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第百九話 魔法基礎の実技で検証

 

 ジェラード王国、王立学校、北側の校庭。


 あれから、他の授業も検証しつつ、魔法基礎の座学で魔法陣や呪文に関する基礎知識を身に着けながら、買ったのはいいものの全く読むことが出来なかった魔法に関する本を解読していくことで、新たに【魔術語】のスキルを発現させるくらいには魔法に使用する言語の知識は身に着けた。


 ただ、英語で言うとまだ小学生か中学生のレベルだろうか……。


 簡単な文法と単語は分かるので、書いてある魔法陣を見て、それがどんなニュアンスの魔法を使うためのものなのかが何となく読み取れるが、いざ自分が書くとなると本当に初歩の初歩なのだろう、授業で何度も参考として出てきた範囲の魔法陣しか書けず、それを言葉にする呪文に関しても、発音がかなり怪しいといった状態である。


 おそらく、魔力をつぎ込んで習得したスキルを発動させつづければ、他のスキルと同じように魔術語を扱うための補助効果が得られる上に、スキルの経験値が増えて、目に見えないレベルが上がり、加速度的に上達していくのだろうが……。


【人族共通語】のような言語系スキルはオフにしてもその効果が継続するという検証結果が得られているが、最初からスキルを発動させていない場合はどうなるのか……魔力を消費してスキルをきちんと使った場合と、スキルとして使わずにそれに関する技術を磨いた場合の、スキル経験値の差はどれほどなのか……。


 せっかく、そういった検証が出来る機会を得られたのだ、自分の能力を向上させるという意味では非効率的だったとしても、一流のデバッガーとしてはその検証チャンスを逃すわけにはいかない。


 なので、一通りの検証結果が得られるまでは、このまま【魔術語】のスキルは未発動の状態を継続させたり、つぎ込む魔力量を調整して軽く発動させてみたりしようと思っている。


「はい、じゃあ、みなさん、今日からは授業で習った魔法の使い方を教えていきますよー」


 そんなことを考えていると、最初の授業からずいぶんと人数の減った、魔法の授業を受ける生徒が集まる校庭に、いつも通りニコニコと優しい微笑みを浮かべたセイディ先生がやってきた。


 長い座学の授業が終わり、今日からやっと実技に入るというタイミングなので、途中で抜けたが戻ってきているという生徒もいるようだが、基本的には、座学で魔法の難しさと面倒くささを教えられ、魔法に対して抱いていた夢や憧れを打ち砕かれた生徒たちは、近接戦闘などの、より現実的で無難な授業へと移っていったようである。


「……何度も言っているように、たとえ今日から自分の意思で魔法が使えるようになったとしても、先生が許可を出すまでは、授業外で魔法を使うのは禁止です……その理由は、言わないでも分かっているとは思うけど……慣れないうちは意図しない現象を引き起こしてしまって、自分が怪我をしたり、誰かに怪我をさせたりする可能性があるからです」


 セイディ先生は、口調はあまり変えないまま、顔は少し真面目になって、生徒に対してそんな注意を促す。


 柔らかい口調なのでそれほど厳しく注意を受けているような感覚は無いが、それでも、普段がおっとりでニコニコな人なので、こうして少し雰囲気を変えるだけでそれなりに真面目な気持ちが伝わるものだ。


 注意事項の合間合間で、自分の方をチラチラと見ている気がするが、やはりこういった3Dゲームでは、プレイヤーが当事者感覚を得やすくするため、複数人に向かって話している場面でも、視線を頻繁にプレイヤー側へ向けるものなのだろう……。


 ……決して、自分が先週あった座学の授業で、黒板に書かれた火を起こす魔法をさっそく使ってみようと、ノートに魔法陣を書き写して魔力を流し、小さな爆発を起こしてしまったからではないはずだ。


 セイディ殿が瞬時に魔法の障壁のようなものを張ってくれたおかげで、隣の席のカヤ殿にも怪我は無かったが、爆発のせいでカヤ殿が机の上に出していた参考書がいくつか燃えてしまった……。


 錬金術の授業で培った知識を活かして検証をしながら新しく作った薬と、もともと持っていた薬を、グリィ殿とアクセル殿に全て売ってもらって稼いだお金を、全て使い果たして彼女の参考書を弁償することで、なんとかそのことは許してもらえたが……隣の席という物理的な距離は変わらないものの、心の距離がいっきに開いたような気がする。


 隣人には距離を置かれ……セイディ殿だけでなく、同じ授業を受けていたアクセル殿にも怒られ……これがデバッガーの仕事なので仕方がないとはいえ、魔法の知識がない状態で魔法を使おうとすると爆発する、という検証結果に対して、得たものと失ったものの大きさが釣り合わないものだな。


「魔法を発動させる方法としては、この前の授業でも言った通り、基本的に、魔法陣や呪文などの【魔術語】に魔力を込めるだけですが……何も考えず、ただ普通の紙に普通のインクで書いただけの魔法陣に、特に魔力の込め方も意識しないで魔力を流し込むだけでは、発動しないか、発動したとしても期待する効果を発揮しません……」


 魔法基礎の授業を受けている生徒たちが、いつもの教室の席順とほとんど同じ並びで立っている校庭で、セイディ殿は相変わらず時々自分の方へと意識を向けながら、そんな魔法の使い方に関する内容を話し続ける。


 どうやら自分が前の授業で教室を火事にしかけたのは、使う道具や、魔力の込め方が悪かったからのようだ。


 この世界には、現実世界で物質によって電気の抵抗値が異なるように、魔力を通しやすいものと、魔力を通しにくいものが存在して、あらかじめ紙に描いておいた魔法陣に魔力を流して魔法を発動させる、といった、ゲームなどではよく〈スクロール〉と呼ばれたりする魔法発動媒体、および発動方法も存在しなくはないらしいのだが……。


 きちんと魔法発動媒体として機能するスクロールを作るには、魔力を通しにくい、あるいは魔力の通り具合にムラのない紙を用意して、そこに、魔力を通しやすいインクで魔法陣を描く必要があるそうで、その紙やインクを作るだけでも高度な技術を要するらしい。


 しかも、もしそれが作れたとしても、紙とインクで作った魔法発動媒体では、魔法を発動させた時点で、紙が魔法発動の負荷に耐えられず、まるごと消失するか、全てではなくてもインクの描かれた部分が綺麗に消え失せるとのこと……。


 道具を用意するだけでも一流の錬金術師の力を借りなければならず、一つの魔法発動媒体で使える魔法は一種類のみ……しかも、そうして作った魔法発動媒体が、たった一度使っただけで壊れてしまうというのは、どう考えても割に合わない……。


 そういった理由で、紙にインクで魔法陣を描いて〈スクロール〉という魔法発動媒体にする方法は、理論として確立しており、証明もされてはいるものの、そういった道具が店に並ぶような実現には至っていないようである。


 と、一般的な理由としてはそういったことが挙げられるが、実際にはそれとは別にもう一つ理由があり……。


 たしかに、それがあれば魔法の技術を磨いていない一般人も気軽に魔法を使えるようにはなるが、そうではない、こういった学校やきちんとした師匠の下で学んで経験を積んだ魔術師であれば、そんな高度な道具が無くても魔法が使えるようになる……。


 そして、使えるようになったら便利で頼もしい魔法を使うには、そういった適切な環境と努力も必要だが、その努力を長く多く続けられるかどうかは、魔力容量という、生まれながらの才能に大きく左右される……。


 だからこそ魔法が使える者は重宝され、高収入な働き口がたくさんあるのだ。


 それなのに、もし、そんな努力無しに、誰でも簡単に魔法が使えるようになってしまったら、どうだろうか……。


 魔法は力だ……それは戦うための物理的な力でもあるが、権力的な力でもある。


 そして、その力を多く持っているのは……つまり、魔力を多く持っているものは……他でもない、貴族である……。


 一般市民が、才能と努力を必要とせずに強大な力を扱うことが可能になり、貴族が持っていた権威が薄れてしまう……そんな内容を、歴史の授業でも習ったことがあるだろう。


 〈スクロール〉は、おそらく、現代で言う、〈銃器〉にあたる代物だ。


 それが普及してしまったら、貴族の持っている権威が、全てとはいかずとも、いくらか薄れてしまう……だから、安価なスクロールを作ろうとする研究は行われず、その分野が発展していない現状があると、そういうことなのだ。


 ふむ……毎回のことながら、このゲームの世界観はよく考えられているな……。


 ゲームとして考えるのであれば、使い捨てで既存の魔法が使える高価なスクロールなど、開発者側からしてもそこまで実装に手間がかからず、プレイヤーとしても遊びの幅が広がる、良いアイテムでしかないと思うが、それを店舗に並べていないとは。


 セイディ殿の言っている授業の内容がゲームにきちんと反映されているのであれば、冒険者のランクを上げて、錬金術スキルの経験値を積めば、おそらく自分の手で作り出すことは可能なのだろうが……。


 言っている通り、高コストで使い捨てとなると、一般的なプレイヤーがそれらを作れるようになっているであろう、冒険者的にも錬金術師的にも成長しているゲームの終盤では、そんなアイテムを使わずとも魔物を効率よく倒す術は整っているはずなので、収集要素として作ったとしても、使わずにストレージの肥やしになっている可能性が高い。


 まぁ、自分が今までプレイしてきたゲームでも、使いきりの魔法発動スクロールをきちんと運用していたのはランダムなダンジョンに潜るようなローグライク系のゲームだけで、こういったオープンワールド系RPGやオンラインゲームでは、自分が個人的にプレイする上ではあまり使わなかったからな……。


 そう……個人的にプレイする分には……。


 開発コストがそこまでかからないことを考えると、確かに、こうして世界観を補強するためだけのアイテムとして埋もれさせるのもありなのかもしれない。


 そして、プレイヤーも、ただの世界観補強アイテムだろうと納得するか、それに気づかずこのアイテムは何のために存在するのだと匿名掲示板に書き込むか、むしろそういう使えないアイテムを待っていたんだと縛りプレイに熱を入れるか、色々な反応を示してくれるだろう。


 だが、自分はそのアイテムを実装するプログラマーでもなければ、それを受け入れて感想を述べるプレイヤーでもない……実装されたものを検証するデバッガーである。


 高ランクの冒険者でないと手に入れられない材料を使って、高い技術を持った錬金術師でしか作れない道具を作らないと使えない。


 普通ならそれを聞いて、一切の興味を失うか、ゲームの後半で収集要素として図鑑を埋める目的でしか集めようと思わないだろう。


 だが、一般的ではない、縛りプレイプレイヤーはどうだろう……。


 スクロール縛りなどといった名目で、戦闘でスクロールしか使わずにラスボスまで駆け抜けたりするのではないだろうか……。


 そういったプレイをされる可能性がある……。


 ……つまり、検証の必要がある、ということだ。


「ふむ……なるほど……よし」


「とりあえず今度の休みに魔法系、錬金術師系スキルの経験値をカンストさせるつもりで上げよう」


 冒険者のランクに関しては、一応、後回しにしていた昇格試験も受け進めていこうとはおもうが……まぁ、ランクが足りなくてもオープンワールドなのだから、難易度が見合わないだけで、素材のある場所に行くことはできるだろう。


 自分はそう今後の検証予定を追加すると、まずはその魔法系スキルを学ぶために、セイディ殿の授業に集中することにした……。



▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる

【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる

【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる

【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる

【身体強化】:様々な身体能力が上昇する

【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔力応用】:自分の魔力を思い通り広い範囲で精密に操ることが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる

【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる

【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る

【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる

【魔術語】:魔法陣を読み解き、描き、呪文を詠唱することが出来る <NEW>


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】


▼アイテム一覧

〈水×34,000〉〈枯れ枝×400〉〈小石×1,690〉〈布×100〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1960日分〉〈保存食×100〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×660〉〈獣生肉(上)×950〉〈鶏生肉×200〉

〈獣の骨×720〉〈獣の爪×270〉〈獣の牙×258〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×64〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライム草×100〉

〈木刀×1〉〈着替え×20〉〈変装セット×10〉〈宝飾品×100〉

〈調合セット×1〉〈本×100〉

〈掃除道具一式×1〉〈茶道具一式×1〉〈絵画道具一式×1〉〈手持ち楽器一式×1〉

〈金貨×0〉〈大銀貨×0〉〈銀貨×0〉〈大銅貨×0〉〈銅貨×0〉


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