やめとけ、私……!
悪かったな、デブで。しかし突っ込みたくなるのも無理はない。自分で言うのもなんだけど、なんせ圧巻の巨体だからな。
そもそも結構なぽっちゃりではあったんだけれども、受験勉強のストレスで美味しいものを欲望のままに食べてたら、受験前日、ついに100㎏の大台を突破したわ。さすがに反省している。
「そうそう忘れぬインパクト、主席をもぎ取る実力、悪くない。気に入ったぞ、ありがたく思え」
うへえ、「気に入ったぞ、ありがたく思え」だってさ。面倒くせえと思われてるなんて露ほども思ってないんだろうなぁ。なんとオメデタイ。
「どうした、望みの褒美を言ってみろ。なんでも良いぞ、金も人脈も権力もうなるほどある。この俺にできぬことなどそうは無いからな」
うっわ、しかもイイトコのおぼっちゃまとみた。言うことがえげつない。コイツにとっちゃあ世の中イージーモードなんだろうなぁ。
そのゆるぎない自信に、ちょっといたずら心が沸いてしまったあの日の自分を全力で止めたい。
やめとけ、私。あとでめっちゃ面倒なコトになるから……!
しかしその時の私にそんなことが分かるはずもなく、気がついたら口走っていたのだ。
「じゃあ、お姫様抱っこお願いします」
「うん?」
「この体型なので無理かと諦めていたんですが、乙女の夢と言いますか……一度経験してみたかったもので」
ちょっと恥じらった素ぶりをしてみせたが、もちろん演技だ。
やれるもんならやってみろ。親の金やら権力やらではなく、貴様のその身ひとつで私を持ち上げてみるがよい!
心の中で思いっきり俺様生徒会長の口調を真似して悦に入る。
目の前で若干目を逸らし気味に逡巡する生徒会長様の姿に「勝った」と一瞬思った私だが、ふとあることに気がついた。
あれ? でも待てよ。
もしチャレンジされた上に落とされでもしたら、俺様生徒会長も恥をかくだろうが、私だってそれなりに物理的ダメージを負うんじゃね?
ていうか、持ち上がらなかったら物理的には無事でも、心に若干の傷を負うんじゃね?
それはそれで嫌だな、冷静に考えると。
「あ、やっぱりいいです。他のことにします。えっと……」
「ま、待て待て待て! だ、誰も出来ないとは言っていないだろう!」
私があっさり願いを取り下げたのを、出来ないと断じられたとでも感じたのか、生徒会長様はめっちゃ焦った声で私の言葉を遮った。
「あ、安心してその身を委ねるがいい! 例えこの腕が折れようと、必ずや願いは叶えてみせる!」
「いや、結構です」
腕が折れる前提って、欠片も安心できないからね?