているのか……まぁ、そうだとしても、【鑑定】を発動させればいつでも人のステータスを覗き見ることが出来る自分と比べれば調べてきた人数は少ないはず。


 それなのに、少ない情報でここまで正確に分析できているのは、流石は真面目で勉強家のアクセル殿、といったところか。


「へー、こいつが伯爵位の騎士団長ねー……」


 ヴェルンヘル殿はその情報に納得がいっていないのか、自分たちに疑いの目を向けているが、とりあえず能力を調べる魔道具がソメール教国に存在するということは分かったようだ。


「はっはっは、しかし、そうか、オース君が勇者だったのか……それならそうと隠さずに早く言ってくれればよかったものを」


「うむ、まぁいつか話そうとは思っていたが、まだそれまでにやりたいことが色々とあったのだ」


「そうかそうか……まぁ、僕も君と共に冒険をしていた時の実力から、勝手にその可能性を排除してしまっていたからな、その点はすまなかったと謝っておこう」


「いや、謝らなくていい、自分が冒険中にわざと全力を出していなかったのも事実だからな」


 ……まぁ、アクセル殿にすぐに打ち明けなかったのも、冒険中に全力を出していなかったのも、どちらも等しく検証のためだが。


「それで……その魔道具が映し出している内容が真実だとして、本当にオースがこの世界の伝承にある勇者だったら……ソメールの王子はどうするつもりだ?」


「そうだな……色々と唐突過ぎて戸惑っているが、もともと僕の任務は勇者を見つけて我が国へと連れ帰ること……せっかくこの学校の生徒たちとも少しずつ交流を深められてきたところなので、その点は少々寂しくはあるが……僕はここで学校を辞めて、オース君をソメール教国へと……」


「……その勇者が、グラヴィーナ帝国の王子でもか?」


「……」


「そして、いい機会だからもう一つ聞いておこう……その勇者が、この国に仕える貴族の中から見つかったとしても、そのまま連れ去るつもりだったのか?」


「……」


 む……? なんだ、この雰囲気は……。


 部屋中に静電気でも満ちているのか、まるで空気中からピリピリとした電気信号が肌に伝わってきているようだ……。


 先ほどまで打ち解けていた……いや……よくよく思い出してみると、自分がこの部屋に入った直後はそこまで和やかな雰囲気ではなかった気もするが……だとしても、急に空気が変わりすぎではないだろうか……。


「おい、オースはどうするつもりだ?」


「ふむ?」


「まさか友人の頼みだからと言って、何も考えずにソメール教国に招かれるつもりじゃあないだろうな?」


「それは……」


 なんだ? 勇者がソメール教国に招かれるのは、強制イベントじゃないのか?


 事前にプレイヤーに選択肢が与えられる、選択イベントなのか?


 てっきり強制イベントだと思っていたから、スキップできないムービーを挟んでイベントが進んでから、進むべき道を逆走する検証でもしようかと考えていたので、そもそも行くか行かないかを選ぶなど考えてもいなかった……。


 くそっ……自分としたことが、数多の可能性からそんな初歩的な可能性を排除していたなんて、これでは一流デバッガーを名乗れないぞ。


 ……と、そんな風に過去を後悔している間にも、流石はリアルな時間が流れるゲームである……。


 自分が言葉に詰まる演技をしたところで、今から様々な想定をして選択肢をじっくりと考える暇を与える時間すら稼がせてくれないようで、二人の話は無慈悲に進んでいく。


「……まぁ、オースが何と答えようと、ソメール教国の王子の意見がどうだろうと、俺が取るべき行動は変わらないけどな」


「何? どういうことだ? まさか……ジェラード王国も勇者を欲しているのか!?」


「いや、別に俺も親父も、この国にとって勇者がどうとかは別に考えてねぇよ……ただ、そうだな……そういえば話の途中だっただろ? せっかくの機会だ、オースも一緒に今地上で何が起こってるか聞いてけよ」


「む? 地上で何が起こっているか……だと?」


 くっ……流石は三か国の王子が一堂に会するような重要イベントだ……話の展開が早すぎる……。


 というか、結局さっきの選択肢はどうなったのだ? 保留になったのか? 時間切れで選択肢を選べるタイミングが過ぎ去ってしまったのか?


 どちらにせよ、このスピーディーな展開のイベントは、周回確定だ……とりあえず二周目、三週目できちんと検証できるように、各キャラクターのどんな発言に対して行動を起こせそうかのメモを残すだけでもしっかりと対応せねば……。


 まったく、いつも通りの当たり判定検証から、とんでもないイベントを引き当ててしまったものだ。


 こうして自分は、急なストーリーの展開に焦りながらも、後の検証のためにと、思考操作でメモ画面を何枚も同時に展開させ、二人の話に必死で食らいつくことにした……。



▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる

【全強化】:あらゆる能力が上昇する

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる

【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる

【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる

【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】

【権威を振りかざす者】

【禁断の領域に踏み入れし者】


▼アイテム一覧

〈水×26,000〉〈薪×110〉〈小石×1,070〉〈布×116〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1627日分〉〈保存食×90〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×640〉〈獣生肉(上)×615〉〈鶏生肉×50〉

〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×64〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉

〈木刀×1〉〈着替え×20〉〈宝飾品×90〉〈本×110〉〈遺物×10〉

〈体力回復ポーション×9〉〈魔力回復ポーション×5〉

〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×10〉

〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉

〈金貨×11〉〈大銀貨×6〉〈銀貨×7〉〈大銅貨×4〉〈銅貨×3〉


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