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第百十二話 魔法と錬金術の検証 その三

 

「ふむ……であれば、この魔法陣は、こう分解できるのではないだろうか」


「あ、なるほど……確かにそうですね……だったら、もしかしてこの部分も、数量が違うだけでこっちの魔法陣のこの部分と一緒ってことは……?」


「おお、確かにそうだ……うむ、やはりカヤ殿は検証の才能があるな……」


「そ、そうですかね……? ありがとうございます……未だに検証って言うのが何なのか分かりませんけど……」


 冒険に出て二日目の昼時。


 昨日のうちに竜の休息地にたどり着いた自分たち魔法・錬金術検証チームは、この冒険の折り返し地点に立った現在、早くも慣れはじめた手順で検証を続行中である。


 初日こそ行き先を知らされていなかったカヤ殿とアーリー殿が、ここは危険な場所だとか、早く通り過ぎるか帰った方がいいと、怖がったり慌てふためいたりしていたものの、いざ検証が始まると二人ともそちらに夢中になって危機感など忘れてしまったようだ。


 アーリー殿が調合などの研究になると睡眠や美容も忘れるほど集中してしまう生粋のデバッガーだというのは知っていたが、いざ始めてみると、どうやらカヤ殿もそれに近いタイプのようで、自分の指示した魔法研究が楽しいのか、どことなく会話もいつもより弾んでいるように感じる。


「オースくーん! ちょっとこっちに来て!」


「どうしたのだ? アーリー殿」


「今ちょっと入れる素材を間違えちゃったんだけど、そしたらどう考えても計算と合わない、予想と全然違う反応を見せて……」


「なに? うーむ……この組み合わせの検証をするはずが、この素材をこっちの素材に置き換えてしまったのか?」


「そうなの……でも、この組み合わせにこの素材を入れても、予想では別になにも起こらないはずでしょ?」


「うむ、そのはずだが……確かに反応が違うな……というか、この段階で、予想と違うどころか元の素材に含まれていない効果が表れている……」


 アーリー殿に呼ばれて彼女の検証結果を見た自分は、調合品が予想と違う反応を見せていることを確認すると、すぐに【鑑定】を発動させて効果を確かめた……。


 彼女には、調合の検証をするときにもアドーレ殿に手伝ってもらいながら行ったパターン検証に近い形で、この竜の休息地という平原や、隣接する森で採れる素材を色々な組み合わせで錬金してもらっている。


 といっても、既に素材の組み合わせだけで言えば調合の検証をするときに全て確かめ終わっているので、錬金術的な観点から、きちんと魔力をつかって素材の持つ属性を重ね合わせるような調合をした時に効果の変わりそうなパターンだけに絞った検証だ。


 いや、そのはずだったのだが……ふむ……この、授業で習った範囲内では想定されない反応と効果の変動が発生するということであれば……もしかすると、やはり全パターンで改めて検証する必要があるのだろうか……。


「えー、やっぱり効果も変になってるんだ……あー、あたしもオース君のその鑑定道具を使わなくても薬の効果が分かる魔法が使えたらなー……」


「うーむ……自分もこのスキルは検証チーム全員に持っておいてもらいたいとは思っているのだが、これについては取得条件が特殊すぎるので、どうやって教えたらよいものか分からないのだ」


「ちぇー、まぁ、できないんなら仕方ないけどさー……あ、それでね? この授業で教わった内容からオース君がルールを予想してまとめてくれた資料に載ってない反応なんだけど、実はこれと似たようなことは、おばあちゃんの家で調合をしていた時に見ていて……」


「む? 属性を考慮しない調合の時点で似たようなことが起きるのか? ……いや、考慮していないだけで、普通の調合をしているつもりでも、魔力が加わることで意図せず錬金術が発動していることもあると授業でも言っていたな……もっと詳しく教えてくれ」


「うん、その時の組み合わせは……」


 そして、彼女の説明によると、アドーレ殿は薬を調合するときに〈触媒〉という、本来のレシピにはない素材を加えることで、完成品の効果を上げたり、本来付与されるはずのデバフ効果を取り除いたりしていたらしい……。


 なるほど……確かに、某ゲームでもそんな仕様があったな。


 しかし、それこそ元の素材に対して【鑑定】を行うことで得られる情報からは分からなかっ……た?


 ……む? いや……これは……鑑定の情報が増えている?


 ふむ……【鑑定】の内部経験値が一定に達したのか、何か他の条件を満たしたのかはしらないが、何故か触媒として利用した時に発揮する効果も鑑定情報に表示されるようになったな……。


 それならば、それを考慮した組み合わせとして不足している部分だけ検証項目に追加できるので、それほど手間はかからないだろう……まぁ、最終的には効果の被りそうな組み合わせも含めて全パターンの検証を行うが……。


「ではアーリー殿、とりあえず追加で……」


「オースさん、オースさーん! そろそろご飯にしないっすかー!」


「グリィ殿、今いいところなのだ、あと一時間ほど待ってほしい」


「嫌っす! もう待てないっすよー! 一時間前も、二時間前も同じこと言ってたじゃないっすか!」


「ふむ? そうだったか?」


「そうっすよー!」


 アーリー殿と追加の検証の打ち合わせをしようとしたところで、グリィ殿がお腹を鳴らして抗議する。


 自分としてはもう少し検証を続けたいところだが、彼女はもう空腹の限界なのか、野生のクマすらも逃げ出しそうな険しい目つきをしているので、このままでは自分たちの命が危ないかもしれないな……。


 グリィ殿には冒険者ギルドで受注した討伐系の依頼を殆ど任せてしまっているし、自分たち以上にお腹を空かせているだろう。


「あはは……確かに言ってたね……まぁ、あと一時間でキリが良くなるとは思えないし、いったん休憩にしよっか……ご飯も睡眠も忘れて研究に打ち込むことに慣れてるあたしらはともかく、身体を動かしてるグリィちゃんはしっかりご飯を食べたほうがいいし、カヤちゃんはちゃんと休んだ方がいいでしょ……ね? カヤちゃん」


「これがこっちの魔法陣にも使われてるから、この部品は……」


「おーい」


「ひゃっ! あっ……ご、ごめんなさい……なんでしょうか?」


「うーん、カヤちゃんも意外とこっち側の人間みたいだねー……」


「そうであるな」


「え? え?」


 アーリー殿に声をかけられて現実に戻ってきたカヤ殿は、状況が呑み込めないものの、検証の手をいったん止めるタイミングだというのは察したのか、手に持っていた複雑な魔法陣や解析のメモが書かれている紙をその場に置いた。


 彼女の周りには似たようなめちゃくちゃに書き込まれた紙が何枚も散らばっており、その中でもきちんと内容がまとめられて資料として機能を発揮するものは、丁寧に積まれていくつもの紙束の塔を形成している。


 魔法陣が色々な記号や図形の組み合わせで、それが魔術語という翻訳可能な言語であるということから、カヤ殿には教科書に載っているものに加え、自分が王都を駆け回って色々な本を買った中に描かれた魔法陣、全ての解読、およびその解読があっているか実際に魔法を発動させてみるという検証を頼んでいるのだが……。


 彼女は、自分が一つ例を挙げて、授業で習わなかった範囲の魔法陣を解読してみたところ、それをすぐに理解するどころか、その解読の見解に対して、もっと細かく分解できそうだと言って、自分の気づかなかったパターンをその場で指摘して見せた。


 ……自分は検証については誇りをもって自身がプロであると主張できるが、言語学者ではない。


 たしかに、今までにいくつもの、暗号を解読するゲームや、謎の言語から意味を読み取って進めるゲームをプレイしてきたが、それは所詮、開発者が、時に言語学者の手を借りながら、プレイヤーにクリアできるように組み上げられた、程よく頭を使うレベルのものである。


 その文字が使われる文化が一度途絶えている文字の中でも有名なヒエログリフも、その解読の歴史は三世紀にも及ぶと聞いたことがある。


 一流のゲームデバッガーとして、ゲーム化された暗号の解読がパッケージに記載された所要時間の半分ほどでクリアできるとしても、それは、過去の言語学者が残してくれた考え方や技術を知っていて、なおかつゲーム内容がきちんとプレイヤーにクリアできるレベルに落とされたものになっているからだ。


 まぁ、この世界もゲームだということを考えれば、魔法陣も時間をかければ自らの手で完全解読できないことは無いのだろうが……別にこのゲームは言語や暗号がメインの謎解きゲームではない……おそらく、某有名なオープンワールドRPGでいう、ドラゴン語のような位置づけなのだろう。


 それらを組み合わせて自らの手で新しい魔法が生み出せそうだという点では異なるが、ゲーム上でそのシステムを楽しむために最低限必要となるのであろう基礎的な部分は、授業を受ければ教えてくれるので、別に自らの手で解読する必要はない。


 今自分たちがやっている範囲の解読は、コアユーザーや、MOD製作者が行うような部分の解読で、普通にプレイする上では知らなくても楽しめる部分なのだ。


 おそらくそんな位置づけだからこそ、教科書には載っていないし、解読の難易度も高い……。


 もしかしたら初回限定特典や、別売りのファンブック、公式の攻略本などに、その解読方法や、それによって得られるパーツを使った魔法陣の作り方が載っており、攻略サイトなどにおススメの魔法一覧が書かれたり、もしかすると有志のプレイヤーの手で魔法陣作成サイトなどが立ち上げられたりするのかもしれないが……。


 それらが確認できない現状、このゲーム内で自らの手で組み上げていくしかないのだ。


 そう考えると、もしかしたらカヤ殿は、そういったプレイヤーに向けられた、お助けキャラクター的なポジションなのかもしれないな……。


 彼女のおかげで、魔法陣のパーツ分けや言語化は驚くべき速さで進んでいる……そして同時に、当初の予想よりだいぶ細かく解体できている……。


 細かく解体できているということは、つまり解明、言語化する必要のあるパーツも増えているということで……。


 つまり、何が言いたいかというと……錬金術の検証も、魔法の検証も、今日中には終わらない……。


 そしてなにより、とりあえず今は放っておいたらその辺に落ちているものも含めて何でも食べだしそうな勢いのグリィ殿に、自分たちの頭をまるかじりされないよう、料理を作り始めることの方が大切だということだ……。


 ……うむ、いったん休憩にしておこう。


「カヤ殿、グリィ殿に食べられ……いや、先の解読に向けて集中力を得るためにも、そろそろ一度休憩しよう」


「あ、もうそんな時間でしたか……わかりました」


「ひゃっほーう! やっとご飯っすね! オースさん、もうお腹ペコペコ過ぎるっすから、私の分はいつもの四倍くらい作ってほしいっす」


「えぇ……グリィちゃん、昨日から普通にあたしやカヤちゃんの四倍くらい食べてなかった?」


「えー? そうだったっすか? まぁ、とにかくいつもの四倍でお願いするっす! 四倍に四倍を足しても八倍っすよね? 楽勝っすよ」


「え、えーと……そこは足し算じゃなくて掛け算なんじゃ……」


「ふむ、まぁ、グリィ殿が食べると言ったら食べるのだろう……午後に苦しくなって動けなくならないか心配であるが、とりあえず作り始めよう」


「よっしゃーっす! じゃ、私はご飯ができるまでの匂いに耐えられなそうなんで、ちょっとジョギングがてら依頼の続きをしてくるっすね!」


 そう言ってグリィ殿は颯爽と森の中へと駆け出して行った。


 食事を作っている間の匂いに耐えられなそうというのは本当なのだとは思うが、動いたら今以上にお腹がすくだろうということには、考えがいたっていないのだろうか……。


「ふむ……まぁ、余ったら収納すればいいし、グリィ殿の分は二十人前くらい用意しておこう」


 自分は今日も竜の休息地で、検証をして、ご飯を作る……。


 グリィ殿が暴れてくれているおかげか、この竜の休息地という土地柄か、ここには殆ど凶暴な獣や魔物は近づいてこず、たまに無鉄砲に現れるスライムは、すぐに調合の材料となって消える……。


 検証中に検証項目が増えるという、デバッガーによくある現象が発生したため、想定よりも検証日数が多くなりそうではあるが、まぁ、慌てることは無いだろう。


 自分の名義で手紙を出したことでカヤ殿もアーリー殿もこれからいつでも自由に冒険に出ることが出来るのだ……来週の休みも再来週の休みも、検証が終わるまでのんびりとこの作業を続けようではないか。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる

【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる

【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる

【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる

【身体強化】:様々な身体能力が上昇する

【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔力応用】:自分の魔力を思い通り広い範囲で精密に操ることが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる

【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる

【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る

【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる

【魔術語】:魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】

【権威を振りかざす者】


▼アイテム一覧

〈水×18,000〉〈枯れ枝×50〉〈小石×1,170〉〈布×80〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1952日分〉〈保存食×90〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×640〉〈獣生肉(上)×935〉〈鶏生肉×185〉

〈獣の骨×710〉〈獣の爪×260〉〈獣の牙×248〉〈羽毛×40〉〈魔石(極小)×64〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉

〈木刀×1〉〈着替え×20〉〈変装セット×10〉〈宝飾品×100〉

〈調合セット×1〉〈本×100〉

〈掃除道具一式×1〉〈茶道具一式×1〉〈絵画道具一式×1〉〈手持ち楽器一式×1〉

〈金貨×0〉〈大銀貨×0〉〈銀貨×0〉〈大銅貨×0〉〈銅貨×0〉

〈狼の屍×8〉〈猪の屍×4〉〈大猪の屍×1〉〈大猿の屍×4〉〈熊の屍×1〉〈剣虎の屍×1〉

〈猛毒蛙の屍×4〉〈角兎の屍×2〉〈鹿兎の屍×1〉〈巨大毒花の屍×1〉


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