第八十六話 王都の冒険者活動で検証 その二
「それで、今回は結局どんな依頼を選んだのだ?」
雲一つない澄んだ青空の下、自分はグリィ殿と一緒に、王都の西門を出てそのまま山の方に向かって歩きながら話している。
自分がこの世界に来たのがたしか夏の初めごろで、最初のころはソロで検証をしていたものの、なんだかんだ季節を通して考えると結構な割合でこうしてグリィ殿と一緒に冒険者の検証していた気がするな……。
秋になって、グラヴィーナ帝国へ行くこととなり、出る前は一か月くらいで戻れるだろうと思っていたが、王子という立場を使った検証や武闘大会イベントなどの検証をすることになり、結局こちらへ戻ってくるのにまた一つの季節が過ぎてしまった。
こちらに戻ってきてからも試験勉強と受験で一か月くらい使ったことを考えると、冒険者の検証をするのは四か月ぶりくらいになるのか。
「これが受けた依頼の受領書っすよ。オースさんが冒険者の依頼を受けるのが久しぶりだって言ってたんで、少し期間的に余裕のある感じで選んでみたっす」
▼受注した依頼
・【F】狐の皮の納品
・【E】アルミラージの角の納品
・【E】解毒草の納品
・【E】夜明砂の納品
ふむ……害獣駆除のような討伐依頼は無く、納品依頼も数の指定のない、一つでも持っていけば達成となる依頼だけか。
期限的にも、依頼書の備考欄に書いてある現地までの往復時間を引いて三日はあり、それぞれ探す工程を含めて丸一日ずつかかったとしても……四日?
あぁ、そうか……そういえば、前に大量に依頼を受けて、グリィ殿に依頼期間の見積もりを指摘されたとき、二人いるなら倍の期間の依頼が受けられると教えたのだったな。
その計算で行けば、六日の間に四日分の依頼をこなせばいいことになるので二日分の余裕があり、自分がいくら冒険者活動をするのが久しぶりで腕がなまったとしても、グリィ殿の方でカバーできる範囲というわけか。
「さすがはグリィ殿、完璧な依頼選択だな」
「えへへ……まぁ、オースさんとはランクが違うっすからね」
うむ、Eランク昇格試験に受かった今でもこの計算で冒険者活動をしているということは、きっとその試験も期待通り何回も落ちた上でギリギリの合格ラインで受かったのだろう……本当に優秀なデバッガーである。
一般的な冒険者が行わないであろう計算をして、冒険者ギルドが想定していない範囲の依頼を受けるような行動は、予想外の行動をするプレイヤーの予想をすることにつながる、デバッガーとして必要な能力である……この調子でグリィ殿には検証スキルをどんどん上げていってほしいものだな。
「それはそれとして……グリィ殿はこの〈夜明砂〉というアイテムが何か知っているのか?」
「? いや、聞いたことも見たこともないっすけど、依頼書の備考欄に東の洞窟にあるって書いてあるっすから、行けば見つかるっすよ」
なるほど……何を探すかも知らないで依頼を引き受けるとは……本当に優秀なデバッガーである。
事前にクエストの情報を町の人との会話などで集めたりせず、攻略サイトなども見ないでテキトーにその場のノリで行動するプレイヤーは実際に多く存在する……。
ゲーム側もそんなプレイヤーに合わせて、クエスト詳細にその依頼が達成できる場所や敵、人物の情報を載せたり、もっと親切なゲームだと、クエストをアクティブにした際にそこまでの道を光の線などでフィールド上に表示されたり、目的地にそのマークを表示させたりするからなおさらだ。
受けられるクエストは全部受けて、わからなくなったら攻略サイトを見たり、質問サイトで不特定多数の誰かに聞いてみたりする……それが最近のプレイヤーの傾向であり、ゲーム開発者が配慮しなければならない想定のプレイスタイルである。
だから、この検証はやるべきではあるのだ……。
これが一般層に向けたコンシューマーゲームなどであったのならば……。
「いや、しかし……このゲームではどうだろうか……」
「ん? どうかしたっすか?」
まぁ、そういった最近のゲームに慣れたプレイヤーが遊ぶ可能性もあるので、デバッガーとしてはそれを考慮して全ての検証をするべきではあるのだが……。
このゲーム……この世界は……今までプレイしている限り、どう考えてもライトユーザー向けではない、ガチガチのヘビーユーザーに向けた、本格オープンワールドゲームである。
リアル志向なのはゲームへの没入感を高めるのに重要なことではあるが、妙なところまで現実的でちゃんと理解して解決策を得るために、かなり本格的なリアル知識を要する場面が多々あるし、魔法などのファンタジー要素を除けば、重力や風などの環境効果などを含めた物理演算もしっかりしていて……。
UIと呼べるものは自分で意図的にステータス画面や鑑定画面などを開かなければ皆無で、それらを縛ったらクエストの目的地まで導く光の線やアイコンどころか、現在受けているクエスト一覧すら確認できない。
個人的には何も説明されずに世界に放り出されるオープンワールド系のゲームは好きなので現状に大変満足しているが、客観的で一般的なプレイヤーの目線に立って考えると、果たしてこれはどういった層に向けたゲームなのだろうかと疑問を覚えるほど、自由度が高い代わりに親切性を著しく欠いた設計となっているのだ。
知らないアイテムを、何の情報もないままに手に入れるなど、ゲームの仕様としてあえてサポートしていないだろうとしか思えない。
……まぁ、グリィ殿と違って数々のゲームをプレイしてきた自分には〈夜明砂〉がどういったものなのか心当たりがあるし、たとえ全く知らないアイテムだったとしても逆に知識がないことを活かした検証をするのがデバッガーなのだがな。
「ふむ……とりあえず行ってから考えよう」
「そうっすよ! 美味しいご飯のために頑張るっすよ!」
「うむ」
こうして自分とグリィ殿は、王都の東にそびえる大自然の城壁〈グレートウォール山脈〉のふもとにある、森と洞窟へと歩みを進めていった。
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる
【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる
【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる
【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる
【身体強化】:様々な身体能力が上昇する
【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる
【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える
【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える
【魔力応用】:自分の魔力を思い通り広い範囲で精密に操ることが出来る
【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる
【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる
【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる
【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる
【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる
【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る
【解体】:物を解体して無駄なく素材を獲得できる
【収穫】:作物を的確に素早く収穫することができる
【伐採】:木を的確に素早く伐採することができる
【石工】:石の加工を高い技術で行うことができる
【木工】:木の加工を高い技術で行うことができる
【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる
【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る
【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる
【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる
【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる
【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる
▼称号一覧
【連打を極めし者】
【全てを試みる者】
【世界の理を探究する者】
【動かざる者】
【躊躇いの無い者】
【非道なる者】
【常軌を逸した者】
【仲間を陥れる者】
【仲間を欺く者】
【森林を破壊する者】
【生物を恐怖させる者】
【種の根絶を目論む者】
【悪に味方する者】
【同族を変異させる者】
【覇者】
▼アイテム一覧
〈1~4人用テント×9ずつ〉〈冒険道具セット×9〉〈キャンプ道具セット×9〉
〈調理道具セット×9〉〈登山道具セット×9〉〈変装セット×1〉〈調合セット×1〉
〈その他雑貨×8〉〈着火魔道具×9〉〈方位魔針×9〉〈魔法のランタン×9〉
〈水×50,000〉〈枯れ枝×480〉〈小石×1,740〉〈倒木×20〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1088日分〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×709〉〈獣生肉(上)×1003〉〈鶏生肉×245〉
〈獣の骨×720〉〈獣の爪×270〉〈獣の牙×258〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×64〉
〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライムの粘液×850〉〈スライム草×100〉
〈木刀×1〉〈棍棒×300〉〈ナイフ×3〉〈シミター×2〉〈短剣×3〉〈剣×3〉〈大剣×3〉
〈戦斧×3〉〈槍×3〉〈メイス×3〉〈杖×3〉〈戦鎚×3〉〈弓×3〉〈矢筒×3〉〈矢×10,000〉
〈訓練用武器一式×1〉〈雑貨×50〉
〈魔法鞄×4〉〈風のブーツ×4〉〈治癒のアミュレット×4〉〈集音のイヤーカフ×4〉
〈水のブレスレット×4〉〈装飾品×5〉〈宝石×6〉
〈一般服×10〉〈貴族服×4〉〈使用人服×2〉〈和服×1〉
〈ボロ皮鎧×1〉〈革鎧×1〉〈チェインメイル×2〉〈鋼の鎧×2〉
〈バックラー×1〉〈鋼の盾×2〉
〈上治癒薬×19〉〈特上治癒薬×5〉〈魔力回復薬×10〉〈上解毒薬×7〉〈猛毒薬×10〉
〈筋力増加薬×5〉〈精神刺激薬×5〉〈自然治癒上昇薬×10〉〈魔力生成上昇薬×10〉
▼残り支払予定額:セイディ
〈金貨×9〉〈大銀貨×7〉〈銀貨×6〉〈大銅貨×0〉〈銅貨×3〉