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作者: 神崎零

 「おい、涼風。こんな企画書でどうやって新事業すすめるっていうんだよ! 」


「すいません、すぐ書き直しますんで 」



ったく、やってらんねぇよ入社したら「君が会社の将来を担う人間だ」なんていいやがって


自分ではアイデアのアの字すら出ないくせにあぁ、畜生。こんな会社辞めてやる!!


って言いたいとなんだけど不景気の中、そんなこと言ってたら明日食い物にありつけるかが心配だ



「固定概念を覆して、もっと斬新的に… 」


斬新的…何を斬新的にすればいいんだ…



もう、正直この会社に俺の住処があるのかもわからない


大企業なんていわれてる会社にいただけではじめのころはよかったかもしれない


友人から「スゲェ!! 」とか「お金持ちそう」とかそんな目で見られていて少しだけ優越感に浸らせてもらったのは事実だ


でも、会社の仕事は思ったより地味であり、味気の無いものばかりで自分でも飽きてしまっていた


インテリ系のお仕事はおしゃれで、いつもアルマーニのスーツを着て


お昼はカフェで優雅に過ごすようなフランスみたいなイメージがあったが


そんなのはただの自分の妄想にすぎなかった。もうインスピレーションが頭の中でわかない状況がただ続く・・・


もともと俺には向かない仕事だったのか


そんなことばかり考えながら山の手線に乗り込む毎日が続いてた





家に帰ると一人だから愚痴をいう相手すらいない状態


「あぁ、学生時代にはあんなに持てても今じゃ仕事ばかりで、女作る時間もねぇよ。いい女から電話でもこねぇかな〜 」


はぁ…気休めになるかと思っていった小言も自分には気休めにすらなんねぇよ…


ホントにオトナになっちまうとつまらないことばかりだな。生活も、考え方も、仕事ってか勉強も


あの時は全てが自由で気ままで想像に歯止めがなかったな。そう、夢ってのがあったから想像も掻き立てられたよな


今の自分にないものが、昔はたくさんあったよな





明日から連休か…こんなビルだらけの町にいても仕事のことしか考えつかねぇよ…休んだ気にすらなんねぇ


「久々に実家に帰るかな… 」


俺は実家に帰ることにより、俺にかつてあった何かを取り戻そうとしていた


仕事のためじゃなく、自分の生き方を変えるために―――





ビルの町から飛行機で3時間―――フェリーで揺られて着いた小さな南国


それが俺のふるさとであった


「相変わらずここはなんにもかわっちゃいないな」


それが俺にとってすごくうれしかった。変わりすぎた町で生きていると疲れるから…


未だにこの島にはタクシーといえるものが無い。だから基本的には徒歩で帰ることになる


「何かふるさとに返ってきたのに旅行に着たみたいだ」


最近は鉄でできたビルがそびえ立つ都会にいたので、人工物ではない熱帯樹を見るたび


ハワイのような観光都市にきてしまった感じが未だにする…


正直今だに自分の住んでた街ではない気がしてしまう。そんな気持ちで俺は久々の我が家のドアを開ける


「ただいま、母さん」


 「あら、どしたのさ」


「何だよ、息子が帰ってきておかしいのかよ。」


母さんがすげぇ意外な顔でこっちを見てきた・・・そりゃそうだよな。ここんとこ何年も帰ってきてなかったんだ



「いやー落ち着くな〜、あんな青空すら見えないとこで 仕事ばかりしてたら息が詰まるわ。ここでいっそ仕事したいよ。」


 「馬鹿なこというんじゃないよ。今仕事があるだけでもありがたいと思わないといけないだろうが。」


「そうだよな。でも俺、もう駄目かもしんねぇ…実際さ、仕事上手く行ってないんだよ。


 なんていうかさ…仕事でつかうアイデアってか想像力がもうないんだよね 」


 「難しい話しても母さんにはわからんわ。まぁ帰ってきただけほっとしたわ 」


そんなことをお茶をすすりながら話していると親父が帰ってきた


 「おう、将。帰ってきたのか。あ、そういえば近所のカナちゃんが帰ってきたっていうとったぞ

  

  お前小さいころよう遊んだろ。会ってきたらどうだ? 」


 「へぇ〜あいつも帰ってきたのか、まぁここにいてもなんだし会ってくるかな。 」




カナとは何年ぶりになるだろう。そんなことを思いながら島にいた時の回想に耽っていた


こんな島だから幼稚園から高校までひとつしかない。だからカナとは高校まで兄妹のような存在だった


すげぇ泣き虫で、いっつも俺の後ろで何かあったらぐすぐす泣いていたな。まぁそれはそれでかわいいんだがな


「おばさん、お久しぶりです。カナいますか? 」


 「あら、将ちゃんじゃないの?すっかりオトナになっちゃって元気してたかい? 」


「あ、はい… 」


オトナか…俺はそのとき妙にオトナといわれるのが嫌だった。何かオトナって聞くと頭が固くて


うだつの上がらない駄目人間のように聞こえてしまう…おばさんはそんなことを言っているのではないってのはわかる。


だけどそのときの俺はオトナが嫌いだった。




そんなことを考えていると、カナが帰ってきた


 「ただいま〜、って将兄ちゃん! 」


「よう、カナ。元気してたか? 」


 「うん! 何か将兄ちゃんオトナになったね 」


お前までそんなことを言うのか…俺はそんなに駄目な人間なのか…


 「…将兄ちゃん、大丈夫? 」


「あ、なんでもないよ。それよりさ、海行こうぜ 」


 「え?今から?なぜに海さ? 」


「だって、せっかく島に帰ってきたんだぞ。海以外にどこに行くんだよ 」


 「まぁ、そうだけど… 」


「よし!行くぞ! 」




別に場所なんてどこでもよかった。ただもうオトナと言われてしまうこの場所から逃げ出したい自分がいた。


親父から借りた軽トラで浜まで十分。意外と近いんだな…あんなコンクリの町では


一分一分小刻みな生活していて、十分なんて待っていられなかったのにその時は十分車に乗っていても全然苦痛でなくて


まだ乗っていたい感じだった



「…なんかすげぇ新鮮だな。ガキのときは何度もここにいて遊んでたから普通だったのにさ… 」


 「そうだね… 」


「お前あれだな、いっつもニコニコしたりメソメソしていたけど、しんみりとはしたことなかったよな。


 そんなしんみりとした顔みたの初めてだぞ。」


 「私だって、オトナになったもの 」


「オトナ…か… 」


 「…将兄ちゃん? 」


オトナ、あんなになりたいと思っていたものなってみて初めてわかった


こんなにつまらなく、夢が無く、頭が固定概念で縛られる…俺はそんなオトナになってしまった


ガキのころ夢見ていたオトナになれなかった


「お前は銀行の受付だったよな?花形っていわれてて就職したときすげぇうれしがってたけどどうだ?楽しいか? 」


 「…なんか、そうでもないよ。いつも作り笑顔、笑顔だけでお金貰ってるって銀行内で言われてるし


  お局の人には愚痴られるし、あんなに最悪な仕事無いよ 」


「…お前もそうだったのか… 」


 「え? 」


「俺もだ。インテリ系っていうから、フランスみたいな昼はカフェで優雅にって普通に思っていたんだが


 そんなのは空想で、実際はオフィスで残業当たり前、毎日企画書とにらめっこ。入社当初は期待してるなんて言われたけど


 いまでは俺なんて愚痴の掃き捨て場みたいなもんだ。 」


 「そうなんだ… 」


そう、俺達はオトナになってしまった。夢も無い、現実としか向き合えないオトナに…


ガキのころに思っていた理想のオトナになれなかった





「なぁ、オトナの気分ってどうよ? 」

 

 「どうって… 」


「俺達会うたび言ってたろ?オトナになりたいねってさ実際になってみてどうさ? 」


 「何か、私の思うようなものではなかったかな。でも…この島でオトナになれたらそういう風にはならなかったかもね 」


「なんかさ、最近思うんだよな。コドモのときってさ時間が足りないとか思わなかったか?遊びたりんくてさ


 くらーくなって母さんが来て「ご飯だよ」って大声で迎えに着てさ、しょうがないな〜って思いながら帰ったら


 少し寂しいんだよな。まだ遊びたい、まだこの遊びをしてないからしたかった、とかさ


 あんときは考えが無限大にあったよな…今はまったくなくてさ、オトナになるとそんなの消えてしまって


 何で昔はそんなにアイデアみたいなのを考え付いたのかなって思うんだよな 」


 「そっか…兄ちゃんオトナって嫌い? 」


「そうだな…なんか思春期まっさかりのコドモみたいだな俺。」


 「そしたら兄ちゃんは、まだコドモだね」


「いや確かにそういったけどなんでだよ?さっきまでオトナになったねって言ってたのにいきなりコドモ扱いかよ。」


 「だってオトナ嫌いなんでしょ?体だけオトナになっちゃった自分を嫌いだなんてまだコドモなんじゃない? 」



今思えば不思議だ。昔は子供だねっていわれたらすげぇむかついたのに


今ではオトナだねって言われたらすげぇむかつく。詳しくいえないけど、不思議だ



 「兄ちゃん。完璧な人間なんていないよ。兄ちゃんは何でも欲しがりすぎだよ

  

  だってオトナって言われるのが嫌なくせに、コドモだねって言われたらそんなにいい顔しないし


  アイデアとか浮かばなかったらそれでいいじゃない。だってそれが全てだったらみんな生きていけないよ


  いつもいつもアイデア浮かんでたらそれはそれでいいかもしれないけど、なんか一つ一つのアイデアが軽くなっちゃうよ 」



なんかがはじけた


よくわかんねぇけどはじけた


俺はオトナともコドモともいわれたくなかった。何を求めていたかというとそれは足りないものを求めていた


でもそれを埋めるのは無理だと思わなかった自分が馬鹿だ。なんだ何気にこいつ、いいこというじゃねぇか


「お前にそんなこといわれたら立場ねぇよ 」


 「だね〜アハハ 」





ったく何にも考えてないと思ってたけど、意外と考えてんじゃねぇか。やっぱりここは何かといいもんだ。


ココがないと俺はつぶれてたしカナとも会わなかっただろう。なんかさっきの話を聞いてたら自分の中で風が起こった


口では言えるような感じではないが、ここにいるだけで今までに無い充実感が得られた感じがする


それはここにいるだけではなくて、カナといるからこそかもしんない



「なぁ、お前誰かと結婚する気とかあるか? 」


 「ん、無いよ」


「お前男っ気まったくねぇな…まぁそれがいいとこなんだがな 」


 「それって褒めてるの? 」


「きにすんなよ。なぁ二人で会社辞めてここらへんに暮らさないか?俺さ、親父の仕事つごうと思うんだ


 今の仕事より絶対充実感があると思うし、なんか俺に足りない何かが埋まりそうな気がするんだ。ここにいるとさ 」


 「何?プロポーズ? 」


「プロポーズ?そんなんじゃない強制だ。お前のせいでこんな気持ちになったんだからな。最後まで責任とって貰うからな 」


 「だね〜なんか結婚って感じしないしね 」


ばか、正直照れくさくて言えねぇんだけど感謝してんだよお前に。だから結婚しようなんていったんだよ。


なぜ親父の仕事継ごうかと思ったのは今の仕事より楽しそうだから。


ホントに言いたかったのはお前といれたら足りない何かが埋まっていきそうだったからだ


あぁ〜頭の中でも考えてたらやたら恥ずかしいじゃねぇか!!


「帰るか。親父達に一応話しつけんとならんしな 」


 「うん!! 」





その後、俺は親父のサトウキビ畑をついでせっせと仕事をしている。もう暑くてなんのでキツイけど


あんなとこにいるよりなんぼか楽しい。コドモも出来た。何かと楽しいもんだ田舎も


なんたって20後半の男が夢を見れるようになったんだから、あのときに見れなかった夢を…


あの時埋めようとしていた何かは未だに埋まっていないけど、それに近づいた感じはあそこにいるときよりすげぇ感じてる


実際カナの言うとおり俺は何でも欲しがっていた。コドモでもありたいし嫌がりながらでもオトナでいたかった。


でもそれは無理な話なのだ。結局何がいいのか俺にもわかんねぇけど一つだけわかることがある。


自分の中に突然ふく風に身を任すのが一番だとよくわかんないけど、その風が一番自分のことを


自分より知っていて、いいことがありそうだと期待させてくれる。


俺はいまだに期待してる、あのカナに言われたときに吹き起こった風が、また来ることを願っている


今日もいい風が吹いている



FIN

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