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3.淑女は嫌われ者に手を伸ばす

2021/3/13 加筆修正


3話目です。

若干ほのぼのに書きました。

そういえば彼の生い立ちと出会い書いてなかったよなって書きながら思ってました。

楽しんでくれると幸いです(`・ω・)b

降りしきる雨の中彼は虚空を彷徨っていた。

瞳の奥に光はなくただ紺色が浮かんでいる。

彼は大罪を犯した。

自身の制御できない力のせいで何人もの人々に苦痛を与える大罪を。

やっと制御ができてもいつ現れるか分からない自身を狙う者により切り刻まれ

そして力は暴発し結局はすべてが無に帰してしまう。

だが彼は身を投げ出そうとは考えなかった。

力は自分が傷ついたときに発生する。

出したくて出してるわけではなく力が発動するタイミングが直前にあるというものだ。

傷つけば周囲に自身が今まで受けてきた傷の痛みが損傷なく周囲に、同等に伝わる。

そうやって何人もの命をその力で自身を憎む暇すらなく痛みのなかに落とし殺した。

だからこそ自身が死ねば周囲にその分痛みが増して

結局最期も誰かを巻き込むことになるだろう。

彼はそう脳裏に考えをよぎらせながらふらふらと

ボロボロの衣装で霧にかかる暗影の街を彷徨う。

街灯の黄色い淡い光が彼を照らし霧がそれを包み込んで

拡散するなか彼の瞳の先に、それ以上の光の集まりが見えていた。

音は何か金属を擦る音、霧に飲まれて煉瓦の臭いに

火薬が含まれているのを察すると彼は立ち止まった。



―――もう、あたえたくない



でも見つかり傷を負えばまた周囲に広がる。

自身の痛みの蓄積が、憎しみが広がって蝕んできっと殺してしまう。

彼は立ち止まって目を瞑りその場で座り込んだ。

そうして何事もなく時が過ぎれば良い。

煉瓦に降りしきった水たまりと薄く包む霧の臭いに目が眩む。

むわっとむせ返るような湿度にたまらず鼻をつまみたくなるが

彼はそれすらも受け入れて座り込んで時が過ぎるのを待った。



―――?



どれだけの時間が過ぎただろう?

いや、過ぎてない。

少し錯覚してしまっただけだ。

先ほどまでの金属と金属が擦れる音が消え、淡い光が重なって

明るく見えていたはずなのにその光がこちらまで来ていない。

恐る恐る目を開け座り込んだまま前を向く。

するとそこには何もなくまた遠くでは光が散乱しているのが見えた。


 

―――まさか?じぶんが?



涙を浮かべ彼はまた座り込む。

痛みを当たる範囲は何となく掴んでいたはずなのに

かなりの距離まで自身の痛みが広がったとなれば

自分はきっとまた痛みを与え続けてしまう。

生きることさえ罪なのに死ぬことさえ罪になったのなら

これから自分はどうすれば良いのだろう?

彼は涙のなかでそう考えを螺旋のように考えながら必死に痛みを抑えた。

光が散乱した先では人のような姿の者がいる。

涙を浮かべた眼でまたその先を見ると

一人の人物がこちらに近づいてくるのが見えた。

明かりはなく暗い影に覆われてその先の人は何かを握り締めている。

彼はそれに恐怖しながらも痛みを抑え自身ができるだけ

その人物に近づかないように後ろに逃げようとした。

それを見かねて人物が少し小走りで彼の後を追う。

しかし彼はその足を止めた。

すると後ろの人物は声を掛けてくる。


???

「―――あなたが"凍る痛み"…コールドペインよね?」


彼、コールド・ペインはそう言われ後ろを振り向かえった。

そこにいたのは齢まだ10歳くらいに見える

金髪の少女で碧眼がペインを見つめている。


ペイン

「―――…(頷く)」


???

「―――どうして逃げたのに止まったの?」


ペイン

「―――…(俯く)」


???

「―――ふうん。喋られないんだ。ねぇ、ペイン。

 今どこから逃げたい?ここ?」


ペイン

「―――…!(頷く)」


??

「―――どうして?私がいるから?それともさっきのお兄さん方から?

 ……私だったらお互い初めてなんだしあなたのこと

 噂でしか知らないから心配しなくて良いわ。

 そうね、さっきのお兄さん方?」


ペイン

「―――…(驚き頷く)」


???

「―――あなたのお友達…ではなさそうね。

 だって明らかに装備構えてたしあなたの服装から察するに……

 そう、あなた狙われてるんだ。安心してペイン、男どもはほら」


と少女は自身のコートを開けて下着姿の中から

ゴロゴロと無表情の頭が転がした。

それにペインは驚くが少女は変わらずに呟く。


???

「―――私はやることがある。そのためにあなたが欲しかった。

 心配しないで、この人達は私に欲情したロリコン兵士だから

 気にしなくて良いわ。それよりも……あなたの服装、そう。

 結構大変な目に合ってるのね。」


と少女はペインの服を手で触るために膝を地につけて確かめると

立ち上がって空間に向かって人差し指で切り裂くようにして曲げた。

するとそこがあたかも扉のような人が通れる穴が

出来上がると真っ暗な穴に少女がペインの手を取る。


???

「―――手を放せばあなたとはここでさようなら。

 またいつもの日常が送れる。 

 でもここで私の手を取れば……私の日常が始まる。

 どうする?今の日常を過ごすかそれとも違う日常を過ごすか。」



ペインは彼女が何を言っているのか分からなかった。

だけれどそこに自分の違う日常があるかもしれない。

そう、彼女はペインに暖かな笑みを浮かべて呟いたのだ。

ペインは初めて誰かのぬくもりを感じてその手を取る。

そしてその空間は閉じられそこにはただ誰かの頭が転がる煉瓦の道となった。







空間の先から目を開けるとそこには花畑のような世界が広がっていた。

だが空は夜空のまま、花びらが暗くなることもなく明るいままの世界が

ペインの目には見えている。

少女はコートを取って着替え始めるとペインは

少女に目もくれずその花畑を見つめた。

するとシャツだけを羽織った半裸の少女が

ペインの目線を奪うようにして前に立って呟く。


アリス

「そういえばまだ名前を言ってなかったわね、

 私の名前はアリス・シャルロット。アリスで良いわ。」


ペイン

「あ……い……う……」


アリス

「むむむ?ねぇ、ペイン口を開けてみて。」


アリスが気になってペインに近づき、ペインは言われるがまま口を開ける。

言語が通じ合っているのに安堵しながらアリスが

ペインの口の中を見るとそこに舌が切断された痕があった。

アリスは一瞬驚いたかと思うとそのままね、と呟いて手をペインの口に触れる。

すると光が輝き、またそれが輝き終わるとペインは驚いて口を動かした。

そして驚き思わず腰を抜かす。

そこには舌があったのだ。


アリス

「取り敢えず戻しておいたわ。

 まぁちゃんと喋られるようになるまでは

 ちょっと時間がかかるでしょうけど……。

 大丈夫かしら?ペイン」


ペイン

「……あ……るぃす……」


アリス

「ええ、良かったわ。

 はい、じゃあこれ。サイズはよく分からないから

 合うモノだけとってくれる?」


と下着のようなものと不揃いの服を籠に入れるとそれをペインに手渡す。

アリスはまた着替え始めるとペインに笑って呟いた。


アリス

「自分で着れなかったりする?

 だったら今着替えるから待ってて。」


とアリスが手早く着替える。

アリスの華奢な身体が露わになってもペインは目もくれず

喋られるようになったことにただただ驚いている様子だった。

そしれ着替え終わるとその服はフリルのない紅の下地に

黒のグラデーションがかかるドレスコードのようなもので、

そのまま木を切ったような椅子に座るとペインも同様にそんな椅子に座る。


アリス

「さて……と。改めてよろしくね、ペイン。」


ペイン

「あ……う……」


アリス

「ん~~??ちょっとまだ発音難しいかな……大丈夫!

 喋られるようになるまで教えるから、焦らないで良いよ。

 さて、と。あなたのことはよく聞いていたわ、コールド・ペイン。

 経歴は……まぁ噂程度で、あとはそうだな……

 スキルについてはよく知っているわ。」


そのとき少しペインが後ろに引くように身構えたのを見てアリスが諭す。


アリス

「そんな取って食おうとかそういうことは思ってないわよ。

 率直に言えばあなたの力が必要だった、かしらね。

 あなたのスキル、【凍る痛み(コールドペイン)】

 ……制御がまだしきれてないようだけどまぁ使っていけば

 きっと制御できるはずでしょう。

 自身が受けた痛みをそのまま周囲に平等に返す力……素敵。

 だって自分に暴力を与えた者にそのまま痛みを与えるんだもの。

 それでもしも誰かを傷をつけたのなら大丈夫。

 それはあなたが悪いんじゃない、あなたを傷つけようとした者が悪いもの。

 ―――だからね、そんなに怖がらなくていいのよ」


とアリスは立ち上がってペインを胸に寄せて抱きしめる。

ペインは座りながらもアリスの胸に顔がうずめられるほど体格差が大きい。

だがそれを受けたペインは今まで流しても流れなかった水を目から落としながら

アリスの胸の中で静かに震える。

それにアリスはふふっと微笑しながら頭を撫でた。

しばらくして目頭が熱くなったまま入ってきた部屋のような世界を見渡すペインに

アリスは答えた。


アリス

「不思議でしょう。ここはどこにでも普遍してる空間。

 でも別の世界や人たちから直接干渉することのできない空間でもある。

 こっちからは干渉できるけどね。

 ……私はこの世界を狭間の空間、もしくは狭間の世界って呼んでる。

 やろうと思えばこんな木々が生い茂る場所じゃなくても

 私の想像で自由に姿を変えられる。

 さっきあなたを拾った街にでも……私がいたところでも。

 まぁそんなことはしないわ、誰にでも邪魔されない花や大木がある

 世界の方が綺麗でしょうしね。」


ペインは未だ喋られずにいるが言葉の意味は分かるようで

立ち上がって歩き木に触れる。

その木が作り物ではないことを知るとペインは驚いて見上げる。

見上げた先は真っ黒だが大木のてっぺんは見ることが出来た。

驚きながらも他の花々を愛でているとそこに大きな白い物体が

いるのを見てペインは少し後ずさる。

アリスはああ、と笑ってその白い物体を手でつつく。

するとその白い物体が起き上がってアリスの手にすりすりと

頬を擦りつけながら座りながらもアリスを見上げた。


アリス

「この子はスクリロス。

 リスの獣人で私の世界で迷っていたところを救出した子よ。

 害はないから安心して。」


スクリロス

「くぅ……?ごしゅじん……何かありましたか…ってわわわっ!!!

 ごしゅじん!なにかいますぅ!!」


とペインと目があって驚いてアリスの後ろに隠れるスクリロスは、

アリスよりも身長の低い、年もまだ2桁もいっていない

子供のような華奢な姿をしていた。

目の色は水色で丸く、身体の高さの半分以上もある

大きな白い尻尾に白いパーカーに身を包んでいる。

また白いセミロングの髪に小さい獣耳も覗かせた愛嬌のある姿に

アリスが撫でながら大丈夫だからと笑いながら座り

スクリロスを膝の上に乗せてペインを紹介し始めた。


アリス

「スク、この人はペインって言うの。

 あなたも私も傷つけない優しい人だから安心して。」


スクリロス

「きずつけない……わわっ!やさしいひとなんですね!!

 んしょっ……はじめまして!ペインさん!!」


アリスの膝から降りたスクリロスはそうペインに手を上げる。

それにペインは少しキョロキョロしながらもその手を取った。

天真爛漫なスクリロスは笑いながらペインの足にすりすりと頬を擦りつける。

また困惑するペインにアリスは微笑みながらその光景を眺めた。


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