14 vsゴンザ
ゴンザは闘技場の中心へと進み出た。
次の第四班、ガラ、オラフ、ルーサー、そしてカイの担当教官として様々な技術を叩き込んできた。他の班よりもよく仕上げたという自負がゴンザにはあった。しかも、小規模の作戦とはいえ実戦経験も他の班より豊富だ。第四班以外の各班も多少の経験はあるものの、予想外の事態に直面したことはない。
控え所からガラたち四人が姿を現した。周囲からこれまでにない声援が送られる。長の娘ガラの人気は高い。背後に目をやるとひな壇上のカルバリンの顔にも誇らしげな笑みが浮かんでいた。
ゴンザは四人の気配をさぐる。この晴れ舞台に高揚しているが、その一方で表情は落ち着き払っている。いい傾向だ。この場にあって戦意を向上させつつ、頭の中は澄み渡っていることだろう。それぞれが己の得物を一振りして感触を確かめている。普段使い慣れた武器ではないだけに、少しでも身体に馴染ませることが大切だ。ゴンザは満足げに軽く頷き、一歩前へと進み出る。
「弟子たちよ、これより五分間の時間を与える。持てる力を振り絞り、我を瞠目させてみよ。楽しみにしている」
下腹に力を籠め口上を大音声でぶつける。効くとは思えないが、勢いのひとつも削いでやろうかという腹だ。
「見てなさい。度肝を抜いてあげるわ」
「ちょ、ガラ」
思いもよらずガラがゴンザの口上に返答した。異例のことである。しかも、脇でカイがガラを制しようとしている。会場が爆笑の渦に巻き込まれた。
まったくもって相変わらずだ。ゴンザは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて隠れ蓑にしつつ、内心で喝采を送る。彼らの平常心ここに極まれり、というところか。しかも周囲の雰囲気までも自分たちの側につけてしまっている。地味だが戦いにおいては思わぬ効果を発揮することがある。場の支配、主導権、ゴンザが大声で気勢を削ごうとしたのと似た意味合いがあるのだ。ゴンザは剣を握りなおした。
カイを正面にオラフ、ルーサーが左右に展開する。ガラはカイの後方で援護の姿勢だ。じりじりと機会を見きわめつつ四人は間合いを詰めてきた。
ゴンザは少し顔をしかめる。ロゲスの巣窟の一件以来、やたらと先走るカイを中心とした歪なフォーメーションだ。正対するカイに対し、左右から挟撃するオラフとルーサーに速度差がありすぎて相手に隙を作ることになる。リータを死なせたカイの心の傷をフォローしきれなかったゴンザの後悔が疼く。
カイが猛然と正面から突入してきた。続いてオラフ、ルーサーの順で二人がゴンザの斜め後方から猛進を開始する。ガラの手から白刃が飛んだ。それを難なく避けたところに、大上段からカイの剣が繰出される。
(甘い)
剣筋が真正直過ぎる。ゴンザはその剣を受け流してカウンターの姿勢に出る。ところが、カイの剣はその打ち込みの動作よりも緩く、さらに描く軌道を斜めに変化させてきた。
(なっ、フェイントだと)
ぎりりと奥歯を噛む。
(小癪な)
ゴンザは身体ごとぶつけてカイの技を潰そうとした。
(!)
気配を感じ、反射的に身をかわした瞬間、ゴンザの鬢の毛が風に揺れた。オラフの斧が紙一重の距離に振り下ろされたのだ。
(こっちが本命だと!?)
ほとんど同時にルーサーの短剣が下から胸元に滑り込んでくる。
反射的にかわした動作のまま身体を捩って三人の刃が集中する死地から脱する。そこへ振りぬいたカイの二の太刀が掬い上げるように猛迫した。かろうじて剣で弾き返す。さらにガラの手から飛んだ短剣が襲ってきた。それを避けつつ、一度距離をとる。
初太刀の攻防で、ゴンザは悟った。これは油断していると痛い目を見ると。今の四人の実力は最後に訓練で立合いをしたときより格段に上がっている。しかも、そのときから彼らの心境には大きな変化があったようだ。とくにカイは一時の理に合わない戦いぶりを見事に克服しているではないか。ゴンザにとっては、カイが自らを囮に使ってくるとは思いもよらないことだった。
訓練洞窟での異変以来、彼らは半謹慎状態だった。自由に行動はさせていたが、訓練には参加させず、いらぬことを口外せぬよう見張りをつけていた。
この劇的な変化はきっかけなしで生まれるものではない。カイの意表を突く見事なフェイント、オラフの思わぬ速さ、ルーサーの静かで迷いのない技、相手の動きを先読みするようなガラの投擲。個々の成長だけでなく連携自体も目に見えて鋭く効果的なものになっていた。
ひょっとすると、洞窟の最奥で彼らが経験したと証言したことは事実だったのかもしれない。話の内容は荒唐無稽で一顧だにするようなものではないが、彼らの実力がそれを雄弁に物語っていた。
ゴンザは退いて、さらに間合いを取った。
この場に集まった多くの者たちは何も知らずに、上機嫌で健闘する若者たちに声援を送っている。しかし、ゴンザと長年行動を共にした一部のスメクランは息をのんだ。ゴンザは教官になり後進の指導についてからは『懇篤』などという二つ名で呼ばれているが、若いころの彼の勇猛振りを知る者の間では『不退』のゴンザで通っていたのだ。
面白い。ゴンザは心中で唸る。一線を離れ、里で若者の訓練に携わることが長い間生活の中心になっていた。たまに小規模な実戦指揮を任されることがあるとはいえ、遠く里を離れ、孤独の中で命のやり取りをしてきたころを思えば比べるべくもない。久しく埋火になっていた心が今再び燃え盛ろうとしている。その相手がまさか自分の教え子であろうとは。
ゴンザはニヤリと笑みを浮かべて、再び剣を握りなおす。その手が汗で濡れていることに気づき、ゴンザの胸はさらに高鳴った。
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