第1回地球人代表者会議①
「我らの呼びかけに、よくぞ応えてくれた、異界の勇者たちよ」
舞台劇か何かのように、大げさに両手を広げた赤いドレスを着た王女様っぽい人が言う。
それが異世界に招かれた、いや、なんなら拉致されたと言っても過言ではない俺たちを迎えた最初の一言であった。いや、そういうのほんとにいいんで。1人だけ危ういのがいるけれども、こちとら普通の社会人と学生でしかないからね。
あと、そもそも呼びかけとかに応えていないし。ほぼほぼ強制徴収され、今思い出しても怪しいピカピカ光っている神を名乗るものに強引に転移させられただけである。ふざけんなよ、誘拐の仲介業者め。
ただ、こちらの願い事はしっかりと叶えてくれたみたいではある。神に言われた通りのものが視界に映っていた。
ちょっと煩わしいんだけど。なにこれ、能力のオンオフとか効かないの? まさかのパッシブスキルですかね? これが常時なんだとしたらアクティブに変更したい。ええい、うっとうしいな。
「急なことで大変申し訳ありません。色々とお話させていただきたいのですが」
と赤ドレスの斜め後方に立っていたフードを被って顔の見えないローブ姿の男が言う。声的に老人のようである。俺の好みのドストライクの綺麗な王女と違って本当に申し訳なさそうな声色であった。
「まずは場所を変えさせてくだされ。このような場所で簡単に済ませられるお話ではないですからな」
確かに老人の言う通りである。惑星間どころか、そもそも同じ銀河ですらないわけのわからん世界にいきなり誘拐されたわけである。地球に帰るまでの期間、ある程度の生活保障が欲しいし、他にもいろいろ積もる話がある。俺はそこらへんで井戸端会を始めてなん時間もおしゃべりできるおばちゃんではないのだ。長話はいすにでも座ってゆっくりしたい。
そう思って快諾の返事をしようとすると、
「おいおい、クソジジィ。さっきから黙って話を聞いてたらわけのわからんことばっか言いやがってーー」
などと1人のいがぐり頭の塾生が暴言を吐き始める。穏便に話を進めたいのに邪魔をしないで欲しいところだ。あと別に訳のわからない話もしていない。お願いだから黙って。ていうか、黙らせて。
俺はその少年の数学を担当している、同期の女講師に目をやる。彼女は俺と目が合うと、こくりとうなづいた。
「いや、どうも申し訳ありません。急なことでこの子もちょっと気が動転しておりまして」などと愛想笑いを浮かべながらその少年の口をふさぎ、ーーおい、鼻息を荒くすんな、こんなときに性癖をこじらせるなーーそのまま後ろまで下がっていった。幼気なショタっこはフガフガしていたが、抵抗虚しく、そのままフェードアウト。
「大変お見苦しいところをお見せしてしまい、大変申し訳ございませんでした」と俺。頭を下げ、改めて謝罪の意を示す。「それと、ご提案なのですが、お話の場に伺うのは、代表の私だけにして、ほかのものは別室に案内していただけないでしょうか」
向こうからしたら、これはあまり都合の良くない提案になるだろう。子どもなら甘い言葉でその気にさせて簡単におだてておけばうまいこと利用できる可能性も高いが、何せ俺もまだまだ若造とはいえ、ある程度は成長した大人である。そう簡単に扱えるとは思わないで欲しい。
「ふむ」とローブ姿のおじいちゃん。「構いませんぞ。なんなら、こちらからもそう提案するつもりでしたからのぅ」
軽くオーケーの返事が来る。え、そんなあっさり良いの?
「妾も許可を出そう」と、お姫様。いや、一人称妾かよ。「話し合いとは賢き者同士ですべきよな。愚か者は話を聞かず、しかしムチャな要求ばかり突きつけてきおるからな、率直に言って邪魔になるだけであろう」
その理屈でいくと、そのセリフをみんながいるこの場で言っちゃうあたりこのお姫様も大概なのでは? 大丈夫ですか、あなたも話し合いの場に来れなくなりますよ。フードのおじいちゃんもちょっと困っているように見える。
ええ、大丈夫ですよ、私は気にしていません。先に無礼を働いたのはこちらなので、これでお互い様と言うことでお願いします。
☆ ★ ☆ ★ ☆
先ほどの召喚部屋から移動して、現在、俺たちはえらく豪華な客室みたいな所にいた。東京の超高級ホテルばりの立派な部屋である。いや、行ったことないからただのイメージね。
姫と賢者風の老人は会議の場を設けると言って、今はこの場にいない。代わりに部屋の外に監視員として騎士っぽい鎧を装備した人たちがいるようだ。どうやらこちらには聞き耳を立ててはいないみたいである。こちらとしては好都合だが、大丈夫かこの城のセキュリティ。
誰が来るかもわからない異世界召喚の場にもさっきの2人しかいなかったし。危なすぎるでしょ。それとも大丈夫だと判断できる要素があったんだろうか。いや、あるに決まってるか。それが何かはわからないけど。
わからないことはさておいて、とりあえず全員席に着いてー。
俺たちが案内された部屋には上座に3人、両側に5人座れる分の長テーブルが用意されていた。とりあえず俺たち先生3人が上座に腰を下ろし、生徒たちも各々席に着いた。
「それでは」と俺。「第1回地球人代表者会議を始めます、はい拍手ー」
もちろんだだすべりだった。やだ、こいつらユーモアのセンスなさすぎ。