第百六話 サバイバル術の実技で検証 その四
「オースさーん! そろそろご飯の時間っすよーー!」
「む? もうそんな時間か……承知した! もう少ししたら向かう!」
サバイバル生活を初めて六日目。
初日はあれだけ不機嫌だったにも関わらず、それなりに美味しいご飯が食べられると分かるとすぐに上機嫌になったグリィ殿に呼ばれた自分は、額に浮き出た汗をぬぐいながら返事を返す。
初日はネトルのおひたしと焼いただけの肉という、少々味気ない食事を堪能することになったが、塩分のない食事を続けていたら、士気に関わるだけでなく、健康的被害も発生しそうだと、塩だけは亜空間倉庫から解禁し、ニンニクの香りがする草として知られるワイルドガーリックを発見したあたりから、彼女の機嫌は回復したのだ。
ふむ……どうやら採掘場に籠ってから思ったよりも時間が経っていたようだな……。
ここは、拠点から崖を下った場所に作った簡易的な短い採掘場で、坑道と呼べるほど深くは掘れていないが、一応、簡易的な坑木で枠組みをしながら掘り進めているので、入り口だけはそれっぽくなっている。
一応、掘り始めるときは、ついでに領土侵犯の検証をしてもいいだろうと思い、特にフランツ殿をはじめとする〈爆炎の旋風〉の先生方に確認を取らずに着手してみたのだが、結局、この森を授業の場所として選んだ時から生徒が気付かないまま隣の領まで足を踏み入れてしまうことも想定し、事前に王と隣領へ許可を取っていたらしい。
……まぁ、何故か今日の今日まで先生による襲撃は行われなかったので、真面目なアクセル殿が仲間にも知らせず勝手に掘り進めていた自分を発見するや否や、全力で走ってフランツ殿たちがいるキャンプ地まで確認しにいって聞いてくれた内容になるが。
アクセル殿はその時ついでに襲撃には来ないのかということも聞いたらしいのだが、既にグリィ殿が見張りをしている時に訪れていて、特に何も取る物が無さそうだったのでグリィ殿の寝顔を拝んでそのまま帰ったとのことである……。
そんなこんなで、授業の内容としての課題は達成できているのかどうか分からない状態にはなってしまっているが、サバイバル系ゲームの検証としては、それなりに成果を上げている。
あれから順調にサバイバル系ゲームの醍醐味である文明の発展を目指し、一日目に簡易的な拠点の確保と石のツール作成、二日目は粘土を見つけて簡単なかまどを作成するなど拠点のアップグレードを開始、三日目はそれらを完成させ、獣用の罠と保存食の加工を導入して食料の安定供給化、など順調に進めていった……。
様々なゲームを、それなりにデバッグしてきたので、そのゲームに導入されているシステムと素材から、開始地点の環境がこうだったら最短の発展ルートはこう考えられる、などが素早く導き出せる思考にはなっているが、知識があるからと言って全てがうまくいかないのもサバイバル系ゲームの面白いところだ。
某恐竜を手なずけてからが本番な有名サバイバルアクションゲームも、重量制限やリアル時間の経過に悩まされる高難易度なゲームだったが、この世界のリアルさもかなりユーザーを選ぶ高難易度な仕様で……なんでも出来るがゆえに、何もできなくなるオープンワールドゲームの特徴を生かし過ぎているものとなっている。
石のツールを作成するところまでは手ごろな木と石を組み合わせるだけだったので気づかなかったが、道具作成がボタン一つで出来ないどころか、レシピすら表示されないというのは、リアル志向だとしても少々やりすぎな仕様ではないだろうか……。
石を組み合わせて粘土で補強した調理用のかまどを作成するのにも苦労したが、問題はその先……鉱石の発見と、金属の加工である。
サンドボックスゲームとして有名な、ゲーム名にも採掘という意味が入っているあの四角いブロックの世界では、そのあたりをテキトーに掘って鉄鉱石を見つけ出し、砕いた石を組み合わせて作ったかまどの中で、その辺に生えている木を使って燃やすだけで、簡単に鉄のインゴットが作れてしまうし……。
高難易度なサバイバルアクションゲームとされている、あの古代の恐竜から機械の恐竜までいる世界でも、精錬炉こそ石だけではつくれず、その他にもなぜ必要なのか分からない素材が必要なものの、金属鉱石はそのあたりの大岩を砕けば簡単に手に入る。
それに比べて、この世界の金属鉱石の見つからなさと言ったら……現実的に考えればそうなるのは当たり前なのかもしれないが、地面を掘ったところで出てくることもないし、仮にその辺の大岩に鉱石が含まれていたとしても、石を木の枝に繊維質の草で括り付けただけの道具でバラバラに砕けるわけがない。
なので自分はこうして今もせっせと、崖下という地層が深く、鉱石がありそうな場所を掘り進め、やっと少量でも鉱脈と呼べそうな場所を発見したのだ。
自分は一度振り返って採掘場の入り口あたりに積んである鉱石を確認すると、最後にもうひと踏ん張りと、手製のつるはしを持つ手に力を込めて、先ほど見つけてもう少しで掘り出せそうな銅鉱石が埋もれた石の壁に振り下ろす……。
―― ガツン ――
《スキル【採掘】を獲得しました》
《スキル【解体】【収穫】【伐採】【採掘】が、スキル【採集】に統合されました》
「ふぅ……何とか久々のスキル獲得もできたようだな……集まった量だけではどれほど金属加工が試せるか分からないが、採掘はこのくらいにしておくか」
もう一度汗をぬぐってから、採掘できた銅鉱石を拾った自分は、入り口に積まれた戦利品も回収して、自分たちの拠点へと帰っていく……。
そして、懸念していた金属加工の方は、効率よく高温を維持できる溶鉱炉をつくるのには多少てこずったが、思っていたよりも時間をかけずに最適解を見つけ出し、無事に銅と錫の合金である青銅を作りだせたのだった。
《スキル【金属加工】を獲得しました》
《スキル【石工】【木工】【建築】【金属加工】が、スキル【工作】に統合されました》
加工する金属として、いきなり鉄ではなく、青銅を選んだのもよかったのだろう……。
銅の融点は千度を超えるが、錫と一緒に青銅として加工すると何故か八百度強の温度で溶けるようになる。
魚や肉の炭火焼で活躍する七輪でも、酸素の送り込み方によっては千度を超える火力が出せるのだから、お手製とはいえ中世より前、古代から実際に使われていた塊鉄炉やレン炉と呼ばれるものを元にした、土や粘土と石で作った使い捨て溶鉱炉なら、スペック的には何も問題はない。
むしろ、その溶鉱炉に風を送るふいごを、動物の皮や木材、繊維質の草などで作る方が難しく……そして、そこで実際に作ってみることで、あの恐竜をテイムするゲームで精錬炉を作る際に必要だった石以外の材料はふいごのためだったのかと気づくのだった。
何度か失敗しながら、最終的に残った青銅で作れたのはナイフが一本だけだったが、きちんと研げば、当たり前だが今まで使っていた石のナイフよりも切れ味が良く、それまで大変だった動物の皮を剝ぐ作業も比較的楽に行えた時の感動は、ただ動物を解体しただけでは絶対に味わえないものだろう。
簡単なサバイバル系ゲームでサクサク気持ちよく発展していく感覚も楽しいが、採掘とクラフトのサンドボックスゲームに科学MODを導入して超合金のアーマーを完成させるような、苦労に苦労を重ねてようやく得る達成感もやはりいいものだ。
無事に【金属加工】スキルも手に入り、ツリーハウスもどきを作った際に獲得した【建築】スキルを含む他いくつかのスキルと合わさった新しいスキルになったことだし、今回の検証は得るものが多かったな……。
健康的な被害が出そうだからと解禁した塩や、ツリーハウスもどきを作る際に石の斧では木の伐採に時間がかかり、ここで使わなければ使い道がなさそうだと解禁した、いつかの斧を扱う検証で手に入れた倒木と……結局、亜空間倉庫を完全に封印してのサバイバル生活は成し遂げられなかったが、出来なかった検証項目はあとで振り返ればいい。
授業は明日で最後……時間的にこれ以上の文明発展は難しいだろうが、たった一週間で、旧石器時代から石器時代を超えて、青銅器時代まで発展させることが出来たのだ……これ以上ないほどの健闘だろう。
これでサバイバル検証は完了として、最後の一日は、この授業自体の検証……。
持ち込んでいい食料は一日分という制限を大幅にオーバーして持ち込んだ二千日分の食料を一部開放して、他のクラスメイトも交えて豪勢にバーベキューパーティーなどを催したらどうなるかの検証をして、締めくくろう。
自分はこの授業で達成した検証項目のリストを確認していたメモ画面を閉じると、明日のパーティーの準備として、バーベキューソースと、それに漬け込む肉などの仕込みに取り掛かった……。
その匂いで食欲が刺激され、夕食を食べたばかりだというのに猛獣のような形相で、食べ物を強奪しに来たグリィ殿と戦いながら……。
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる
【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる
【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる
【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる
【身体強化】:様々な身体能力が上昇する
【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる
【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える
【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える
【魔力応用】:自分の魔力を思い通り広い範囲で精密に操ることが出来る
【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる
【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる
【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる
【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる
【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる
【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る
【採集】:自然物を的確に素早く採取し、集めることができる <NEW>
【工作】:様々な素材を思い通りの物に加工することが出来る <NEW>
【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる
【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る
【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる
【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる
【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる
【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる
▼称号一覧
【連打を極めし者】
【全てを試みる者】
【世界の理を探究する者】
【動かざる者】
【躊躇いの無い者】
【非道なる者】
【常軌を逸した者】
【仲間を陥れる者】
【仲間を欺く者】
【森林を破壊する者】
【生物を恐怖させる者】
【種の根絶を目論む者】
【悪に味方する者】
【同族を変異させる者】
【覇者】
▼アイテム一覧
〈水×34,000〉〈枯れ枝×400〉〈小石×1,690〉〈布×100〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1960日分〉〈保存食×100〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×660〉〈獣生肉(上)×950〉〈鶏生肉×200〉
〈獣の骨×720〉〈獣の爪×270〉〈獣の牙×258〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×64〉
〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライムの粘液×949〉〈スライム草×100〉
〈木刀×1〉〈着替え×20〉〈変装セット×10〉〈宝飾品×100〉
〈調合セット×1〉〈調合素材×100〉〈空き容器×99〉〈本×100〉
〈上治癒薬×6〉〈特上治癒薬×3〉〈魔力回復薬×8〉〈上解毒薬×4〉〈猛毒薬×5〉
〈筋力増加薬×3〉〈精神刺激薬×3〉〈魔力生成上昇薬×8〉
〈掃除道具一式×1〉〈茶道具一式×1〉〈絵画道具一式×1〉〈手持ち楽器一式×1〉
〈金貨×0〉〈大銀貨×0〉〈銀貨×0〉〈大銅貨×0〉〈銅貨×3〉