表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

始まった異世界生活①

 ちょっと悪ノリしてドヤ顔を見せた俺だったが、生徒たちの反応はすごく微妙だった。先生のちょっとしたお茶目を理解できない生徒を持って本当に苦労しますね、はい。


 そんな凍りついた空気の中、タイミングよく会議の場が整いましたと兵士さんがやってきたのでこれ幸いと部屋を脱出した俺である。


 最後の作り出した変な空気は、まあ、あの2人の先生に任せよう。あの2人なら大丈夫、信頼してるからね。


 さて、その後、案内された会議室での話し合いは、いかついおっさんたちと、約2時間続いた。詳細は俺の脳内議事録に軽く残しておこう。彼らとの話し合いは基本的につまらなかったので大事なこと以外はすぐに忘れそうだしね。


 話の導入はこの国ーーひいてはこの世界の現状の説明であった。正直かなり世紀末だと思った(その話が本当かどうかは、後に妖精たちを使って確認した)。この世界の創世神は鬼畜、マジやばいやつ。早く家に帰りたいという気持ちがぐんぐん強まった。


 それから、俺たちにして欲しいことの説明があった。正直、悪い魔族がいてーとか、魔王が攻めてきてぼくたちではたちうちできないから倒して欲しいとか、そういうテンプレの方が遥かにマシだった。


 向こうの話が一通り終わった後は、今度はこちらの話をした。相手をヨイショしつつ、少しずつこちらの要望を伝えていった。衣食住の保証、俺たちが戦うにあたって、この世界に馴染むように訓練の時間を設けて欲しいことなど。


 基本的にはギブアンドテイクの関係に持っていけるようにトークをした、正直なんでこんな誘拐犯相手に下手に出なきゃいけないんだと思いながら。いや、こういうのってこっちが傲慢にいくとあんまりうまくいかないと思うし、向こうを怒らせたら今は本当に困るから仕方ないんだけどね。


 そんなこんなで話をしたのだが、こちらが逆に引くほどスムーズに要望が通っていった。こちらの考えなどすべてお見通しみたいに感じられたのだ。たぶん、召喚部屋にいた老人が未来予知とかできるんだと思う。会議の場にいたお偉いさん方もそのおじいちゃんに任せておけば大丈夫、みたいな感じだったし。


 だからこそ、俺は怖くなった。これからやばい状況になったとき、俺たちのうちの誰かの能力がきっと必要になる時が来るんだ、と。そして、その解決に俺たちの誰かが、あるいは全員がいれば解決できる、そんな未来を視たに違いない。その結果、俺たちが無事でいられるか分からないのが、本当に不安だった。


 俺にできるのは、その未来予知を回避するよう動くことだ。俺には神に与えられたチート能力があるし。他の2人もチート能力をもらっている。3人のチート能力があれば何とかできるはずだ。




 そして現在、会議を終えた俺はメイドに案内された寝室に1人でいた。他の人たちもそれぞれまとまって寝室に向かったようである。


 とりあえず部屋の真ん中にあったベッドに腰かけ、一息つく。


「君たち、俺と話はできるの?」


 あちこちをふらふら飛んでまわっている妖精たちだったが、1人だけ召喚部屋からずっと俺の頭の上に陣取っている迷惑な緑髪の妖精がいたので声をかけてみた。


「できるよー」


 妖精らしい、俺のイメージ通りの可愛い声が上から降ってくる。ちょっとだけ感動。これが夢ならさっさと覚めてくれ、一生のお願いだ。


 初詣のときすら真剣に祈ることはない俺だったが、このときばかりは真剣に願った。もちろん叶うはずがない。なにせ、自己申告ではあるが、神様直々にこの世界に送ったわけだから、そう簡単に地球に帰れるわけないよね。


「そうか、じゃあ、君の名前は?」


「名前ー? 妖精だよ。そして、王様も妖精」


 なにが楽しいのか分からないが、きゃっきゃっしながら妖精は答えた。

 いや、俺は人間だし。

 てか、なに、異世界の妖精はそれぞれに名前つけない風習なの? それじゃあ何か頼みたいことがあったとき、おーい妖精ちょっといいかーとか言ったらその場にいる妖精全員集まってきちゃうの? なにそれ怠過ぎるんですけど。


「それじゃあ」と、ちょうど俺の近くでクロールみたいな動きで飛んでいる妖精を指して、「あの金髪の妖精とどう区別すればいいんだ? どっちも妖精なんだろ?」


「区別?」


「そう、区別。俺は基本的に妖精一人一人と個別で話すつもりなんだ、今みたいに。だから区別するのに名前がないと困っちゃうわけ」


「ふーん」


 興味なさそうに相槌を打つ妖精。本格的に他の妖精と自分を区別することにピンと来ていない模様。


「でも、私と話せば、その内容、例えばお外にいる妖精もわかっちゃうよ?」


 なにそれ。一人一人別の存在に見えて、意識は一つってこと? それとも意識を共有しているってこと?


「え、マジ?」


「うん」


「じゃあ、今、俺の知り合いの子どもたちがどこにいて何をしているか、とかも君はこの場所にいてもわかっちゃうの?」


「え、もちろん、まじまじ。妖精さんはすごいのだ」


 頭上にいるので見えないが、胸を張ってドヤ顔をしていると思われる。たぶん可愛い。あと、イントネーションが変なので、マジの意味もわかっていないにちがいない。


「めちゃくちゃすごいじゃないか!」


 さすが神様がくれた能力! チートじゃないか! じゃああれか、今ここにいる妖精にあれ調べといてーとかこの人監視しておいてーとか言えば、それをすべての妖精が把握して実行してくれるの? そしてその結果も今この場にいる妖精がすぐ教えてくれるわけだよね? ヤバすぎるでしょ。最強の情報収集能力じゃないか。

 そしてこの妖精、神様情報で魔法も使えることがわかっている。生徒たちの護衛にもぴったり。


 ありがとう神様、大好き愛してる! でも、こんな大盤振る舞いな能力くれるくらい優遇してくれるならそもそも異世界なんかに送らないでほしかったです、かしこ。


 けど、そうなってくるとますますこの妖精には固有の名が欲しくなってくるな。毎回ちがう妖精に話すよりも専属で俺の近くにいてくれた方が、心情的にいいし。何より遠慮無く王様の頭に乗っかる肝の太さ的も気にいっている。

 まあ、一番はこの妖精だけが俺がみた妖精の中で唯一すかしっぺしていないからなんだけど。下品な妖精はあまり好きくないので。


「よし、じゃあ君には俺が名前をつけよう。そうだな、君は今から妖精のエアリだ。俺の元いた世界で、王のそばにいるもの、ていう意味だ」


 後半はウソだけどね。


「んー? えあり? これからも私が王様のそばにいればいいの?」


 あまり名前にピンときてはいないみたいだが、俺専属の妖精になることは伝わったみたいだ。


「ああ、そうだぞ、エアリ」


 君が司令塔になって妖精のまとめ役になってくれ。あと、俺が危ない目に会う時は魔法を景気良くぶっぱなして守ってください。ぶっちゃけ俺自身に戦う能力はないので。


「わかったー」


 よし、じゃあ早速だけど、お願いがあるんだ。まずはその間延びした喋り方は止めるように。たまにするくらいなら可愛いけど、ずっとはウザいんで。


 それと俺の同僚と生徒たちの護衛を妖精たちにはしてほしい。何かあってからでは遅いからね。頼むよ、君たちだけが頼りなんだ。


「りょーかーい」


 エアリは半分分かってない感じで返事した。まあ、喋り方はおいおいでいいか。




 ーーそんなこんなで異世界初日がおわる。頭の痛いことに、このときの俺は相当自分に酔っていたのだ、と今なら分かる。


 なにも大丈夫なことなどないのに現状打てる手は打ったと思い上がっているのだ。生徒の前ではいろいろ偉そうなことを言いながら、自分が1番異世界を甘くみていたことに気づいていないのである。


 いや、それも無理のないことだと、俺は自分で自分を慰める。いや、だって仕方ないでしょ。


 どこの世界にいきなりこんなわけのわからない状況に置かれて、完璧にコトを進められる塾講師がいるの? いないよね、しょせん塾講師なんて人よりお勉強ができるだけで別に歴史に名を残す武将だったり軍師だったりするわけではないのだから。そんなよく考えなくてもわかることがわからなかったのがこのときの俺なわけで。どうしよう、やっぱり一発くらいぶん殴ってもいい気がしてきた。


 何にせよ、このときの俺は浮かれていた。自分はうまく立ち回っているのだ、と。この調子で自分の思うとおりうまくコトが運べて全員五体満足無傷で地球に帰れる理想の未来を描いていた。


 ーーーー実際はそんなことなどないのだと、後に、具体的には1週間後、俺は身をもって思い知らされることになる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ