貴様、ドーピングしているわけではあるまいな!?
そこからさらに三ヶ月。
毎月毎月、不毛な挑戦を続けられてさすがの私も限界を感じていた。
うちの学校はクーラーなんかついてない。8月に入って灼熱感を感じるこのクソ熱い中で、嫌でも密着するお姫様抱っこにチャレンジされてみてほしい。かなり穏やかな人でもキレるから!
汗だくでも爽やかに見えるって、俺様有馬様、いったいどういうエフェクト使ってるんだよ……!
しかも、月イチのこの面白イベントが学校内でもかなり認知されてきたらしく、ギャラリーが増えまくっているからさらにいたたまれない。
ついには生徒会の面々まで応援に駆けつける始末だ。他にもっと有意義なことがあるだろうよ、学生諸君。
「まだまだだねー。桐野っち、アドバイスしてあげたら?」
「……有馬先輩は上半身を主に鍛えているように思える。体を支えるのは結局は下半身だ」
「ふーん。かいちょー! 下半身鍛えろってさー!」
「なるほど」
なるほど、じゃねーよ! 要らぬアドバイスを……!
もうダメだ。耐えられない。学校の半分くらいの生徒が集まってんじゃないかっていうギャラリー達の前で、あと何回この茶番に付き合わなきゃなんないんだ。
心がバッキバキに折れるどころか、完全に息絶えるわ!
そして話は冒頭に戻るわけだが、こうして自分の限界を悟った私は、制服をパンパンと叩いて居住まいをただすと、俺様有馬様に向かって折り目正しく頭を下げた。
「有馬会長」
「む、なんだ」
「私が悪かったので、もう許してください……!」
今だけは内心の不平不満を封印して、誠意100%の気持ちで90度角に体を折り曲げたというのに、俺様有馬様の返事は無情だった。
「何の事だ、意味がわからん。相手に伝わるように工夫して話せ」
「物凄く頑張っていただいたので、もう満足です。もう毎月挑みに来るの、止めてください」
「お前が満足でも俺が満足じゃない、俺は一度約束した事は必ず遂行する。来月は絶対に大丈夫だ」
「それ、毎月聞いてますから」
「……っ、でも今日はちょっと浮いた、だから来月は大丈夫だ」
なんなのこの不毛な会話。どっから湧き出てるんだか不思議すぎる謎の自信。浮いたって、ほんのちょっとじゃん。マジ一瞬だったじゃん。
「もう4ヶ月経ってるんですよ!? 4ヶ月で一瞬浮いたって……あと何ヶ月かかれば桐野先輩みたくスッと姫抱っこできるようになるんですか!」
周囲でざわざわと「桐野、マジかよ」「すげーな」「素敵……」と賞賛の声が上がっている。
会長は悔しそうに眉を寄せると「俺は……諦めん」と呟いた。もう呪いでしかない。しかも、ハッとしたように私をみて震える声で問いただす。
「貴様、ドーピングしているわけではあるまいな!?」
ドーピング? コレにドーピングしてなんになるんだ。って思ってから、不意に俺様有馬様が言わんとすることに思い当たった。
太ったんじゃないか、って言いたいのかコラァ!!!