第百十一話 魔法と錬金術の検証 その二
《称号【権威を振りかざす者】を獲得しました》
自分はグリィ殿、カヤ殿、アーリー殿の三人と別れた後、グラヴィーナ帝国の第三王子であるオルスヴィーン名義でこの国の王立学校に通っている生徒に向けた手紙を書いてから、再び冒険者ギルドに戻ってきた。
そして、しばらく待っている間に何やら称号を獲得したので、おそらくそのタイミングで使用人に運ばせた手紙がそれぞれの家の主に届いたのだろうが……。
ふむ……久々に称号を獲得したが、やはりこのゲームの称号システムは何かプレイヤーの望まないような、独特なものを選出するな……。
手紙の内容としては、軽い挨拶から始まり、近々グラヴィーナ帝国に冒険者制度を導入するため、王都の冒険者ギルド及び王立学校の冒険者学科を参考の対象とすることが決まった、というような、もっともらしい理由をつけて……。
王立学校に通う生徒には、冒険者活動を始めとする課外活動に積極的な参加意思を示してほしい、という、それらしい書き方で……主にカヤ殿とアーリー殿が、今後とも冒険者活動に積極的に参加できるように仕向けるものだ。
その事業に王立学校の生徒や卒業生を助手として雇うことも視野に入れているのではないかと匂わせる一文も添えてあるので、王族とつながりを持ちたい家の主はきっと息子や娘にこの事業に関わることが出来そうな行動を取るように勧めるだろう。
内容的に、三人だけに送ると怪しまれるので、優先的に手紙を出したいグリィ殿、カヤ殿、アーリー殿の三人への分と、王都の冒険者ギルドや王立学校自体に送る手紙だけ手早く書いた後、執筆ができる使用人に同じ内容の手紙を量産させ、随時王立学校の他の生徒たちへも届くように手配している。
この、勝手に出し始めた手紙のことがコンラート殿に知られたら……いや、作業を指示した使用人には特に口止めをしていないので、今日中には確実に知られてしまうと思うが……いざバレたら、おそらく彼は青ざめるだろうし、その後、相談を持ち掛けられるだろう帝国にいるダーフィン殿の耳に入ったら、何時間説教されるか分からない……。
しかしまぁ、前からグラヴィーナ帝国に冒険者という職業が導入されていないことに疑問を感じていたのは本心だし、父上から責任をもってその内容を全うするようにと言われたら、ついでにそんな一大事業の責任者になるという検証もすればいいだけだろう。
何はともあれ、全て問題なし、検証を進めていくうちに別の検証の予定が増えるなど、元の世界で仕事をしていた時にも毎回のように発生していたことだ。
「オースさーん、戻って来たっすよー」
「うむ、グリィ殿……と、カヤ殿、アーリー殿も一緒か」
「そうっすね、なんかよく分からないっすけど、いつも私が冒険に出かけるたびに怪訝な顔を向けてたヘルガさんが、急に、これからは冒険者活動にも積極的に参加するようにって言いだして……で、二人の家にも行ったら、そっちも似たような感じだったらしいっす」
「はい、まだ詳しい事は分かりませんが、お母様が急に慌ただしく動き回り始めたので何があったのか聞いたところ、逆に冒険者学科に知り合いはいるかと聞かれて……ちょうど今日その友人に冒険者活動に誘われていると答えたら、嫌じゃなければ参加してくるようにと、何か必要な物を買うためのお小遣いまで渡されました……」
「いやー、そりゃあそうなるでしょ……母さんが、なんか知らない偉い人から手紙が来たって言って見せてくれたけど、隣の国の王子様からの手紙だったわよ? なんか冒険者に関わる事業を始めるからどうのこうのって……」
「え? お、王族の方からの手紙が届いたんですか……?」
「まぁ、あの手紙が本物ならね……タイミングがタイミングだし、オース君が何か仕組んだとしか思えないんだけど……」
「あ……えっと……それは……オースさんが勝手に王族の名前を使って手紙を出したってことですか……? もしそうだったとしたら……それが知られたら……」
「きっとその日を境にオース君を見ることはなくなるでしょうね」
「……」
「ひぇー、オースさん、何やってるんすか! いくら私でもそれはヤバ過ぎるって分かるっすよ!」
「いや、三人とも、落ち着いてほしい……勘違いしているようだが、その手紙はちゃんと王族が書いた、正真正銘、本物の手紙だ……ただのFランク冒険者が書いた手紙ではない」
「え? そうなんすか? ふぅー、だったら問題ないっすね……」
「いやいや、だったとしても、何でオース君がそんな王族からの手紙を手配できるのよ」
「ハッ! そうっすよ! オースさんがそんな手紙を用意できるのはおかしいっす!」
「何を言っているグリィ殿、グリィ殿も隣国の王子とは知り合いではいか」
「え? あー、そういえばアクセルさんは隣の国の王子様だったっす……だったら別に変じゃないっすね……ふぅー、脅かさないでほしいっすよ」
「えぇ? グリィちゃんも王族の知り合いがいるの? ……って思ったけど、まぁ貴族ならありえない話ではないか……そのつながりでオース君も王族と知り合いってこと?」
「うーむ、知り合いというか……その王族は自分の冒険者パーティーの一員だな」
「えぇええ!? 王族が冒険者パーティーの一員!? 何それ? そんなの聞いたことないっていうか、ちょっと理解が追い付かな過ぎて頭が痛くなってきたんだけど……」
「まぁ、細かいことはよいではないか、せっかく親から許可を貰えたのだから、話をするにしても冒険の準備を進めながらしよう」
「うーん……なんか腑に落ちないけど、まぁいいかー」
「私は手紙とか無くても冒険してたっすから、難しいことは気にしないっす! それよりも、カヤさんが冒険に行けることになって良かったっすね」
「えっと、はい……そうですね、ありがとうございます」
自分はそうしていったん話がまとまったことを確かめると、冒険者ギルドで依頼を受注して、カヤ殿とアーリー殿の冒険者用装備を整えに街に繰り出した。
既にたくさんの冒険者道具が揃っているグリィ殿と、所持金がゼロの自分は何も買うものは無いが、二人は初めての冒険者活動なので買うものも多いだろう。
幸い、テントは一人用から四人用まで、他にも簡単な調理器具や食器など、過去にグリィ殿に渡したものが彼女の魔法鞄に詰められているし、食料は自分が大量に持っているので、二人が買うものは毛布やロープ、水袋や松明などの基本的な冒険者道具に加えて、布切れなどの消耗品だけで済んだ。
正式に自分の冒険者パーティーに入ってくれることになったら二人にも魔法道具なども含めて色々と便利な道具を所持しておいて欲しいが、今は検証のために臨時で助っ人として加わってもらっているだけだし、何よりもお金がないので、それはまた今度にする。
今やるべきことは、魔法と錬金術の検証……。
一応、街の外……というよりも、いつも検証に使う場所……竜の休息地に行く予定なので、そこでついでに達成できそうなら依頼を適当に受注するようにと、グリィ殿にいくつか受注してきてもらったが、それはグリィ殿に全て一人で達成してもらうことになる。
グリィ殿はいつもの計算方法で、日数かける四人分の労力で達成できるという算段の、四パーティー分の依頼を受けてきたようだが、まぁ彼女なら一人でも問題ないだろう……。
目指すは魔法と錬金術の仕様検証、およびスキル獲得……。
それぞれの授業を受けて、どんな仕様で魔法が発動するのか、どんな仕様で錬金術による物の作成が出来るのかがだいたい分かったので、それに沿った検証項目を洗い出してある。
あとは検証あるのみ……今回はそれぞれの検証のスペシャリストになるであろうカヤ殿とアーリー殿もいるので、チームでの総当たり検証で一気に片を付ける予定だ。
通常の検証であれば魔力が尽きることがない自分と違って、彼女たちは時間があっても魔力が足りないということが起こりえるが、その時こそ錬金術で魔力を回復するような薬を作って、ドーピングしながら検証を進めればいいだろう。
そこまで無理はさせない予定ではあるが、現実世界では自分もよく栄養ドリンクやエナジードリンクを飲みながら徹夜したものだし、多少なら平気なはずである。
「ふむ……なるほど……よし」
「ここから数か月かけて、全ての魔法陣パターンと錬金術の組み合わせを検証しよう」
自分はそう検証スケジュールを決め、グリィ殿、カヤ殿、アーリー殿の三人を連れて、野外で検証をする場所として定番になりつつある竜の休息地へと向かった……。
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる
【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる
【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる
【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる
【身体強化】:様々な身体能力が上昇する
【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる
【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える
【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える
【魔力応用】:自分の魔力を思い通り広い範囲で精密に操ることが出来る
【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる
【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる
【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる
【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる
【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる
【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る
【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる
【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る
【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる
【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る
【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる
【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる
【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる
【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる
【魔術語】:魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る
▼称号一覧
【連打を極めし者】
【全てを試みる者】
【世界の理を探究する者】
【動かざる者】
【躊躇いの無い者】
【非道なる者】
【常軌を逸した者】
【仲間を陥れる者】
【仲間を欺く者】
【森林を破壊する者】
【生物を恐怖させる者】
【種の根絶を目論む者】
【悪に味方する者】
【同族を変異させる者】
【覇者】
【権威を振りかざす者】 <NEW>
▼アイテム一覧
〈水×34,000〉〈枯れ枝×400〉〈小石×1,690〉〈布×100〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1960日分〉〈保存食×100〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×660〉〈獣生肉(上)×950〉〈鶏生肉×200〉
〈獣の骨×720〉〈獣の爪×270〉〈獣の牙×258〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×64〉
〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉
〈木刀×1〉〈着替え×20〉〈変装セット×10〉〈宝飾品×100〉
〈調合セット×1〉〈本×100〉
〈掃除道具一式×1〉〈茶道具一式×1〉〈絵画道具一式×1〉〈手持ち楽器一式×1〉
〈金貨×0〉〈大銀貨×0〉〈銀貨×0〉〈大銅貨×0〉〈銅貨×0〉