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第百二話 魔法基礎の座学で検証 その三

 

「魔法というのは、伝承的な表現で話すと、『人間の手で神々の奇跡を呼び起こすための方法』って言われているけれど……この国の魔法研究家たちの間ではどう言われているか……誰か聞いたことがある人はいるかしら?」


 セイディ殿は授業開始の挨拶が済むと、一言目で生徒たちに向かってそんな質問を投げかけてきた。


 おそらく今日の授業はこの枠で終わりという終盤に差し掛かっているために、生徒たちの集中力が落ちてきていることを見越して、集中力が途切れないように少しでも外部からの刺激を与えようとしての策だろう。


 だが、その内容は魔法を初めて習う冒険者なら知るはずがなく、逆に魔法を少しでも勉強している身であるならば、どの文献にも出だしでそう書かれているような初歩中の初歩……高校生に一桁の足し算を聞くようなものだ。


 なので、きっとその答えを知っている生徒でも、殆どの者が真面目に答えることすら恥ずかしいと考え、手を上げることはないだろう……今は席が離れているが、きっと今でも真面目過ぎるほど熱心に授業を聞いているであろうアクセル殿を除いて……。


 ―― スッ ――


「あら? まさかあなたが真っ先に手を上げるとは思わなかったわ……じゃあ、せっかくだし答えてみてくれる? オースちゃん」


 だからこそ、自分はそんな彼よりも先に、ほぼ反射的にまっすぐ手を挙げた……そして……。


「魔法は……爆発だ……」


 誰が聞いても、決して当たっているとは思えない、けれど、どこかそれっぽいような、そんな答えを発言してみる。


 ……まぁ、実際にはシスター・アナスタシア殿から習っているので、この回答が不正解だというのも、本当の答えがなんなのかも知っているのだが……。


 せっかくこの授業イベントでのプレイヤーがアクションをとれるタイミングが来たのだ、仲間が正解を答えられると分かっているのに、不正解の回答を検証せずに進めるのはナンセンスだろう。


「えーと……他の意見がある人は……あ、じゃあ……その後ろで手を上げている……アクセル殿下、でよかったのかしら……」


「はい! ソメール教国、第三王子のアクセルです! この国の研究家たちの間では確か……『魔法とは、魔力を使って何らかの現象を発生させる方法である』と言われていたのではないかと記憶しています! ちなみに我が国でも少し異なる部分はありますが、だいたいは同じ考えです! あと、僕の呼び方は他の生徒と同じで構いません!」


 うむ……自分の回答がスルーされるところからアクセル殿が完璧な答えを続けてくれるところまで、すべて想定通りだな……検証結果、問題なし、と……。


 それにしても、もしかしたら国が違うので、分からないかもしれないとも思っていたのだが、ちゃんとこの国の考え方まで予習しているとは、アクセル殿は本当に真面目であるな……。


 王子であるアピールの自己紹介から始まるところなど、相変わらず色々と主張が強いのが気になりはするが、彼の自国を重んじつつも、他国をきちんと知るような真面目さは、本当に尊敬する……。


「はい、じゃあ、アクセルちゃんって呼ぶわね……すばらしい回答をありがとう……そう、ここは国や種族によっても意見の違いが出る部分で、私の故郷であるエルフの里では、『魔法は神々に自分の意思を伝えるための文字であり言葉である』と言われているわ……そして、私はその方が教えやすいから、この授業ではその方向で教えるわね」


 そして、アクセル殿が他の生徒と同じ呼び方でいいといったすぐ後に、本当にくだけた呼び方に切り替えられるセイディ殿も、すごい精神力の持ち主である……。


 いくら本人が許可したとはいえ、相手は一国の王子だ……この世界の住民であれば少しは遠慮しそうなものだが……。


 まぁ、言葉の柔らかさ的に【人族共通語】スキルの自動翻訳で、自分にはちゃん付けで聞こえるものの、しっかりと元の言語で聞き取ると、ハイネスだとかユア・グレースだとかロードのような敬称を取って、呼び捨てになったようなニュアンスなのだが……日本人の自分からすると、呼び捨てもどうかと思ってしまうところではあるな……。


「皆の中には、ここはジェラード王国の学校なのに、どうしてこの国の学者の表現方法を使わないのかって思う子がいるかもしれないけれど……実は、この国の研究所でも、人に魔法の理論を教えるときには、よくこのエルフの間で伝わってる表現方法が用いられたりするのよ? 例えば……」


 魔法とは何か、を示す、表現方法の違いから話が進んで、セイディ殿が次に言葉を紡ぎ始めたのは、授業の初めにもそう題されていた、魔法陣と呪文の関係性について……。


 どうやらエルフの間で言われているのは、【魔法陣】とは神の使う【文字】であり、【呪文】とは神と会話する【言葉】なのだそうだ……。


 そもそも、魔法で引き起こされる現象というのは、人が様々な道具を駆使してやっと実現できるようなものを、簡単にやってしまえるようなものであって、やろうと思えば自らの手でその現象を起こすこともできるらしいのだが……その様々な必要な物だったり工程だったりを抜きに発生させてしまえるのが、神の所業ということらしい。


 その点も、国や種族によって微妙な認識の違いがあるらしいのだが……ゴブリン掃討作戦の時に見た、アンナ殿の【ファイア・ランス】も……火を起こして、木製の槍によく燃える油でも塗って、そこに火をつけ、それを敵に向かって投擲すれば、似たような効果が得られることを考えると、分かりやすいだろう。


 サバイバル術の授業でもあった通り、まず便利な道具なしに火をつけること自体、時間がかかることだし、芯となる槍などの重りがなければ、それを遠くに飛ばすこともできない……それどころか、もし燃え盛る槍が用意できたとしても、そんなものを手で投げ飛ばすような真似をすれば、自身に火が燃え移って大変なことになってしまうのだ。


 だからこそ、そういった課題を飛ばして、その現象だけをこの世に顕現させてしまえるのが魔法という神の技であり、それを実現させてほしいと神様にお願いする方法が、文字であれば魔法陣、言葉であれば呪文である、というのがエルフの考え方らしい。


 なるほど……神様というものがそもそも非科学的なのでアレだが、そうやって要素を分解して理論立てて話してもらえると、なんだか本当にそうなのではないかと思えてきてきてしまうな……。


 エルフという種族は、自分からするといかにもファンタジーなイメージで、そんな彼らがもっとも理論立てた説明をしているのは、なんだか少々不思議な感じではあるが、確かにこれなら、この国の学者が彼らの意見を取り入れているのにも納得だ。


「そして、この魔法陣も呪文も言語だというのは、今ではもう研究家の間でもかなり認められていて……うーん、そうね……あ、そうだわ……この中に誰か、【人族古代語】が分かる人はいるかしら?」


 セイディ殿は、エルフの魔法に対する考え方について少し話を進めると、今度は古代語に関して、また生徒たちに問いかけを投げかけてきた……。


 最初の質問では、自分とアクセル殿くらいしか手を上げなかった生徒たちも、その最初の質問で自分たちが答えた後だからか、授業の内容がそれなりに興味を引く内容になってきたからか、パラパラと手を上げる生徒が出てきたようだ。


 もちろん、自分は今回も誰よりも早く、真っ先に手を上げたのだが……セイディ殿が自分と目も合わせてくれようとしないように感じるのは気のせいだろうか……。


 と思ったら、ぐるりと教室内を見渡していたセイディ殿の視線が、こちらに近づき……。


「はい、じゃあ、オースちゃん」


「うむ」


「……の隣の、カヤちゃん」


「え? あ、はい!」


 自分を指名すると見せかけて、その隣のカヤ殿に視線を向けてほほ笑んだ。


 うーむ、ここでフェイントとは……セイディ殿もなかなか遊び心のある女性だな……授業の先生がそうくるのであれば、ここは自分もそのコミュニケーションに応えるために、あえてカヤ殿の回答権を奪って自分が答えてしまおうか……。


 と、そんなことを考えた瞬間、いつか感じた時と同じ【危機感知】の気配……。


 ―― ゾゾッ ――


 鳥肌のようなその感覚は前方からの圧力によって生じているようで……そして前を見ると、セイディ殿が先ほどと変わらずカヤ殿に微笑みを浮かべているように見えて、わずかに意識がこちらに傾いている……。


 【超観測】起動……。


 すると、正確には分からないが、何か見えない魔法陣のようなものが、自分の周囲を取り囲んでいた……。


 あの初めて出会った時とは違って、後方にも逃げ場なし……。


 この一瞬で、おそらく何らかの魔法であろう何かを、ここまで正確に自分だけをターゲットにして、しかも逃げ場なく展開するとは……最初から【超観測】を制限なしで起動していても、果たして抜け出せたか分からないな……。


 流石はこの国の研究者を差し置いて、この魔法の授業の講師になった人物というわけか……。


 うーむ……これを無視してでも自分が発言するという検証も捨てがたいが……まだ命を懸けた検証をするには早い段階だし……最初にこの授業では検証よりも学習を優先すると決めていたしな……ここは大人しく席についているとしよう。


「じゃあ、カヤちゃん……『手を挙げる』という言葉を【人族古代語】で訳して、それを直訳で【人族共通語】に直すと、どうなるかしら?」


「『手を挙げる』……を、古代語にして、その直訳になおす……?」


「そうよ、やってみて?」


 頭に無数のハテナマークを浮かべるカヤ殿に対して、笑顔を向けて続けるセイディ殿……。


 何をさせようとしているのかよく分からないが、何だか面白い問題ではないか……。


 検証関係なく、普通に解いてみたい内容だな……セイディ殿に見えない銃口を突き付けられているので発言することはできないが、自分でも少し頭の中で考えてみよう……。


 教会でアナスタシア殿に教わりながら習得した【人族古代語】という言葉は、一言でいえば、面倒くさい言葉だ。


 【人族共通語】で普通に伝えれば簡単に済むものを、わざわざ大げさに言ったり細かく描写したりするような、そんなイメージと言えばいいのだろうか……。


 実際には、その行動を簡単に説明する単語が無いから、あるいは、もっと細かく分類されており、ピタリとグループを示す単語が無い、という理由で、そういった遠回りで面倒な言い方になってしまうだけなのだが……これがやっかいなのだ。


 例えば、先ほどの例題でいうと、日本語で言うところの『手』に該当する単語は存在せず、【人族古代語】でそれにあたる単語……いや、文章を無理やり日本語に訳すと、『右手の肩から指先と、左手の肩から指先』のような感じになる。


 だが、『手を挙げる』と示している行動を起こすために必要な部位としては、一般的には右手か左手のどちらかでしかないため、【人族古代語】として必要な文章は『右手の肩から指先』となるだろう。


 そして『挙げる』という単語も存在せず、『前』や『上』といった向きや、『旋回』などの動作を組み合わせることになるから……。


「え、えーと……『右手の肩を中心に、右手の指先側を前方向から上方向にかけて旋回させて、右手の腕が右手の肩から垂直になったところで止める』……という感じでしょうか……」


「はい、素晴らしいわ、完璧よ……よく勉強しているのね?」


「あ、あの……はい、ありがとうございます!」


 うむ、カヤ殿の回答の方が自分の思考よりも早かったか……考え方は分かっていたので【思考加速】系のスキルを発動させていれば勝てたかもしれないが、やはり基本的な処理能力は雑学が好きなデバッガーよりも、きちんと現役で勉強をしている学生の方が上であるな。


 だが、先ほどの質問に手を挙げなかった生徒がいるように、この教室にいるのは、そんなカヤ殿のような真面目な学生だけではない……。


 多くの生徒はこのカヤ殿の長い回答を聞いて、もしかしてそんな面倒な言葉をこれから覚えなければいけないのか? と、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。


 だが、彼らのそんな考えは、セイディ殿の次の言葉で救われることとなる……。


「この回答を聞いて、【人族古代語】を知らない子は、そのとても回りくどくて面倒な言語はなんだと思うかもしれないけれど……魔法を扱うためにこの古代語を覚える必要はないから安心して?」


 その言葉を聞いて、明らかにホッと胸をなでおろす生徒たち……。


 見渡してみるとその多くは見覚えのある、冒険者学科の生徒だった。


 おそらく彼らは、冒険を楽にするために魔法は使いたいが、だからといってそんなに真面目に勉強をしたくはない……といった考えなのだろう。


 確かに、過酷な環境に身を置くことになる冒険者なら、ただ小さな火を起こせる魔法を習得しただけだとしても、それができれば着火器具や火口などの荷物も減り、拠点を設営するために必要な時間もかなり短縮できるのだ……攻撃に使えない小さな火でも簡単に使えるなら万々歳である。


 だが……その考えが正しく、少しお金を積めば誰だってこうして学校で学べるのであれば、どうして着火法の魔法道具なんてものが存在するのか、彼らには分からないのだろうか……いや、きっと本当に分からないのだろう。


 その証拠に、事前に【人族古代語】を勉強していたのか、先ほどのセイディ殿の質問に対して手を挙げていた生徒たちは、その彼らのホッとした表情に対して、同情や憐れみといった目を向けている……。


 そう……。


「【人族古代語】を覚えなくても……ただ、それよりももっと複雑で面倒な【魔術語】というのを覚えればいいだけだから、ふふふ」


 自分もアナスタシア殿から事前に聞いていた通り、魔法を使うようになるというのは一筋縄ではいかないのだ……。


 アナスタシア殿曰く、【魔術語】というのは、【人族古代語】をさらに分解して、もっと細かくされた単語を組み合わせて使う言語……。


 そして、初歩的な魔法陣を暗記して使うだけならともかく、その魔法陣を描く手間を省略するために呪文として言葉にしたり、自分で魔法の効果や威力を調整、はたまたオリジナルの魔法を作ったりするためには、絶対に覚えなければならない言語であると……。


 自分は、他の先ほど手を挙げていた優等生と一緒に、そのセイディ殿の言葉を聞いて青ざめる生徒たちに対して同情の祈りを捧げながら、その地獄のような授業の始まりを静かに見守った……。



▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる

【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる

【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる

【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる

【身体強化】:様々な身体能力が上昇する

【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔力応用】:自分の魔力を思い通り広い範囲で精密に操ることが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる

【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【解体】:物を解体して無駄なく素材を獲得できる

【収穫】:作物を的確に素早く収穫することができる

【伐採】:木を的確に素早く伐採することができる

【石工】:石の加工を高い技術で行うことができる

【木工】:木の加工を高い技術で行うことができる

【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】


▼アイテム一覧

〈水×34,000〉〈枯れ枝×400〉〈小石×1,690〉〈倒木×20〉〈布×100〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×2000日分〉〈保存食×100〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×706〉〈獣生肉(上)×993〉〈鶏生肉×242〉

〈獣の骨×720〉〈獣の爪×270〉〈獣の牙×258〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×64〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライムの粘液×949〉〈スライム草×100〉

〈木刀×1〉〈着替え×20〉〈変装セット×10〉〈宝飾品×100〉

〈調合セット×1〉〈調合素材×100〉〈空き容器×99〉〈本×100〉

〈上治癒薬×6〉〈特上治癒薬×3〉〈魔力回復薬×8〉〈上解毒薬×4〉〈猛毒薬×5〉

〈筋力増加薬×3〉〈精神刺激薬×3〉〈魔力生成上昇薬×8〉

〈掃除道具一式×1〉〈茶道具一式×1〉〈絵画道具一式×1〉〈手持ち楽器一式×1〉

〈金貨×0〉〈大銀貨×0〉〈銀貨×0〉〈大銅貨×0〉〈銅貨×3〉


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