俺様のくせに律儀だな!?
そんな風に考えて、簡単に「楽しみにしてる」なんて心にもないことを口にしたあの日の自分を全力で呪ってやりたい。
俺様有馬様は、俺様のくせに実に律儀なヤツだった。
きっちり一ヶ月後、悲劇は起こった。ヤツが満を持して私の教室までやってきたのだ。
私を、持ち上げる、ために!
「室橋聖羅、待たせたな! 『お姫様抱っこ』の願い、今日こそ叶えてみせようではないか!」
最悪だ。
俺様有馬様ときたら、ミュージカルばりの高らかな宣言とともに現れやがった。憧れの生徒会長が突如現れたことによる女子勢の悲鳴のような歓声も、その宣言の奇抜さに波を打ったように静かになってしまった。
うん、めっちゃ視線を感じる。
「お姫様抱っこ……」
「無理じゃね?」
「チャレンジャーだな」
そこのお前ら!!! ヒソヒソ言ってるつもりかも知れないが聞こえてるからな!
しかも俺様有馬様! なにもわざわざ私の教室まで来て高らかに宣言することないでしょうよ! こんなん公開処刑だわ!
心の中で罵詈雑言がめまぐるしく浮かんでくる。しかし、こんな悲しくも恥ずかしい状況を作ってしまったのは、そもそも自分のいたずら心が原因だ。
アホー! あの時の私のアホー!
心の中で涙する私とは対照的に、俺様有馬様は自信と希望に満ちあふれたような顔で喜色満面だ。なんでもこのひと月、筋トレに明け暮れていたらしい。
ああ、うん。成果見せたいよね……。
まあそれから会長はひとしきり頑張ったわけだが、もちろんこれっぽっちも持ち上がらなかった。
完膚なきまでの私の圧勝だ。
しかもムカつくことに、いつもは尊大で完璧過ぎる生徒会長の必死な姿に、ギャラリーどもが心からの声援を送り始めたからタチが悪い。
結局ミリも持ち上げられなかったくせに、俺様有馬様は私のクラスメイト+どっからともなく現れたギャラリー達に多大なる声援を受け、「来月こそは持ち上げてみせる!」と馬鹿馬鹿しい誓いを立てて颯爽と帰って行った。
なんという茶番。
「室橋! サイッコーに面白かったわ!」
「あの会長が困ってんの初めて見た」
「会長様の笑顔が間近で~……」
「また来てくれるって」
「聖羅、ありがとー!」
そして今、私はクラスメイトの男子からは爆笑され、女子からは無駄に感謝されている。
「なにお前、お姫様抱っことか希望したわけ? お前そんなに乙女チックだったの?」
幼なじみのタツヤが目をまんまるにして聞いてくるけどそんなわけないでしょうよ。何年一緒に居るんだよってツッこんでやりたい。