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第八十七話 王都の冒険者活動で検証 その三

 

 木々の間から微かに日の光が零れる薄暗い森の奥、洞窟の手前にキャンプを張った自分たちは、松明に火を灯してその洞窟の中へと入っていった。


 昨日、既に目的地である帝都東の森には辿り着いており、森の入り口で一日キャンプをしているので、今日はこの場所でクエストにかけられる期間が合計三日あるうちの、二日目の探索となっている。


 一つの依頼に対して一日かけると合計で四日かかってしまう想定ではあったのだが、昨日の時点で既にキツネとアルミラージを捕らえ、解毒草も採取してしまったので、なんだかんだ残りは〈夜明砂〉の採取だけだ。


「オースさん、久しぶりの冒険で腕がなまってないか心配だって言ってたっすけど、全然なまってないじゃないっすか、これならもっとたくさん依頼を受けてもよかったっすね」


「うーむ、いや……確かに、解毒草を見分けたり、獲物の行く手を阻んでグリィ殿のサポートをしたりする部分でそれなりの貢献はできたとは思うのだが……グリィ殿の成長度合いの方が驚いたのである……自分がいなくてもグリィ殿一人で全て解決できただろう?」


「ふふん、まぁ、私はもうEランク冒険者っすからね、これくらい余裕っすよ」


 今に足元をすくわれるキャラクターが発しそうな、グリィ殿の必要以上に強気な発言は気になるところではあるが……実際に昨日の彼女の活躍は目を見張るものだった。


 グラヴィーナ帝国へ向かうためにグリィ殿と別れる際、お腹を必要以上に空かせないようにという目的で魔力放出量を抑える術を伝授していたので、もしかしたらそのまま魔力を制御するようなことが少しくらいできるようになっているかとは思っていたが……彼女の成長ぶりはそんなものでは済まなかったようだ。


 【鑑定】してみれば獲得しているスキルも増えているので、おそらく自分がこのゲームの仕様に気づいて、スキルを使用する際に意図的に魔力を注ぎ込んでいるというようなことを、感覚で実践してきたのだろう。


 自分が最近、突発的なイベントに対して勝手に身体が反応してしまい、失敗する検証ができなくなるということを恐れ、スキルの使用をずっと抑制して生活しているため、今回の依頼ではどれほど苦戦するのだろうと心配していたのだが、自分の力など必要なかったな。


 おそらく、元々ランク無し冒険者として活動していたころから地道な努力をしながら出来ることを増やしていたのだろう……その時は、強い敵に出会わないために身に着けていた嗅覚や直感、足跡などの痕跡から獣や魔物の場所を探る能力が、今やそれをスキルとして完璧に使いこなし、狩る側の力として役立てているようだ。


 薬草を見分けるスキルこそまだ会得していないものの、それも自分が渡した魔法の鞄をフル活用して、分からないなら全部持って帰るという暴挙に出れば解決してしまうだろう。


「流石はグリィ殿だな……流石にフランツ殿たちと比べると色々な経験がまだ不足しているかもしれないが、きっとすぐに追いつけると思うぞ」


「いやー、流石にそこまではいかないっすよ、まぁ、あの頃は頼ってばっかりだったオースさんには追い付けたかもしれないっすけどねー」


「うむ、野生の勘と瞬発力でいえば、間違いなく自分と互角かそれ以上だろう」


「えへへー、褒めすぎっすよー、それに、オースさんも料理の腕だったらきっと誰にも負けないっすよ? 昨日のショウガヤキ?って料理、めちゃくちゃおいしかったっす! お米って隣の国の主食っすよね、いつか食べてみたかったんすよねー」


「まぁ、料理というのは検証と通ずるものがあるからな、得意分野ではある、喜んでもらえて何よりだ」


 松明の灯りが洞窟の中を照らす中、自分たちはそんな会話をしながら歩みを進めていく。


 確か、フランツ殿たち〈爆炎の旋風〉のパーティーと初めて組んで、大人数でゴブリン討伐のギルドクエストを行ったのも今と同じグレートウォール山脈の洞窟だったはずだが……この辺りはあの時に探索した洞窟よりも石灰成分が多くなっているのか、いくらか鍾乳洞的な特徴が強い。


 そして、そんな風に同じ山脈に出来る洞窟でも含まれる成分によって景色が変わるように、同じ人物でもスキルの獲得状況によって気持ちに変化があるのだろうか……あの時はかなり戦闘を怖がっていたグリィ殿が、今はこうして探索に関係のない雑談をしながら探索できるようになっているようである。


 パーティーメンバーが成長するのは同じ仲間としてもゲームのプレイヤーとしても嬉しいことだが、地味なルーチンワークによるレベル上げで少しずつ仲間が強くなっていく工程も、その工程がスキップできてしまう裏技を探すのも嫌いではないので、離脱中の成長でその作業がカットされてしまったのは少し寂しさも覚えてしまうな……。


「で、そういえば依頼の採取物、〈夜明砂〉って、どこら辺にあるんすかね?」


「……グリィ殿は分からない採取物をどうやって手に入れようと思ったのだ?」


「いや、依頼書に見た目は描いてあったっすから、きっと見ればわかると思うんすよ、ほら」


「うーむ……少し細長い楕円が、いくつかパラパラと描かれているな……」


「あと、依頼主が錬金術師みたいっすから、きっと薬とかポーションの材料っすね……まぁ、だからこんな形のいかにも何かの材料になりそうなものを片っ端から拾っていけば、どれかしら正解になるんじゃないっすか?」


 なるほど……鑑定したり実際に使ってみたりしないと拾ったアイテムの効果が分からないローグライクゲームのようなものか……。


 確かに、ああいったゲームではダンジョンで見つけたアイテムは何だろうととりあえず荷物がいっぱいになるまでは拾ってみて、街に戻った時や巻物などによって鑑定の手段を得たときに当たり外れがわかるというワクワク感が楽しい部分であるな。


 ふむ……序盤で【鑑定】スキルを取ってしまったので、効果が分かった上で、毒でも構わず口にしてみる、という検証はしているものの……効果が分からない状態で放置しておく検証は確かにしていなかったな……。


 流石は検証に関して天性の才能を持つグリィ殿だ……自分が思いつくより先に次から次へと新しい検証を思いついて、自分が指示するまでもなくデバッグしてくれる。


 現実世界のでもなかなかそこまで優秀な同僚はいなかったことを考えると、やはり彼女を冒険者パーティーとして検証チームに引き入れたのは英断であった。


「やはりグリィ殿は優秀な仲間であるな……あのFランク昇格試験が終わった時、すぐに冒険者パーティーを組んで正解だった」


「もーなんすかー、オースさん今日はやたらと私のことを褒めるじゃないっすかー、そんなに褒められても何も出ないっすよー?」


「いいではないか、それだけ頼りにしているということである」


「ふっふーん、まぁ、Eランク冒険者っすからね、頼りにしてるといいっすよ」


 せっかく強気な発言で足元をすくわれるフラグの検証もしてくれているようであるしな……こちらも協力しておだてることで、その地盤をさらに固めてあげるべきだろう……うむ、本当に優秀なデバッガーである。


 自分はそんな風に心の底から彼女のデバッグ精神に感服しながら、さらに洞窟の奥へと進んでいく……。


 洞窟に入ってから彼女が先導して歩き、いくつもの分かれ道を何の迷いもなくなるべくまっすぐ続く道へと進んでいるが、分かれ道で特に来た方向が分かるように目印をつけている様子もないし、果たして依頼の締め切りまでに帰れるのかどうか分からないが、まぁそんなことはどうだっていいのだ。


 それよりも自分は、こういった洞窟マップでは基本的に左右どちらかの壁を伝うようにして端から順にマップを埋めていく性格なので、グリィ殿のこの道の選び方には如何せん頭がモヤモヤしてしょうがない。


 どんな道を辿ろうと、今回の依頼で全ての道を回りきらずに帰ろうと、後から必ず訪れて最終的には全てのマップを埋めるまで探索するので別にいいといえばいいのだが……これは、アレであるな……。


 人がゲームをプレイしているのを見て、宝箱を取り逃していたり、まだ話しかけていないNPCや、確認していないヒントをスルーしたりしているところに遭遇すると、思わずコントローラーを横取りしたくなるような、そんな感覚に近い気がする。


 やはり普段の自分のプレイスタイルと異なる人物のゲームプレイは、見ていてモヤモヤするものなのだ。


 そして、目的のアイテムが自分の思っている通りのものであるのなら、既に洞窟の入り口からチラホラと視界の端に移っているアレがそうなのだが……今は【鑑定】系のスキルを切っているので真相は分からないし、グリィ殿が拾う様子もない。


 足場も視界も悪い洞窟内を危なげなく鼻歌交じりに歩いているのはいいことだが、このまま自分が何も言わなかったら、納品アイテムが見つからず、あとは報告するだけで終わるはずだった依頼も期限オーバーで失敗し、ただただヘトヘトになって帰ることになるかもしれないな……。


 あのアイテムがどういうものかも分かっていないのであれば、それを伝えても苦い顔をするだろうし……どちらにしても既に足元をすくわれる未来は決まっていそうである。


 グリィ殿が足元をすくわれる検証をして依頼が失敗するのは別にいいことなのだが、今それで違約金を払うことになったら、セイディ殿への借金返済がまた遠のくと……うーむ……自分はいったいどうするべきか……。


「……む?」


 そんな風に自分が今回のクエストの収束を予想して、そこまでいったらいっそのこと借金返済の期限がどこまで伸ばせるか検証するのもありかもしれないなと考えていると……グリィ殿が突然その場で立ち止まった。


「……何か視線を感じるっす」


 そういって彼女は進行方向をまっすぐ見つめるので、自分も次の検証の日程を頭の隅に追いやって、そちらへと意識を向けると……それなりの数の、獣のような気配。


 進行方向の少し先……細い横穴から広めの空間に切り替わっているその場所から、こちらに鋭い視線を送ってきている何かがいるということに、グリィ殿に促されることでやっと気づいた。


「どうするのだ? グリィ殿」


「うーん、そうっすね……Eランクの依頼が発行される洞窟だし、たぶん、この気配の感じだと、そこまで強くはない、獣系だとは思うんすけど……数が多いっすね」


 洞窟内は静かで、今のところあちら側からこちらに危害を加えようとする様子は感じられないが、それ以上近づくと襲い掛かるぞ、と、そういった威嚇するような視線による圧力……。


 松明の炎で照らされて明るいこの場所から洞窟の奥の暗い場所を見ても、暗視系のスキル無しでは生き物の輪郭を捕らえることすら叶わないが、今回の依頼内容を考えても、洞窟という環境を考えても、おそらく敵はあの獣だろう……。


 洞窟の隅に転がっているあのアイテムのサイズが自分の知っているそれよりも大きいことから、獣自体も現実世界にいるそいつよりもずいぶん大きいことが予想できるが、感じられる魔力量的に魔物ではなさそうなので、数は多くても一体一体はそこまで強くはないはずだ……。


「ふむ……なるほど……よし」


「ん? どうしたっすか、オースさん」


「とりあえずスキルを制御した状態での戦闘力を検証しておこう」


 自分はそう意気込むと、松明を掲げてその大量の巨大コウモリがいるであろう広い空間へと駆け出していった……。



▼スキル一覧

【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。

【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる

【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる

【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる

【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる

【身体強化】:様々な身体能力が上昇する

【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる

【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える

【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える

【魔力応用】:自分の魔力を思い通り広い範囲で精密に操ることが出来る

【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる

【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる

【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる

【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる

【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる

【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る

【解体】:物を解体して無駄なく素材を獲得できる

【収穫】:作物を的確に素早く収穫することができる

【伐採】:木を的確に素早く伐採することができる

【石工】:石の加工を高い技術で行うことができる

【木工】:木の加工を高い技術で行うことができる

【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる

【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る

【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる

【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる

【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる

【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる


▼称号一覧

【連打を極めし者】

【全てを試みる者】

【世界の理を探究する者】

【動かざる者】

【躊躇いの無い者】

【非道なる者】

【常軌を逸した者】

【仲間を陥れる者】

【仲間を欺く者】

【森林を破壊する者】

【生物を恐怖させる者】

【種の根絶を目論む者】

【悪に味方する者】

【同族を変異させる者】

【覇者】


▼アイテム一覧

〈1~4人用テント×9ずつ〉〈冒険道具セット×9〉〈キャンプ道具セット×9〉

〈調理道具セット×9〉〈登山道具セット×9〉〈変装セット×1〉〈調合セット×1〉

〈その他雑貨×8〉〈着火魔道具×9〉〈方位魔針×9〉〈魔法のランタン×9〉

〈水×50,000〉〈枯れ枝×480〉〈小石×1,740〉〈倒木×20〉

〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1088日分〉

〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×709〉〈獣生肉(上)×1003〉〈鶏生肉×245〉

〈獣の骨×720〉〈獣の爪×270〉〈獣の牙×258〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×64〉

〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライムの粘液×850〉〈スライム草×100〉

〈木刀×1〉〈棍棒×300〉〈ナイフ×3〉〈シミター×2〉〈短剣×3〉〈剣×3〉〈大剣×3〉

〈戦斧×3〉〈槍×3〉〈メイス×3〉〈杖×3〉〈戦鎚×3〉〈弓×3〉〈矢筒×3〉〈矢×10,000〉

〈訓練用武器一式×1〉〈雑貨×50〉

〈魔法鞄×4〉〈風のブーツ×4〉〈治癒のアミュレット×4〉〈集音のイヤーカフ×4〉

〈水のブレスレット×4〉〈装飾品×5〉〈宝石×6〉

〈一般服×10〉〈貴族服×4〉〈使用人服×2〉〈和服×1〉

〈ボロ皮鎧×1〉〈革鎧×1〉〈チェインメイル×2〉〈鋼の鎧×2〉

〈バックラー×1〉〈鋼の盾×2〉

〈上治癒薬×19〉〈特上治癒薬×5〉〈魔力回復薬×10〉〈上解毒薬×7〉〈猛毒薬×10〉

〈筋力増加薬×5〉〈精神刺激薬×5〉〈自然治癒上昇薬×10〉〈魔力生成上昇薬×10〉


▼残り支払予定額:セイディ

〈金貨×9〉〈大銀貨×7〉〈銀貨×6〉〈大銅貨×0〉〈銅貨×3〉


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