第八十五話 王都の冒険者活動で検証 その一
ジェラード王国、王都。
城を囲むように外側へ向かって貴族区、一般区と城壁で分かれ、さらにその外側に農地が広がっているその街は、雰囲気的には、まぁ同じ国なので当たり前だが、自分が比較的長く過ごしていたアルダートンに近く、髪の色から服装、種族に至るまでバラバラな人種が集う、非常ににぎやかな都市となっている。
家の造りもアルダートンと同じく石材を中心に使ったものになっていて、扉や窓枠、内装の床や梁など、ところどころに木が使われているものの、それ以外のほとんどは切り出した石や焼きレンガを使っている家が多いようだ。
違うところを挙げるとすれば、まずは街の大きさだろうか。
当たり前だが、ここはジェラード王国の中心都市であるため、王族の暮らす城があり、その王族と様々なやり取りをする貴族が多く住んでおり、そんな貴族からいろいろと仕事を頼まれる職人や、彼らの生活を支える様々な住人がいる。
人が増えればそれに比例して建物や衣類、食品やその他娯楽などの需要が増え、需要が増えるということは、それを取り扱う人が稼ぎにやってくるということ……。
多くの手が必要な場所には多くの人が集まり、その多くの人は、またさらに多くの人を呼ぶ……人の集まりやすい場所には、本当に際限なく人が集まるものなのだ。
商業都市アルダートンも、元々はその土地が王都だったこともあって立派な建物も多く、多方面に街道が伸びていることから今でもジェラード王国の流通の中心地として大変賑わっているが、平和な土地が増えるほど人口も加速度的に増えていく……。
今も未開の地が残っているこの時代ではその増加速度もすさまじいようで、この時代の王都の姿しか知らない自分からしたら、どう見間違ってもこちら側のほうが中心都市だという感想を抱くほどに都市の大きさの差は歴然としている。
ここはそれほど大きな街であり、賑わっているのだ。
そして、アルダートンと異なる点は、そんなパッと目につき最初に思いつく街の大きさの違いを除いても、あと二つほど存在する。
ひとつは、他の街ではあまり見かけなかったエルフの数が多いこと……そしてもう一つは、街に流通している商品のランクが高いこと。
実はどちらも共通の理由、ジェラード王国の国策であり、国の全体的な方針でもある『種族の壁を越えた技術共同研究』というのが理由なのだが、この街にはその技術共同研究に参戦するエルフやドワーフが多くいて、そして彼らの生み出す他の街よりも優れた商品が店に並んでいるのだ。
まぁ、そうはいってもやはり他の種族と比べるとエルフの数は少なく、グラヴィーナ帝国の帝都でもドワーフは人間と同じくらい見かけたのに対してエルフは殆ど見かけなかったことや、もう一つの国であるソメール教国には人間しか住んでいないことを考えると、彼らの多くは祖父上の言っていたエルフの里という場所に住んでいるのだろう。
とにかく、この街は広く、そして多くの人種が行きかっている。
そして街が広くて多くの人がいるということは、それだけ需要の数も種類も多い……つまり、それだけ冒険者ギルドに入ってくる依頼の数や種類が多いということだ。
「はぇー……本当、流石に王都っていうだけあって、依頼の貼ってある掲示板もたくさんあるっすね」
「うむ、というよりも、もはや壁一面が掲示板といった方が適切だな」
王立学校で、一通りの入学試験を終えた自分は、最後に行った冒険者学科の結果が来るまでの余暇を使って、この街でも冒険者活動の検証を進めるべく、ギルドに訪れていた。
正確には冒険者ギルドに訪れるのは初めてではなく、前に王都で城に住まわせてもらっていた時も少し検証を進めていたし、グリィ殿と訪れるのも昨日を含めて二回目なのだが、昨日に関しては依頼を受けるどころではなかったので、きちんとした冒険者活動の検証が始まるのは今日からと言ってもいいだろう。
「でも、昨日はフランツさんがちょうど通りかかって良かったっすねー」
「そうだな……フランツ殿の口添えがなければ検証の進行に支障が出るところだった」
「いや、元はといえばオースさんが何か検証をしていたのが原因っすよね……?」
「うむ、検証のせいで検証ができなくなるとは……なんとももどかしいものだな」
「……」
しばらく時間が空いていたので、すっかり忘れていたのだが……自分は前回、城に住まわせてもらっていた時に冒険者活動の検証をしていて、あまりに連続で依頼を失敗し続けたせいか、ブラックリストに載り出禁を食らっていたのだ。
アルダートンではいくら失敗してもそんな事態にはならなかったので、そういう制限などはないのだと思っていたのだが、どうやら街によって冒険者ギルドの制限が異なる仕様らしい。
なので、昨日は何も問題がなければ、少し冒険者ギルド内で出来そうな検証をした後に、ちゃんと冒険者活動らしい検証をしようと思っていたのだが……自分のブラックリストを解除する検証で一日が終わってしまった。
冒険者学科の面接をする前にセイディ殿に土下座をしにいって、有り金を全て渡してもまだ借金が残っているというのに、依頼が受けられなくては他の手段でお金を用意しなくてはならないではないか……まったく、迷惑なタイミングでブラックリストのイベントが発生したものだな。
まぁ、結果的に珍しい検証ができたので自分としては満足なのだが、何もしていないのに同じ冒険者パーティーだからという理由で単独でも依頼を受けることができなかったグリィ殿や、偶然その場に訪れて「またさっそく問題を起こしてやがるのか」と呆れ顔で助けに入ってくれたフランツ殿に迷惑をかけたのは少し申し訳なかったかもしれない。
ふむ……今度ブラックリストに載ってしまったら、事前にどうにか解除するか、冒険者カードを偽造する検証をしてから挑むとしよう。
ちなみに、セイディ殿が武闘大会の時に自分の変装を見破っていたのは、祖父上と同じく【魔力視】を使って、自分のことを魔力の色で判別していたからとのことだ。
「グリィ殿、何の依頼を受けるか決めたか?」
「そうっすねー……やっぱり、せっかくオースさんも一緒に冒険するなら、街の外で魔物を狩ったりする依頼がいいと思うっす」
「ふむ、まぁ、どうせ一通りの依頼をこなすことになるから自分としては何から手を付けてもいいのであるが……グリィ殿、なぜ涎を垂らしているのだ?」
「え? あ……じゅるり……なんでもないっすヨ、オースさんと一緒に外に行ったときはいつも美味しいものが食べられてたなーナンテ思い出してないっス」
「なるほど、そういえばそうだったな……確かに、グラヴィーナ帝国で新しい調味料もたくさん仕入れたことだし、賞味期限に変化がないとは言っても気持ち的に大量にある肉の在庫を早めに処理したい気持ちもある……依頼のついでに料理の検証をしてもいいな」
「ウヒョー! やったーっす! 久しぶりにオースさんの料理が食べられるっす!」
「うーむ……喜んでくれるのはありがたいが、グリィ殿は今、実家ではないにしろ貴族の家に住んでるのだろう? 美味しいものなど食べ飽きているのではないか?」
「……まぁ、出される料理の内容的には美味しいものに違いないんすけどね……ヘルガさんの家で食べるときは、なんていうか……食事っていうよりも勉強って感じが強いっす……マナーを間違えて怒られないようにすることばっかり気にして、食べ物を味わう余裕なんかないっすよ」
「ふむ、なるほど……それは確かにあまり美味しくは無さそうだな」
現実世界でドレスコードのあるようなお店には、子供のころに親に一回くらいは試しに行ってみようと、日本にある比較的敷居の低いレストランに連れて行ってもらっただけで、そこは食事のマナーなどにそこまで厳しくない場所だったが……。
それでも、周りの雰囲気に圧倒されてか、出された料理の見た目が美しいことにばかり気を取られていたせいか、肝心の料理の味に関してはさっぱり記憶にない。
おそらくそういった料理を食べ慣れるような生活を送れば、その食事での本来の料理の美味しさや味わい方が分かるのだろうが、別にそんな本格的な店に出向くという高いハードルに挑まずとも、インターネットで少し検索すれば高級料理の作り方自体はそれなりにヒットするからな……。
自分としても、わざわざ覚えなくても生活に支障のないマナーを身に着けて、着慣れない服を着て、食べ物に集中できない環境で食事をするよりも、その料理を自分なりに再現して、落ち着く場所で食べる方がいいという意見である。
まぁ、それはあくまでそんな生活が許される現代日本で過ごしていたからなので、貴族として生まれ育っているグリィ殿からそれに近い感想が出るのはちょっと違うのだが。
どちらにせよ、本人が自分に合っていないと思うような生活を送るのは辛いということだろう。
「じゃあ、受ける依頼は外で何かするやつだとして、内容は……あ、そういえば、まだオースさんはFランクだったっすよね?」
「うむ、そうだが……何か問題があったか?」
「いや、パーティーで受けられる依頼は、そのパーティーの一番ランクの低い冒険者を基準にして、一つ上までっすから、私としてはいつもと変わらない内容なんでいいっすけど……ただ、オースさんもEランクになれば、もっと報酬の良い依頼が受けられるんだなって少し思ったっす」
「ふむ……なるほど、確かにそんな制度があったな」
そういえば、前にその制度を使ってEランクも含めたいくつかの討伐、収集系依頼をまとめて達成したことがあった……確か、その後に王都に呼ばれて、そのままグラヴィーナ帝国へ行くことになったんだったか。
街の中で行うような、所謂おつかい系クエストに関しては、Fランクで受注できるものはソロで達成できるものばかりだったため、二人で手分けして一通り検証したし、王都の街なかで行う依頼も自分がブラックリストに載るという検証まで済んでいる。
思い出してみれば、確かに自分がFランクのまま受注できる依頼は一通り検証が終わっている状態だったな……。
まぁ、冒険者活動自体が久々だし、王都で受けられる討伐、収集系依頼に関してはまだ手を付けていないから、今日のところはウォーミングアップを兼ねてそういった依頼を受ける方向でいいだろう。
「とりあえず今はEランクまでの依頼しか受けられないっすから、それでいいっすかね」
「そうだな、今日のところはその選択しかなさそうだ……確かグリィ殿と同じく貢献度は足りていたはずだから、近いうちに自分もEランク昇格試験を受けるとしよう」
「了解っす!」
自分とグリィ殿の二人は、そうして久しぶりに冒険者活動、最初の依頼を進めることになった。
▼スキル一覧
【輪廻の勇者】:不明。勇者によって効果は異なる。
【物理耐性】:物理的な悪影響を受けにくくなる
【精神耐性】:精神的な悪影響を受けにくくなる
【時間耐性】:時間による悪影響を受けにくくなる
【異常耐性】:あらゆる状態異常にかかりにくくなる
【身体強化】:様々な身体能力が上昇する
【成長強化】:あらゆる力が成長しやすくなる
【武器マスター】:あらゆる武器を高い技術で意のままに扱える
【武術】:自分の身体を特定の心得に則って思いのままに扱える
【魔力応用】:自分の魔力を思い通り広い範囲で精密に操ることが出来る
【実力制御】:自分が発揮する力を思い通りに制御できる
【薬術】:薬や毒の効果を最大限に発揮できる
【医術】:医療行為の効果を最大限に発揮できる
【家事】:家事に関わる行動の効果を最大限に発揮できる
【サバイバル】:過酷な環境で生き残る力を最大限に発揮することができる
【諜報術】:様々な環境で高い水準の諜報活動を行うことが出来る
【解体】:物を解体して無駄なく素材を獲得できる
【収穫】:作物を的確に素早く収穫することができる
【伐採】:木を的確に素早く伐採することができる
【石工】:石の加工を高い技術で行うことができる
【木工】:木の加工を高い技術で行うことができる
【調合】:複数の材料を使って高い効果の薬や毒を作成できる
【指導術】:相手の成長を促す効率の良い指導が出来る
【コンサルティング】:店や組織の成長を促す効率の良い助言ができる
【超観測】:任意の空間の全ての状況や性質を把握できる
【人族共通語】:人族共通語で読み書き、会話することができる
【人族古代語】:人族古代語で読み書き、会話することができる
▼称号一覧
【連打を極めし者】
【全てを試みる者】
【世界の理を探究する者】
【動かざる者】
【躊躇いの無い者】
【非道なる者】
【常軌を逸した者】
【仲間を陥れる者】
【仲間を欺く者】
【森林を破壊する者】
【生物を恐怖させる者】
【種の根絶を目論む者】
【悪に味方する者】
【同族を変異させる者】
【覇者】
▼アイテム一覧
〈1~4人用テント×9ずつ〉〈冒険道具セット×9〉〈キャンプ道具セット×9〉
〈調理道具セット×9〉〈登山道具セット×9〉〈変装セット×1〉〈調合セット×1〉
〈その他雑貨×8〉〈着火魔道具×9〉〈方位魔針×9〉〈魔法のランタン×9〉
〈水×54,000〉〈枯れ枝×500〉〈小石×1,750〉〈倒木×20〉
〈食料、飲料、調味料、香辛料など×1089日分〉
〈獣生肉(下)×1750〉〈獣生肉(中)×709〉〈獣生肉(上)×1005〉〈鶏生肉×245〉
〈獣の骨×720〉〈獣の爪×270〉〈獣の牙×258〉〈羽毛×50〉〈魔石(極小)×64〉
〈革×274〉〈毛皮×99〉〈スライムの粘液×850〉〈スライム草×100〉
〈木刀×1〉〈棍棒×300〉〈ナイフ×3〉〈シミター×2〉〈短剣×3〉〈剣×3〉〈大剣×3〉
〈戦斧×3〉〈槍×3〉〈メイス×3〉〈杖×3〉〈戦鎚×3〉〈弓×3〉〈矢筒×3〉〈矢×10,000〉
〈訓練用武器一式×1〉〈雑貨×50〉
〈魔法鞄×4〉〈風のブーツ×4〉〈治癒のアミュレット×4〉〈集音のイヤーカフ×4〉
〈水のブレスレット×4〉〈装飾品×5〉〈宝石×6〉
〈一般服×10〉〈貴族服×4〉〈使用人服×2〉〈和服×1〉
〈ボロ皮鎧×1〉〈革鎧×1〉〈チェインメイル×2〉〈鋼の鎧×2〉
〈バックラー×1〉〈鋼の盾×2〉
〈上治癒薬×19〉〈特上治癒薬×5〉〈魔力回復薬×10〉〈上解毒薬×7〉〈猛毒薬×10〉
〈筋力増加薬×5〉〈精神刺激薬×5〉〈自然治癒上昇薬×10〉〈魔力生成上昇薬×10〉
▼残り支払予定額:セイディ
〈金貨×9〉〈大銀貨×7〉〈銀貨×6〉〈大銅貨×0〉〈銅貨×3〉