ふざけんなテメェ
ふざけんなテメェ、むしろ五キロ減ったっちゅうんじゃ!
アンタが!
ちっとも持ち上げられないからこっちは密かに協力してやってるってのに、なんだその言い草は!
私がどんだけおやつ我慢してると思ってるんだよ!
「むしろ五キロ痩せました」
「そ、そうか」
精一杯に忍耐力を働かせて、私は静かに主張した。思いのほか低い声が出たのは想定外だったけど、私の静かなる怒りを見てさすがにバツが悪かったのか、俺様有馬様も若干トーンダウンした。
ここが攻め時と、私の声にも力が入る。少しぐらい反省して、ついでに諦めて欲しい。
「言っときますけどこの数ヶ月でさすがに無理かなって思えてきたんで、私だって負荷を減らそうと努力してたんです。おやつだって我慢してたし苦手な運動だって頑張ってたんですよ」
「む……」
「おかげさまでやっと体重落ちはじめましたけど。つまり今後たとえ私を持ち上げられたところで、あの日の私にも桐野先輩にも勝てないんで、もう諦めてください」
「なに!?」
「あっ」
しまった、と思ったけどもう遅い。
激変した俺様有馬様の様子に、私は自分が言葉のチョイスを誤ったことを悟った。
「勝てぬだと……!?」
「あ、いや、それは何というか言葉の綾で。別にそんなムキになることないかなって」
「ふざけるな! 俺のこの数ヶ月の努力をあざ笑う気か!」
「いや、だって! 私もう桐野先輩に姫だっこして貰って満足してますし! ホントにもういいんですってば!」
「俺が納得いかんのだ!」
「そんなに姫抱っこしたいなら、志願者めっちゃいるじゃないですか! ここにいる女の子ほぼ全員、会長の姫抱っこ望んでますよ、多分!」
そう言って周囲を見回せば、女子たちが夢見るような顔でうんうん、と頷いている。
ホラ見ろ、百人切りすればいいじゃないか!
しかし、俺様有馬様はそんな女子陣を見回して、改めて「ふざけるな!」と言い放つ。
「貴様ほど持ち上げがいのある者がいるはずないだろう!」
くっ……つくづく失礼だなこのやろう!
「とにかく! 俺はあきらめん! 俺はベストを尽くす……貴様もベスト体重に戻しておけ」
「お断りです」
だいたいアンタの言うベスト体重、たぶん一般的なベスト体重と真逆だからね?
口に出すとロクなことがないと学習した私は、心の中で言い返した。もう失言したくない私と、納得いかないらしい俺様有馬様は、ただただ無言でにらみ合う。
ちくしょう、美形め。無駄に目力強いんだよ。
負けるもんかとさらに眉間に力を入れてにらみ返せば、俺様有馬様はついにため息をついて目をそらした。
「強情な……」
フン! 勝ったぜ! 口ほどにもないヤツめ。
「まあ良かろう。明日から貴様の体重管理は俺が責任もって行う。覚悟しておけ」