第百十九話 遺跡調査で検証 その四
ジェラード地下遺跡で、建物を一軒ずつ調べながら北東へ向かって進んでいく、ヴィーコ・カルボーニ調査チーム。
このチームの申請者であり、一応彼がチームリーダーとなっているので、そんなチーム名になっているのだが、そんな彼は、どの建物を調査するときも見張り役の騎士と一緒に入り口付近で待機しており、肝心の調査は自分の手で行わないようである。
まぁ、そのおかげで自分が彼の分まで探索できる範囲が増えて、地上に無い、この世界では珍しい品々を自分の手で観察したり、彼らが話に夢中になっている隙をみてそれらを亜空間倉庫にしまったりする機会が増えているので、特に問題は無いのだが……。
ふと、他にも検証できそうな項目を思いついたので、自分は一度探索の手を止め、ヴィーコ殿の元へ近づいて行った。
「カルボーニ卿は調査をしないのか?」
「ん? 何を言ってるニセモノ、ちゃんと貴様らに指示を出して、提出された品を騎士と一緒に鑑定してるじゃないか……それに、チームの顔合わせをした時に、学校行事の場であれば特別にヴィーコ様と呼んでもいいと許可したはずだぞ?」
「そうであったな、ヴィーコ殿」
「ふんっ、何やら敬意が足りていない気がするが、まぁいいだろう……学校の規則だからな……それで、なんだ……貴様はボクに調査の指示ではなく、家の探索を手伝えと説教しに来たのか? だったら残念だが、生憎これも学校から認められている王族・貴族学科の仕事だ、貴様にケチをつけられる義理は無いな」
「なるほど……」
ふむ……名前で呼ぶことは許可するが、仕事は指示係に徹して、身体を使う実作業は他のメンバーに任せる、と……。
ヴィーコ殿の立ち位置が、モブキャラなのか、そうでないのか……親睦を深めたいのか、そうでないのか……という感じで、そのキャラクター性が気になって声をかけてみたのだが、結局よく分からないな……。
とりあえず学校の指示に逆らうつもりはない、といったスタンスのようで、他のメンバーと違ってあちらから話しかけてくることが無いので、今のところはモブキャラ寄り、といったところだろうか。
「貴様、今何かボクに対して失礼なことを考えなかったか?」
「いや、そんなことはないのである」
「ふんっ、だったらサボっていないで作業に戻れ」
「あー、それなのだが……用というのは別にあるのだ」
「用だと? ほう……やっと謝罪でもする気になったか?」
「うーむ……謝罪? 自分は何かヴィーコ殿に謝らなければならないことがあっただろうか」
このタイミングでヴィーコ殿に謝罪? 自分は何かやっただろうか……。
遺跡の調査が始まってから、フランツ殿に怒られることは多々あったが、ヴィーコ殿に直接迷惑をかけたことは……遺跡で見つかった品だと言って自分で持ち込んだ宝飾品を渡したり……目の前で大の字に寝転がって全力でサボってみたりしたくらいだった気がするが……うーむ……どこかで会話やイベントをスキップしていただろうか?
「……貴様が調査を始めてから、呆れるほど何度も冒険者学科の教師に怒られていたせいで、チームリーダーであるボクの評価が落ちているということ以外にも何か思いつくというのであれば、その謝罪もまとめて聞き入れよう」
「ふぅ、それのことか、それであれば想定の範囲内である……うむ、特にイベントを拾い逃しているわけではなさそうだな……急に紛らわしいことを言わないでほしい」
「……何故ボクの方が注意を受けているのかサッパリ理解できんのだが?」
「あー、それで、用というのは……」
「そして謝罪すらもしないと……」
ヴィーコ殿が何を言いたいのか分からないが、殆ど立っているだけの単調な仕事にストレスでも溜まっているのか、その貴族らしい堂々とした顔は引きつり、眉毛がピクピクと動いている。
うむ、そんな彼にも、この検証の提案はちょうどいいかもしれないな……。
「……指示を出す側の検証もしたいので、この辺りで一度お互いの役割を代わろうではないか」
「……」
「……」
「……それは、一時でも、ボクが貴様の指示を受けて、平民と一緒に体力仕事をする、ということか?」
「そういうことになるな」
「……」
「……」
ふむ、また固まったか……。
入学試験で出会った時から、今のようにちょくちょく会話でラグが発生したり、話しかけても反応を返さなかったりしたので心配だったが、やはりこのキャラクターはいくらか挙動が怪しい部分があるな……。
フリーズして進行不能になるまではいっていないが、メモに残して置いて、あとで開発チームに報告しておいた方がいいだろう。
「くっ……貴様ぁ!! もう我慢ならんぞ! どれだけボクの顔を汚そうとすれば気が済むんだ!」
「うむ、復帰したか」
「貴様の本当の正体は知らんが、ボクは公爵家の長男だぞ! 貴族の中でも高い立場に立つこのボクが、よく分からん奴の指示を聞いて、平民と一緒に仕事をするわけがないだろう!」
「ふむ、しかし、グリィ殿は貴族だが、ハーフドワーフの双子と一緒に駆け回ってるぞ? ……まぁ、仕事をしているかと言われたら微妙なところではあるが」
「グラツィエラ嬢は別に良いのだ……彼女は自由に駆け回っているところが愛らしいのだからな」
「……愛らしい?」
「あ、いや、コホン……とにかく、彼女は別に良いのだ! あー、ほら、貴族とはいえ冒険者学科だろう? 王族・貴族学科であるボクとの引き合いにグラツィエラ嬢を出してくるのは間違っているだろう」
「なるほど……その理屈でいくと、魔法研究学科のカヤ殿も引き合いには出せないな」
「なんだ? あの女子も貴族なのか?」
「うむ、彼女も貴族であっても真面目に探索をこなしているが、それは魔法研究学科だからであるか?」
そう言って視線を向けた先には、ただ珍しい品を探して騎士の元へ届ける他のメンバーとは異なり、持ち運べない大きな家具や建物の壁に絵が描かれた模様や古代語、それ自体の形などを紙にスケッチして、それを騎士に提出するカヤ殿の姿……。
ロシー殿やカイ殿と一緒に、行くところ行くところで騒がしく駆け回って、それっぽい品を見つけては騎士に提出して、ただのゴミだと突き返されている、グリィ殿とは違って、一人で黙々と自分のできる作業をこなす彼女の姿は、将来有望な研究家の助手といった雰囲気を放っていた。
「そうだな、あの女子も魔法研究学科だから、その仕事をこなしているだけだ……それに、色々なパーティーに出席してるボクが見ても貴族だと気づかないということは、彼女はそれほど爵位の高くない家の末娘とかだろう……同じ括りにして欲しくはない」
「うーむ……そうか……まぁ、そういう仕様なら仕方ないな」
「相変わらず何を言っているのかは不明だが、やっと納得したのか……ほら、納得したならさっさと持ち場に戻れ、探索するのが冒険者学科の仕事だろう」
「ふむ、承知した……ここはいったん引くとしよう」
自分が貴族に指示を出して、冒険者のような仕事をさせてみる……せっかく思いついた検証だが、ゲームの仕様的にできない行動ならば仕方がないだろう。
そういった自由度が低い点から考えても、やはりヴィーコ・カルボーニというキャラクターはモブキャラに近い存在である可能性が高まったが、まぁ、それが分かっただけでも収穫はあったということにする。
無茶な検証をしようとしてもどこからともなくフランツ殿が現れて止められるし、本当にただ魔道具や書物を見つけては騎士に届けるというだけの単調作業をするだけになってしまっているのだが、デバッグとは基本的にこういった単調作業の繰り返しだ……他に出来ることがないのであれば、その仕事を全うするとしよう。
自分は再び建物内の探索に戻ると、グリィ殿たち子供組み三人が、すっかり保護者役になっている騎士に、届けた品の珍しさによってポイントをつけてもらって、その点数を競い合っているのを目撃し……。
その突発ミニゲームに全力で参加して、他三人に一点も取らせないという、パーフェクトクリアを叩き出したりする検証もしてみたりするのであった……。
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる
【全強化】:あらゆる能力が上昇する
【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える
【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える
【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる
【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る
【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる
【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる
【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる
【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る
【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる
【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る
【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る
【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる
【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる
【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる
【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる
【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る
▼称号一覧
【連打を極めし者】
【全てを試みる者】
【世界の理を探究する者】
【動かざる者】
【躊躇いの無い者】
【非道なる者】
【常軌を逸した者】
【仲間を陥れる者】
【仲間を欺く者】
【森林を破壊する者】
【生物を恐怖させる者】
【種の根絶を目論む者】
【悪に味方する者】
【同族を変異させる者】
【覇者】
【権威を振りかざす者】
【禁断の領域に踏み入れし者】
▼アイテム一覧
〈水×26,000〉〈薪×110〉〈小石×1,070〉〈布×116〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1627日分〉〈保存食×90〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×640〉〈獣生肉(上)×615〉〈鶏生肉×50〉
〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×64〉
〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉
〈木刀×1〉〈着替え×20〉〈宝飾品×90〉〈本×110〉〈遺物×10〉
〈体力回復ポーション×9〉〈魔力回復ポーション×5〉
〈冒険者道具×1〉〈調理器具×1〉〈錬金器具×1〉〈変装道具×10〉
〈掃除道具×1〉〈茶道具×1〉〈絵画道具×1〉〈手持ち楽器×4〉
〈金貨×11〉〈大銀貨×6〉〈銀貨×7〉〈大銅貨×4〉〈銅貨×3〉