現実なのかコレ
言葉の通り、会長様は頑張った。
顔を真っ赤にして、脂汗を垂らして頑張ってくれたんだよ。ただ、残念ながら1ミリたりとも私の体は浮かなかった。
会長様の荒い息づかいだけが、生徒会室の静寂の中でひときわ異彩を放っている。
ナニコレ。地獄か。
「すいません、むしろ傷つくんでもういいです」
「待て! コツが掴めてきたかも……!」
嘘つけ。こちとら浮遊感ゼロなんだよ、さすがに嘘だって分かるっちゅうんじゃ。
「いや、マジでもういいんで」
若干イラつきながら言ったとたん、ガタン、と音がする。振り向いたら、なんと、それまで無言だったガタイのいいオニーサンが、椅子から立ち上がったところだった。
しかもツカツカと寄ってきて私と生徒会長サマの前に立ちはだかる。
なんだよ、武士かよってツッコミ入れたくなるくらい、無口そうで真面目そうな御仁だ。きっと部活は剣道部に違いない。
ていうか、なんで? なんかめっちゃ睨まれてる怖い。無礼打ちとかされたりしないだろうか。
内心ひやひやしていたら、武士サマはあたしをまじまじと見つめたまま、なにか決意した様子で、一人で「うむ」と頷いた。
「俺がやろう」
ひとこと。
オニーサンがそう言った瞬間には、体が浮いていた。
「ひええ!!!????」
うそぉ!!!?? すごい、マジで私の体、浮いてる!!!???
他の誰でもない、私自身が一番驚いた。
マジか、現実なのかコレ。
うわぁ、あたしお姫様抱っこされてる。
「すっげぇな! さっすが桐野っち、男前!」
「流石ですねぇ」
「腕力関係はやっぱ桐野に限るな」
あっちからこっちから、拍手とともに賞賛の声があがる。いや、まじで、うん、スゴイよこの人。こんなにガチで持ち上げてくれる人がいるなんて思ってもみなかった。
ただアレだ。
思った以上に怖い!
だって体が浮くような経験なんて、もう随分と長いことなかったんだよ!?
「あ、あ、あ、ありがとうございます。あ、あの、もう降ろしていただいて大丈夫です……」
「もういいのか」
「はい、充分に堪能しました!」
「そうか、良かった」
顔色すら変えず、そっと床におろしてくれた武士サマは、そのまま何事もなかったかのように席へと戻っていく。
「桐野っち、かっこいー!」
なぜか机の上に座っていたふわふわヘアのかわいい系男子が、人なつっこい笑みを浮かべて武士サマに向かって右手を上げる。武士サマは、無表情なまま、その手に軽くハイタッチした。
おお、あの顔で達成感を感じていたのか、もしかして。