第九十二話 新たな仲間の検証 その二
「ぬぅうぉぉおおおぁぁああああ!!!!」
新しいパーティーメンバーの検証をするために、自分がこの世界で最初に降り立った土地である〈竜の休息地〉へと訪れた日の翌日……その日は、新しい仲間であるアクセル殿が発した大きな悲鳴で朝を迎えることとなった。
「ふむ……朝か……」
自分は前回と同じように、せっかく立てたテントを使わず、この広い大草原……いや、今は真っ白な雪景色となっている大雪原に大の字に寝転がった状態で目を覚ます。
「「ぴぃっ! ぴぃっ! ぴぃっ!」」
それは、朝のまぶしい太陽に目を細めながら、小鳥のさえずりに耳を傾ける優雅な朝……などではなく……視界一面を覆うのはプニプニとした半透明な物体で、聞こえてくるのはその生き物が発する鳴き声。
……つまり今、自分は大量のスライムに乗られて押しつぶされている状態である。
「うぉぉおおおおあああああ!!! なんだこいつらは! オース君、グリィ君! 近くにいるか! 生きているかぁぁあああ!」
その叫び声を聞く限り、アクセル殿も視界をスライムに埋め尽くされて、自分やグリィ殿を探せていない状態なのだろう。
しかし、こんな状態で自身の心配よりもまず人の心配をするとは流石であるな……伊達にソメール教国の第三王子で聖騎士という肩書きをもっていないということか。
この状況に慌ててはいるが、その声にはそれなりの余裕も感じられるし、ステータス的にも今のグリィ殿と変わらないか、何なら少し上くらいだ……やはり途中加入キャラクターはその時のパーティーレベルに合わせて最初から多少強いのが定石であるな。
自分は彼の声にそんな感想を抱きながら身体を起こそうとするが、スキルを全てオフにしているため【身体強化】が効かずに起き上がれず、ステータスウィンドウを確認すると【物理耐性】もかかっていないせいでHPゲージが既に半分ほどになっていることに気づいた。
「うむ……余裕のあるアクセル殿に対して、自分の方は死にそうであるな……」
「なに! それは大変だ! 待っていろ、今助けにいくぞ! うぉおおおおお!!!」
レベルがそれなりに高い影響でHPの最大値が高かったり、それに比例して素の自然回復能力が高かったり、今まで装飾品として身に着けているだけで特に効果が感じられなかった〈治癒のアミュレット〉という魔法道具の影響でさらに自然回復能力が高まっていたりしているおかげで何とか無事、といったところか……。
ふむ、スライムでもこれだけ集まると脅威となりえるのだな……今回も事前に大量の敵を倒してレベルが上がった状態じゃなかったり、ボリー殿のお店で魔法のアクセサリーを買って身に着けていなかったりしたら命を落としていたかもしれない。
どうりで最初に訪れた村の村長がスライムやオオカミと戦ったというだけで大げさな心配していたわけだ……。
魔力が豊富な王族という設定でスキルが成長しやすい状況でなかったら、村長が心配していた通りすぐに体力が無くなっていただろうし、ゲーム開始時点で結構な苦労を要していたのだろう。
やはりゲームというのは、プレイヤーが活躍しやすいよう、主人公などのプレイアブルキャラクターに関しては、NPCよりも恵まれた、何かしらの分野で長けている必要があるということであるな。
自分は今の状況を見て、この世界の新たなゲームらしい一面を再認識すると、流石にまだ命を落とす検証をするには早いので、耐性や運動神経に関わるスキルを一通りオンにしてから、スライムを跳ねのけてあたりを見渡す。
そして、目的の人物を【超観測】スキルで発見すると、近くのスライムをむんずと掴んで、これだけ周りが騒いでいるというのに、まだ木の上で熟睡している彼女に対して、思い切り投げつけた。
「うきゃっ! っとと、あわわわわ!」
—— ドスン ——
「ぎゃぁああああああ!!!! スライムが! スライムの海がぁぁああ!!」
彼女は流石に一度この検証を経験していることもあり、自分がスライム草を取り出して、アクセル殿と一緒に草原に植えてつぼみを水で満たすように指示をした段階で、今日この状態になるであろうことを察したのだろう……。
昨日の段階で大量のスライムが湧いても大丈夫なようにと、せっかく立てた自身のテントをいそいそと片付けて、木の上に寝床を確保するという対策をしていたのだ。
対策をしていてもこうやって落ちてしまったら意味がないのだが、まぁ、逆によく自分がスライムをぶつけるまで、あんな不安定な場所でバランスよくぐっすりと眠れたものだな……。
自分とパーティーを組む前まではテントを買う余裕もなかったということでその技法を身に着けたらしいが、スキル的に寒さや毒などにも自分と同じくらい耐性があるようだし、過酷な環境で活動できる力を考えると、やはり彼女は斥候というジョブに向いていると改めて思う。
「グリィ殿、寝ていないで手伝うのだ、これはアクセル殿の力を図る検証でもあるが、チームワークの検証でもあるのだぞ」
「チームワークって……うがああ! だったらもっと優しく起こしてくださいっすよぉぉおおお! あああ! 短剣がスライムに飲まれて……」
ふむ、それもそうか……まぁ、ついでにチームワークが崩れた後に立て直す検証もやるのだと思えば、とりあえず今回はこれでいいだろう。
「グリィ君もピンチなのか! くっ……早く二人を助けに向かいたいのはやまやまなのだが、このスライムというのは攻撃力が低いもののプニプニとしていてメイスの打撃があまり効かないし、如何せん数が多すぎる!」
「大変ではあるっすけど……ほっ! そやぁっ! ピンチっていうほどではないんで大丈夫っすよー! てりゃぁー!」
「そうか、よかった! それならひとまず安心だな! だが、合流した方がいいのは変わらないだろう……くっ、そこのスライム、道を開けろ!」
「アクセルさんは大量のスライムと戦うのは初めてっすか! こいつら、正面側は妙な弾力があって攻撃をはじくっすけど、背中側にもろくて攻撃を通しやすい箇所があるっすから、そこを狙うといいっすよ! ほりゃぁ!」
「なに、そうなのか? いつも出会うとしたら数匹で、数匹であれば何度も叩く対処ですぐに処理できるからそんなこと気にしたことがなかったな……教えてくれてありがとう! とは言ったものの、それを知ったところで正面も背面も見た目が同じすぎて判別できないのだが……」
「まぁ、そこは慣れっすね……うりゃっ! あ、アクセルさんが見えたっす、今行くっすよ!」
「かたじけない……助けに行くと言いながら逆に助けられるとは……オース君はまだ無事か!」
「うむ、こちらは無事なので、二人で協力しながらゆっくり助けに来てくれて問題ない」
「そうか、それはよかった……ではグリィ君、僕が彼らの注意を引くから、背中側からの攻撃を頼んでいいか?」
「分かったっす、私の得意分野っすよ! オースさんのことも心配しないで大丈夫っすよ、あの人はスライムに関してはプロっすから」
「スライムのプロ……? よく分からないが、長く連れ添っているグリィ君が心配はいらないというのであれば大丈夫なのだろう……そういうことであれば、こちらはこちらで焦らず正確に対応する」
アクセル殿にも、そんな会話から騒いでいる割に自分やグリィ殿に余裕があることが伝わったのだろう……彼自身も本来の落ち着きを取り戻したようで、スライム軍団を少しずつでも確実に堅実に倒していく方向で思考を切り替えたようだ。
盾のバッシュ攻撃で多くのスライムを一度に攻撃すると、すぐに盾を構えなおしてその攻撃を受けたスライムによる反撃に耐え、そのアクセル殿に攻撃が向いているスライムの背中をグリィ殿が短剣で貫くことで、すべて一撃で倒していく……。
一見地味で時間のかかる作業に思えるが、それはこちらの被害を抑えて確実に相手の数を減らしていく最適解で、スライムはどんどんその数を減らしていった。
百匹を超える大量のスライムと一度に戦ったことはないとは言っても、流石に聖騎士としてなかなかの戦闘経験を積んでいるようで、その周りの状況から即座に対処法を判断する頭脳も、その対処法を実際に行うことができる身体能力も兼ね備えているようである。
王子ということで、おそらく騎士団長も務めていたりして、人に指示を出すのも慣れているのだろう……自分が何も言わずともグリィ殿の持っている力を判断して的確な指示を飛ばすところも、二人目の仲間キャラクターとしてはなかなか頼りになる存在だ。
「ふむ……先日の戦いぶりも昨日の身体測定の結果も総合して、とりあえずタンク役は確定として……他にもサブリーダーとして力を発揮しそうであるな」
自分は、四方からスライムに体当たりをされながらそんなことを呟き、アクセル殿とグリィ殿の戦いぶりを【超観測】で観察する。
グリィ殿を検証した時と同じように、昨日の段階で身長や体重を目視計測した後、短距離走から走り幅跳び、反復横跳びやシャトルランなどの身体測定を行って、彼の身体能力はある程度計った結果、彼が瞬発力よりも持久力タイプのパラメータを持っていることが分かった。
攻撃に転換するのはあまり得意ではないようだが筋力もそれなりにあるようだし、もし装備の制限などで持てないことがないようであれば、盾の種類を今のバランス型で使いやすいヒーターシールドから、防御特化なタワーシールドタイプに変更してもいいかもしれない……。
「ぴぃ?」
スライムも自分がスキルをオンにして急に固くなり、体当たりが効かなくなったのを不思議に思っているのか、自分の独り言に関心を持ってくれているのかは分からないが、アクセル殿の今後について一緒に悩んでくれているように首をかしげている……。
……まぁ、首から上しかないような存在なので、その表現が正しいかは分からないが。
そうして自分はしばらく、こちらに体当たりしては首をかしげるスライムと一緒に、パーティーメンバーの役割について悩みながら、アクセル殿たちが彼らを片付けてくれるのを待っていた。
一緒に戦った方が片付くのは早いだろうが、これはアクセル殿の戦闘訓練も兼ねているし、このままでいいだろう。
「ふむ……なるほど……よし」
「帰ったら自分も含めて、パーティーの装備を見直す検証をするとしよう」
この雪が積もる冬が終われば、このメンバーで王立学校の冒険者学科で授業を受けることになる……。
どんな授業があるのかは分からないが、事前にある程度の依頼に対応できるような装備は整えておいた方がいいだろう。
そんなことを思いながら、今回の新たな仲間の検証を進めていった……。
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる
【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる
【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる
【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる
【身体強化】:様々な身体能力が上昇する
【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる
【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える
【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える
【魔力応用】:自分の魔力を思い通り広い範囲で精密に操ることが出来る
【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる
【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる
【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる
【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる
【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる
【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る
【解体】:物を解体して無駄なく素材を獲得できる
【収穫】:作物を的確に素早く収穫することができる
【伐採】:木を的確に素早く伐採することができる
【石工】:石の加工を高い技術で行うことができる
【木工】:木の加工を高い技術で行うことができる
【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる
【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る
【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる
【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる
【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる
【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる
▼称号一覧
【連打を極めし者】
【全てを試みる者】
【世界の理を探究する者】
【動かざる者】
【躊躇いの無い者】
【非道なる者】
【常軌を逸した者】
【仲間を陥れる者】
【仲間を欺く者】
【森林を破壊する者】
【生物を恐怖させる者】
【種の根絶を目論む者】
【悪に味方する者】
【同族を変異させる者】
【覇者】
▼アイテム一覧
〈1~4人用テント×8ずつ〉〈冒険道具セット×8〉〈キャンプ道具セット×8〉
〈調理道具セット×8〉〈登山道具セット×8〉〈変装セット×1〉〈調合セット×1〉
〈その他雑貨×8〉〈着火魔道具×8〉〈方位魔針×8〉〈魔法のランタン×8〉
〈水×25,000〉〈枯れ枝×310〉〈小石×1,600〉〈倒木×20〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1085日分〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×706〉〈獣生肉(上)×993〉〈鶏生肉×242〉
〈獣の骨×720〉〈獣の爪×270〉〈獣の牙×258〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×64〉
〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライムの粘液×950〉〈スライム草×100〉
〈木刀×1〉〈棍棒×295〉〈ナイフ×3〉〈シミター×2〉〈短剣×3〉〈剣×3〉〈大剣×3〉
〈戦斧×3〉〈槍×3〉〈メイス×3〉〈杖×3〉〈戦鎚×3〉〈弓×3〉〈矢筒×3〉〈矢×9,997〉
〈訓練用武器一式×1〉〈雑貨×50〉
〈魔法鞄×4〉〈風のブーツ×4〉〈治癒のアミュレット×4〉〈集音のイヤーカフ×4〉
〈水のブレスレット×4〉〈装飾品×5〉〈宝石×6〉
〈一般服×10〉〈貴族服×4〉〈使用人服×2〉〈和服×1〉
〈ボロ皮鎧×1〉〈革鎧×1〉〈チェインメイル×2〉〈鋼の鎧×2〉
〈バックラー×1〉〈鋼の盾×2〉
〈上治癒薬×6〉〈特上治癒薬×3〉〈魔力回復薬×8〉〈上解毒薬×4〉〈猛毒薬×5〉
〈筋力増加薬×3〉〈精神刺激薬×3〉〈魔力生成上昇薬×8〉
▼残り支払予定額:セイディ
〈金貨×5〉〈大銀貨×0〉〈銀貨×7〉〈大銅貨×2〉〈銅貨×3〉