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第1回地球人代表者会議②

「いや、冗談だから。この人に任せて大丈夫かなって顔しないで」


 自信はないし、普通に代表って柄でないのは自他共に認めるところではあるが、他の先生2人や、ましてや生徒たちに任せるよりは絶対良いから。子どもたちには決して言えないが、まず同期の女講師、こいつ、普段は上手いこと擬態しているが、重度のショタコンである。さっき、早速化けの皮が剥がれかっていた。好みのドストライクのショタが現れた時が怖いので任せられない。

 もう1人の先生である先輩女講師だが、生徒たちにはすごくできるキャリアウーマンに見えるかもしれない。でも、すぐヒスるのでどういう人間が来るかわからない場には到底出せない。なんならこの人を出すくらいなら生徒を出したほうがマシまである。マジ論外。


「まあ良いや。という訳で、多分本当に異世界に来ちゃったみたいです。ごめんなさい。先生たち3人、みんなが無事に生きて帰れるように頑張ります」


「先生」と女子生徒。ふだん俺が数学と英語を教えている花の女子高生である。「あの、わたしたち、その、本当に異世界に来ちゃったんですか?」


 至極真っ当なことを言う。確かに、普通に考えてこんなことはありえない。俺だって誰かがいきなりここは異世界ですとか言い始めたら、まずは悪ノリして話を膨らませ、その後でくだらない話で授業時間を潰そうとするなんて男の風上にも置けないなどとその子に説教をするに違いない。


 でもなあ。視界に映る何体かの小さな生き物を見る。俺たちをここに送り出した存在の言うことを信じるなら、こいつらは妖精という存在のはずだ。マジ、ファンタジー。

 この世界に来てから急に見えるようなっていたこの存在は、きっと俺にしか見えていないのだろう。悪戯好きな種族なのかは知らんが、実に良い笑顔で色々な人の顔の前ですかしっぺを食らわせたり下手なダンスを披露したりしているが、誰もなんも反応しないし。


 誰にも見えていないからどこにでも潜り込めるため盗み聞きさせるとか情報収集にはすごく便利だが、基本的には邪魔でしかなかった。自分の意思で見えなくできるようにしてほしい。この能力がパッシブだとすると、この世界にいる間、こいつらがずっと見えていると思うとさすがにうんざりしてしまう。あと、こいつらがする悪戯に笑っちゃいそうになるのでマジ勘弁。


「多分そうだと思うよ」と俺。「正直、夢なんじゃないかとか、盛大なドッキリであって欲しいけどね」


「そ、そんな」と女子高生は瞳を揺らして言う。


 きっと彼女は俺から否定の答えが欲しかったのだろう。でもごめんね、現実を見させるのも先生の仕事なんだよね。


 ただ、まあ。現実を見させた上で、生徒の目標やら夢やらを叶えるべくせっせと動くのも先生としての大事な仕事なわけで。


「まあ、なんとかしてみるよ」と、軽い調子で言う。「みんなに協力してもらわなきゃいけないことも出てくるけど、先生たち3人、あのピカピカした妙ちきりんなやつからーー」


 小さく「いや、ピカピカした妙ちきりんなやつって」とかツッコミが聞こえたが、無視する。いや、俺もさっき無視されたからね。


「ーーチート能力もらってるし、君らもこの世界に渡るにあたって個人の資質に合った能力を与えられているらしいから」


「チート? マジっすか、先生⁉︎ なにこれ、テンプレ世界だったんですかね?」


 と一部の生徒が一気に興奮して口を開く。うるさいから黙ってて。5秒前の自分を見習っていて欲しい。


「いやー、導入がちょっと変だったから不安だったんですよね。神様的な人は先生とだけ話してオレらはなんかしゃべれなかったし、ステータスって念じても何にも出てこないし、召喚部屋? 的なところで偉そうな人からなんか言われて水晶とか使って能力検定とかもしないしさー」


 いや、本当に黙ってて。安心した瞬間話したくなる気持ち、分からんでもないけどね。というか、君の瞳輝きすぎだから。なんならそんな明るい顔してるの初めて見たレベルだし。


「静かにしなさい」と先輩講師。ちょっとヒスりぎみ。


「は、はい、すみません、でした」


 鬼講師のピシャリとした発言に萎縮して彼は口を閉じた。


「ひとまず」と、ヒス先輩のせいで冷えた空気を誤魔化すため、やわらかい口調で同期講師が口を開く。「私たちは大人しくしているのがベストだと思うよ。これからのこと、不安かもしれないし、もしかしたら期待に胸を躍らせているかもしれない」


 ああ、テンプレ異世界召喚を夢見ている奴らね。俺の目が黒いうちは勝手なことは許さないんで。あと、さっきも言ったけど、生徒たちに与えられたのはあくまでも本人の資質にあった能力な訳だから、地球でぐだぐだしていただけの人にはチート能力はないと思うよ。多分ね。


「ただ、現実のこの世界で、テンプレ通りになる保証はない。そこだけは絶対に忘れないでほしいの。たぶん、この城からこっそり抜け出してギルドを探してとかやっちゃうと、すぐ死んじゃうよ」


 ごくり、と唾を呑む音がした。おそらく同じセリフを俺が言ったとしてもきっと生徒の心に響かない。この同期の先生が言うからこそ、子どもたちも真剣に受け止めくれるのだろう。


 この9人の生徒は知っているのだ。この女が異世界小説大好き女であることを。ふだんも受け持ちの生徒と異世界談義で盛り上がっていたからね。いや、勉強させろよ。そっちの話に混ざりたくて俺の受け持ちの生徒まで集中力を欠いちゃうからやめてほしいんだけど。


「ま、そうならないようにがんばるけどね」と俺。「これは神様の保証つきの話だけど、元の世界に帰れる手段はあるってさ。方法は自分で探さなきゃいけないらしいけど」


 正確には異世界に渡る手段は、この国の人間も知っているらしい。ただ、どの世界に行ってしまうのかは行ってからのお楽しみらしい。そんなランダムMODはいらなかった、マジで。


「この世界の広さも何も分からないのに、本当に見つけられるの?」


 同期講師のお気に入りのショタ(中2)が言う。この生徒は他の先生には敬語を使うのに、俺にはなんか敬語を使わない。なめられるのかな? いや、タメ口くらい別に気にしないけどさ。


「見つけられる」と断言。「先生のチート能力は、そのためにあるからね」


 ーー“妖精王ルーラー”。

 この世界にもっとも数多く存在する(らしい)妖精すべてを従えることができる能力である。

 それが、俺が神から与えられたチート能力の名前だった、どや。



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