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第九十四話 初登校で検証

 

 ジェラード王国の王都、街の中でも西のはずれに位置する、ジェラード王国王立学校……。


 開拓時代には実際に国王がここから各地に指示を飛ばすような、本当の城塞として使われていたということもあり、古いながらも立派で威厳のある建物となっている。


 建物の裏手にツタが絡んでいたり、よく見ると外壁のところどころにヒビが入っていたりと、老朽化を心配させるような部分があるものの、古代の人たちが残した建築技術が素晴らしいのか、建造物を維持する魔法か何かがかけられているのか、耐久力としてはまだまだ現役で活躍できるレベルらしい。


「ふむ……今日から自分もここの生徒か……」


 自分は、校門というよりも城門と言った方がふさわしい重厚な入り口から、歴史を感じさせる堅牢な校舎を見上げながらそうつぶやく。


 周囲には、自分と同じく今日から登校するのであろう初々しい生徒が、自分のように迫力のある校舎を見て何か意思を固めていたり、既にこの学校に在籍している先輩と思われる生徒が慣れたように門の中へと入って行ったりと、校舎の雰囲気は異なれど、現実世界の登校時間を思い出されるような、そんな懐かしさを覚える風景が広がっている。


 その行き交う多くの人が、自分の方をチラチラと気にかけながら通り過ぎている以外は……。


「うむ、一つ目の検証……支給された学校指定のクロークを着ないで登校した際のNPCの反応は、ひとまず正常……と」


 そう……周囲を行き交う生徒が、先日自分の屋敷にも届いた学校指定の統一されたクロークを羽織っているのに対して、今の自分の格好は、街で庶民向けに売られている一般的な洋服そのままだ。


 この世界での外見年齢的にはこの学校の新入生だったとしてもおかしくはない見た目をしているだろうが、特に鎧なども身に着けていないので、冒険者にも見えず、職人や商人の見習いをやっている青年と判断できそうな恰好だろう。


 そんな一般人が、貴族も通うこの学校の校門でうろうろしていれば、生徒たちが疑問に思わないはずはなく、それがこの学校の先生や衛兵の耳に伝えられないということもないわけで……。


「おいそこの! ここは学校の関係者以外は立ち入り禁止だぞ!」


 自分は校舎からやってきた、この学校の警備をしているのであろう衛兵らしき人物に声をかけられた……。


「うむ、分かっている、自分はこの学校の関係者だ、」


「ん? なんだ、新入生か? だったらその服装はどうした、登校の時から支給のクロークを羽織るようにと手紙が届いていたはずだろう?」


「そんなことは知っている、だからこうしてクロークを羽織らない状態で登校したのではないか」


「……は?」


「ふむ、聞こえていなかったのか? 登校時にクロークを身に着けるようにと書かれていたから、こうしてクロークを身に着けずに登校したのだ」


「聞こえていないのはお前の方だろう! いや、分かっていてわざとやっているのだから、聞こえてはいるのか……? って、そんなことはどうでもいい! とにかく! この学校の関係者だと分かる者以外は校門を通さないのが決まりだ、家に忘れたのなら帰ってとってこい!」


 なるほど……クロークを羽織っていないで登校するとこんなイベントが発生する仕様になっているのか。


 学校の生徒であるかどうかの判断材料が服装だけなのであれば、もしかしたら入学試験を受けるルートを通らずとも、その辺の生徒からクロークを奪って学校に潜入するといったこともできるのかもしれないな……二周目はその検証をしてみるとしよう。


「それであれば、次の検証だ……ここに合格通知の手紙を持ってきているのだが、これを見せたらクロークを羽織っていなくても通してもらえるか? そして、どこか他の場所でこの手紙を見せる必要があったりはするか?」


「検証? ってのは何か知らねぇが……質問って意味なら、最初の問いかけに対しての答えはNOだ……その格好で校舎内をうろうろされたら目立つだろう? 生徒だって証明できるものが他にあったとしても、クロークを忘れたのなら家に取りに帰ってもらう……そして、二番目の問いかけの答えは、その手紙に書いてあるはずだからそれを読むんだな」


 なるほど……答えとしても理にかなっているし、NPCとしての動きを考えても条件分岐の少ない一貫した行動パターンで、不具合発生の可能性が低い仕様だな。


 クロークを身に着けているかの条件分岐一つで校舎に入れるかどうかが決まるのであれば、とりあえず会話によって変な抜け道が生まれることはないので、最初の判定としては堅実な作りと言っていいだろう。


「大体把握した、ありがとう」


「なんでそこからお礼を言われることになったのか分からんが、まぁこれが俺の仕事だからな、いいってことよ」


「うむ、では衛兵殿、自分はこれで失礼する、引き続き仕事を頑張ってくれ」


「おう、お前も学校がんばれよ」


「ああ……では……」


 そういって自分は、そのまま衛兵の横を通り過ぎて、校舎の方へと歩みを進めて……。


「って待てーい!! 何さらっと何事もなかったように校舎に進もうとしてんだ! さっきの会話は何だったんだよ!」


「何って、検証に決まっているだろう?」


「いや、その検証ってのが何だか分からねぇよ! っていうか何だっていい! とにかくさっさとクロークを取りに帰りやがれ!」


 そして、大声でそう捲し立てる衛兵の手によって首根っこを掴まれ、校門の外へと放り出されてしまった。


 振り返ると、その開いた校門の中央で腕を組んで仁王立ちする衛兵……じっとこちらを睨んだまま動かない様子を見る限り、おそらくこのまま横を何度通り過ぎようとしたところで、首根っこを掴んで放り出すという動きをループするだけだろう。


「うむ、これで検証の二段階目もクリア、といったところか……」


 自分はそうつぶやき、今回の衛兵の挙動に満足げにうなずくと、来た道を引き返す……と見せかけて、校舎の周りを取り囲む外壁に沿って横手へと回りこんだ。


 校舎の裏手は貴族街の外壁とつながっており、外壁はそこからさらに高くなるので、正門側から裏手側……貴族や王族が登校する裏門へと回り込むのは苦労するが、横手の外壁以外は何もない場所へと近づくだけなら特に苦労はない。


 そして、自分の今の身体能力であれば、この学校の外壁ほどの高さであれば、よじ登るまでもなく、ジャンプで乗り越えられるのである。


「ふむ……なるほど……よし」


「外壁を乗り越えて侵入する検証をやってから、その次は貴族専用の裏門を通れるかの検証だな」


 衛兵も侵入者を許さないように己の仕事を頑張っているのだ……自分も己の本職であるデバッガーの仕事を頑張らなくては……。



 ♢ ♢ ♢



 ジェラード王国王立学校、一階、南、冒険者学科一年教室……。


 あれから、どうにか学校の制服としての役割を持ったクロークを羽織らないで校内に潜入できないかと色々検証したが、思ったよりもガードが固く、結局実現には至れなかった。


 外壁を乗り越えて侵入しても、警報が鳴って大量の衛兵に追い回され、学校の敷地から逃げ出すことになり……貴族の格好をして貴族街に通じる裏門から入ろうとしても、戦闘や魔法の授業もあって危ないから学生じゃないと入れられないと言われて、やんわりと追い返され……。


 それならばと、逆に使用人の格好をして、校内の主に忘れ物を届けに来たという体で臨んでみるも、校内に入って直接渡すことはできないから衛兵が代わりに渡す手はずになっていると、忘れ物と届け先の貴族の名前を言うように求められた……。


 仕方がないので、この前の入学試験で出会ったグリィ殿の知り合いらしい、カルボーニ卿とかいう男宛に、〈スライムの粘液〉を小瓶に入れたものを、これが忘れ物だと言って衛兵に渡したが、果たしてそれがちゃんと彼の手元に届くのか……偶然発生した検証項目だが、結果が楽しみであるな……。


 他にも、この学校で教える教師になりきってみたり、衛兵に止められるならその衛兵の格好をすれば行けるかもしれないと思ってそれらしい格好をしてみたりと、いろいろな方向から試したが、どれもうまくいかず……。


 スキルを全力で使って衛兵を無理やり振り切れば入れないこともなさそうだったが、学校でしか行えないたくさんの検証を優先して確認したいので、初日から退学になるという検証は二週目に回した方がいいと思い、とりあえずは検証結果、問題なしとして、今のところは諦めることにした、というわけである。


 そうして、ホームルーム開始時間的には既に遅刻確定だが、このままでは授業も遅れてしまうという時間だったのもあり、自分は亜空間倉庫からいそいそと家に届いていた学校指定のクロークを羽織ると、最初に出会った衛兵に挨拶して普通に正門から入り、そのまま冒険者学科の教室へと入ったのだった。


「ふぅ……何とか間に合ったか……」


 ―― ゴツン ――


「間に合ってねぇし、入る場所もそこじゃねぇ!」


 そして、開きっぱなしの窓から入ったところで、ちょうどそこに立っていたフランツ殿……いや、フランツ先生の鉄拳が頭に振り下ろされた……。


「痛いぞフランツ殿」


「殴られて当然だ! お前は入学初日から何やってんだ!」


「何をやっているかと問われれば、それは検証としか言いようがないな」


 ―― ゴツン ――


「その行動を振り返って反省しろって言ってんだよ! はぁ……さっきから校内を衛兵が走り回ってるのもお前の仕業だろ……俺は一体なんてタイミングで学校の教師なんて仕事を引き受けちまったんだ……」


「うーむ……何を落ち込んでいるのか分からないが、教師というのはきっと自分が思う以上に大変な仕事なのであろうな」


「お前が大変にさせてんだよ!」


「ふむ……?」


「はぁ、もういい……とりあえず坊主、その辺で自己紹介してから一番後ろの席にいけ……もうホームルームも終わりかけで、お前以外は自己紹介が終わってるからな……お前がクラスメイトの名前と顔を覚えるのは後で勝手に何とかしやがれ」


 なるほど……クラスメイトの自己紹介イベントがスキップされたか……。


 どれだけ探索にリアル時間をかけてもゲーム内時間は進行せずにイベントは必ず初めから開始される通常のRPGなどとは違って、流石はリアルを追求したオープンワールドゲームといった感じだな……。


 イベントをひとつ逃したのは痛いが、これもそのゲーム進行の柔軟さを検証するためだ……仕方あるまい。


 その結果、遅刻をしても柔軟にイベントが進行して、ゲームに不具合は発生することもないことが分かったのだ、良しとしようではないか。


 自分は、初登校の検証結果をそうまとめると、教室の前方中央に移動して、後方に向かうにつれて段差で高くなっていく席を見渡す……。


 この城を学校として使うと決まってから、建物のほとんどの部分はそのままの形を残しつつも、内装や外装のあちらこちらに学校として使いやすいよう改修が施されている。


 そして、その中でも一番大きく手が加えられたのは、このまるで現実世界の大学を思わせるような教室だろう……。


 自分が入ってきた大きな窓も、床や壁など石造りの部分と比べるといくらか新しめであるし、教室の形など城として使われていた時はどんな機能を持つ部屋だったのか分からないほど授業を受けるのに特化した形になっているし、そこに並ぶ机や椅子も最近交換されたのか傷ひとつない綺麗な状態である。


 そして、そんな改修された結果、現代の大学を思わせる後方にいくにつれて高くなるような段差が付いた教室の席に座ってこちらを見ている、これからの学生生活を共に過ごすクラスメイト達……。


 一番後ろの席に並ぶ、何故か頭を抱えながらため息をつくような仕草をしているグリィ殿やアクセル殿の二人以外はもちろん知らない人物であり、こちらに興味なさそうな人物や、気持ちよさそうに寝ている人物……窓から入ってきてフランツ殿と親しげに話す自分に対して興味の視線を向けている人物など、様々なキャラクターがあふれている。


 自己紹介イベントをスキップしてしまったので、全体的にそれぞれのキャラクターがどんな流れで、どれほどの長さで、どのような内容を話したのかは分からないが、自分も彼らと同じく、これから共に勉学に励む仲間だ。


 これから行うであろう数々の検証のためにも、それなりに仲良くしてもらえるよう、少しでも覚えてもらえやすいよう……簡潔に、伝えたいことを分かりやすく紹介する方針でいこう……。


 ふむ……なるほど……よし。


「自分の名前はオース……冒険者パーティーのリーダーを務める、Fランク冒険者であり……」


「超一流のデバッガーだ」


 こうして、ここから自分の学生生活が始まったのだった……。



▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる

【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる

【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる

【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる

【身体強化】:様々な身体能力が上昇する

【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔力応用】:自分の魔力を思い通り広い範囲で精密に操ることが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる

【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【解体】:物を解体して無駄なく素材を獲得できる

【収穫】:作物を的確に素早く収穫することができる

【伐採】:木を的確に素早く伐採することができる

【石工】:石の加工を高い技術で行うことができる

【木工】:木の加工を高い技術で行うことができる

【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】


▼アイテム一覧

〈水×34,000〉〈枯れ枝×400〉〈小石×1,690〉〈倒木×20〉〈布×100〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×2000日分〉〈保存食×100〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×706〉〈獣生肉(上)×993〉〈鶏生肉×242〉

〈獣の骨×720〉〈獣の爪×270〉〈獣の牙×258〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×64〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライムの粘液×950〉〈スライム草×100〉

〈木刀×1〉〈着替え×20〉〈変装セット×10〉〈宝飾品×100〉

〈調合セット×1〉〈調合素材×100〉〈空き容器×100〉〈本×100〉

〈上治癒薬×6〉〈特上治癒薬×3〉〈魔力回復薬×8〉〈上解毒薬×4〉〈猛毒薬×5〉

〈筋力増加薬×3〉〈精神刺激薬×3〉〈魔力生成上昇薬×8〉

〈掃除道具一式×1〉〈茶道具一式×1〉〈絵画道具一式×1〉〈手持ち楽器一式×1〉

〈金貨×0〉〈大銀貨×0〉〈銀貨×0〉〈大銅貨×0〉〈銅貨×3〉


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