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第九十七話 サバイバル術の座学で検証


 王立学校の一階、南側に位置する、冒険者学科一年生の教室。


 今日は入学して二日目、初日の自己紹介や授業を乗り越えた翌日である。


 昨日、これからの検証をスムーズに行うための初期段階で手に入る情報を一通り集められたので、今日から本格的に検証を開始するべく、本日最初の授業開始を待ちながら昨日得られた情報を振り返っていた……。


 自分が実際に色々な先生やクラスメイトに話しかけて手に入れた情報もあるが、さすが、強制イベントで最初に声をかけてきたウィルという情報屋を名乗る青年は、メインストーリー学校編のお助けキャラクターなのだろう……自分が聞かなくてもこの学校の様々なゲーム設定を教えてくれたので大変助かる。



 教室を担当する担任の教師は、自分もよく知る人物、Bランク冒険者パーティー〈爆炎の旋風〉のリーダーである〈旋風の大斧使い〉フランツ殿……所属する生徒の人数は自分を含めて三十五人。


 入学時の年齢制限がだいたい十五歳から二十歳くらいという幅があるとはいえ、この街の大きさや人口と比較してずいぶんと生徒の数が多い……。


さらに学校全体でみると、冒険者学科以外にも王族・貴族学科、錬金術研究学科、魔道具研究学科、魔法研究学科、職人学科と、合計六種類もの学科があり、もちろんそれぞれの学科に今年入学した生徒がいるので、あきらかに子供の数が多い気がするが……。


 学校という場所が各国に一つずつしか存在せず、国内の他の街からだけではなく、他の国からも人が集まってくることを考慮すると、それほど大げさな人数ではないのかもしれない。


 その中でも冒険者学科という学科は、そもそも冒険者という職業がこのジェラード王国にしか存在しないため、この学科自体がこの国にしか存在せず、しかも入学のハードルが他の学科と比べてかなり低いため、中には他の学科で落ちた時の滑り止めのように受ける人もいるという噂だ。


 この世界の平均収入的にも決して安くない学費がかかるのに、自分の目指すべき学科に落ちたからと言って特に興味のない学科に入る者がいるのかは疑問だが、学費の支払いは月々の分割後払いにするなど融通が利くため、学生でいる間は学校付属の寮に住めるという特典を利用して、王都で働きながら勉強する生徒もいるらしい。


 そういった生徒の第一志望は、国立の研究所で働ければ高い給料が望める研究系の学科や、講師の職人がそのまま弟子として自分の工房に雇い入れることもあるらしい職人学科という、就職につながるかどうかで選んだ学科ということが多いので、それならば冒険者として働きながら就職先を探すことになっても構わないという気持ちのようだ。


 元々、自分がアルダートンの冒険者ギルドで受けた依頼でやっていたように、低ランク冒険者が農家や商店などでお手伝い依頼をこなし、お手伝いしていた先の店主などに気に入られてそのまま商店の従業員などに転職するという話も少なくないようだし、身寄りのない子供が確実に就職先を探す道として、それなりに一般的なようである。


 と、そんなわけで……この冒険者学科に生徒として所属する人数はそれなりにいるわけなのだが、その半数は冒険者という職業に関してあまり興味がない生徒……つまり、この学校でストーリー的には直接関わってこないであろう、モブキャラだった。


 まぁ、モブキャラと見せかけて、実は敵側のスパイや黒幕だったという展開も想定して、検証をおろそかにはしないつもりだが、検証優先度は低く設定しておいてもいいだろう……。


「ふむ……ひとまず今はこんなところか」


 自分は昨日の会話や授業中のそれぞれの行動を分析して、注目しておくべきキャラクター……積極的に検証していきたいクラスメイトのピックアップを完了させると、書き込んでいたメモ画面を思考操作で閉じた。


 初期情報として聞けるかは分からないが、あとでこれらのキャラクターの略歴やこの学校への志望動機などの基礎情報を情報屋のウィル殿に聞いてみてもいいかもしれないな……。


「おーう、お前ら席に着けー、ルノー先生のありがたい授業が始まるぞー」


 そんなことを考えていると、教室の入り口から本日最初の授業の先生である、フランツ殿と同じ〈爆炎の旋風〉のメンバー、〈無双の双剣使い〉ルノー殿が入ってきた。


 一時間目の授業は、サバイバル術……。


 現状、自分はただ過酷な環境に身を置いたり、かじった程度の現代知識をなんとなく活用したりすることで、サバイバルに関するスキル自体は習得しているが、きちんとした実践的な知識を持っているわけではないからな……。


 その知識を身に着けることで、果たしてどれだけ過酷な環境で生き抜くことができるのかを検証するためにも、真剣に学んでいこうじゃないか。


 自分はそう意気込むと、自分の前の席でメモ用の紙の束を広げて真面目に先生の話に耳を傾けているアクセル殿や、隣の席で授業が始まる前から寝息を立てているグリィ殿にちらりと視線をやってから、ルノー先生の方へと向き直った……。



 ♢ ♢ ♢



「……というわけで、サバイバル技術として事前に練習が必要なのは、その場にあるものだけを使って火を起こすことだが、それよりも知識や実際の行動として重要なのは、雨をしのげる拠点を確保することと、飲み水を確保することだ」


 ルノー先生はそう言ってサバイバルに関する一通りの説明を終えると、持っていたチョークを置いてこちらを振り返った。


 この中世のような雰囲気の世界に、たしか……近世のフランス革命くらいから広まりだした黒板が使われているのが少々気になるところではあるが……これも古代人が残した知恵のひとつなのだろうか……。


ふむ……まぁ、それはあとで誰かに聞くとしよう。


 それにしても……なるほど……。


飲み水を確保することが重要なのは、一般的な知識として理解していたが、食べ物を確保するよりも、拠点を作るか見つけることの方が大事というのは、少し認識が違ったな……。


 確かに、人間という種類の動物が恒温動物……今は内温性の動物と言うんだったか……代謝によって体温を上げて寒い環境でも活動を続けられる動物だが……。


その代わりに、外温性である変温動物のように、太陽の光など周囲の温度を体内に長くとどめておけるような構造にはなっていないし、そして代謝で体温を上げられるためには十分な食料が必要だ。


 体温というのは、ようは、エネルギーのこと……。


 そして、エネルギーを生み出すための食料の確保するためにも、そのエネルギーが必要なのである。


 だから、食料が確実に確保できるか分からないような状況では、出来るだけエネルギーを消費しない……体温を下げないこと……つまり、雨や外気から身を守る拠点を確保することが重要ということなのだろう。


人間は、同じ哺乳類の中でも両生類や爬虫類のように冬眠という越冬の技術を持っているクマなどと違って、急に身体の機能を省エネモードに切り替えたりはできないだろうし、寒さを感じて鳥肌が立つものの、本来はそれによって体毛を出来るだけ密集させ外気から身を守るはずが、その密集させる体毛も鳥のように多くない。


 それは人間が“火”という、他の動物が生み出せない、体温を維持できる外的なエネルギーを扱うことができるようになったことで必要なくなっていったのであって、その火が簡単に起こせないのであれば必要なものなのだ。


 自分が今まで外で料理をするときにお世話になっていて、今は手放してしまった、魔道コンロのような……そんな便利な魔道具や、着火道具なしに、一から火を起こすのは大変難しい……。


時間をかけて、乾燥した火口や薪などを探し集めるところから始めて、その上に十分な知識と技術、体力をもってして、ようやく成し遂げられることなのだ。


 木や竹を擦り合わせて摩擦熱によって火を起こすのではなく、火打石とうち金を打ち合わせて火花を散らす方法なら、体力だけは必要ないかもしれないが、火打石の方は石英という優秀な石が割とどこにでも転がっているだろうが、うち金の方は黄鉄鉱など天然の鉱石が簡単に見つかるとは思えない。


 生きるためのエネルギー(体温)を維持するために、内的なエネルギー(食料)や、外的なエネルギー(火)が欲しいところだが、それを生み出すためにもエネルギー(体力)が必要と……。


なんだかエネルギーがゲシュタルト崩壊を起こしそうな構造になっているが……とにかく、食料を確保するのも、火を起こすのも難しいので、まずはそこまで知識や技術を必要とせず、消費する方を確実に抑えられる、拠点の確保を優先的に行おうという話だろう。



「低ランク冒険者のうちは街から遠くない範囲で達成できる依頼だけだから、深入りしたり何日も粘ったりしなければ、徒歩で運べる荷物量の範囲でもなんとか食料も足りるだろうが……中ランクなったら距離や滞在日数的に十分な食料や道具が欲しけりゃ馬車が必要になるし、高ランクになったらそれでも足りないからなー」


 ルノー先生は教室を見渡して、自分を含め何人かの真面目に話を聞いている生徒がちゃんと話についてきていることを確認すると、このサバイバル技術が冒険者活動のどういった部分で必要になるかを細かく説明し始めた。


 自分はこの世界で、こうしてちゃんと学校の授業を受けるのは初めてだが、ルノー殿の方は、学校の先生のような活動をするのは初めてではないのだろうか……彼の話は要点がしっかりとまとまっていて分かりやすいし、授業のテンポなど、生徒との呼吸の合わせ方もうまいような気がする。


 グリィ殿のように朝から寝ている生徒に対しては、注意するのではなく無視して進行するところも、なんだか慣れを感じさせるな……まぁ……生徒にとってそれがいいのかどうかは置いておいて……。


 たしか、冒険者としてのルノー殿と初めて会ったゴブリン掃討作戦の時も、洞窟の中で自分とグリィ殿に、敵の攻撃を避ける技術を自然な流れで教えてくれていたし、もしかしたら、冒険者を始める前にどこかで何かを教えるような職業についていたか、冒険者の先輩として後輩たちを指導するような行事に参加していたのかもしれない。


 もしそうだとしたら、きっとその時に指導を受けた生徒も、自分やアクセル殿のようにルノー殿の教えを聞き逃さまいと真剣に耳を傾けていたに違いない。


 まぁ、そのアクセル殿は何やら、明らかにルノー殿が黒板に書いたり口頭で説明したりした内容以上に、何かものすごい量のメモを取っているので、流石にそういった生徒は珍しかったかもしれないが……。


というか、彼はいったい、ルノー先生の発した一言一言から、いったいどれほどの内容を受け取っているのだろうか……少々気になるので、あとでメモを見せてもらうことにしよう……。


「んじゃあ、ちょうどいいから、ついでに、冒険者が受けられる依頼のランクがどんなルールで決まってるかも説明しておくと……」


そして授業は、冒険者ギルドが依頼者から受注して、冒険者に仕事として発注する依頼に関して、どのようなルールを元にランク分けが行われているかといった説明に移っていく……。


 冒険者ギルドでもざっくりと、難しい内容ほどランクが高いことや、採取物や討伐対象にもランクがつけられていることの説明があったが、ルノー先生の話した内容はそこからさらに深く、移動距離や必要な知識、技術、使える道具の制限などによっても分かれていくのだと話してくれた。


 高ランクの冒険者に上がる昇格試験では、このあたりの知識に関する筆記試験が出るらしいので、いつか受ける昇格試験で確実に検証をこなすためにも、このあたりは真面目にメモを取っておいた方がよさそうだ……。


アルダートンの教会に所属するシスター・アナスタシア殿にも、おそらくこの世界で生きていく上で必要になるであろう知識……この世界の歴史や宗教、貴族に対してのマナーなどの一般常識から、簡単な魔法に関する知識を教われるだけ教わったが……こういった冒険者活動に特化した専門知識については、流石に彼女からは聞けていないからな。


全ランクの試験で最低点と最高点の検証する必要がある自分としては、このあたりの知識はきちんと身に着けておかなければ……。


 不合格周りの検証であれば、まぁ、Eランク試験でも何度も落ちたらしい、今も隣の席で大きな寝息を立てているグリィ殿が何とかしてくれるかもしれないが、逆に満点合格の検証は彼女には頼めそうにないからな……。


もしかすると新しい仲間であるアクセル殿ならそのあたりの検証も出来るかもしれないが、彼は経緯的にこの学校にいる間しか冒険者活動をしないだろうし、Sランクの試験まで検証するなら、自分が完璧に覚えておかなければならないだろう。


 それに、これは試験のためだけではない……。


 道具のない状態から、飲み水や拠点の確保、火おこしが必要になる状況に備えての、サバイバル知識の授業……?


 そんなのどう考えてもサバイバルゲームの導入説明だろう。


 小さな無人島を舞台にしたものから、無限に広がる大地を舞台にしたもの……石器時代から現代まで、サバイバルゲームというジャンルのゲームが今は数多く存在するし……。


それがメインでなくても、食料や体温などの概念……サバイバル要素があるゲームはもちろん、そういった要素がないゲームに対して、あえてそういった要素を追加する拡張パック的なダウンロードコンテンツや、一般の方が開発したMODまで存在する。


 昔から続くシリーズ物の、有名なアクションアドベンチャーゲームである、退魔の剣や光の矢で厄災を倒す某伝説ゲームまで、今ではオープンワールドとなって食べ物や体温の概念が存在する時代なのだ。


 そんな時代に、この最初から食べ物や体温の概念が存在する、この世界で、本格的なサバイバル要素の検証をしないわけにはいかないだろう……。


「ふむ……なるほど……よし」


「とりあえず学校の授業が空くタイミングが来たら、この授業で習ったことを活かして、道具やスキル、亜空間倉庫の使用禁止、ステータスも限界まで下げた状態で、一週間ほど山に籠ってみるか」


 自分はメモ画面のやることリストにまたひとつ検証項目を追加すると、よりいっそう真剣に授業の続きを聞く態勢をとった……。



▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる

【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる

【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる

【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる

【身体強化】:様々な身体能力が上昇する

【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔力応用】:自分の魔力を思い通り広い範囲で精密に操ることが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる

【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【解体】:物を解体して無駄なく素材を獲得できる

【収穫】:作物を的確に素早く収穫することができる

【伐採】:木を的確に素早く伐採することができる

【石工】:石の加工を高い技術で行うことができる

【木工】:木の加工を高い技術で行うことができる

【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】


▼アイテム一覧

〈水×34,000〉〈枯れ枝×400〉〈小石×1,690〉〈倒木×20〉〈布×100〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×2000日分〉〈保存食×100〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×706〉〈獣生肉(上)×993〉〈鶏生肉×242〉

〈獣の骨×720〉〈獣の爪×270〉〈獣の牙×258〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×64〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライムの粘液×949〉〈スライム草×100〉

〈木刀×1〉〈着替え×20〉〈変装セット×10〉〈宝飾品×100〉

〈調合セット×1〉〈調合素材×100〉〈空き容器×99〉〈本×100〉

〈上治癒薬×6〉〈特上治癒薬×3〉〈魔力回復薬×8〉〈上解毒薬×4〉〈猛毒薬×5〉

〈筋力増加薬×3〉〈精神刺激薬×3〉〈魔力生成上昇薬×8〉

〈掃除道具一式×1〉〈茶道具一式×1〉〈絵画道具一式×1〉〈手持ち楽器一式×1〉

〈金貨×0〉〈大銀貨×0〉〈銀貨×0〉〈大銅貨×0〉〈銅貨×3〉


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