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第九十九話 ソメール教国の情報整理で検証

 

「勇者を判別する魔道具か……」


 昼休みが終わり、次の授業が行われる教室へと向かう途中……自分はさきほどアクセル殿から聞いた内容を振り返っていた。


 アクセル殿がこの国に密偵として訪れた目的は、魔道具を使って勇者を探し、もし発見した場合は、どんな手を使ってもソメール教国へと連れ帰ること……。


 どうやら今ソメール教国では、この世界に勇者と魔王が同時に降臨したと、早く勇者を見つけ出さないと魔王の手によって世界が崩壊すると、そういった内容の神託が下され、勇者探しに躍起になっているらしい。


 現代日本の現実の価値観で考えると、胡散臭いことこの上ない、それだけで国を動かすなんて馬鹿げていると思う人も多いであろう理由であるが、これがゲームだと考えれば、まぁ、ありがちなゲームらしいストーリーだろう。


 神託を受けたのも、ソメール教国で数々の神事に参加する神子という立場であり、アクセル殿の妹君……つまりその国の皇女だったため、教国的にはこれ以上ないほどに信憑性のある、神からの確かな御言葉として認知されたようではあるのだが……。


「その神託というのが、まさかスクリーンに投影される形で降りてくるとは……」


 自分が頷くのを止めて少し首をかしげてしまったのはこの部分だ。


 神託を神に仕える神子が受け取ったというのは、まぁ、いいだろう……日本のRPGなどでもたまに見かける設定だ……しかし、その受け取り方というのが、掃除中の船のスクリーンに映し出されるという形なのは、少々聞いたことがないシチュエーションである。


 ゲームや小説なんかでよく聞くのは、夢に神様が現れて語りかけてきた、なんていう形式だと思うのだが……それではだめだったのだろうか。


 まぁ、夢で受け取るのでは、他のゲーム作品と同じになりオリジナリティに欠けると言われればそうなのだろうが……アナログ放送やデジタル放送のような放送電波なのか、4Gや5Gのような移動通信システムなのか、Wi-FiやBluetoothのような無線LANなのか……どこかから電波で映像を飛ばしてくるなんて、ずいぶん近代的な神様もいたものだ。


 と、この世界の価値観がまだ完全には把握できていない自分からするとそんな風に思えてしまう、なんとも現実的で、逆に神秘性に欠けた神託なのだが……この世界では……特にソメール教国では、むしろその受け取り方こそ、間違いなく神の意志によるものだと捉えられたらしい。


 アクセル殿曰く、彼の妹君が、神子の務めの一つであり、彼女の毎朝の日課でもある、箱舟の掃除に行った際、この大陸に到着してから現代にいたるまで静寂を貫いていた、人類をこの大陸へと運んだ箱舟のスクリーンに、それが映し出されていたようで……。


 聞けば聞くほど、自分の頭には、掃除のおばちゃんが、掃除の仕事を行っている勤務先で、つけっぱなしになっていたスクリーンを見つけただけ、というイメージが自分の頭には浮かんでしまうのだが……。


 まぁ、アクセル殿の妹君ということは年齢的におばちゃんではないだろうし、その勤務先である箱舟も、確かソメール教国では神器という扱いだったはずだ……その国に住む人たちにとっては十分に神秘的な神託なのだろう。


「ふむ……まぁ、色々と思うところはあるが、それがゲームの設定というのであれば受け入れよう」


 ゲームの設定に関しては、それが設計者の考えた仕様であるのなら、どんなに突拍子もないものだとしても、そういうものだと受け入れるだけだ……そこはデバッガーとしての仕事で慣れているので問題はない。


 問題は、その神託の内容の方で……考えるべきは、自分の今後の行動方針だな。


 勇者と魔王が降臨したとかなんとかのお言葉と一緒に、魔法陣が映し出されており……その魔法陣が発揮する効果というのが、対象が勇者かどうか判断する、という内容だったらしいのだが……。


 ……おそらくそれは、勇者かどうかを判断するだけでなく、自分のよく使用する【鑑定】と同じ効果をもっている。


 それは、今までまったく観測されなかった、全く新しいタイプの魔法陣で、魔法に関してどの国よりも熱心に研究しているはずのソメール教国でも、見ただけでは効果が判読できなかったらしく……それを実験的に、色々な状況下で実際に使用してみることで、どんな効果があるのか解明していったようで……。


 その国のトップである教皇様の最終的な判断によると、それは勇者を判別する魔法陣……とのこと。


 魔法陣の効果が分かり、その後、魔道具にその効果を組み込むことに成功し、さらに研究に研究が重ねられて……それから数か月たったのか、数年たったのか……現在、ようやく持ち運べるサイズのものが製造できたということで……。


 それが、こうしてアクセル殿がこの国に来た理由……ソメール教国の外にいるかもしれない勇者探しに繋がったというわけである。


 アクセル殿が持ってきた勇者を判別する魔道具も、まだ開発段階ということで、一回使用するだけでも様々な課題があるらしいのだが、グリィ殿に対してであればその場ですぐに使うことができるということで、試しにその昼食後のテーブルで使ってもらったのだが……。


 使用して現れた結果というのが……なんと、自分がグリィ殿に対して【鑑定】を行うことでウィンドウに表示される内容と殆ど一致していた……。


 それも、勇者を探し出すと聞いて、もしかしたらと思っていた、所持スキルの一覧が判明するだけでなく……レベルや体力、魔力の現在値から最大値に至るまで……。


 まだ開発段階だからなのか、元からそういう効果なのか、称号の一覧が表示されなかったり、画面上からスキルの効果説明ポップアップを表示できなかったり……他にも、名前が表示されない、細かいUIが違うなど、挙げれば色々と差異はあったのだが、それでも殆ど【鑑定】結果と同じものが表示されていた。


 そして、どうやらその魔道具の効果を発揮させるためには、使用する人物自身の魔力がかなりの量必要らしく、その使用制限的にも、勇者という人物はきっと魔力が多い人物に限定されるのだろうと考えられているらしく……。


 そのため、アクセル殿は、このジェラード王国で魔力を多く持つものが集まる場所……つまり、貴族や魔法の研究家が集まる、王立学校のへ入学し、その知り合いから知り合いへとたどっていく想定で、できれば王族・貴族学科に入ろうと考えていたようである。


 自分はその考えに納得して、決して的外れではない回答に感心し、自分が王族・貴族学科へ入学していたら発見される確率が今よりも高かったかもしれないなと思わせられつつも……しかし、危機感は特に感じなかった。


 発見されればおそらく、正確なところは分からないが、きっとまた急に冒険者活動の検証を中断させられ、グラヴィーナ帝国でもそうだったように、今度はソメール教国で壁の当たり判定検証から始めることになるのだろうが……まぁ検証の進捗はメモしておくし、自分としてはそれでもかまわない。


 それに、今は自分の未来の境遇よりも、その目の前に現れた新たな検証対象に興味をひかれたのだ。


 だが、自分がもう少し詳しくその魔道具の仕様が知りたいと、アクセル殿に、アクセル殿自身にも魔道具を使ってみせて欲しいと頼んだのだが……どうやら魔道具の課題の一つに、一度使ったらしばらく使えなくなる、という問題があるらしく、それはできないということだった……。


 なんでも包み隠さずに話してしまうアクセル殿の言うことなので、それはアクセル殿自身のステータスを公表したくない方便ではなく、きっとその魔道具にはクールタイムのようなものが設けられていて、一度使うと再使用に時間を要する仕様なのだろうが……。


 おそらく、アクセル殿に使っても、その瞬間に【鑑定】スキルで確認したステータスと同じ結果が表示されるという結果なのだろう……。


 まぁとにかく、分かったこととしては……。


「自分にあの魔道具が使われたら、アクセル殿の任務も、おそらくこのゲームのメインストーリーも進展する……」


 自分は、思考操作で自分のステータス画面を表示させると、そのスキル一覧画面に未だ用途も分からないまま鎮座している、【輪廻の勇者】というスキル表示を確認する……。


 あの魔道具を使った場合も、おそらくこれが表示されるだろうから、自分にあの魔道具が使われた瞬間、何らかのストーリー展開が訪れるだろう……。


 クールタイムなどの使用制限があることに加え、アクセル殿曰く、まずは可能性が高そうな王族や貴族に勇者がいないかを探すということらしいので、しばらくは自分にその魔道具が向けられることはないと予想しているが、このストーリーを進展させるかどうかも含め、よく検討するべきだな……。


 そして……。


 今までの検証で、この世界の住人はレベルや体力や魔力を数値で表したり、キャラクターの能力をスキル名で表現したりする要素がなかったことから……もしかしたらこの世界はゲームの中などではなく、異世界なのかもしれないと思い始めていたのだが……。


 ……ここにきて、それが覆った。


 和製RPGでよくみられる神託や勇者といった世界設定に……レベルや体力などの、可視化されたステータス……。


 これはもう、やはりこの世界は何かのゲームのプレイ画面で、自分はそんな新しいゲームのデバッガーとして派遣された、今まで通りの派遣社員なのだと……そう考えて動くという方向でよさそうだな……。


 だがまぁ、だからといって、自分がやることは今までと変わらない……。


 自分は今まで、この世界がゲームではない可能性を考慮しつつも、常に完璧な検証を目指して行動してきた……だから、ゲームではないという可能性が無くなったところで、やることは変わらない。


 むしろ、今まで常識の範囲内で済ませていた部分に関しても、もう少し踏み込んで検証できるようになったと考えるべきだろう……。


 だから、自分がやるべきことは、今後も変わらず……引き続きこの世界を隅々まで検証して、不具合があれば、それをいつでも設計者に報告できるよう、メモ画面にまとめておくことだけだ。


 自分は、学校の廊下を歩きながら巡らせていた考えに、そう終止符を打つと、次の授業が行われる教室の前に立つ……。


「ふむ……なるほど……よし」


「とりあえず、次はこのゲームでしか体験できないであろう魔法に関して、隅から隅まで検証してみせようではないか……」


 そうして、自分は開きっぱなしの入り口から、そのゲームにありがちな未知の力、魔法が学べるという授業、魔法基礎を習う教室へと足を踏み入れた……。


▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる

【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる

【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる

【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる

【身体強化】:様々な身体能力が上昇する

【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔力応用】:自分の魔力を思い通り広い範囲で精密に操ることが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる

【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【解体】:物を解体して無駄なく素材を獲得できる

【収穫】:作物を的確に素早く収穫することができる

【伐採】:木を的確に素早く伐採することができる

【石工】:石の加工を高い技術で行うことができる

【木工】:木の加工を高い技術で行うことができる

【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】


▼アイテム一覧

〈水×34,000〉〈枯れ枝×400〉〈小石×1,690〉〈倒木×20〉〈布×100〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×2000日分〉〈保存食×100〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×706〉〈獣生肉(上)×993〉〈鶏生肉×242〉

〈獣の骨×720〉〈獣の爪×270〉〈獣の牙×258〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×64〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライムの粘液×949〉〈スライム草×100〉

〈木刀×1〉〈着替え×20〉〈変装セット×10〉〈宝飾品×100〉

〈調合セット×1〉〈調合素材×100〉〈空き容器×99〉〈本×100〉

〈上治癒薬×6〉〈特上治癒薬×3〉〈魔力回復薬×8〉〈上解毒薬×4〉〈猛毒薬×5〉

〈筋力増加薬×3〉〈精神刺激薬×3〉〈魔力生成上昇薬×8〉

〈掃除道具一式×1〉〈茶道具一式×1〉〈絵画道具一式×1〉〈手持ち楽器一式×1〉

〈金貨×0〉〈大銀貨×0〉〈銀貨×0〉〈大銅貨×0〉〈銅貨×3〉


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