第百十三話 魔法と錬金術の検証 その四
魔法と錬金術の検証を始めて、三か月ほど経過しただろうか……季節としては夏に入ったようだが、この世界全体がそうなのか、この大陸や周辺の土地がそうなのか、まだ春だと言われても信じられてしまうくらいの気温だ。
そういえば、自分がこの世界の検証を始めたのも確か夏の初め頃だったな……。
ということは、もうこのゲームの検証を始めて一年になるのだろうか……? いや、現実時間とゲーム内時間が同じかも分からないから、そうとも言い切れないか。
まぁ、どちらにせよこの世界での検証はまだ終わっていない……細かいことは気にせず、検証が完了するか、三年という派遣社員の最大契約期限が切れるまでは自分の仕事に集中しよう。
さて、そんなわけで、数か月にわたり続けていた魔法と錬金術の検証だが……。
進行スケジュールとしては、平日は先生に授業でまだ触れられていない範囲まで質問して、自分たちの経験範囲では気づかなかったような部分に関する新たな知識を増やし、休日は冒険に出て、それら得た知識を元にさらに深く広い検証を進めるという方針で進めていった……。
最初は検証ついでに受けていた討伐系の依頼をグリィ殿に殆ど任せていたが、高度な魔法が使えるようになってくるうちに、カヤ殿も戦闘で活躍するようになり……。
【鑑定】スキルと似たような効果を魔法で再現できるようになってからは、採取系の依頼もアーリー殿がその魔法の練習がてら請け負ってくれるようになった。
そうなってくると、今度はグリィ殿のやることが無くなるのではないかと思うところであるが、冒険者ギルドで依頼を受注してくる担当になっていたグリィ殿が、楽になった分だけ受注する依頼の数を増やしていったので、彼女の仕事量は特に変わらない。
そのせいか、グリィ殿の称号が〈怪力娘〉から〈怪物娘〉に変化していたが、まぁそれは些細な問題だろう。
何やら南の方にある街で貴族や商人の護衛依頼が急激に増えているらしく、この街の冒険者も結構な数がそちらの冒険者ギルドへ応援に行ったようで、グリィ殿のそんな称号を噂する声を耳にすることはなかったし……。
この街の冒険者が少なくなったおかげで、自分たちが一パーティーで何パーティー分の依頼をこなそうと、止める者はいない。
そんなことよりも問題なのは、この三か月でやっと区切りが見えた、魔法と錬金術の検証結果の方だ……。
《スキル【魔法(火)】【魔法(風)】【魔法(水)】【魔法(土)】を獲得しました》
《スキル【魔法(火)】【魔法(風)】【魔法(水)】【魔法(土)】が、スキル【属性魔法】に統合されました》
《スキル【魔法強化】を獲得しました》
《スキル【身体強化】【魔法強化】【成長強化】が、スキル【全強化】に統合されました》
《スキル【魔法耐性】を獲得しました》
《スキル【物理耐性】【魔法耐性】【精神耐性】【時間耐性】【異常耐性】が、スキル【全耐性】に統合されました》
《スキル【調合】が、スキル【一般錬金術】に変化しました》
本当であれば学校で三年かけて習うのであろう、授業で卒業するまでに教わる、教科書に載っている全ての範囲で検証を進めて……。
想定される魔法全ての発動成功パターン、失敗パターンを試し……時には己の身体で実際の効果や威力を試しながら……それらのスキル獲得と、関連するスキル成長が出来たところまでは良かったのだが……。
《スキル【魔法科学】を獲得しました》
《いくつかの条件を満たし、スキル【魔術語】が、スキル【古代魔術語】に変化しました》
《いくつかの条件を満たし、スキル【属性魔法】【魔力応用】が、スキル【魔術】に統合されました》
《いくつかの条件を満たし、スキル【薬術】【医術】【一般錬金術】【魔法科学】が、スキル【錬金術】に統合されました》
《称号【禁断の領域に踏み入れし者】を獲得しました》
「うーむ……これはまた……とんでもないことが分かったな……」
「はい……」
「そうね……授業で習うことが、まさか真実を覆い隠すための、偽りの知識だったなんて……」
カヤ殿のその誰もが見落とすであろう細かいところにまで気が付く目と、自分が発したひとつのアイデアの断片から十の理解を得るその耳により、魔法陣は本来分解されるべきではないのであろう部分まで細かく分解され……。
その魔法という錬金術とは少し異なる分野からの知識も取り入れるアーリー殿の類稀なる発想力と直観力、一度出来ると思ったら決して出来るまで諦めない執念に、ふとした瞬間に彼女の元へ偶発的に訪れる幸運が加わり、錬金術は本当の姿を見せ……。
自分たちはどうやら、もしかしたら辿り着いてはいけないのかもしれない真理にたどり着いてしまったのかもしれない。
♢ ♢ ♢
最初のきっかけは、自分が現代の知識をカヤ殿に伝えたところだろうか……。
まず、授業で習った魔法の構成や扱い方から説明すると、魔法陣の構成要素としては基本的に【主属性】【座標】【容量】の三つが最低限必要で、そこへさらに【副属性】【方向】【時間】【形状】【硬度】【粘度】などを加えることによってカスタマイズできるというものだった。
魔法が使える冒険者が最も日常的に使うであろう薪に火をつけるような魔法は、【主属性】に火を、【座標】に魔法陣の中心を、【容量】を薪に火が付く程度に設定した魔法陣を、自身の魔力で薪の下に描き、そこへ魔力を流す。
そうすることで、薪の下に描かれた魔法陣から小さな火が現れ、それが引火することで薪に火がつけられるという仕組みだ。
その応用で、魔法陣を空中に描けばそこに火が出現するし、【副属性】に風が設定されていれば小さな火は炎となり、【方向】を前方に設定すれば炎は前方に向かって飛んでいくし、【時間】に任意の時間を設定すれば何時間だって燃え続ける炎を魔法で維持することだってできる……。
【副属性】は同一の物でも複数設定出来て、例えば【主属性】を【水】に設定した基礎魔法は水を生み出すものだが、【副属性】にも【水】を設定すると氷が生まれ、さらに追加でもう一つ【副属性】として【水】を設定すると、何故か水蒸気が発生するのだ。
ただ、座標やベクトル、容量や時間も含めて、設定するもの種類が増えれば増えるほど、必要な魔力量は大きくなるらしく……。
魔力の必要量が大きくなった魔法陣に対して、発動のために流す魔力量が不足していれば不発に終わるし、逆に魔力の必要量が小さな魔法陣に大量の魔力を流し込んだり、歪んだ魔法陣などを描いて魔力が均一に流せなかったりすると、自分が授業中にカヤ殿の教科書を焼失させてしまったように、爆発を引き起こしてしまったりする。
と……授業ではそう教わった。
自分で魔法を作れるゲームとしては、仕組み的にシンプルで分かりやすく、普通に楽しむ分にはそれだけ解析出来て、あとはそれら各属性や設定する要素などの必要な魔法陣のパーツさえ集められれば、魔法使いプレイで十分に遊べるだろう。
だが、自分たち検証チームは、それだけで終わらなかった。
その様々な魔法を分解し、摘出された【主属性】【座標】【容量】【副属性】【方向】【時間】【形状】【硬度】【粘度】などの魔法陣パーツに対しても、さらに分解していったのだ。
自分は現実世界での数学の知識があったので、そもそも【座標】【容量】【方向】がそれぞれ独立したものではなく、重なる部分がある、【ベクトル】というひとつの力にも言い換えられそうなものだろうと気づいた。
だから、カスタマイズされていない基本的な薪に火をつける魔法に、追加で設定するはずの【方向】は、実は設定されていないのではなく、既に全方向に対してゼロで設定されているのではないかと考えたり、【時間】もゼロでは発動するのはおかしいので、どこかにデフォルト値が設定されているのだろうと考えたりしたわけである。
そして、その発想は正しく、実は炎を前方に飛ばす魔法は、基本的な薪に火をつける魔法に追加で【方向】の魔法陣パーツを増やすことなく、火をつけるという大元の魔法陣に描かれた一部の数値をいじるような感覚で実現可能であることが分かり……。
同時に、【座標】や【容量】を設定しなくても【主属性】にデフォルト値がいくらか設定されているため、追加で設定する、しない、どちらも殆ど同じ現象が発生することが分かった。
そうなると当然、授業で【主属性】【副属性】として習う魔法陣のパーツから、デフォルト値の【座標】【方向】などが取り除けることになる……。
と、その見解をカヤ殿に話したところ、彼女はそのデフォルト値を取り除いた【属性】を、さらに分解し始めたのだ……。
そして……そのやってはいけない分解が、全ての始まりとなり……。
彼女が、全く別の属性であるはずの、土魔法と水魔法の一部に、共通の魔法陣パーツを見つけた時……自分たちは禁断の領域に足を踏み入れてしまうこととなった……。
「あ、あの……ちょっとこれを見ていただきたいんですけど……」
それは、自分が有り余る魔力を使い、一般的な人物であれば付け加えないであろう量の追加要素をありったけ加えてみるという検証で、龍に見えなくもない形の炎が宙をうねうねと動き回った後に敵を襲うという、見た目は威圧感があるものの攻撃力的には普通に大きな炎を放った方が強い、コスパ最悪な、見た目だけの魔法を操っていた時である……。
自分はカヤ殿に声をかけられたので、その無駄に魔力を消費して無駄のない無駄な動きをする魔法を止め、彼女が持ってきたメモ用紙をのぞき込むと、そこには、水属性の基礎となる魔法と、土属性の基礎となる魔法を分解した図が描かれていた……。
「む? これは、水を生み出す魔法陣と、砂を生み出す魔法陣か?」
「はい、その二つの違う属性のはずの魔法陣なんですけど……この部分が……」
そして、カヤ殿が指で示した、それぞれのメモ用紙で分解した要素の中に入っていたひとつのパーツを見比べると……一部ではあるが、同じパーツが使われていたのだ。
「ほう……よく見つけたな……というよりも、よくここまで分解したな……」
「あ、えっと、その、わたし、こういう地味な作業が好きなので……」
「ふむ、そうか、やはりカヤ殿はデバッガーに向いているのかもしれないな」
「えと……褒められているんですかね? よく分かりませんが、ありがとうございます」
自分は、与えられた全ての情報……ひとつひとつが小さな部品となっているようなものを元に、その組み合わせの種類を洗い出すこと……キャラクターが使える技の一覧から、人が思いつかない無限コンボを思いつくような分野は得意なのだが……。
カヤ殿は、与えられたいくつかの情報を元に、共通点などを探り出し、小さな部品に分解していくこと……複数のキャラが攻撃した時に表示されるダメージの結果から、内部でどんなパラメータがどのように計算され、その結果、最終的にそのダメージになっているのだと解明するようなことが得意なのだろう……。
外側に広げていくのが得意なデバッガーと、内側に掘り下げていくのが得意なデバッガー、どちらも検証チームに必要な人材だ……出会ったのは偶然ではあるが、彼女を助っ人に引き入れてよかったな。
……とまぁ、そんなカヤ殿のデバッグ能力に対する感想は置いておくとして。
水属性の魔法と、土属性の魔法に共通点か……ふむ……。
「……む?」
「? 何か分かりましたか?」
「ふむ……そうだな……もしかすると、そのパーツの意味は……結合……だろうか」
「結合……?」
水を生成する魔法と……砂を生成する魔法……。
現実世界で大学まで進んでいないので詳しい部分までは分からないが……確か、水は水素結合で作られていて、砂も、砂の種類によるが、共有結合といったか、何らかの化学結合によって作られていたはずだ……。
エネルギーコスト的には、水も砂も、近くにある水蒸気や砂塵などを集めた方が効率的な気がするが……もし、この魔法が水蒸気や砂塵などが周囲に存在せず、代わりにそれらを構成する原子が存在するような場所でも発動するとしたら……化学結合などによってそれらが作られる可能性は十分にあり得る。
そして、もしかすると、それぞれの魔法の、結合を意味するパーツではない箇所には、単純に水蒸気や砂塵などを集めるようなパーツが描かれているのかもしれない。
それを確かめるなら……。
「カヤ殿、確か、自分が買った資料の中に、砂を石に変える魔法があったと思うのだが……使えるか?」
「え? えっと、はい、一回使ってみて発動したので、使えると思いますけど……」
「うむ、では、その魔法を、この木のコップに入った水に使ってみて欲しい」
「?? 砂を石に変える魔法を、水に?」
「そうだ」
「あの……えっと……はい……やってみます……」
自分はグリィ殿がキャンプ地に置いていった水の入った木のコップを指し、それに向かって砂を石に変える魔法を発動させてほしいと頼むと、カヤ殿は懐からおしゃれな金属の指揮棒といった見た目の杖を取り出し、少し考えた後、空中に魔法陣を描き始めた……。
自分は魔法の杖など持っていないので指で書いたり、念じて瞬時に出現させたりしているが、普通は魔力伝導の良い木材やミスリルなどで作られた、彼女の持つような小さな指揮棒のような杖か、フランツ殿の妹のアンナ殿が持っていたような、地面につきながら歩いたり、振り回せば近接武器にもなったりする長めの杖を使うらしい。
ついでに言うと、自分は基本的な調合の道具は持っているものの、錬金術に特化した器具は持っていないので、その器具が無いと難しい錬金術は全て、自前でその器具を持ってきているアーリー殿に任せっきりだったりする。
そして、カヤ殿はそんな指揮棒のような杖を、まるで本当にオーケストラの指揮をするかのように優雅に振るって魔法陣を描きながら小さい声で呪文を唱え、最後に発動句を唱える。
「【ストーン】」
すると……。
—— サッ ——
「え? 水が消えた……?」
カヤ殿が魔法を発動させた水は、魔法の光で一瞬見えなくなった後、跡形もなく消え去ったように映った……。
「ふむ……再結合が行われない……? となると、予想が正しければ……」
自分は次の検証段階に移るため、脳内で魔法陣を思い浮かべてから手のひらを前に突き出し、突き出した掌の前に魔力で思い浮かべたとおりの魔法陣を出現させ、特に呪文などを呟かないまま発動句のみを唱える。
「【ファイア・アロー】」
すると、魔法陣から出現した火が、矢の形となって、水の消えた木のコップの少し上あたりへと飛んでいき……。
—— ボッ ——
「爆発した……!」
火の矢が木のコップの上を掠めたあたりで、コップを中心に小さな爆発が起こった……。
爆発と言っても、ただ水素と酸素が狭い範囲で勢いよく燃えただけなので、少し大きめな音はしたものの自分たちまで火の手は届いていない。
……まぁ、グリィ殿の木のコップは少し焦げてしまったようだが。
「ふむ……少しおかしな部分はあったが、大体予想通りか……」
「え? え? いったい何が起こったんですか?」
「それはだな……」
カヤ殿が発動させたのは、おそらく、魔術語的には、砂の結合をいったん切断し、まとまったひとつの石として再結合させるといった効果を持つものだったということだろう。
なので、水に対して使ったところ、水は水素結合が切断されて、酸素と水素に戻り、再び水に戻るはずだった。
再結合されなかった理由は、もう少し検証を重ねないと確証は持てないが……カヤ殿が魔法陣を間違えていたり、流し込む魔力が足りなかったりしたか……。
もしくは、本来は石に対して使う魔法を、水に対して使ったことに対して、魔法陣に描かれているのであろう何らかのパーツが影響し、効果が最後まで現れなかったのか……。
どちらにせよ、結合の切断までは動いたので、その共通のパーツが結合という意味を持っていたり、この属性を設定して魔法を使うというファンタジーな仕様の裏には、実は科学的な要素が含まれていたりすることが分かった。
いや、実は、その可能性は少し前から感じてはいたのだ……。
自分は魔法を使用するときに呪文を唱えずに魔法陣のみを利用するが、それは魔術語の発音が苦手ということ以外に、その言葉に違和感があるからだった。
教科書や参考書に魔法陣と一緒に載っている呪文は、魔法陣という文字をそのまま言葉に翻訳したものではない……。
一応、無理に読み解けばそういう翻訳も出来なくはない範囲ではあるが、その魔法を生み出した人物がそうなのか、魔法陣を翻訳した人物の趣味なのか、【魔術語】スキルの仕様なのか、呪文というのはどうにも回りくどく、詩的な文章になっているのだ。
【火属性】パーツ部分を、〈永劫なる破壊の業火〉や〈人が人として歩み始めた最初の力であり永遠の罪〉と表現したり、【方向】として前方を指定したいだけで〈我が眼光の果て〉とか〈まだ見ぬ未来のその先へ〉と表現したり……。
単純にその物を示せばいいところを、余計な修飾子などを大量につけて表現されるので、もはやそれを聞いても実際にどんな魔法を唱えているのか分からない形になっていたりする。
まぁ、今思えばそういうことかと納得できるのだが、そういった余計な補助的な言葉の中で【火属性】に含まれている様々な効果の中の、単純に火をつける【燃焼】の部分を使うのか、物質の【温度を変える】部分を使うのか、なども指定していたのだろう。
もっと早くこのことに気づいて、きちんと確信をもって検証を進めれば、カヤ殿が担当してくれた【属性】要素をさらに細かく分解する手助けが自分にもできたかもしれないが……。
自分は今までに数々のファンタジーゲームをプレイしており、その中にはこういった言い回しを敢えてややこしくしたような呪文なども登場していたので、そういう世界観で、そういう仕様なのだろうと思い、それ以上深く考えられなかったのだ。
うーむ……まさか自分の経験があだになって検証で遠回りすることになるとはな……今後は先入観も捨てて、より多方面からの視点で物事を解釈しなければ……。
と……。
自分が魔法陣や呪文に対してそんな解明をして、少しばかり反省もして……。
そして、おぼろげな科学の知識で、他にも、もしかしたら火の魔法には燃焼やレドックスなどといった意味を持つパーツが含まれていたり、光を発するような魔法には電弱相互作用的な意味を持つパーツが含まれていたりするかもしれないなど、現代科学に関する知識を、分解と解明が大好物なカヤ殿に教え……。
それが、アーリー殿の耳にも届いて、錬金術でも同じようなことが出来ることが分かり……。
三人でさらなる検証に熱中してしまった結果が……今の状況だ。
どの魔法を使うにも必ず必要な魔法陣パーツ、【火】【水】【風】【土】の属性パーツ部分が、基礎にしてはそれだけで随分と複雑な作りだったり、にもかかわらず、書いてある本によって魔法陣の形状が若干異なっていたり……。
騎士が無法者を捕らえる際に使う光の拘束鞭や、教会の司祭様が怪我人を手当てするときに使う治癒の光が、四属性の中の応用であると記されている本があったかと思えば、別の本には四属性とは別の【光】属性として書かれているなど……。
ただでさえ一つの魔法陣を覚えるだけで大変だというのに、本によって同じような効果をもつ魔法でも、書かれている魔法陣の形状も解説も違うのだから、これでは確かに魔法を覚えるのを諦める人が後を絶たないだろうなとは思っていたが……。
まさかそれぞれの属性パーツに、現代で化学や物理学として解明されている反応や作用に関する記述が大量に含まれているとは……。
……それは複雑で難解で、人によって解釈の違う形になるはずである。
学校の授業で習う、教科書通りの、四元素を使った魔法構築は、主属性と副属性の組み合わせで、どんな科学的な現象を、どんな形で引き起こすかをうまく指定できるようになっていたらしい。
それだけで、この魔法形態を作った人物がいかに頭の良い人物か想像できるというものではあるが……もしかしたら、その魔法陣を行使する呪文を敢えて詩的に表現したのも、そんな科学的に説明すると複雑な内容を、文系の人間でも覚えられるようにという親切心なのだろうか。
……まぁ、単純に魔法開発者の趣味である可能性も否めないが。
とりあえず、いくつかの魔法の中には、本当にファンタジーな世界でしか考えられないような現象を引き起こすような魔法も存在したが……殆どは科学的にも説明できる現象を引き起こすものだった。
そもそも、魔力を使って科学的な現象を起こせるというだけで十分ファンタジーであるし、ゲームはゲームだ……リアル志向にこだわりを持つゲームということで、構成がよく考えられた魔法の作りになっているというだけだろう。
世界観の設定的には、もしかすると、滅びてしまった旧文明は、この世界の今の時代どころか、自分のよく知る世界の現代よりも進んだ文明を持っているから、科学も今よりもずっと進歩しているという設定なのかもしれないが……プログラム的にそういう仕組みで動いているのだと言ってしまえばそれまでだ。
魔法に関するバックストーリーがあるなら、もちろんそれも気になるが、今のところ検証で必須となる、魔法構築の仕様が把握できて、各パーツの洗い出しや、組み合わせた時に発生する現象の検証が出来たので、全く問題ない。
まぁ、科学的現象を引き起こせると考えると、今手持ちにある資料から分解できたパーツ以外にもいくつか未発見のパーツが……つまり、世に出ていない魔法陣がありそうなのだが……それらが後で見つかるとしても、今検証できるものはこれで全てだ。
「これは……ちょっと出来ることに制限が無くなりすぎて、これが世間に公表されたら、魔法文明がどこまで進んじゃうか分からないわよ」
「世界が海に沈む前の人たちが生きていた時代は、魔法の文明が今よりもずっと進んでいて、そのせいで争いが絶えなかったって歴史で習いましたけど……確かに、こんな便利な力を手に入れてしまったら、やんちゃしてしまう人がいるかもしれませんね……」
「うむ……こんな仕様があるなら、魔法に属性というものが存在するのに、属性相性というものが存在しなかった理由も頷けるし、魔法が、魔力を使って何らかの現象を発生させる方法として研究されているのも、今思うと伏線だったのだろうな……」
「うーん? カヤさん達が何を言ってるのかさっぱり分からないっすけど、とりあえずオースさんの言っていることが他の二人とズレてるってことは分かるっす」
「ふむ? 何か違っていただろうか?」
他の二人のつぶやきはあまり聞いていなかったのでよく分からないが、とにかく、魔法を解明した結果、厳密には属性、四元素なんて仕様は存在しない、ということが分かった。
それでも、この世界では【主属性】【副属性】で引き起こす現象の指定をして……それに加えて【座標】【容量】【方向】【時間】【形状】【硬度】【粘度】などの要素を指定することで魔法の効果を表現する仕様が主流だし、それで何ら不自由ない……。
むしろ、基礎として覚える【属性】の魔法陣パーツを覚えるのが大変ではあるが、それを乗り越えてさえしまえば、初心者でも覚えやすい仕組みになっているだろう。
もしかしたら、先人は、より簡単に、安全に魔法が使えるようにという思いで、後世に今の仕組みで伝えたのかもしれない。
水を氷や水蒸気に相転移させるくらいの魔法ならともかく、生き物を原子レベルで分解してしまうような魔法が使えてしまったら、危険どころの騒ぎで済まされないだろうしな……。
「ふむ……なるほど……よし」
「この検証結果は、自分たち検証チームの中だけで留めておこう」
自分は魔法と錬金術の検証結果をそうまとめると、カヤ殿やアーリー殿とこの研究を世間に公表しないことを約束し、ついでに、彼女たちには自分の冒険者パーティー〈世界の探究者〉へと正式に所属してもらうことにした。
グリィ殿が際限なく大量の依頼を受注し続けたおかげで軍資金も増えたことだし、あとで二人の冒険者用装備を整えたり、二人のステータスを検証したりしよう。
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【全耐性】:あらゆる悪影響を受けにくくなる <NEW>
【全強化】:あらゆる能力が上昇する <NEW>
【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える
【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える
【魔術】:自分の魔力を特定の法則に則って思いのままに操れる <NEW>
【錬金術】:素材と魔力で様々なものを生み出し、扱うことが出来る <NEW>
【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる
【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる
【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる
【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る
【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる
【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る
【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る
【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる
【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる
【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる
【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる
【古代魔術語】:古の魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る
▼称号一覧
【連打を極めし者】
【全てを試みる者】
【世界の理を探究する者】
【動かざる者】
【躊躇いの無い者】
【非道なる者】
【常軌を逸した者】
【仲間を陥れる者】
【仲間を欺く者】
【森林を破壊する者】
【生物を恐怖させる者】
【種の根絶を目論む者】
【悪に味方する者】
【同族を変異させる者】
【覇者】
【権威を振りかざす者】
【禁断の領域に踏み入れし者】 <NEW>
▼アイテム一覧
〈水×36,000〉〈薪×120〉〈小石×1,100〉〈布×120〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1632日分〉〈保存食×90〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×640〉〈獣生肉(上)×630〉〈鶏生肉×50〉
〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×64〉
〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉〈調合セット×1〉〈本×100〉
〈木刀×1〉〈着替え×20〉〈変装セット×10〉〈宝飾品×100〉
〈掃除道具一式×1〉〈茶道具一式×1〉〈絵画道具一式×1〉〈手持ち楽器一式×1〉
〈金貨×21〉〈大銀貨×8〉〈銀貨×4〉〈大銅貨×2〉〈銅貨×5〉